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09・マイライト山脈での指名依頼

Side・プリム


 瑠璃色銀ルリイロカネの武器ができてから三日、あたしと大和はハンターズギルドに呼び出された。久しぶりの呼び出しだけど、何かあったのかしら?


「何の用だ、おっさん?」

「また異常種でも見つかったの?」

「ご挨拶だな、お前ら。まあいい、座ってくれ」


 新しいハンターズマスターに就任したライナスさんが、慣れてなさそうな書類仕事をしながら迎えてくれた。ってカミナさんもいるじゃない。


「で、今回はどうしたんだ?」

「覚えてるか?レティセンシアの工作員がオークにも魔化結晶を使ったことを」

「もちろん覚えてるわよ。だけどそれが……もしかして、オークの異常種でも見つかったの?」

「それがわからん。だが最近、マイライトでオークの数が増えてるらしい。持ち込まれるオークを見ても上位種が多いし、希少種も増えてた」


 あー、希少種も増えてるのか。となると魔化結晶を使われたオークは、マイライトの中で人知れず進化して、さらには数を増やしてるってことになるわね。


「亜王種なのか異常種なのか、それとも災害種になっちまったのか、まったく不明だ。希少種を持ち込んだのはホーリー・グレイブだが、その中にアドミラルがいた」


 アドミラルって、グランドナイトと並ぶ最上位希少種じゃない。しかも亜王種の護衛として生まれるグランドナイトと違って、アドミラルは攻撃的で指揮能力にも優れてるって聞いてるから、厄介さは亜王種と同等だったはずだわ。また面倒なのが生まれてるわね。


「ってことは今フィールにいるハイクラスを集めて、マイライトへ調査に行けってことか?」

「いや、違う。お前らはヒポグリフと契約してるだろ?だからお前ら二人に、空からの調査を頼みたい」


 あたしもハイクラスでマイライトの調査をすると思ってたけど、そっちなのね。確かに空を飛べる従魔と契約してるのはあたしと大和だから、あたし達に依頼を出すのはわかる。マナもアイス・ロックと契約してるけど、さすがに王女様をそんなとこに連れていくわけにはいかないわよね。


「空からってことは、マイライト全域ってわけじゃないよな?」

「当然だ。いくら空からの調査とはいえ、一日二日じゃ足りねえからな。ホーリー・グレイブがアドミラルを倒したのはここだから、おそらくこの近辺に集落があると思う。森が深いが、幸いマイライトの森は大きく開けているとこが多いから、空からでも十分探せるだろう」


 確かにね。エビル・ドレイクもその開けたとこから見つけたし、開けた空間とはいっても森の中でもあるからオークが拠点にするには最適だわ。


「ただしだ、見つけても絶対に殴り込みをかけるなよ?お前らが十分すぎるほど強いのは知ってるが、それでも生まれてるのが亜王種とは限らねえ。異常種かもしれねえし、最悪の場合災害種って可能性もある。ランクでいえばG-DからPーCだ。いくらお前らでも、たった二人で倒せるとは思えねえ」


 確かにね。しかも亜王種、異常種、災害種は上のランクに匹敵、あるいは凌駕するから、P-CランクだとしたらMランク以上ってことになる。さすがにそんなのが相手じゃ、あたし達の手に余るわ。


「わかってるよ。俺だって無茶なことをするつもりはない」

「……いまいち信用できねえが、信用するぞ」


 信用ないわね、あたし達って。そこまで無茶をしたことなんて……ない、なんて口が裂けても言えなかったわ。フィールに来てからまだ一ヶ月も経ってないのに亜王種を1匹、異常種を7匹、災害種なんて2匹も倒してるんだから、傍から見たら無茶に無茶を重ねてるようにしかみえないじゃない。


「引っ掛かるけどまあいい。それで依頼は受けるが、報酬はどうなるんだ?」

「今回は異常種の調査ってことになるから、相場の倍になる。つまり20万エルだな。ただしだ、もし集落に突っ込んだりなんかしたら減額するからな?」


 しっかり釘を刺してきたわね。確かにクエスティングを使えば倒した数も集落の位置もわかるだろうけど、それでも地上に降りるつもりはないわよ。ああ、でもウインガー・ドレイクが在庫切れだから、それぐらいは狩ってきてもいいわね。


「了解だ。そうだ、プリム。マイライトに行くついでにウインガー・ドレイクも狩ってこよう。みんなの装備を作ったからもうないし、せっかくマイライトに行くんだから丁度いい」

「あたしもそうしようと思ってたわ。それに披露宴のために、少しでもいい食材を集めておきたいしね」

「……一応言っとくが、ウインガー・ドレイクは希少種で、ランクはG-Rだからな?気軽に狩りに行くような魔物じゃねえからな?フェザー・ドレイクにしたとしてもそうだぞ?」


 知ってるわよ、そんなことは。だからマイライトに行くついでなんじゃない。さすがにみんなを連れていくわけにはいかないから、こんな機会でもないとマイライトに行けないのよ。


 さて、それじゃあみんなにも伝えて、マイライトに行きましょうか。ああ、そういえば前回は頂上まで行かなかったけど、せっかくだから今回は頂上まで登ってもいいかも。確か頂上には湖があるって話だけど空から確認されただけのはずだから、実際に降りてみましょう。


Side・大和


 みんなにマイライトの調査依頼を説明した俺達は、ジェイドとフロライトの背に乗ってマイライト山脈に向かった。数日前に獣具が完成したから、ジェイドとフロライトも空を飛べるようになったのが大きい。普通に日帰りできるからな。


「この辺りだな。早速イーグル・アイとドルフィン・アイを使っておくか」


 森の中だから、本来なら土属性の探索系モール・アイが最適なんだが、土属性探索系は術者が地面から離れると、途端に精度が落ちるという欠点がある。俺は探索系に適正はないが、天空属性っていう特性を持ってるから探索系を適正並に使うことができると思ってたんだが、実はその『天空』っていうのが問題だった。


 天空属性は文字通り空に関係する刻印術の適性を持つことができる特性だ。属性だと水、風、光で系統は広域系と探索系が該当する。なんだが、あくまでも対象になるのは空に関係する刻印術だけだったんだよ。

 モール・アイは土属性探索系だから、探索系としては天空特性でカバーできる。だけど土属性は天空とは真逆になるから、特性じゃカバーしきれない。しかも俺は土属性は苦手だから、森の中が対象でも水のドルフィン・アイや風のイーグル・アイの方が高い精度で確認できる。これが地上にいれば話は別なんだが、空の上じゃどうにもできん。

 そのことを知ったのが獣具が完成してからだから、土属性もしっかりと練習して、少しでも使えるようにならないといけないって思ったよ。


「って話は前に聞いたけど、それでも深い森の中を空の上から確認できる人なんて、ヘリオスオーブにはいないんだからね?」


 そうなんだよな。ヘリオスオーブには探索系術式に相当するような魔法は、固有魔法にも無属性魔法にも組合魔法ギルドマジックにもない。通信の魔導具ならハンターズギルドが所有していて、ハンターズマスターのみが使える物ががあるにはあるが、通信先は総本部への一方通行で、それも色で簡単に知らせるだけだ。青なら問題発生、黄なら緊急事態発生、赤なら異常種出現、黒なら災害種出現、といった感じになってるらしい。赤と黒はともかく、青と黄は漠然としすぎてて総本部も対応に困るだろうな。


 なので探索系で離れた所を確認できる俺は、ヘリオスオーブでは異質な存在というわけだ。元の世界じゃ試験に受かれば誰でも使えるから、規制はかなり厳しいけどな。


「そうは言われても、俺にとっては身近にある術式だったしな。まあそれで楽ができるんだからいいだろ」

「まあね。安全に調査ができるっていうのはありがたいわ。あたしが来る必要があったかはわからないけど」

「いやいや、前にも説明したけど、探索系は自分の視力を飛ばす術式だから、自分の周囲の様子が疎かになりがちなんだよ。ソナー・ウェーブみたいな感知系ならともかく、ドルフィン・アイとかイーグル・アイとかだと近くに誰かがいてくれた方が安心して使える。俺もプリムがいてくれるから、安心して使えてるんだぞ?」


 これは探索系の弱点でもあるんだよな。自分一人で使おうと思ったら、ソナー・ウェーブとの併用が必須だ。


 ドルフィン・アイとかの飛視系って呼ばれる探索系は、視覚を遠くに飛ばして離れた所を探索することができる術式だが、慣れれば何ヶ所かを同時に視認できるから、視覚飛ばすっていうより監視カメラの画像をいくつかの画面で確認してるって言うほうがしっくりくるかもしれない。


「そ、そう?それならいいんだけど……」


 なんかプリムが照れてるみたいだが、何かあったか?……って俺のせいか。自分でもクサいことを言ったと思う。なんか顔が熱くなってきたな……。


「ま、まあそういうわけだから、こっちは頼むな」

「え、ええ、任せておいて」


 なんか気まずくなってしまったから、気を取り直して調査を再開させよう。えーっと、ここはさっき見たな。ならあっちか。


 お互い一言も発しないまま30分ぐらい経った。残念ながらホーリー・グレイブがオークを狩った所を中心に半径1キロぐらいにはなさそうだった。少し場所を移動しなきゃいけないな。


「プリム、近くにはなかったから移動しよう」

「了解。じゃああそこの開けたとこにしましょう。何もないようだったらこの仔達も休ませてあげたいし」

「だな」


 ジェイドとフロライトはずっと飛びっぱなしだったしな。クラフターズギルドに従魔にしたヒポグリフの飼育記録みたいなのがあったが、それによれば三時間ぐらいは休みなく飛べるらしい。もっともそれは成獣の話だから、希少種に進化してるとはいえ、まだ子供のジェイドとフロライトはその半分ぐらいが限界だろう。今がフィールから飛んできてだいたい一時間ちょいだから、そろそろ休ませてやることには賛成だ。


「いや、待った。ここで休ませよう」


 と思ってたんだが、その開けたとこの少し先に何かが見えた。少し無理してドルフィン・アイで確認したら明らかに人工物だったから、あそこがオークの集落の可能性は高い。


 一瞬怪訝そうな表情をしたが、プリムも探索系の有用性はよく知ってるから、すぐに賛成してくれた。なので俺達は安全な場所に降りて、ジェイドとフロライトを30分ほど休ませてやることにした。


 休憩後にしっかりと確認したら、やはりそこにあったのはオークの集落に間違いなかった。探索系を使いながらクエスティングを使えることは確認済みなので、集落にいたオーク達に片っ端から使ってみたんだが、確認できた最上位のオークは亜王種のプリンスだったから、とりあえずこいつが第一目標だってことはわかったぞ。


「オーク・プリンスか。キングじゃなかったのは意外だったけど、まだ成長してないだけだから、早めに討伐しなきゃいけないわね」

「ああ。だけど魔化結晶を使われたオークは2匹だって話だから、最低でもあと1匹いる。それに確認できた最上位がプリンスってだけだから、近くにキングとかがいる可能性も捨てきれない」

「それも踏まえて報告ね。もっとも問題は、集落がここだけじゃないってことでしょうね」


 プリムの言う通り、マイライト山脈にはオークが多数生息している。だから常に亜王種は存在している可能性があるとも言われているが、これはマイライト山脈のオークだけじゃなく、亜人が多数生息していると言われている地域、バレンティア竜国カニス荒野のコボルト、リベルター連邦テメラリオ大空壁のサハギン、ソレムネ帝国プライア砂漠のアントリオンなども同様らしい。


「ああ。それにプリンスがいるってことはグランドナイトもいるってことだから、他にもいないとは言い切れない。なにせグランドナイトは確認できなかったからな」

「それはマズいわね。だけど討伐に行くことになっても、指名されるのはマナを含むハイクラスだけだろうし、そのハイクラスはあたし達とホーリー・グレイブだから明日か明後日には来れそうね」


 それが救いだな。詳細な位置は控えておかないといけないが、狩人魔法ハンターズマジックのマーキングも使っておけば迷うこともないだろう。俺とプリムしか確認できないけど、案内するのは俺達なんだから問題もない。


「マーキング完了。さすがに亜王種のいる集落を見つけた以上、今日はウインガー・ドレイク狩りや山頂探索は無理だな」

「仕方ないけどね。また今度、みんなの許可をとって来ましょう」

「それしかないよな」


 亜王種も異常種扱いされてるから、発見後は速やかな報告が義務付けられている。残念ながら今日の予定は全てキャンセルだ。


 だけどマイライト山脈は移動するわけじゃないから、また今度、なるべく早めにウインガー・ドレイク狩りと山頂探索に来ることにしよう。特に山頂には興味があるから、一度は行っておきたいからな。

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