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23・世界樹の謎

 フレデリカ侯爵にプロポーズされてしまったが、どうやら冗談だったらしく本人もそのつもりはなかったみたいなので、とりあえずその話はそこまでになった。


 というか、元々は何の話をしてたんだっけか?


「ああ、博物館の話だったっけか」

「博物館?なんだいそれは?」


 ヘリオスオーブには博物館っていう言葉がないのか。まあ自然に関する学問と大雑把だし、ヘリオスオーブだと魔物の研究の方が優先度が高いから、この場合は魔物学、展示施設は魔物館とでも言ったほうがいいか。


「なるほど、君の世界の学問を意味する言葉と、その学問を勉強、研究するための施設のことか」

「面白い言葉だね。決まったら施設の名前は博物館にしてもいいかもしれない」


 やめて。確かに魔物も広義じゃ博物学に含まれるだろうけど、俺の世界には魔物なんていないんだから、魔物は考慮されてないはずだぞ。……いや、全くいないってわけでもないんだけどさ。


「魔物学だと何となく語呂が良くないからね。それなら博物学という言葉を使ったほうがシックリくる。クラフターズギルドに戻ったら、すぐにグランド・クラフターズマスターに連絡を取ることにしよう」


 ラベルナさん、すげえやる気だな。そこまで本気にならなくてもいいでしょう。


「いや、あのですね……」


 俺としては何としても阻止したいから口を挟もうとしたんだが、間の悪いことに応接室の扉がノックされてしまった。


「どうぞ」

「失礼します。フレデリカ様、申し訳ありませんがよろしいですか?」

「何かあったの?」

「はい。申し訳ありませんがお耳を」


 なんかミュンさんがかなり焦ってるな。また災害種でも出たのか?


「なんですってっ!?わかりました、すぐに向かいます。この場にいる方には道すがら私が伝えますが、他のギルドマスター、プリムローズ嬢には急いで連絡を取ってください」

「かしこまりました」


 ミュンさんは一礼すると、大慌てで応接室を出て行った。いや、マジで何があったのよ?フレデリカ侯爵が向かうってことは災害種じゃないってことなんだろうけど、尋常じゃない驚きようですよ?


「フレデリカ侯爵、いったい何があったのですか?」


 アーキライト子爵も戦々恐々としてるな。そりゃアーキライト子爵向かうことになってるみたいだから、何が待ち受けてるのかぐらいは知りたいよな。というか俺とプリムもなの?


「グランド・ハンターズマスターが戻って来られました」


 予想より早いな。時間としてはまだ3時前だし、今日は王都に泊まりだと思ってたんだけどな。


「偶然ではありますが、こちらに向かおうとしていた私の部下も便乗させてもらったそうです。何人かのハンターと近衛騎士も同様です」


 いや、そこがわからん。ついでみたいなもんだから、フレデリカ侯爵の部下とハンターはわからんでもないよ。だけど近衛騎士ってどういうことよ?みなさん頭上にクエスチョンマークが、いくつも踊ってらっしゃいますよ?


「第二王女殿下が使者としてフィールに来られたそうです」


 ああ、だから近衛騎士が護衛ってわけね。理解したよ。


 ……じゃねえよ!なんでお姫様が来てんだよ!プリムから聞いてるけど、この国の第二王女って、プリムの幼馴染じゃねえか!すげえトラブルの匂いがプンプンするぞ!!


「殿下が来られたのですか。いえ、よく考えれば驚くようなことではありませんでしたね」

「だね。あの方がフィールの現状を知れば、行動を起こすことは不思議でも何でもない」

「それにプリムローズ嬢のこともある。むしろグランド・ハンターズマスターが王都を訪れたために、予定をいくつか無理やり繰り上げられたのだろうな」


 みなさん、全然驚いてませんね。もしかして第二王女って、かなりのお転婆姫さんなの?いや、プリムの幼馴染ってだけで何となくそんな予感はしてたけどさ。


「お転婆ねえ。間違いではないが控えめな表現だな」

「会えばわかるわよ」


 いや、フレデリカ侯爵もアーキライト子爵も、王女様って言ったら王様の娘なんだから、普通もっとこう、敬意ってもんがあるんじゃないの?


「何と言ったらいいか、王家の方もギルドに登録することは義務ですから、国王陛下をはじめ、みなさんギルドに登録されていらっしゃいます。ですから身分に関係なく市勢の者との交流もあるのです」

「そういうわけだから王族が弟子だったり友人だったりすることは珍しいことではない」


 えらくフランクな王族だな。


 聞けば件の第二王女と王太子の第一王子はハンターズギルドに、二人の母の第一王妃と末の第三王女はヒーラーズギルドに、第三王女の母になる第二王妃はトレーダーズギルドに、そして国王陛下はクラフターズギルドに登録しているそうだ。

 王太子は結婚していて妃が二人いるそうだが、その二人とはハンター活動をしている際に知り合ったそうなので、王子妃は二人ともハンターズギルドに登録してる。

 当然だがバトラーズギルドに登録する王族はいない。いたらいたで見てみたいが、バトラーズギルドが全力で断るから、実質的に登録は無理らしい。確かに王族がバトラー登録をしたら、バトラーズギルドとしても困惑するしかないよな。


「というか、王様がクラフターって珍しくないですか?」

「そうでもない。君も知っての通りクラフターズギルドの総本部はアミスターにあるから、国としても力を入れているんだ。むしろ王太子殿下と第二王女殿下がハンターになったことの方が珍しいよ」


 そんなもんなのか。まあここは異世界ヘリオスオーブなんだから、俺の世界の常識で考えない方がいいな。


「それでそのハンターの第二王女殿下が、グランド・ハンターズマスターと一緒にフィールに来たと?何しに?」

「そりゃフィールの現状を確認するためだろう。ここは直轄領なんだから、報告を受けたら王家の誰かが来るのは当然だ」

「他にも優秀なハンターである殿下が、あなたやプリムローズ嬢の話を聞いて、じっとしていられるとは思えないわ。特にプリムローズ嬢は殿下の幼馴染なんだから、フィールに来てもおかしくはないでしょう?」


 どうやら王女様はレベル41のSランクハンターらしい。王位継承権は第二位だが、王位を継ぐつもりはないと公言しているお転婆姫で、王都のハンターからは狩人姫ハンタープリンセスと呼ばれていて、すさまじい人気を誇っているそうだ。


「そういうわけだから、申し訳ないけど全員で王家の別荘へ行くことになるわ。獣車の用意ができたら向かうから、申し訳ないけどもう少し……ああ、準備ができたみたいね。それじゃあ行きましょう」


 俺が行く必要はないと思うんだが、なんかついてくのが当然みたいな流れになってるな。


「それってやっぱり俺もですか?」

「ええ。フィールを救ってくれたのはあなたとプリムローズ嬢なんだから、殿下がお会いになられるのも当然よ。それに同じハンターなのだから、話を聞いてみたいと思われているでしょうね」


 プリムの場合は久しぶりの再会が追加されるわけか。フィールのことは捨て置くつもりはなかったけど、半ば成り行きだったんだから救ったっていう意識はないんだよな。


 だけど俺も呼ばれてるってことだし、面倒くさいけど行くしかないか。


 王家の別荘は貴族の別邸、別荘がある北西区域の一番北にある。場所こそ南側以外の三方をベール湖に囲まれているが、肝心の別荘は王家所有というわりにはさほど大きくもなく、見た目も豪華とは言えない。元々アミスターはあまり権力とか華美とかに固執しておらず、王家はさらにその傾向が強い。王家だから対外的な見栄は必要になるが、それも最低限に留めてる感じだな。


「王家の別荘って聞いてたから、すごい豪邸だと思ってたんだけどな」

質実剛健しつじつごうけん温厚篤実おんこうとくじつが王家のモットーであり、ひいてはアミスター全体の国是なのよ。逆に巧言令色こうげんれいしょく右顧左眄うこさべん虚偽虚飾きょぎきょしょくは最も嫌われているわね」


 それもすごいな。なんでも温和で誠実なのんびりした国民性もあってか、汚職や権力争いなんかはほとんど起こらないらしいし、王位を巡っての争いなんか建国以来一度もないって話だ。それだけ民度が高いんだろうが、全部の国がそうかといえばもちろん違う。


 お隣のレティセンシアなんて言いがかりも甚だしいレベルでアミスターを恨んでいるらしいし、ソレムネはフィリアス大陸統一のためなら何をしてもいいって考えてるみたいだし、リベルターは利益を追求するためにけっこうな無茶をしてくる国らしい。バリエンテはアミスターから割譲された土地だから国風はアミスターによく似ているんだが、バリエンテ建国の際の権力闘争、建国してからの王位を巡る諍い、最近じゃハイドランシア公爵処刑に端を発した圧政と、アミスターじゃ考えられない事態がけっこう起きている。


 国風や国是がどうであっても、一般人までが同じ意識を持っていることは考えにくいんだが、ヘリオスオーブは国によって国民性というものがはっきりとわかれている。これは世界樹の影響だと言われているそうだ。


 グラーディア大陸はわからないが、フィリアス大陸にはアミスター王都にある大世界樹を含めて13本の世界樹がある。この数字はバシオン教の13柱の主神と同じ数であり、大世界樹は父なる神に例えられている。


 世界樹がある場所は様々だが、多くの場合は難所とされている地の奥にあるらしく、トラレンシア妖王国はゴルド大氷河の中央のマグマの煮えたぎった湖に浮かぶセリャド火山にあるし、リベルター連邦は雲の上にまでそびえ立つテメラリオ大空壁だいくうへきの天辺に、バリエンテ獣人連合国はガグン大森林の奥地に、アレグリア公国はエニグマ島の中央に、バレンティアはドラゴンの聖地になっているウィルネス山の山頂とソルプレッサ連山中央にあるアモール湖にあると言われている。


 レティセンシア皇国とソレムネ帝国の世界樹は難所にあるわけではないが、どちらも湖の中央の島にある上、この二国はバシオン教を信仰していないし世界樹をただの巨木としか見ていないらしい。バシオン教国の世界樹は教都にあり、その根元にバシオン大神殿が建造されているため、ものすごく大事にされていることから考えると、ものの見事に対照的だ。


 そしてアミスター王国には残り4本の世界樹があり、内一本が王都にある大世界樹だ。残り三本はボールマン伯爵領のガリアという街の近く、アミスター中央にあるイデアル大連山の山頂、そしてマイライト山脈の山頂にあるそうだ。


 この世界樹がどう影響を及ぼしてるのかはわからないが、どうも国境線に変更があった場合でも、なぜか世界樹はそれを認識してくれるらしく、国内の気候なんかを合わせてくれる働きがあるみたいだ。かつては国内に世界樹がなかった国もあるんだが、そういった国々は一番近い世界樹に影響を受けていたらしい。その環境の変化が人間にも影響を与えて、国民性なんかが作られていくと考えられている。


 こないだプリムに教えてもらったんだが、世界樹ってすげえよな。

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