11・オーク集落掃討戦
Side・マナリース
私は夢でも見てるんだろうか?こんな光景、見たことも聞いたこともないわ。
「マナリース様、油断してると危ないですよ」
軽い口調でオーク・ジェネラルを一刀のもとに切り捨てた大和だけど、あなたも同類なんだからね?
なんで私がここまで驚いてるかというと、空からプリムが炎の矢を雨のように落としているからなの。
翼族のように翼を持つ種族であっても、空を飛ぶことはできない。これはヘリオスオーブの常識よ。魔法もそうよ。火の玉ぐらいなら作れるから、それを投げつけるぐらいね。
だけどプリムは空を飛び、炎を矢の形にして至る所に振り落している。ホーリー・グレイブの弓術士クラリスが唖然としちゃうのも無理もないわよ。
「ったく、いくら翼族だからって無茶苦茶がすぎるだろ。つかどうやって飛んでるんだよ?」
クリフも呆れてるわね。魔力と体力を激しく消耗するけど、少しだけなら飛ぶこともできなくはない。だけど自由自在になんて絶対に無理。翼を広げて飛び立ったし、今もしっかりと羽ばたかせてるから翼を使ってるのは間違いないんだけど、どうやって飛んでるのか、さっぱりわからないわ。
「終わってからってことで。詳しくは話せませんけどね」
「当然だな。教えてくれるだけでもありがたい」
大和がオーク・チーフを、クリフがオーク・ナイトを切り捨てながら、そんな話をしている。瑠璃色銀、青鈍色鉄の武器を持ってるとはいえ、簡単にオークが倒れていくのもすごいわね。
私も負けじと瑠璃色銀で作られた多節剣ラピスウィップ・エッジを振るって、オーク・ナイトやオーク・トルーパーを切り捨てながら後をついていく。
目標は中央にある砦のような建物で、そこにオーク・プリンスがいると思うから、そいつを倒し、集落を潰してしまわないといけない。なにしろ予想より数が多いんだから、このまま放置していたらフィールが襲われることも考えられる。
「それにしても、数が多いな。21匹ってわきゃないと思ってたが、50匹は超えてるぞ」
「そうよね。ジェネラルやグランドナイト以外は大したことないけど、それでもこの数は大変だわ。矢も残り少ないし」
合流したバークスとクラリスも、数が多すぎるって思ってるみたいね。特にクラリスは矢の問題があるから、そろそろ残弾が怪しいみたいだわ。
「さっき大和君からアイス・アローで代用できるって聞いてなかったら、とっくに尽きてたかもしれないわね」
クラリスはハイヴァンパイアだから闇属性に適性があるけど、他にも氷属性も得意なのよ。だから魔力で氷の矢を何本か作ってたみたいだけど、さすがにハイヴァンパイアだけあってまだまだ魔力は大丈夫そうだわ。
「俺もこんなにいるとは思ってませんでしたから、落ち着いてから試してもらえたらって思ってたんですけどね。ああ、矢の残りが少ないみたいですから、こいつをどうぞ」
大和がストレージから矢筒を取り出したけど、なんで持ってるのよ?というかあるんなら、先に渡しときなさいよね。
「なんであなたが矢なんて持ってるの?」
「うちのレイドメンバー用にいくつか買っておいたんです。魔銀製ですけどね」
「なるほどね。だけどありがとう。こんな状況だから、木の矢でもありがたいわよ。お金は後で渡すわ」
ああ、フラムとレベッカ用だったのね。というかクラリス、律儀にもお金は払うつもりなのね。まあそこはしっかりしとかないと後で問題が起きるかもしれないし、この状況で弾切れなんて弓術士にとって最悪の出来事だから普通なら買うわよね。
クラリスは大和から受け取った矢筒を腰の後ろに付けると、残り少なくなった矢筒から三本纏めて矢を抜き取り、弓に番え、魔力を流した。
「ファリスさん、アリア!」
そして少し離れた所で斧の重量を活かした一撃で2匹のオークを纏めて真っ二つにしたファリスと、ファリスの背後を狙おうとしていたオーク・ナイトを槍で貫いたアリアに声をかけ、二人が後退したことを確認すると矢を射た。
「『アイス・アロー』」
射ると同時に唱えた言葉で矢に込められた魔力が解放され、氷でできた矢の形を成し、クラリスが射た矢の数が何倍にもなっている。何発かは外れたけど、その矢はアリアが貫いたオーク・ナイトと近くにいたオーク・チーフに命中し、アリアの一撃も受けていたオーク・ナイト倒れたまま二度と動かなくなった。
「そら、よっと!」
そのオーク・チーフにバークスが炎を纏った手甲で殴りつけ、大きく吹き飛ばした。よく見ると顔の一部が吹き飛んでるから、あれも死んだわね。
「みんな!離れて!!」
「!?」
上からプリムの声が聞こえたから一斉にその場を離れると、そこに極炎の翼を纏ったプリムが物凄いスピードで突っ込んできた。ちょっと!危ないじゃない!!
「す、すげえな、これ……」
「地形変わっちゃってるじゃない……」
体に風を纏っていたみたいで、地面がけっこう抉れている。それに巻き込まれたオーク達は、五体満足の死体を探す方が難しい状態になっちゃってるから、プリムの取り分はかなり減っちゃうわね。というか、なんて非常識な戦い方するのよ。
「ってかよ、けっこうな数狩ったはずなのに、なんで大将が出てこねえんだよ?」
軽く息を吐いたバークスに言われて気が付いたけど、確かに倒したオークのはずはかなり多い。今プリムが粉々にしたオークを含めれば、多分40は超えている。残りはあと20匹ぐらいだけど、倒し切るのは時間の問題だと思う。
なのにこの集落の長だと思われるオーク・プリンスは、出てくる気配すらない。逃げることも考えられるけど、さっき大和の刻印術の結界を張ってくれたから、逃げ出せばすぐにわかる。
「すでに死んでいる、ってことはないか」
「さすがに昨日の今日でそれはないでしょう。いくらなんでも都合が良すぎますよ」
即座にクラリスに否定されたけど、私もそう思う。半ば冗談、半ば思い付きだっただけだし。
「いっそのこと、あの砦を吹き飛ばすか?」
「それが手っ取り早いね」
だけど大和が物騒なことを言って、ファリスが賛同してしまった。青鈍色鉄製の斧、ライトニング・ミルを使っているファリスは、今まで見たことがないぐらいイキイキとしているから、本当に砦ぐらいなら半壊させてしまいそうだわ。大和は気が付いたら全壊させてそうだけど。
「んじゃやりますよ。危ないんで巻き込まれないように注意してください。
言うが早いか、大和はトルネード・フォールっていう刻印術を、砦に向けて放った。砦とはいっても木を組み上げただけで、他の住処より豪華に見えたからそう呼んでいただけ。その砦は、竜巻に巻き込まれると多数のオークを巻き込みながらあっさりと崩れ、天高く舞い上げた。
「やべ、上げすぎた」
「おいおい……」
調整ミスってこと?だったら早く何とかしなさいよ!
「よっと。これで大丈夫だろう」
今度はニブルヘイムとヨツンヘイムっていう刻印術を同時に使って、竜巻の範囲に大きな水の結界を作った!?同時に竜巻が消えてオークやら材木やらが残らずそこに落ちていったけど、まさかあれで終わっちゃったの?
「ここをこうして……これでよし。終わり」
本当に終わっちゃったみたいだわ。ということは残ってるのは……あと10匹ぐらいね。
って思ったんだけど、なんかプリムがとんでもないのと戦ってるじゃない!いつの間に戦い始めたのよ!?
「残りはあいつ、オーク・クイーンだけか。大和君、オーク・プリンスは倒せてるんだね?」
「あの中で死体になってますね。終わったら出しますよ」
「わかった。じゃあ私達もプリムちゃんの加勢……は、いらなかったみたいだね」
なんで?ってもう終わってるの!?
3メートル近くもある巨体なのに、プリムが槍ごと突っ込んで大きな風穴を空けちゃってるわ。一応言っておくけどオーク・クイーンってP-Dランクで、同じ亜王種のプリンスより全然手強いんだからね?
「もう終わりか?」
「っぽいわね。『クエスティング』。うわぁ……」
「どうしたのよ?」
アリアがクエスティングで討伐状況を確認してるけど、なんでそこまで驚いてるの?
「えっと、確かマナ様って、討伐隊に参加するのは初めてでしたよね?」
「ええ。ハイクラス以上が参加の条件だから、初めてで間違いないわよ」
私がハイエルフに進化したのは数日前だから当然じゃない。似たような理由で大和とプリムも初めてよ。
「えっとですね、討伐隊に参加した場合、臨時のレイドを組むことになることはご存知ですよね?」
「アライアンスでしょ?それぐらいは知ってるわよ」
討伐隊に参加する場合、レイド間でしか確認できない狩人魔法などの不都合が発生することが考えられるから、参加者はアライアンスっていう臨時レイドに組み込まれることになる。手続きは簡単で、ハンターズマスターのみが使える魔導具を、専用の書類に使うだけで終わるわ。私達がすることはハンターズライセンスを提出することだけだし、解散もその書類に解散の手続きを行えばすぐに済む。ハンターズギルドとしても誰が参加しているかを確認しやすいから、昔からこの方法が取られているわ。
「アライアンスを組むと、狩人魔法もアライアンスで確認できるようになるんです。当然クエスティングも対象です。だからどれだけ倒したかを確認したんですけど、数がとんでもないことになってたんですよ」
ああ、そういうことなのね。便利ね、狩人魔法って。それで、どれぐらい倒してたの?
「ホーリー・グレイブだけで見ると31匹なんですけど、アライアンスで見ると94匹になるんです」
そんなに倒してたの?早いと思ってたから50匹ぐらいだと思ってたのに、予想以上の数じゃない。
今回の討伐隊に参加したのはホーリー・グレイブ五人、ウイング・クレスト二人、そして無所属の私だけど、討伐数が94匹ってことは、一人平均でも10匹以上ということになる。だけどホーリー・グレイブの総討伐数が34匹ってことは、平均すると6匹に減ってしまう。
私も急いでクエスティングで自分の討伐数を確認してみると、討伐数は8匹だった。ホーリー・グレイブの討伐数と合わせると42匹だから……もしかして大和とプリムの二人で52匹も倒してるってこと?
「大和、ウイング・クレストとあなた個人の討伐数ってどうなってるの?」
「どうぞ」
大和のクエスティングを見せてもらうと、予想通りウイング・クレストで54匹だった。だけど大和個人で倒したのは24匹って出てたから、残りの31匹はプリムが倒した計算になる。
そのプリムも予想以上の数に驚いてるみたいね。
「えっと……あのね、マナ」
何か言いたそうだけど、どうかしたのかしら?確かに94匹もいた大きな集落だったってことは驚いたけど、プリムが一人で三分の一も倒したことは、あの戦いぶりを見てる以上は特に驚くようなことじゃないわよ?さすがにオーク・クイーンを一人で倒したことには驚いたけど。
「その、これを見て。大和も」
「何かあったのか?」
大和も心配そうな顔でプリムが出した物に視線を落とす。私も隣から覗き込んでみた。何かと思ったらハンターズライセンスじゃない。これが……って嘘でしょ!?
「おお、おめでとう、プリム!」
大和がすごく喜んでるけど、私は驚きで声もでない。
「マナ様?どうかしたんですかい?」
クリフが心配して声をかけてくれたけど、私の耳には届いていない。それ程の衝撃だった。
だってプリムのハンターズライセンスには、とんでもない変化が表れていたんだから。
プリムローズ・ハイドランシア・ミカミ
17歳
Lv.63
獣族・翼族・エンシェントフォクシー
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:プラチナ(P)
レイド:ウイング・クレスト
そうよ!この子、エンシェントフォクシーに進化しちゃったのよ!いつか進化するんじゃないかって思ってたけど、こんなに早くなんて思ってもいなかったわ。
「言いにくいなら俺が代わりに言おうか?」
「お願いしてもいい?」
「わかった」
「何があったんだい?ハンターズライセンスを見てるってことは、レベルでも上がったかな?」
普通ライセンスを確認するとしたら、レベルが上がったかどうかを見るぐらいしかない。それも街に入る際に確認するぐらいね。だけど今回プリムはオーク・クイーンを単独で倒してるから、もしかしてレベルが上がったかもって思うことだってあるかもしれない。多分ファリスはそう思ってるはずよ。
「俺も驚いたんですけど、プリムがエンシェントフォクシーに進化したんですよ」
「「「「「……はい?」」」」」
さすがホーリー・グレイブ、息ぴったりだわ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。エンシェントフォクシーに進化したって聞こえたんだが、私の聞き間違いかな?」
「い、いえ、私もそう聞こえました……」
「お、俺も……」
「俺もだ……」
「ということは……え?嘘?本当に進化したの!?」
「ええ」
驚くわよね。五人目のPランクハンターになったばかりなのに、いつの間にか三人目のエンシェントクラスになっちゃったんだから。またハンターズマスターが目を丸くしちゃうんでしょうね。着任されたばかりなのに、本当に気の毒だわ。




