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10・討伐隊出陣

 オークの集落を確認してすぐフィールに戻った俺達は、予想通り討伐隊に組み込まれた。討伐隊と言っても現在フィールにいる、マナリース姫を含むハイクラス以上のハンター8人に対しての緊急依頼なんだが。


 幸いというか、俺達ウイング・クレストとホーリー・グレイブのみが対象だったため、討伐隊は翌日すぐに出発した。俺とプリムはヒポグリフ、マナリース姫はバトル・ホース、ホーリー・グレイブは獣車を使えることもあって、目的地につくまでの時間もかなり短縮されている。


「そろそろ山に入るから、徒歩になりますね」

「わかった。おい、降りろ。こっからは歩きだ」


 全員が降りたのを確認すると、ファリスさんはストレージングに獣車を収納し、クリフさんは従魔契約をしているグラバーンを送還した。俺達もそれに倣ってジェイド、フロライトを送還……


「クワァ……」


 しようと思ったら、またしてもフロライトが悲しそうな声で鳴いてきた。いや、説明はしていたんだけどな。


「相変わらずフロライトは甘えん坊ね。スピカ、ジェイド、悪いんだけどフロライトをお願いね」

「クワァッ」


 ジェイドはわかったといった感じで一声鳴き、スピカは大きく頷いた。


「ごめんね、フロライト。終わったらすぐに呼ぶから」


 お、フロライトが頷いた。何気に初めてだな。


 というわけで俺達も送還完了だ。


「サモニング・カーバンクル。その名はルナ」


 おっと、マナリース姫はカーバンクルのルナを召喚したか。


 召喚魔法は従魔魔法の上位版に当たる固有魔法だが、召喚する際は種族名と固有名も唱えないと召喚できない。一匹ならともかく何匹も契約してたら全部出てくるか、召喚自体ができないかなんだから、これは当たり前よな。


 マナリース姫が召喚したカーバンクルのルナは、小型犬ぐらいの大きさの、リスみたいな尻尾を持った碧色の体毛の魔物だ。カーバンクルのお約束として、額には紅い宝石みたいなものもあるぞ。ルナはマナリース姫が子供の頃に契約した魔物で、姉妹同然に育ったと聞いている。


「ファリスさん、準備完了です」

「わかった。それじゃ行こう。隊列は最前列にあたしと大和君、その後ろにマナ様とアリア、バークス、クラリス、最後尾がクリフとプリムちゃんだ。ああ、ルナは中央だよ」


 最前列に戦闘力が高く道案内も兼ねる俺とリーダーでありGランクのファリスさんを配置し、俺達の次にレベルの高いプリムとクリフさんを最後尾に置くことで背後からの奇襲に備えるわけか。マナリース姫とアリアさんは中距離ぐらいならなんとかなるから二列目、弓を使うアリアさんが中央なのは、不意打ちで接近された場合反撃手段が乏しいから、武闘士のバークスさんと一緒にしてるってことか。勉強になるな。


「本当なら君がリーダーをやるべきなんだから、しっかりと覚えてくれよ?」


 ファリスさんに軽く愚痴られたが、レイドの指揮なんてすさまじく面倒くさい。


 ハイクラスハンターだけで討伐隊を組んだ場合、リーダーは最もレベルの高いハンターが務めることになっている。だがPランクは個人単位で動くことが多いから、こういったレイド指揮には向いていない。だからGランクハンターがリーダーを任されることが多いんだが、Pランクハンターもそれは理解しているから、問題になったことはないそうだ。


 そしてレイド指揮の実績があるGランクハンターは、ハンターズギルドから名誉Pランクに任じられることもある。ランク表示はG-Pとなり、実質的にPランク扱いになるそうだ。Pランクハンターが俺を含めて四人しかいない現状、どうしてもGランクに頼らざるを得ない。

 だが同じGランクでもレベルを含めて実力には個人差があるから、ハンターズギルドがレイド指揮の実績があるハンターを見つけ、詳細に調査をした上で特例として認定している。だから名誉ランクって呼ばれてるそうだが、実際に名誉ランクのハンターは数人しかいないと聞いている。


「いやぁ、ここはPランクの伝統を踏襲しようかなぁと」


 俺としても覚えなきゃいけないのはわかってるんだが、正直指揮に向いてるとは思えない。だからPランクってことを理由に逃げてみたいってのが本音だ。


「あのねぇ、君以外のPランクがいくつなのか知ってるのかい?全員60歳を超えてるんだよ?中には100歳を超えてる方もいるんだ。なのに君はまだ17歳だろう?これからのことを考えても、絶対に覚えておかないといけないんだよ?わかってるのかい?」


 ファリスさんのお説教の通り、Pランクハンターは三人ともご高齢だ。

 とはいってもヘリオスオーブの寿命は50+レベル、ハイクラスになるとさらに50年追加って言われてるから、レベル60オーバーのPランクハンターの寿命は160歳以上になる。しかもハイクラスに進化すると魔力が増えることもあって、ほとんど老化もしなくなる。実際100歳を超えているトラレンシアのPランクハンターは、見た目は30歳ぐらいのハイラミアだが、まだまだ立派に現役だ。あとの二人はバレンティアのハイドラゴニュート、アレグリアのハイヒューマンだ。さすがに俺と同じPランクがどこにいて、どんな種族なのかぐらいは調べるぞ。

 ちなみにグランド・ハンターズマスターのギャザリングさんは、現在198歳だそうだ。


 うん、確かに俺が一番若い。しかも圧倒的に。


「まっ、頑張りなさい」


 マナリース姫に慰められたが、嬉しくもなんともない。というか投げやり感がすさまじいぞ。


「わかりましたよ。だけどまだハンターに成り立ての新米なんだから、何年か時間をかけて、ゆっくりと勉強させてもらいますよ」

「言いたいことはあるが、確かにハンター登録をしてからまだ一ヶ月も経ってないんだから、勉強するというならいいか」

「一月足らずでPランク、しかもエンシェントクラスに進化なんて、聞いたこともないけどな」


 クリフさんの一言が耳に痛いが、ここで口を開けばさらなるダメージを負うこと間違いなしだ。俺は黙って耐えながら、先を急ぐことにした。


Side・プリム


 山の中を歩くこと2時間、あたし達はようやく目的地の直前まで辿り着いた。空と地上じゃ感じが違うけど、大和のマーキングが近くにあったから間違いないわ。


「あれか。確認だけど、君達が確認したオークはプリンス、ジェネラル、チーフ、ナイト、シューターで、合わせて21匹だね?」

「確認できたのは、ですけどね。それにプリンスがいるんだから、グランドナイトもいると思っておくべきでしょう」

「だな。それに他にもいるだろう。アドミラルだっていたんだから、さらにジェネラルが出てきてもおかしくはない」


 ジェネラルの上位種がアドミラルだから、そのアドミラルがいた以上、ジェネラルだけで何匹いるかわからないってことか。アドミラルはどうかわからないけど、異常種に近い希少種だからいないと思ってもいいかもしれない。いや、そう思ってるところを襲われたらたまったものじゃないから、いると思って対処するけどさ。


「ってことはグランドナイトとジェネラルはいて当然で、アドミラルも控えてるって考えるべきか」

「そうね。だけど問題なのは、アーチャーじゃなくてシューターがいることよ。シューターだけで7匹もいるのに、こっちの後衛は私しかいないし、アーチャーだっているに決まってるんだから、手数が足りないわ」


 オーク・シューターはアーチャーの上位種になってて、ランクはB。こっちは全員Sランク以上のハイクラスレイドだから、Bランクの魔物なら何匹いても大した問題にはならない。


 だけどこれが亜人の遠隔攻撃持ち、しかも指揮に秀でた個体がいるとなると話が変わってくる。アドミラルの下位種とはいえジェネラルだって指揮能力は持ってるし、亜王種は亜人の支配者なんだから指揮能力がないわけがない。戦術なんて理解してるはずがないのに、一斉に矢を射かけてくることぐらいはするから面倒なのよ。


 討伐隊で弓を持っているのはハイヴァンパイアのクラリスさんだけだから、最低でも7匹いるオーク・シューターに対抗するのは厳しい。アーチャーはもちろん、シューターだってまだ出てくる可能性は高いからね。


 だけどこれは今までの話。


「なら、俺達がクラリスさんの援護に回りますよ」

「援護?いったいどうやって……ああ、そういえばそうだったね」


 援護に回るって言った大和に怪訝な視線が向けられたけど、ファリスさんの一言で理解の視線に変わった。ホーリー・グレイブの前でも使ったことあるのよ。


「あれかぁ。私も練習してるけど、なかなか上手くいかないのよね」

「そうか?俺は前より使いやすくなって助かってるぞ」


 アリアさんは苦手みたいだけど、武闘士のバークスさんはそうでしょうね。なにせ装備してる手甲をそのままイメージすれば、それでアームズ系になるんだから。完成にはまだまだだけど、それでも十分戦力になる。


「確かにあれはいい。だが弓術士のお株を奪うぐらいの弾幕を展開できるのは、君ら二人ぐらいだ。私は一本ずつしか飛ばせないし、スピードもクラリスの射た矢にはかなわないからね」


 それは慣れの問題だと思うわよ。しっかりイメージできれば、そんなに難しいわけじゃないから。ああ、弓がある方がイメージしやすいかもしれないから、クラリスさんなら矢を射た瞬間に複数のアロー系を放てるかもしれないわね。


「というのはどうですか?」

「……やってみないとわからないけど、そっちのが間違いなくイメージはしやすいから、おそらくできるでしょうね。まったく、何てことを考えるのよ。ファリスさん、いいですか?」


 大和も同じことを考えてたみたいで、先に提案されちゃったか。


「ぶっつけ本番なのが気になるが、それは普段の狩りでも同じことか。私が援護するから、しっかりやりなよ?」

「はいっ!」


 よくあるわよね、戦闘中に新しいことを試すのって。あたしも何回やったかわからないわ。


「じゃあ配置を決めるよ。クリフ、バークス、アリアが中央側から、マナ様、大和君、プリムちゃんが東側から仕掛ける。私はクラリスと後方支援に回るけど、中央側に寄らせてもらう。アリア、クラリスにもしっかりと気を配ってくれよ?」


 やっぱりこういう場合は慣れたレイドで分けるのね。後方支援のクラリスさんが中央寄りなのも、チームワークを考えれば当然だわ。マナがどっちに行くかわからなかったけど、大和の婚約者候補ってことはファリスさんも知ってるから、それを考慮してくれたってことかしら。


「合図はクラリスが矢を射たらだ。大和君、そっちは任せるけど、マナ様にケガをさせないようにしてくれよ?」

「当然でしょう」


 不敵に笑う大和に照れるマナ。とっくに落ちてるんだから、素直になればいいのに。


「プリム、せっかくだからあれを試してみたらどうだ?」

「いいの?やっちゃったら大和一人にマナの護衛を任せることになっちゃうわよ?」

「大丈夫よ。というか私だってハイエルフに進化してるんだから、護衛なんていらないわよ」


 なんか心配になるわね。一応試したことはあるんだから、今日じゃなくてもいいと思うわよ?


「せっかくホーリー・グレイブがいるんだから、お披露目って意味もあるんだよ。いつまでも隠し通せるわけないんだからな」


 ああ、そっちの意味ね。


「了解。なら大和は、しっかりとマナを守ってあげてね」

「そのつもりだよ」


 ハイエルフの白い肌が赤く染まって、ピンクになってるわよ。もしかしたら今日で落ちるかもしれないわね。

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