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27・二人の王女

「ところでサーシェス・トレンネルとパトリオット・プライドってどうなってるんです?」


 領代やギルドマスター達も集まり、問題点を整理し、今後の対応を協議していた中で、俺は未だに解決していない問題点を思い出した。


「彼らは既に王都を出ていて、捕まえられなかったわ。その日もお父様と謁見する予定があったから、不穏な空気を感じ取ったということなんでしょうね」


 やっぱり逃げてやがったか。ということはワイバーンでフィールかレティセンシアに向かってるんだろうな。


「でしょうね。皇女が捕まったことも伝えてあるから、皇王に報告するために皇都に逃げ帰ったと見ているわ」


 アミスター王都からレティセンシア皇都までは、ワイバーンでも三日、無理をさせれば二日ぐらいだそうだから、早ければ明日には皇女が捕らえられた事実が伝わるかもしれないな。


「そ、それって、どうすることもできないんですか?」


 なし崩し的に全てを知ることになってしまったフラムが、恐る恐るだが口を開いた。


「残念だけどね。ただトレーダーズギルドに立て籠もったノーブル・ソードっていうレイドは、サーシェスを皇王にしようと企んでたんでしょ?サーシェス本人にもそのつもりがあったんなら、逆にレティセンシアには戻らない可能性もゼロじゃないわ」

「それってどういうことなんですか?」


 ラウスの質問に、レベッカも首をかしげて同意している。


「簡単だ。保身のために逃げてるんだよ。サーシェスがレティセンシア転覆を企んでいたとして、それを知ったレティセンシアが許すと思うか?」

「そんなの、許すわけが……ああ、つまりレティセンシアに帰っても捕まるから、行くところがなくて彷徨ってると?」

「その場合はな。というか俺は、例のお姫さんは皇位を継ぐと同時に、サーシェスを王配に迎えるつもりだったんじゃないかって思うぞ」


 そうすればサーシェスは王とまではいかないが、それに近い権力を持つことができるだろうからな。


「ありえるわね。後で確認してみましょう」


 フレデリカ侯爵がにこやかに答えるが、距離が近いですよ。


 あの後プリムは、ミーナ、フラム、そしてマナリース姫を伴い、フレデリカ侯爵と内緒の話をしていた。話の内容は知っているが、詳細は知らない。怖くてとてもじゃないが聞けないぞ。


「君にも色々あるだろうが、まあ頑張れ」


 そんな投げやりかつ憐れみ混じった感じの励ましをアーキライト子爵から頂戴したんだが、嬉しくもなんともなかったな。


「そうするべきね。というか私も会うわよ」

「それはこちらからお願いしたいところですが、十分に注意をしてください。コンストレイティングで行動は封じていますが、皇女はハイヒューマンに進化していますから、完全とは言い切れません」


 コンストレイティングは契約魔法の一つで、強制的に相手を従わせる魔法だ。別名隷属魔法とも言われている。使用するためには魔法の女神の許可が必要になるため、高位司祭ぐらいしか使えないんだが、そのコンストレイティングを付与させた魔導具は犯罪者用に作られている。


 だが魔導具に付与させたコンストレイティングは攻撃、魔法、偽証、隠蔽を禁じるだけで、しかもハイクラスに進化した者は継続的に魔導具を使用しなければ、数日で効果が切れてしまうそうだ。ハイクラス用の魔導具もあるにはあるが、王家が厳重に管理しているため、使用には許可が必要になる。


「わかってるわ。お父様の許可を得てハイ・コンストレイターを持ってきてあるから、話を聞く前にそれを使ってくれる?」

「それは助かります」


 ハイ・コンストレイターってのはハイクラスの魔力に対応した隷属の魔導具の名前だ。ちなみに普通の隷属の魔導具はコンストレイターだ。安易とか言うなよ?わかりやすくていいんだから。


「それなら鉱山に送り込んでるハイクラスの犯罪奴隷にも使っといた方がいいんじゃない?」

「そのつもりよ」


 犯罪奴隷となって鉱山労働に従事している元ハンターのクズどもの中にも、数人ほどハイクラスに進化している奴がいる。そいつらには毎日コンストレイターを使っているそうだが、手間がかかりすぎる。というかあいつらのために時間を無駄にしてるような気がして仕方がない。


 だけどハイ・コンストレイターを使うことができれば、その手間はなくなる。ついでに他の犯罪奴隷の奴らにも使えば、死ぬまで解放されることはなくなる。なにせハイ・コンストレイターの契約魔法は、ハイ・コンストレイターでないと解除できないんだからな。コンストレイターだとどこかからコンストレイターを持って来れば解除される可能性があるが、その心配もなくなるんだから、見張りも楽になるだろう。


Side・プリム


 王家の別荘での話を終えたあたしと大和は、マナの要請に従ってフレデリカ侯爵の屋敷に来ている。一国の王女様が護衛もなしに犯罪者と会うわけにはいかないからね。もちろん護衛はいるんだけど、大和はエンシェントヒューマンだし、事前に刻印術をスタンバらせておくことで、万が一の事態が起きても皇女を簡単に制圧することができる。あたしは大和のパートナーでもあるから、その関係でね。


「初めましてね、マリアンヌ・レティセンシア皇女。私はアミスター王国第二王女、マナリース・レイナ・アミスターよ」

「アミスターの王女だと?そうか、ようやく私を解放する気になったか」


 勘違いも甚だしいわね。なんでそんな自分に都合のいいことばかり考えられるのか、理解に苦しむわ。


「解放することは間違いないわね。ただし、あなたの命を、だけどね」

「……どういうことだ?」

「あれだけのことをしておいて、自分だけは無事で皇都に帰れるとでも思っていたの?あなたの身柄は王都に移し、さらなる取り調べを行ったあと、公開処刑になることが決定しているわよ」


 マナがそう告げると、皇女は思ってもいなかったとばかりに大きく目を見開いた。


「馬鹿な!?そんなことをすればレティセンシアはもとより、アバリシアも黙ってはおらんぞ!」

「望むところよ。もしあなたの処刑を理由に挙兵すれば、アミスターは全力を以て迎え撃ち、皇都を攻めることになるわ。その覚悟があれば、挙兵でも何でも好きにすればいい。あなたに言っても意味はないけどね」


 アミスターとレティセンシアの国力は、全てにおいて圧倒的にアミスターが勝っている。アミスターが兵を挙げれば、レティセンシアは瞬く間に全土を占領されるだろうことは他国の子供でも知っている。なのにレティセンシアは、その現実を見ようともせずに度々アミスターに文句を言っていたんだから、よく今までアミスターが黙っていたと感心するほどよ。


 だけど今回の件は、温厚なアミスター王家にとっても許容できる範囲を超えていた。それでも先に宣戦布告をしないだけマシでしょうね。


「ば、バカな……。ではアミスターは、レティセンシアを滅ぼすというのか!?」

「それは皇王の出方次第ね。あなたの命じゃ贖うには足りないけど、公式に謝罪して賠償を支払えばそこまではしないでしょう。もちろんそれだけじゃなく、レティセンシア国内のアバリシア勢力を一掃することも条件に加えられるわ」

「アバリシアを?そんなバカなこと、できるとでも思っているのか!?」

「どうせすぐに死ぬあなたには関係ない話でしょう?それにできるかどうかじゃなく、やらなければアミスターが皇家を滅ぼすことになるだけよ。だけど軍を動かすにはお金がかかるし、徴兵もしなければいけない。ケガをしたり亡くなったりしたら、見舞金だって出さないといけない。何よりなんで大切な国民を、レティセンシアごときを滅ぼすために使わないといけないの?」


 マナも辛辣ね。だけどその通りだわ。


 グラーディア大陸が、というかアバリシアがフィリアス大陸に侵攻してきたのは今から200年前と言われてるけど、その時はフィリアス大陸の国家は団結してアバリシアを撃退することに成功した。以降もアバリシアは何度かフィリアス大陸に軍を送り込んできているけど、その都度連合を組んで撃退している。


 だけど国によって軍事力、派遣できる人員には質、量ともに大きな差がある。今までは撃退できてもこれからは保証はないということで、当時のソレムネ皇帝がフィリアス大陸に統一国家を作るべきだとして、周辺国を瞬く間に滅ぼしてしまった。それに対抗するためにいくつかの小国が併合、合併、吸収を繰り返して建国されたのがリベルター連邦、レティセンシア皇国なんだけど、それがまたソレムネ皇帝の癇に障ることになり、当時のアミスター、バリエンテをも巻き込んで、戦乱の時代に突入することになる。バリエンテ獣人連合国が建国され、バシオン教国が割譲されたのもこの頃になるわ。


 つまり現在のフィリアス大陸の情勢は、アバリシアによる侵略を問題視したソレムネ皇帝による強行が原因なのよ。代々のソレムネ皇帝がフィリアス大陸統一を掲げているのも、全てはアバリシアを倒すためね。


 だけどレティセンシアは、いつかはわからないけどアバリシアの属国に成り下がってしまっていた。アバリシアとしてもアミスターは手強いことは知っているから、国力の劣るレティセンシアを標的に絞り、レティセンシアを足掛かりにしてフィリアス大陸を戦火に包み、ヘリオスオーブの統一を果たすつもりだったんでしょうね。


「そしてレティセンシアは、フィリアス大陸で最初にアバリシアに従属した国家ってことで、フィリアス大陸にある国々の中では優遇されることになる。つまりレティセンシア皇家は目先の利益に目が曇って、国はもちろん、この大陸をアバリシアに売ったってことね」

「貴様、我がレティセンシア皇家を侮辱するのか!?」

「侮辱?それはどっちよ?我が身可愛さに国民を売り、大陸の人を売り、自分達だけが安穏と過ごそうだなんて、ヘリオスオーブに生きる全ての人に対する侮辱だわ!」


 あたしの予想は当たってたみたいだけど、本当に気分が悪いわ。マナが先に声を上げなかったら、引っ叩いてたかもしれない。


「さすがにレティセンシア皇家がそこまで愚かだったとは思わなかったわ。これは本当に覚悟を決める必要があるかもしれない」

「レティセンシアとの戦争ですか?」

「ない、とは断言できないわ。お父様はアバリシアの影響を徹底的に排除させることを条件にするつもりだけど、今の話を聞く限りじゃできるかどうか怪しい。それならいっそ、皇家を廃してしまった方がいい気もするわ」


 あたしは皇家は滅ぼすべきだと思ってるから、その意見には賛成ね。アミスターがレティセンシアを支配した場合は、レティセンシアにある世界樹も王都にある大世界樹の影響を受けることになるから、国民性が変わる可能性もある。そうなれば撤退するギルドも戻るでしょうし、国民の生活も良くなるんだから、暗愚な皇家は必要ないわ。


「さて、聞きたいことは聞けたから、もう用はないわね。王都に移送する際にまた顔を合わせることになるけど、それ以外であなたと会うつもりはないわ。残り少ない命、しっかりと噛みしめて生きなさい」


 マナの宣言で顔色を変えた皇女様には目もくれず、あたし達は部屋から出た。

 出る直前に皇女様が恨みがましい視線を向けてきたけど、もうあんたにできることは何もないのよ。マナの言う通り、残り少ない命を噛みしめて、処刑の日に怯えながら生きるといいわ。

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