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04・侯爵への返答

「いやぁ、ありがとう。二日後が楽しみだよ」


 ファリスさんとクリフさんが満面の笑みを浮かべてアルベルト工房を出て行った。

 ここまで喜んでもらえるなんて、俺としても提案した甲斐があったと思う。元は自分達の武器をどうするかって話だったんだけどな。


「クリフさんが羨ましそうな顔してたよな。あの人の武器って剣でしたっけ?」

「ええ、剣よ。クリフも重い剣を好んでるから金剛鋼アダマンタイトを使ってるけど、ハイヒューマンでもあるから不足を感じてるんじゃないかしら?」


 あー、そういえばあの人もハイヒューマンだったな。フィールに来たハンターでハイクラスに進化してるのはファリスさんとクリフさん以外にもいるけど、クリフさんの剣も作っておくのもいいかもしれないな。


「いや、それは大丈夫だろ。クラフターズギルドに提出する剣の品評は、多分クリフさんに依頼することになると思う。他に剣を使うハイクラスはマナ様だが、マナ様には瑠璃色銀ルリイロカネ製の剣の品評を頼んでるんだから、そうなるとクリフさんしかいなくなる」


 ああ、なるほど。確かにそうだ。クラフターズギルドに提出するんだから、実用性がないと話にならない。そうなると誰が品評するのかって話になるが、ハイヒューマンのクリフさんならピッタリだ。


「まあその剣はクラフターズギルドで保管することになるだろうから、報酬にオーダーメイドってのはありだと思うけどな」

「それっていいのか?」

「品評依頼の場合、武器は依頼を受けた人の物になるって言ってませんでしたか?」


 ミーナも俺と同じ疑問を持ってるな。

 聞いた限りだが、武器や防具の品評依頼はクラフターがクラフターズギルドに依頼し、クラフターズギルドからハンターズギルドに話を持っていき、ハンターズギルドがハンターを指名することになっている。クラフターがそのままハンターズギルドに指名依頼を頼めと思わなくもないが、品評はクラフターズギルドにとっても重要なことだから、回りくどくてもこういう手段を用いることに決まっているそうだ。当然依頼を受けたハンターには報酬が必要になるが、その場合は依頼した武器や防具がそのまま報酬になる。


 だが今回の場合、青鈍色鉄アビイロガネという新合金を使った剣の品評を依頼することになるから、クラフターズギルドとしても現物は保管しておきたいだろうとエドは予想してるから、そうなるとクリフさんの報酬はどうなるのかという話になる。


「ああ、そうなるのね。なら確かに、クリフさんの報酬にオーダーメイドの青鈍色鉄アビイロガネ製の剣っていうのはありだわ」


 プリムも納得してるし、俺も納得した。


「じゃあ明日クラフターズギルドに公表したら、クリフさんにも指名依頼を出してもらうことになるんですね?」

「そうなるな。問題はどんなデザインにするかだが、大和の世界のでいいならお前の都合に合わせてもらわなきゃいけねえ。品評には一週間ぐらいかけるのが普通だから時間はあるし、問題はないと思うぞ」


 フラムの疑問に答えるエドだが、クリフさんも興味あったみたいだから好みの剣のデザインならわかってるぞ。


「そうなのか?ならそれでもいいかもしれねえな。マリーナ、一応ドローイングで控えておいてくれるか?」

「はいよ~」


 事前にクリフさんの興味を引いたデザインを控えておこうってか。確かにいい考えだな。


「大和、刻印具貸して」

「それは構わないが、使えないだろ?クリフさん、三種類ぐらい興味持ってたから、それが終わったら教えてくれ。次の出すから」

「了解。それじゃ借りるね」


 エドは絵心がないから、絶対にドローイングは使わないんだよな。


「そういえば前から気になってたんですけど、マリーナさんてユニオン登録をしてるんですか?」


 思い出したようにフラムがマリーナの登録状況を聞いてきたが、俺も気になってたからぜひ聞いてみたい。


「そうだよ。クラフターズギルドとトレーダーズギルドのユニオン。メインはクラフターズギルドだけどね」


 漁師メインじゃなかったのか。そういや確かに朝ぐらいしか漁にでてないな。


「やっぱりユニオンだったんだ。あたしはユニオン登録しようか迷ってるから、今度話を聞かせてよ」

「いいよ~。ちなみにどこ?」

「ヒーラーズギルドかトレーダーズギルドね」


 プリムもユニオン登録を考えてたのか。俺もクラフターズギルドとユニオン登録するか迷ってたんだよな。


「ああ、俺も聞きたい」

「私もです。私はクラフターズギルドに登録したいと思ってたので」


 そういやフラムは、ハンターよりクラフターになりたいみたいなこと言ってたな。それならマリーナの話は参考になるだろう。


「そうなんだ。あたしはいつでもいいよ。って今じゃなくていいの?」

「ええ。今日はこの後、フレデリカ侯爵のところに行く予定だから」

「フレデリカ侯爵のとこって……ああ、そういうことね」


 全てを見透かすようなマリーナの視線が怖い。ニヤニヤ笑ってやがるから、あれは絶対に気が付いてやがるな。


 迂闊に口を開けば墓穴を掘る気がしたので、俺は無言のままマリーナのドローイングが終わるまで刻印具をいじることにした。


「さて、ファリスさんも案内したし、クリフさんが興味持ってた剣のデザインも控えたし、いよいよ今日のメインイベントといきましょうか」

「そうですね。私達も楽しみです」

「はい。ようやくなんですから」

「……私は別荘に帰った方がいいかもしれないわね」

「俺達は魔銀亭に戻るべきかなぁ」

「それがいいよねぇ」


 上からプリム、ミーナ、フラム、マナリース姫、ラウス、レベッカだが、各々好き勝手言ってくれるな。いや、確かに覚悟は決めたし時々は会いに行くつもりだけどさ。


「災害種の報告もあるんだから、全員行かないとでしょ」

「ですよねぇ……」


 アビス・タウルスは既にハンターズギルドに売り払っているとはいえ、報告はまだだからな。ベール湖の生態系が崩れるどころかフィールでの生活ができなるなる可能性もあったんだから、トレーダーズギルドからの情報提供がなかったらと思うとゾッとする。

 だから行きたくなくても行かないといけない。諦めろ。


 さすがに報告が終わったら帰ってもいいと思うが、マナリース姫は一応俺の婚約者候補ってことになってるから、一人で帰らせるわけにはいかない。送ってくぐらいはしないといけないだろうな。夜のことを考えると、いい気はしないかもしれないが……。


 そして俺達は目的地になるアマティスタ侯爵邸に到着した。

 はい、本日のメインイベントとは、未婚の母となって俺の子供を産むことを望んでるフレデリカ侯爵に返事をすることです。先に災害種討伐の報告をしなきゃいけないから、その後になるけどな。


「お待ちしていました。フレデリカ様も首を長くしてお待ちですので、こちらへどうぞ」


 首を長くして待っていたんですね。それはそれで期待されてるようでキツいが、立場上俺との結婚はほとんど無理なんだから、しっかりと答えを伝えないとな。


Side・フレデリカ


 ここしばらくは私もかなり忙しかった。

 レティセンシアの皇女を移送に私も同行し、その関係で一週間も王都に留まらなければなからなかった。ようやくフィールに戻ってきたと思ったら、また彼らが災害種を討伐したと報告を受けたから頭が痛い。そのおかげで屋敷には領代とハンターズマスターになられたライナス殿、トレーダーズマスターのミカサ殿も来られた。トレーダーズギルドからの情報提供が討伐の決め手になったみたいだし、漁師が活動できなくなる可能性があったんだから、ハンターズギルドからも報告を受けていたみたい。


 だけど二週間ほど前にデビル・メガロドンが二匹討伐されているから、今回のアビス・タウルスを含めると、恐らくはベール湖には異常種はいなくなったと考えてもいいかもしれない。レティセンシアの工作員がベール湖で使った魔化結晶は、ブルーレイク・ブル二匹ということだから、一匹がブルー・シャーク、もしくはスカイダイブ・シャークに捕食され、一匹がアビス・タウルスに進化したということでしょうからね。もちろん断定はできないけど、湖の中を調べるのは無理だから、当分漁師には結界の中でのみ漁をしてもらうことにしたわ。


 そんなわけで領代とハンターとトレーダーの両マスターは帰られ、残ったのはウイング・クレストだけになった。マナリース様は後で大和君がお送りすることになってるけど、私としてもお一人でお帰りいただくわけにはいかないから、素直に厚意に甘えることにさせてもらっているわ。


 それにしても、すごく緊張するわ。結婚するわけでもないのに、ここまで緊張することになるなんて……。そういえばミュンが、初めて男に抱かれる時は緊張するって言ってた気がする……。


「えーっと、いいですか、フレデリカ侯爵?」

「え?え、ええ、もちろんよ」


 声が裏返っちゃった……。すごく恥ずかしいわ……。


「とりあえずですね、覚悟は決まりました。決められましたって言ってもいいんですが、まあそういうことで」


 その一言で、私は天にも昇る心地になった。じゃあ……。


「じゃあ私、大和君の子を産ませてもらってもいいの?」

「侯爵が良ければ」


 良いも何も、私はずっとそう望んでたんだから、答えは決まってるわ。


「ありがとう、大和君。プリムローズ嬢、ミーナ、フラム、私は大和君の子を産みたい。許してもらえるかしら?」

「もちろんですよ」

「生まれたら、私達も会わせてください」

「可愛い子が生まれるんでしょうね」


 三人とも、快く了承してくれた。事前に提案されていたとはいえ、それでも三人の承諾を得なければ大和君の浮気になってしまうから、本当に嬉しいわ。


「おめでとう、フレデリカ侯爵。これでアマティスタ侯爵家は安泰ね」

「ありがとうございます、マナリース様。ですがマナリース様は……」


 私の唯一の懸念事項は、マナリース様のこと。大和君に嫁ぐことで、王家との縁を深めることが目的ではあるけど、それもマナリース様が首を縦に振らなければ意味のない話。マナリース様がどのような答えを示されるかはわからないけど、だからこそ私が先を越す形になるのが申し訳ない。


「気にしないで。私の答えはもう少しかかりそうだけど、それにあなたが付き合う必要はないわ。そんなことよりあなたが決意してくれたことの方が嬉しい。本当におめでとう」

「マナリース様……ありがとうございます」


 だけどマナリース様は、私の懸念を理解してくれたかのように、そう仰ってくださった。本当にありがたいことだわ。これからも私は、アミスターの貴族として、一層励まないといけない。そして生まれてくる子を立派な跡取りとして育てないと。


 その後マナリース様はラウス君とレベッカちゃんを伴って、別荘まで大和君に送っていただくことになった。ラウス君とレベッカちゃんは魔銀亭に戻るそうだから、それまでにアプリコット様にもご報告をして、プレグネイシングを使っていただかないといけないわね。

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