24・王都からの使者
Side・プリム
「プリム!良かった、無事で……」
緊急の用があるってことで何も聞かされずに王家の別荘に呼ばれたんだけど、到着した瞬間にあたしは一人の女の子に抱き着かれた。
腰まで届く美しいプラチナブロンドの髪、ハイエルフと見間違うほどに白い肌、エルフにあるまじき大きさを誇る二つの双丘を持つ絶世の美女。あたしも容姿には自信があるけど、この娘と比べるとどうしても見劣りしてしまうって思うのよね。
ってちょっと待って!なんであんたがこんなとこにいるのよ!?
「プリム、知り合いか?」
あたしと同じく呼び出された、大和もどう対応していいのかわからなくてすごく困ってる。
「落ち着いてよ、マナ。というか、なんであんたがフィールにいるの?」
「フレデリカ侯爵達領代の報告を受けて、グランド・ハンターズマスターに頼んで連れてきてもらったのよ。というか、この男は誰なの?」
なるほど、フレデリカ侯爵の部下の報告を聞いて、ギャザリングさんに頼んで文字通り飛んできたってワケね。これは長い話になりそうだし、先に大和を紹介しておいた方がいいわね。
「ヤマト・ミカミよ。あんたのご先祖様と同じ客人で、あたしの旦那様でもあるの」
「どうも、ヤマト・ミカミです」
って大和と腕を組みながら紹介したら、ものすごく驚かれた。客人はマナのご先祖様が最後だって言われてるし、その方の知識はアミスターはもちろん、ヘリオスオーブにとっても大きな発展をもたらしてくれた。
大和も既に瑠璃色銀と青鈍色鉄をエドに手伝ってもらって完成させたし、魔法に関しても工芸魔法メルティングが奏上ためのアドバイスをしている。あたしも大和の知識のおかげで火属性魔法と新しい羽纏魔法を完成させたから、これも奏上されるんじゃないかって思ってるわ。
たった数日でこれだけのことをしてるんだから、魔法が本当の意味で体系化される日も近いんじゃないって思うわね。
「旦那って……プリム、あなた結婚したの!?」
そっちに驚くワケ?そりゃあたしだって女なんだから、いつか結婚してもおかしくないでしょう。
「自分より弱い男とは結婚しないってあれだけ豪語してたあなたが結婚したって聞かされたら、誰だって驚くわよ。ということはそっちの……大和だっけ?大和はあなたに勝ったってこと?」
「勝ったわよ。というかマナ、あんたは自己紹介しなくてもいいの?」
色々と話したいことはあるけど、まずは自己紹介したげてよ。大和がさっきからどう反応していいか困ってるんだから。
「え?あ、ああ、ごめん。ご挨拶が遅れました。私はアミスター王国第二王女、マナリース・レイナ・アミスターと申します。此度はPランクハンター、ヤマト・ミカミ殿のお力によってフィール、ひいてはアミスターは救われました。厚く御礼を申し上げます」
さすがは王女様。礼儀正しいわね。どこぞのバカ姫にも見習わせたいもんだわ。
「あー、えーっと、なんて言ったらいいかわからないけど、俺……いえ、私がフィールに来たのは偶然ですし、運が良かっただけですから、わざわざ王女殿下が頭を下げられるようなことではないかな~と……」
大和が面白いぐらい動揺してるわね。大和の世界に王族や貴族はいないって話だけど、刻印術師の間じゃ絶対的な存在がいるって聞いてる。確か七師皇っていって、世界最強の七人の刻印術師を指す言葉で、大和じゃ逆立ちしても勝てないぐらい実力に差があるそうよ。大和のお父様もその七師皇の一人らしいわ。
「ごめんなさい、普通にしてもらって大丈夫よ。それに私もハンターだし、フィールが落ち着くまでは私もフィールで活動するつもりだから、顔を合わせることも増えるだろうし」
そうなの?確かにマナがハンターになってたことは知ってるし、Sランクだってことも聞いてたけど、まさか王女様が一人でフィールで活動するつもりなの?
「懇意にしてるレイドが来てくれてるわ。グランド・ハンターズマスターからフィールの現状を聞いてるから、今はハンターズギルドに行ってると思う。でも私はプリムと一緒に行動するつもりだったのよ。まさか結婚してるとは思わなかったけど」
あー、つまりあたしが結婚したことで、マナの予定が崩れちゃったってことか。あたしもマナと一緒に狩りにいくのは構わないし大和も断ったりはしないだろうけど、近いうちにプラダ村への護衛依頼を受けることになってるし、ミーナやフラム達も一緒に行動することになるから、あの子達が委縮しちゃうかもしれないわね。
マナと一緒に来たレイド、ホーリー・グレイブはアミスターでも一・二を争うトップレイドとして有名ね。リーダーはハイフェアリーだけど、実際にレイドを立ち上げたのはサブリーダーのハイヒューマンだって聞いている。なんでリーダーを譲ったのかまではわからないけど、夫婦だって噂があるからその関係かもしれないわね。
「色々と話は聞いてるけど、ヒポグリフと従魔契約をしたんですって?フィールに来たのは数日前なのに、アミスターでハンター登録をしちゃっても問題ないの?」
マナの耳にもバリエンテの情勢は入ってたみたいで、あたしがどうなったかをずっと気にしてくれてたみたい。だからあたしに聞きたいことも山ほどあるのはわかるんだけど、少しは落ち着いてよ。
「落ち着いてください、姫様。プリムローズ様がお困りになられていますよ」
「ご、ごめん。久しぶりだったしバリエンテがあんなことになってたから、すごく心配だったのよ」
「わかります。ところが当のプリムローズ様はフィールに来られていたばかりか、こちらの大和様とご結婚までなさっていたのですから、姫様が少々混乱されてしまうのも当然だと思います」
マリサも相変わらず、少し毒を混ぜてくるわね。
マリサはマナ付きの侍女をしているヴァンパイアなんだけど、王都のバトラーズギルドから派遣されているSランクバトラーなのよ。
執事や侍女なんかの教育、派遣を行うバトラーズギルドは、トラレンシア妖王国に総本部を置くギルドよ。登録する人の身分を問わないのはバトラーズギルドも同じなんだけど、逆にバトラーズギルドだからこそ王家が登録することはできなくなっているわ。人に仕える教育をするんだから、王家が登録する意味なんかどこにもないしね。
バトラーズギルドもTランクからスタートになるけど、登録してから三年間は作法や言葉遣い、文字の読み書きをみっちりと教育されるから、ランクが上がることはない。卒業するとIランクに自動的に昇格することになっている。
もちろん卒業して、それで一人前になるわけじゃない。Tランクの三年間に教えられることは必要最低限のものしかないから、卒業後はバトラーズギルドを通じて自分で勉強して、技能を身に着けることになっている。一つでも習得すればCランクになれるけど、技能を身に着けるのはかなり大変だから、多くても二つか三つっていう人がほとんどらしいわ。
そしてCランクになると、ようやくバトラーズギルドから他家に派遣されることを認められる。Cランクバトラーは派遣される期間も短いけど、何回か派遣されて何も問題がなければBランクに昇格する。Bランクも同じく派遣を繰り返すことでSランクに昇格するけど、ここまできてやっと一人前と認められるそうだから、バトラーズギルドもかなり大変よね。
ただバトラーズギルドは信賞必罰がしっかりとしていて、致命的なミスをしたり仕えた家に多大な迷惑をかけたり損害を出したりしたら、バトラー側に非があれば即座にランクダウンしてしまい、Iランクに降格した場合は除名処分が待っている。
逆にGランク以降のランクアップには、仕えている家の推薦と習得している技能の数が一定数必要になるそうよ。
つまりマリサは一人前のバトラーということで、数年前にマナが見初めて侍女にしているの。確かグランド・バトラーズマスターはAランクバトラーだったはずだけど、どんな人なのか全然想像できないわね。
あと大和がメイドなのにバトラーなのはなんでだって叫んでたけど、昔からそういう呼称なんだから知らないわよ。
「私がフィールに来たのは、プリムに会うことだけが目的じゃないのよ」
なんかフィールの現状とかレティセンシアの工作とかがすっかり抜けてない?なんでそれらより、あたしに会うことの方が重要度が高くなってるのか問い詰めたくて仕方ないわ。
「私が王都を経つ少し前に、妹がバリエンテに向かってるの。ザックには連絡しておくから、あの子もフィールに来ることになると思うわ」
マナの妹っていうとユーリね。あの子、何しにバリエンテに行ってたの?というか、なんであの子をバリエンテなんかに行かせたのよ?いくらなんでも危険すぎるし、あとでしっかりとマナから聞いておかないといけないわね。
「積もる話はあるだろうが、こっちも報告しなきゃいけないことがあるんだから、こんなとこじゃなくてもいいんじゃないか?」
大和が申し訳なさげに口を挟んできたけど、確かにそうなのよね。レティセンシアの皇女にさっき狩ったデビル・メガロドンのこともあるし、サーシェスとパトリオット・プライドがどうなったかはマナの方が詳しいだろうから、腰を落ち着けてから話したいわ。
「それもそうね。それじゃあマリサ、応接室に案内をお願い」
「かしこまりました」
「大和、ミーナは?」
「もうじき来る。まさかこんなに早く巻き込むことになるとは思わなかったけど、フィールからハンターを排除しておいて正解だったと思う」
まったく同感ね。だってフラム達なんて、王女様に会うなんて思ってもいなかったんだから、さっきからずっと固まってるわよ。
だけどフラムは大和の婚約者だし、レベッカはそのフラムの妹、ラウスは弟子なんだから、紹介するに決まってるわ。
ミーナは騎士団のお仕事中だけど、この国のお姫様が来たんだから、レックス団長とローズマリー副団長は絶対に顔を見せに来なければならない。大和も呼ばれてることは伝わってるだろうから、そうなったら婚約者のミーナも来ないわけにはいかないわ。
それにしても、こんなに早くマナと再会することになるとは思わなかったけど、元気そうで良かったわ。一緒に狩りに行く機会はなかったし、今度誘ってみようかしら。




