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06・技術革新

Side・エドワード


 マナ様に瑠璃色銀ルリイロカネ、ファリスさんに青鈍色鉄アビイロガネ製武器の品評を依頼した翌日の昼過ぎ、俺はマリーナと一緒にクラフターズギルドのギルドマスター室でクラフターズマスターのラベルナさんと向かい合っている。他にもフィーナ、そしてスミスチーフのガラバさんが、俺の持ってきたインゴットと剣を前にしながら、激しく唸っている。


 クラフターズギルドには鍛冶部門、仕立部門、調理部門など、いくつかの部門がある。仕立部門の統括はクラフターズマスターが仕立師ってこともあって兼任してるが、他の部門はそれぞれチーフと呼ばれる部門長が統括している。ドワーフのガラバさんは鍛冶部門の部門長で、親父の親友でもある。


「……エド、お前、とんでもないもん開発しやがったな」

「まったくだよ。なんだいこのインゴットは。いったいどうやればこんなものができるのさ」


 俺は予定通り、青鈍色鉄アビイロガネのインゴットとじいちゃんが打った剣を持ってきている。ようやく青鈍色鉄アビイロガネをクラフターズギルドに公表する日が来たから、昨夜はロクに眠れなかったんだよな。


「こいつは金剛鋼アダマンタイトのインゴットとハーフサイズの魔銀ミスリル晶銀クリスタイトのインゴットをメルティングで溶かして混ぜて、デフォルミングで精錬したものです。大和が武器の問題を何とかしようとして考案し、俺がやってみたんだが、そうしたらこんなものができたというわけです」

「なるほど、新魔法はこのために奏上したのか。大和君の案ということは、客人まれびとの知識ということかい?」

「ええ、合金っていう技術らしいです。名前はあいつの世界にあるという伝説の金属にあやかって、青鈍色鉄アビイロガネっていいます」


 日緋色金ヒヒイロカネだったっけかな。まああいつの世界じゃ神金オリハルコン金剛鋼アダマンタイト魔銀ミスリルも伝説の金属で、実在はしてないって言ってたが。


「なるほど、客人の世界にある伝説の金属にあやかった、ヘリオスオーブ産の合金か。今朝タロスから、エドが革新的な技術を持ってくるとは聞いていたが、まさに革新的な代物だ。金剛鋼アダマンタイトと同等でありながら、魔力伝達率は二倍以上。これは武器に悩んでいるハイクラスには非常に喜ばれるぞ」

「ハイクラスにとって、武器は長くても数ヶ月しか使えない。これは命を預けるには足りないし、自分だけじゃなく仲間の命も危険にさらす。だがこの青鈍色鉄アビイロガネ、だったか?これで作った武器ならかなり長く使えるかもしれない。武器の売り上げは落ちるだろうが、それでもハイクラスが命を落とす方が問題が大きくなるんだから、価格を高めに設定すれば、採算は取れるだろう」


 だよなぁ。

 ハイクラスハンターは魔銀ミスリル金剛鋼アダマンタイト、どちらか好みに合う方の金属の武器を使っている。だがどちらの金属を使っても、決して避けられない問題が武器の寿命だ。

 魔銀ミスリルは強度不足を無理やり魔力で補っているため、金剛鋼アダマンタイトは低い魔力伝達率に無理やり大量の魔力を流し込んでいるため、長くても半年、短ければ一ヶ月足らずで武器は寿命を迎える。

 両方の特性を持った神金オリハルコンなら問題はないんだが、フィリアス大陸では迷宮でしか手に入れることができない。しかも手に入れられる確率は低く、値段もとんでもなく高いから、ハイクラスハンターだろうと一生拝めないことだって珍しくない。


 だけど青鈍色鉄アビイロガネは、神金オリハルコンにはさすがに劣るが、それでも金剛鋼アダマンタイト並の強度と硬度、倍以上の魔力伝達率がある。重さは鉄の倍だから魔銀ミスリルを使ってるハイクラスは少し大変かもしれないが、金剛鋼アダマンタイトを使ってるハイクラスには喜ばれるだろう。


「俺もそれでいいと思う。特に金剛鋼アダマンタイトを使ってる連中にとっては、間違いなく朗報だ。魔銀ミスリルを使ってる連中は大変だろうが、それでもフィジカリングでどうとでもできるだろう」


 ああ、忘れてたがフィジカリングがあったんだった。ハイクラスの身体強化がどんなもんかはわからないが金剛鋼アダマンタイトですら軽々と振り回せるんだから、青鈍色鉄アビイロガネなら問題はないと思う。慣れるまでか、大変なのは。


神金オリハルコンの重さは鉄と同程度らしいから、それが唯一の欠点と言えるだろうね。だけどそこはいいだろう。さすがに重さまで望むのは贅沢だ」

「ですな。では早速、ハンターズギルドに品評依頼を出しましょう」

「だね。本来ならPランクの二人に頼むんだが、彼らが発端でもあるんだから既に武器は持っていると考えるべきだろう」

「でしょうな。武器もこの剣一振りだけしか打ってないとは思えない。となると適任は、ホーリー・グレイブのリーダーでしょう」


 マジであいつらの予想通りに話が進むな。まあ誰でも簡単に予想できることだしな。さすがに既にファリスさんに依頼してるとまでは思ってないみたいだが。


「いや、ホーリー・グレイブのリーダーは身の丈程もある大斧を使っている。そんなハンターに剣の品評を依頼するのは筋じゃないだろう。それにこれだけ金剛鋼アダマンタイトに近い特性を持ってるんだから、普段から金剛鋼アダマンタイトを使っている彼女には、既に依頼を出しているとみてもいいと思う」


 げ、ラベルナさんにはバレてるじゃねえか。


 ファリスさんが金剛鋼アダマンタイトの大斧を使ってるハイフェアリーだってのは、既にフィールでも有名になっている。そのハイフェアリーが自分の背丈と同じ大きさの大斧を使ってれば、イヤでも噂になるからな。しかもその大斧も、クラフターが見れば金剛鋼アダマンタイト製だってことはすぐにわかるから、ファリスさん以上に青鈍色鉄アビイロガネのテストに適任な人はいないと断言できる。


「あはは~、やっぱりラベルナさんにはバレちゃってたか」

「だと思ったよ」

「なんだ、ってことはそのハイフェアリーを指名しろってことか」

「ああ。後は旦那さんもハイヒューマンだから、この剣はその人に頼めばいいと思ってね」

「そういうことか。確かにあれだけ大きな斧を使ってるんだから、彼女以上に適任はいないだろうね。私としてはそれでいいよ。だけどエド」

「クラフターズギルドとしても、この剣は保管しておきたい、ってとこですか?」

「正解だ。もちろん品評依頼の報酬は依頼した武器や防具なのは承知している。だからそのハンターには別に剣を打ってもらえるかい?」


 やっぱりか。だけどクラフターズギルドにも現物は必要だから、それはどうしようもない。品評に使った武器なら信頼度も高いからな。


「了解。依頼した時にうちの工房に来るように伝えてもらってもいいですか?」

「わかった。問題は価格だね。作り方はさっき聞いたけど、そんな方法を使ってる以上、1万エルってのはありえない」

「それにトータルの売り上げからも考えると、最低でも3万エルだな。いや、国によっては10万エルになってもおかしくはねえ」


 アミスターは魔銀ミスリル晶銀クリスタイト、バレンティアは金剛鋼アダマンタイトの産出国だから、この二国ならそこまでは高くならないだろう。だけど他の国はそうはいかない。迷宮で取れる場合もあるけど、それでも量は多くはない。だから輸入に頼ってるんだが、そうなると当然価格は高くなる。


 だけどそれよりも大きな問題がある。


「価格は任せるつもりですけど、ソレムネとレティセンシア、バリエンテには漏らさないようにしてほしいんですよ」

「ソレムネとレティセンシアはわかるが、バリエンテもか?」

「ええ。それが考案者の条件なんで」

「そういうことなら仕方ないが、ギルドがないソレムネ、撤退したレティセンシアはともかく、バリエンテは難しいよ?なにせアミスターとバリエンテは友好国だし国境も接してるから、どれだけクラフターズギルドが徹底しても、噂の拡散は防ぎようがない。それはソレムネとレティセンシアも同様だが」


 それはあいつらも承知の上だ。製法も公開する以上、遠くないうちにバリエンテでも作られることになるだろう。それでも時間を稼ぐことはできるし、その間にアミスターに広まれば優位性は確保できるから、それまでの間抑えていればいい。


「難しいが、そういうことなら価格は高めに設定しよう。バリエンテはアミスターとバレンティアに挟まれてるからどちらも手に入れやすいが、そこからソレムネに流れる可能性があるからね」


 その可能性は考えてなかったな。だけど確かにバリエンテはアミスター、バレンティア、ソレムネに挟まれてるから、バリエンテを通じて青鈍色鉄アビイロガネの製法なり完品なりが漏れるかもしれねえ。もしかしてあいつら、プリムの問題の他にもその可能性があると思ったからバリエンテの名前も挙げたのか?


「ですな。とはいえさすがに10万エルは取りすぎだ。俺は5万エルが相場だと思ってるんだが、それは問題が落ち着いてから下げることにしましょう。なので7万エルってとこでどうです?」

「あたしも相場は5万エルだと思うから、それでいいと思う。いつ問題が落ち着くかはわからないけど、大和君がいいと言ったら5万エルに下げることにしよう」

「ですな。エド、とりあえずだが価格は決まったぞ。おい、エド?」

「おーい!聞こえてる?価格決まったよー!」

「うおっ!?耳元でデカい声出すなよ!」


 考え事をしてたらマリーナに耳元でデカい声を出された。何?価格が決まったって?


「ああ、とりあえず7万エルにして、問題が解決、あるいは落ち着いたら5万エルに下げるってことですか。了解っす」


 予想より高くなったが、クラフターズマスターとスミスチーフが決めたんだからそれが妥当なんだろう。そこは俺が口を出す問題じゃないな。


「あと当然だけど、このことはグランド・クラフターズマスターにも報告することになる。現物を持っていく必要もあるだろうから、場合によってはあんたに王都へ行ってもらうことになるからね」


 げ、マジか。


「ついでってわけじゃないけど、マリーナやフィーナとの結婚を報告しといで。二人ともいつ結婚するのかってずっと待ってたんだからね」


 しかも結婚報告も兼ねろってか。つかなんでフィーナもなんだよ!?


「あははは。実はね、プリムとマリーナから噂は聞いてたんだよ。近いうちにエドが歴史を変えるようなとんでもない代物を持ち込むって」


 俺は思わず、マリーナを睨みつけた。こいつ、なんてことしやがったんだ!


「早いか遅いかだったら、早いほうがいいでしょ?それにフィーナはウイング・クレストの獣車製作依頼を受けてるから、その報酬でけっこう目標に近くなるんだよ」


 マジでか!?フィーナもそうだとは思わなかったらしく、驚いてるぞ。


「本当だよ。しかもミラーリングの十倍付与もあるから、今回のフィーナへの報酬は、少なく見積もっても白金貨2枚だ」


 すげえな。一度にそれだけ手に入るなんて、普通じゃありえないぞ。つかまたしてもあいつら絡みかよ。正式な依頼とはいえ、作為的なものを感じるな。

 いや、フィーナが早く解放されるのは、俺としても望むところなんだけどな。

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