25・アミスター王国第二王女
Side・マナリース
別荘で今までの経緯を聞いた私は、思いっきり呆れてしまった。
「フィールに来る前にブラック・フェンリルとグリーン・ファングを2匹、その翌日にはゴブリン・クイーンとゴブリン・グランドナイトを討伐して、さらに盗掘者を捕縛。さらに翌日にはたった二人でマイライト山脈に登って、フェザー・ドレイクにウインガー・ドレイクを乱獲しながらエビル・ドレイクを討伐して、そのエビル・ドレイクに親を殺されたヒポグリフと契約。そして依頼ついでにマイライト鉱山東の森でマーダー・ビーとカース・トレントを狩って、そこで襲われてたレティセンシアの第一皇女を捕まえた。今日も今日とてデビル・メガロドンを2匹も狩ってきたのね。たった数日の成果としては、とてもじゃないけど信じられないわ……」
グランド・ハンターズマスターがお父様に直接報告した内容もとんでもないものだったけど、直接聞くとやっぱり衝撃の度合いが違うわね。異常種なんてGランクが数人、PランクだってGランクと一緒に討伐に出るのが普通よ。それでも犠牲者が出るのは避けられないし、グランド・ハンターズマスターだって単独討伐は無理だって名言している。
なのにこの二人はその単独討伐を成しているばかりか、こっちのエンシェントヒューマンに至っては災害種のブラック・フェンリルを単独討伐してるんだから、もうなんて言ったらいいのかわからないわよ。
プリムと結婚したヤマト・ミカミっていう男は、驚いたことにエンシェントヒューマンに進化していた。グランド・ハンターズマスターから聞いてはいたけど、ライセンスを見せてもらうまではさすがに信じられなかった。
それだけでも信じられなかったのに、彼は客人だったんだからさらに驚いてしまった。
アミスター王家は100年前に客人の女性を迎え入れている。その方、サユリ・レイナ・アミスター様はいくつもの工芸魔法を奏上し、料理人としても一流の腕を持っていたことからクラフターズギルドのOランクになっている。
それだけじゃなく、医療関係を充実させるためにヒーラーズギルドの設立に尽力なされた。設立までには数十年かかったそうだけど、問題を一つ一つ解決し、その間もご自身が得意とされていた治癒魔法で自ら民の下へ赴いて治療を施し、今は誰も使うことができない先天性欠損回復魔法リヴァイバリングすらも自在に使いこなした超一流のヒーラーでもある。固有魔法が治癒魔法という妹がヒーラーズギルドに登録したのも、サユリ様に憧れているからなのよ。
そして紆余曲折を経てヒーラーズギルドを設立したけど、その時はかなりのご高齢になられていたし、お相手だった当時の国王陛下も亡くなられていたから、多忙を極めるグランド・ヒーラーズマスターへの就任を辞退され、ただのヒーラーとして亡くなるまでご活躍されたわ。だからサユリ様はOランクヒーラーになられると同時に、ヒーラーズギルドからグロリアス・ヒーラーズマスターの称号を贈られているわ。
そのサユリ様と故郷を同じくする客人が私の前にいるという事実は、受け止めるだけでもけっこう大変なのよ。
「それにしても、まさかプリムが負けるなんてね。その決闘、見てみたかったわよ」
「決着自体は一瞬だったし、そんなに面白くはなかったと思うわよ?」
「そんなことはないでしょ。Gランク同士の決闘なんて見る機会はないわよ。そうよね、ディアノス?」
「ですな。娘の手紙には、永遠とも思える時間が過ぎたかと思えば、一瞬ほどの時間しか経っていなかったかもしれない。互いが動いてからは娘の目では終えず、気が付いたら決着がついていたと書かれていました」
私の護衛として来ている近衛騎士団副団長のディアノス・フォールハイトが答えるけど、ディアノスがフィールに来たのは私の護衛だけが目的じゃない。むしろ別の目的があるからこそ、私の護衛を受けたと言うべきね。
「失礼します。姫様、第三騎士団の団長、副団長、そしてディアノス様のお嬢様がお見えになられました」
「ありがとう、通してあげて」
来たわね、その目的が。
「失礼します。第三騎士団団長レックス・フォールハイト、副団長ローズマリー・トライハイト、騎士ミーナ・フォールハイト、ただ今参上致しました」
「待っていたわ。久しぶりね、レックス、マリー。そしてミーナ」
「お久しぶりでございます。マナリース様もご機嫌麗しく」
三者三様、異口同音で返してくれるけど、私としては堅苦しすぎて息が詰まりそうよ。
「ディアノス、ここは私よりあなたが言うべきことよ。だからミーナも呼んだんだからね」
「ご配慮、感謝致します。久しぶりだな、レックス、ミーナ。元気そうで何よりだ」
「父さんもご健勝のようで何よりです。ですがマナリース様の護衛に就かれるのはわかりますが、なぜ父さんが?」
「決まっている。ミーナが騎士になったばかりか、結婚すると聞いたからだ」
躊躇いなく断言したわね。私の護衛がついでみたいに聞こえるけど、それを承知の上で頼んでるんだから構わない。だけどミーナが来てから大和を威圧するかのように魔力を高めてるから、あっちのプリムと同じレイドの子達が真っ青になってるわよ?
ちなみに領代とギルドマスター、そしてプリムのお母様のアプリコット様は別の部屋に通していて、私の母で第一王妃のロエーナ・レイナ・アミスターが対応中よ。
「あ、あうぅ……」
対照的にミーナは真っ赤になった。そう、ディアノスが私の護衛としてついてきた理由は、ミーナが結婚するという手紙を送ってきたからなのよ。
「ヤマト・ミカミ殿ですな?お初にお目にかかります。レックスとミーナの父でディアノス・フォールハイトと申します。近衛騎士団の副団長を務めております」
大和とプリムはディアノスの魔力にも怯んでないわね。ディアノスはレベル52のハイヒューマンだから、ディアノスよりレベルが高い二人が怯むことはありえないけど、それでも多少は効果があると思っていたわ。大和は別の意味で緊張してるみたいだけど。
「は、初めまして。ヤマト・ミカミと申します。ハンターをやっています」
テンパってるわね。ミーナがディアノスに手紙を送ったことは知ってるでしょうけど、直接フィールに乗り込んでくるなんて想定外だっただろうから、そうなるのも無理もないけど。
「結婚の話は聞いている。その件については後程時間をいただきたい。ミーナやプリムローズ様、フラム嬢も交えて、ゆっくりと話をしたいと思っていますのでな」
「そ、そうしていただけると助かります」
私としてもそうしてもらいたいわ。私に向けられてるわけじゃないけど、私より格上のディアノスの魔力なんだから、けっこう辛いのよ。
「失礼いたしました、マナリース様」
ディアノスは私に謝罪すると同時に魔力を収めた。平気な顔してるのって大和とプリムだけじゃない。
「それでマナ、あの女のことだけど、アミスター王家としてはどうするつもりなの?」
おっといけない。ミーナの結婚は間違いなく慶事なんだけど、私がフィールに来たのはあの女に対する処分を通達するためでもある。もちろんプリムとの再会も楽しみにしてたし、ハンターとしても活動するつもりだけど、王家としての仕事を忘れたわけじゃないわよ。
「決まってるわ。皇都に首を送り付ける。ここまで虚仮にされたのは初めてだし、それを理由に文句を言ってくるなら、戦争でもなんでも受けて立つわ」
これはお父様だけじゃなく、重臣達も賛同している。当然だけどレティセンシアとの取引は一切を禁じることにしたし、国境も封鎖するつもりよ。レティセンシアの進軍に備えて、伝令としてワイバーンも数匹配しているから、情報を封鎖される可能性もない。魔物を異常種に進化させることができるという魔化結晶だけど、アバリシアからもたらされた試作品だという話だから、数もそんなにないでしょう。そもそも話を聞く限りじゃ、レティセンシアは異常種を制御できているわけじゃないから、勝手に自滅するかもしれないわね。
「けっこう思い切ったわね。でもそれだと、どっちかが滅びるまでってことになりかねないわよ?」
「上等よ。今までは実害がなかったから放置してたけど、ここまでされた以上黙っていられるわけがないわ。しかも自分達で後始末もできない問題を起こしてくれたんだから、滅ぼした方が世のためになるだろうしね」
さすがにお父様はそこまでは言ってないけど、私やお兄様はレティセンシアを滅ぼすべきだと思っている。アバリシアとつながりがあるんだから尚更よ。
「まあ各ギルドも撤退を考えているから、レティセンシアが宣戦布告してくることはないでしょうけどね」
それは私も聞いている。特に今回利用された形のハンターズギルドと元々見下されているクラフターズギルドは、準備が整い次第撤退すると明言しているから、早ければ今月中、遅くても来月中には撤退しそうだわ。それで暮らしが厳しくなっても自業自得よ。というかレティセンシアの民の暮らしを考えるなら、皇家を滅ぼした方がいいと思うけどね。
「じゃあこの後会いに行くのね?」
「ええ。フレデリカ侯爵の屋敷に軟禁してるんでしょ?明日か明後日にはビスマルク伯爵のワイバーンを含めて何匹かフィールに到着するから、皇女は王都に身柄を移送して、さらに取り調べを行った上で公開処刑になるわ」
中には皇女の身柄をレティセンシアに引き渡すべきだって意見もあったけど、アバリシアの名前まで出してきてるんだから、そんなことをしたらレティセンシアが調子に乗るのが目に見える。それ以前に、国をここまで荒らしたレティセンシアに気を遣う必要はない。レティセンシアは友好的どころか敵対的なんだから、国交断絶だって望むところだわ。
「それと二人への報償はもちろんあるから、一度王都に来てもらうことになるわ。さすがにこれだけの問題の解決に手を貸してもらったんだから、金銭面だけで見ても一生遊んで暮らせる額が支払われると思う。後はお父様が打った武器を下賜ってところかしらね」
Pランククラフターのお父様は、暇を見つけては武器を打っている。王家だからって実力がなければランクアップすることはないから、お父様は一流以上の腕を持つ鍛冶師ということになるわ。
そのお父様が打った武器は王都でも評判が高いんだけど、手にすることができる者は多くはない。お父様としては使い手を十分見極めた上で下賜したいそうなのよ。
だからお父様の武器を下賜されているのはGランクハンターと私が懇意にしているホーリー・グレイブ、お兄様が懇意にしているトライアル・ハーツぐらいね。騎士団だと近衛騎士団の団長と副団長ディアノスだけかしら。この二人はGランクハンターと同等かそれ以上だから、武器がもたないっていう理由もあるんみたいだけど。
あ、私やお兄様は普通にいただいてるわよ。私が今使ってるのはミスリルの長剣だけど、使いやすくて重宝してるわ。
この二人も武器には困ってるだろうし、とんでもない数の異常種を倒してるんだから、どんな武器を使っていようととっくに寿命を迎えているはず。だからお父様の武器なら、きっと二人も喜んでくれると思うわ。




