01・フィールの現状
ミーナ、フラムとの結婚の儀式を終えてから二週間が経った。今はハンターとして狩りをしつつも新婚生活を楽しんでいる。
サボってない証拠にライセンスを見せよう。
ヤマト・ミカミ
17歳
Lv.65
人族・エンシェントヒューマン
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:プラチナ(P)
レイド:ウイング・クレスト
プリムローズ・ハイドランシア・ミカミ
17歳
Lv.61
獣族・翼族・ハイフォクシー
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:プラチナ(P)
レイド:ウイング・クレスト
ミーナ・F・ミカミ
17歳
Lv.27
人族・ヒューマン
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:カッパー(C)
レイド:ウイング・クレスト
フラム・ミカミ
18歳
Lv.24
妖族・ウンディーネ
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:カッパー(C)
レイド:ウイング・クレスト
ラウス
13歳
Lv.27
獣族・ウルフィー
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:カッパー(C)
レイド:ウイング・クレスト
レベッカ
13歳
Lv.25
妖族・ウンディーネ
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:カッパー(C)
レイド:ウイング・クレスト
マナリース・レイナ・アミスター
18歳
Lv.47
人族・ハイエルフ
ハンターズギルド:アミスター王国 フロート
ハンターズランク:シルバー(S)
みんなしっかりとレベルアップしてるし、プリムなんてランクアップまでしているが、残念ながらまだ進化はしていない。ハイフォクシーに進化した時もそうだったが、プリムは多すぎる魔力を持て余し気味だったし、知り合いの翼族からも進化は遅いみたいなことを言われてたから、エンシェントフォクシーに進化するのはもう少し先になりそうだ。
ミーナとフラムも三上性になったが、ミーナの名前にはミドルネームが入っている。これはアミスターの女性は、結婚すると生家のイニシャルをミドルネームにすることになっているからだ。騎士団も正式に退団しているぞ。
フラムはプラダ村出身なので名字はなかったが、俺と結婚したことで名字を名乗れるようになった。結婚直後にトレーダーを護衛しながらプラダ村に行ったんだが、村の人はフラムの結婚相手が俺だってことをすごく喜んでくれた。前回は急ぎで入用だった物資しか運んでないので、近いうちにまた行くことになっている。
マナリース姫も俺達と一緒に行動してるから、魔法に関してはしっかりと手ほどきをしている。だからレベルも上がったし、ハイエルフに進化もしているが、レイドには加入していない。
マナリース姫に限らず、王家はレイドに加入することはまずないそうだ。これは王家が特定の誰かに肩入れすることを防ぐ意味合いもある。結婚すれば話は別だが、マナリース姫の兄である王太子は次期国王という立場もあるため、これからもレイドに加入することはないそうだ。
それと先日アーマーコートも完成したので、今日からはみんなアーマーコートを着用している。魔銀の装甲板を使ってるからミスリル・アーマーコートって名称にしている。
他の防具は魔銀の手甲と足甲はそのまま、俺とラウスは魔銀の装甲板を張り付けたウインガー・ドレイクの革製トラウザーを、プリム、ミーナ、フラム、レベッカは同じく魔銀の装甲板を張り付けた、プリムのバトルドレスと同じデザインのウインガー・ドレイク製スカートになっている。細部は個人の好みが繁栄されてるから、また後日説明しようと思う。
さらに武器も俺の刀とプリムの槍も試作品が完成してるので、使い勝手を確かめてほしいってことで一振りずつ預かっている。
「まさかたった一週間でレベルが六つも上がって、しかも進化までできるとは夢にも思わなかったわ」
「だから言ったじゃない。大和がアドバイスをしてくれた魔法はすごいって」
「本当にそうですよね。俺達だってこんなに早くレベルが上がるなんて、思ってもいませんでしたから」
マナリース姫の話では、魔法を球状にして放つハンターはたまにいるそうで、最近は王都でもそうやって魔法を使うハンターが増えてきているらしいが、俺達みたいに槍や矢、刀身そのものをイメージさせることは考えつかないみたいだ。
球状ってのは一番イメージしやすいからだと思うが、多分手で持てるサイズの漠然としたイメージしかしてないんじゃないだろうか。
「あなたの想像通りよ。なにせそういう使い方をしてる人って、ほとんどが武闘士なんだから」
やっぱりか。
武闘士に限らず、各ギルドに登録している者は身に着けている装備や技術などから、そっちの呼称で呼ばれることもある。ゲームなんかでいうジョブってやつだが、そこまではっきりしたものでもない。ただそう呼ばれてるってだけだな。
ハンターなら得意としてる武器や固有魔法の名称が付けられてることが多いし、クラフターはそのまま工芸系の職業が、バトラーは執事とか女中とか使用人とかで、トレーダーは商人、行商人以外だと漁師や農夫、詩人、芸人なんかも含まれるらしいが、ヒーラーズギルドだけはそんな呼称はないみたいだ。治癒魔法師っていう呼称はあるが、これは固有魔法が治癒魔法という人のことを指してるので、ヒーラーではなくハンターの呼称として定着しているそうだ。一応区別のために、治癒士って呼ばれてるみたいだが。
「レベルの上がり方や進化できたことも驚いたけど、一番驚いたのはやっぱり災害種をあっさりと倒しちゃったことでしょうね」
マナリース姫がそういうと、俺とプリム以外の全員が大きく頷いた。ちなみに俺とプリムの足元には、首が切り落とされた巨大な牛の魔物の死体が横たわっている。
「それも大和のおかげなのよねぇ」
「だからって、普通はやらないわよ?しかも簡単に倒したばかりか息一つ乱れてないんて、どう考えても普通じゃないわよ?」
マナリース姫から目を逸らす俺とプリム。
今回のレベルアップに先立って、俺とプリムはブルーレイク・ブルの災害種、アビス・タウルスを倒している。このアビス・タウルスはレティセンシアの皇女から聞き出した、魔化結晶を使われた個体に間違いないとは思うんだが、それでも災害種に進化してるとは思わなかったから驚いた。だからずっと異常種のサージング・バッファローを探してたんだよ。
サージング・バッファローは体長5メートル前後の青黒い体毛と太くて長い角を持っているが、異常種にしては珍しく、好戦的ってわけじゃない。というか異常種になったことで好奇心旺盛になった感じみたいで、漁師とかを見つけても積極的に襲って来たりはせず、攻撃されない限りはほとんど無害なんだそうだ。だけど事故がないわけじゃないし、漁場が激しく荒らされてしまうため、確認されれば早期の討伐が望まれる。下手に放置しておけば、さほど大きくない池なら、修復不可能なほどに生態系を乱されることもあるらしいからな。
なので俺達はサージング・バッファローの調査も行っていたんだが、さすがにベール湖全域は広すぎて無理だと諦めかけていた。トレーダーズギルドが情報提供してくれなかったら、まだ見つかってなかったんじゃないかと思う。
ベール湖には小さな小島がいくつかあるが、フィールから一番近い小島に青い何かが動いてるのを数人の漁師が目撃し、それがトレーダーズギルド経由で俺達の耳に入ったんだが、それがアビス・タウルスだったというわけだ。
さすがに災害種に進化してたとは思わなかったから驚いたが、それでも水の上じゃなく島の上にいたのがアビス・タウルスの運の尽きだった。
水の中に逃げられないように風性A級広域干渉系術式ヴィーナスを発動させ、プリムと二人で左右から突っ込んだんだが、予想通り水を操ってきた。それを避けながら俺はアイス・スフィアを展開させ、プリムはフレイム・アローの弾幕でアビス・タウルスの作り出した水槍を吹き飛ばすと、その隙をついて極炎の翼を纏ったプリムが体を貫き、俺が首を切り落として終わったというわけだ。
ちなみに小島へは俺とミーナがジェイドに、プリムとレベッカがフロライトに、マナリース姫とフラム、ラウスがマナリース姫の召喚獣で氷を操る体長7メートルの巨鳥アイス・ロックのシリウスに乗って移動したぞ。
召喚魔法師のマナリース姫は3匹の魔物と契約していて、シリウスはその中の一匹だ。あとはカーバンクル、バトル・ホースと召喚契約をしている。
「水の中にいたら、もっと手こずってただろうな」
「確かに水中特化といってもいい魔物ですから、島の上で倒せたのは運が良かったのは間違いないでしょうね。ところでミーナさんの皮鎧がブルーレイク・ブルですけど、アビス・タウルスも鎧になるんでしょうか?」
フラムが話を逸らしてくれたが、異常種、災害種から採れる素材は、希少性も高いが性能も高い。だが加工がすさまじく難しいため、お値段も高い。
何に加工されるかは入手した人次第だが、ブラック・フェンリルの毛皮は超高級コートとして仕立てる計画が上がっているらしく、クラフターズギルドが真っ二つに割れていると聞いている。
ちなみにそのブラック・フェンリルの毛皮のコート、話を聞きつけたロエーナ様がクラフターズギルドに乗り込んで、第二王妃や同じヒーラーズギルドに登録している末の第三王女の分も予約している。
マナリース姫が呆れながらそう教えてくれたが、母君であらせられるエルフの第一王妃ロエーナ様は既に王都に戻られている。王に代わってフィールの視察に来たという名目になっていて、マナリース姫はどっちかといえばハンターとしてフィールの現状を見捨てることができないっていう考えから、無理やりついてきたって形になる。
マナリース姫の婚約者候補の俺も何度かお会いしたが、落ち着いた感じの美人さんでしたよ。エルフだけあってむ……なんでもない。
マナリース姫の分のコートが予約されていない理由は、マナリース姫自身がそういったことに興味を持ったことがないからだ。実の娘がそんなことだから、第二王妃の子とはいえ自分と同じヒーラーになった第三王女を殊の外かわいがっているらしいぞ。
「災害種の素材なんて滅多に出回らないけど、今回はちょっと特殊だしな。ブラック・フェンリルをどう使うかでまだもめてるみたいだけど、アビス・タウルスを持ち込んだら状況は変わるんじゃないかな」
「そうね。ロエーナ様が仕立依頼を出してるからブラック・フェンリルはコートに、アビス・タウルスは皮鎧になるのが無難かしら」
「半分ずつ、は無理かもしれませんけど、一人二人分ぐらいはそれぞれ確保するんじゃないですか?」
「それもありえるけど、牙や爪、角なんかもあるから、そっちは武器に回される分、防具に回される皮は減るんじゃないかな?」
ありえるな。俺達はウインガー・ドレイクを使ってるから必要ないけど、フィールに来てくれたホーリー・グレイブは異常種の素材が多いことに驚いてたから、何人かは個別に交渉してるって聞いている。
異常種も災害種も、討伐されたとしても使い物にならない場合がほどんどだから、今回みたいに使える素材が多いことはクラフターズギルドとしてはとてもありがたいことなんだそうだ。
レティセンシアの陰謀で俺達以外のハンターがいなくなっていたフィールだが、ザックから依頼を受けてきたハンターや王都から来てくれたホーリー・グレイブのおかげで異常種、災害種の素材が豊富にあるという噂が広まって、手に入れようと考えるハンターが急増している。中にはフィールを気に入って定住を決めてくれたハンターもいる。おかげで最近のフィールは、昔のように賑わってきているそうだ。
レティセンシアの皇女様は身柄は王都に移送された後、ギロチンによる公開処刑が行われる旨が通達されている。今回の件は温厚なアミスター国民も怒りの声をあげ、レティセンシアを滅ぼすべしという意見も多かったそうだ。
そのことはレティセンシア皇家の耳にも入ったんだが、予想外の事態に怯んだレティセンシアは、アミスターの出した条件を丸々飲むことを承諾し、近日中にレティセンシアとの間に不平等条約が締結されることになっている。
ギルドに関してだが、クラフターズギルドとバトラーズギルドは、先日レティセンシアから完全に撤退した。ハンターズギルドとトレーダーズギルドも皇都を含めた大きな街以外は撤退し、その街での活動もかなり縮小されている。特にハンターズギルドはグランド・ハンターズマスター自らが皇都に乗り込んで今回の件の処遇を決めたそうだから、皇家は真っ青になって改善を要求したそうだ。そのため完全撤退ではなく、規模を縮小し、依頼の仲介や報酬に関しても最低限の物とし、戦争時にハンターを徴収するための戦時規定も大幅に見直したと聞いている。
アミスターとの国境は厳重な監視体制が整えられているため、国やギルドの許可がなければ一切の入国も禁じられているから、レティセンシア国内は流通もボロボロになっている。自業自得なので甘んじて受け入れてもらいたい。
残る気がかりは、いまだにサーシェス・トレンネルの行方がわからないことだ。フィールには戻ってきてないし、レティセンシアに逃げ帰った様子もないことから、バリエンテ経由でリベルターに向かったんじゃないかって予想されている。だからハンターズギルド総本部のあるアレグリアは、ハンターズギルドと協力してナダル海の警戒をしているそうだ。
俺としてもさっさとケリをつけたいところだが、俺にできることは少ないから、俺としてはできることからやっていこうと思う。




