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22・魔物の展示

Side・大和


 デビル・メガロドンを2匹倒したこともあって、俺はまたしてもフレデリカ侯爵の屋敷に呼び出された。ほとんど毎日訪れてるが、接待費とかがとんでもないことになってる気がするんだよなぁ。


「どうも、ミュンさん」

「お待ちしておりました、大和様」


 すっかり顔馴染みになったラミアのミュンさんに案内されていつもの応接室に通されると、既にフレデリカ侯爵とアーキライト子爵が待っていた。ソフィア伯爵の姿が見えないが、あの人はグランド・ハンターズマスターのギャザリングさんと一緒に長距離転移魔法トラベリングで王都に行ってるぞ。


「待っていた、と言いたいところだが、ほとんど毎日異常種の討伐報告を聞いていると感覚がおかしくなりそうだよ」

「まったく同感ですね。異常種なんて数ヶ月、数年に一度討伐されるかどうかのはずなんだけど」


 開口一番、アーキライト子爵とフレデリカ侯爵に文句を言われた。いや、それは俺のせいじゃなくてレティセンシアのせいでしょう。文句はそっちにお願いします。


「わかってるんだけど、報告を受ける身としてはね」


 仕事が滞るってことですか。それも不可抗力なんだけどなぁ。


「不可抗力なのはわかってるわよ。それで今日はデビル・メガロドンを、しかも2匹と聞いてるけど、当然スカイダイブ・シャークも何匹かは討伐してるのよね?」


 フレデリカ侯爵もだいぶ言葉が砕けてきてるな。2つ年上って話だから、こっちの方が俺としても楽でいい。


 っと、デビル・メガロドンとスカイダイブ・シャークね。


「ええ。スカイダイブ・シャークは7匹狩ってますよ」

「7匹か。異常種が2匹もいたことを考えれば多いとは思わないが少ないとも言えないな。しばらくは漁師にも注意をしてもらう必要がある」


 確かにそうだけど、スカイダイブ・シャーク、ブルー・シャークはベール湖全域に生息しているし、水の中に住んでることから調査はほとんど不可能だ。これはベール湖に限らず海の魔物も同様の問題を抱えているために、複数種の異常種が出現し、異常種同士でしのぎを削ることも珍しくはない。


「そうですね。当面は結界の中での漁を徹底してもらいましょう。多少は漁獲量が減るかもしれませんけど、だからといって危険な目に合わせるわけにはいきません」


 領代が良心的な人で助かるよな。なんていうか、アミスターの貴族って権力争いとか派閥争いとかと無縁な気がするぞ。


「トレーダーズギルドには後程使いを送っておきます。ところで大和君、例のお姫様なんだけど、彼女から魔化結晶とやらを試した魔物を聞き出したわ」


 お、それは朗報。グリーン・ファングにデビル・メガロドンが複数いたから、他にもいるんじゃないかって気になってたんだよ。


「それは助かります。何に使ったんですか?」

「グラス・ウルフ3匹、トレント1匹、フォレスト・ビー2匹、ブルーレイク・ブル2匹、グラス・ボア1匹、オーク2匹だそうよ」


 また厄介な。グラス・ウルフは多分ブラック・フェンリルに進化したのがいると考えれば数はあうな。だけどフォレスト・ビーは2匹に使ってたってことは、もう1匹マーダー・ビーが生まれてる可能性がある。さらにグラス・ボアとブルーレイク・ブルにもとなると、捜索範囲が広すぎる。全部が全部異常種になったとは思わないが、確認するだけでもどれだけ時間がかかるかわかったもんじゃない。


 あれ?デビル・メガロドンは?


「デビル・メガロドン、というかブルー・シャークには使ってないってことですか?」

「私も気になって先程聞いてみたんだけど、使ってないそうよ。だけど魔化結晶を使ったブルーレイク・ブルがブルー・シャーク、あるいはスカイダイブ・シャークに捕食されていた場合、その個体が進化する可能性は否定できないって言ってたわ」


 また面倒な話だな。ってことはデビル・メガロドンは、もしかしたら1匹は素で生まれたのかもしれないのか。


「さすがに2匹とも捕食されたって可能性は高くないだろうから、そういうことになるだろうな。おそらくエビル・ドレイクは、サーシェス・トレンネルの従魔だったフェザー・ドレイクに魔化結晶を使った結果なのだろう」

「ああ、従魔だったフェザー・ドレイクに最初に使って、その結果を確かめてから準備を進めたってことですか」


 魔化結晶はアバリシアからもたらされたそうだが、説明を鵜呑みにしていきなり使うなんてことは考えられない。必ず実験をしているはずだ。それでサーシェスの従魔に白羽の矢が立ったんだろう。


「ですがエビル・ドレイクは、確か数ヶ月前にも目撃されてましたよね?」

「それなんだけど、魔化結晶を使ってもすぐに異常種に進化するわけじゃないそうよ。最低でも数ヶ月はかかるみたいだから、エビル・ドレイクへの進化を確認した上で魔化結晶を使ったと供述しているわ」

「つまり数ヶ月前に目撃されたエビル・ドレイクはサーシェスの従魔に間違いなく、その従魔に護衛されながら魔化結晶をフィール周辺の魔物に使いまくったってことですか」

「ええ」


 ということは一年ぐらい前から動いてたってことか。そこまでしてマイライト山脈がほしかったってことなんだろうが、仮に作戦が成功したとしても、どうやって異常種を相手するつもりだったんだ?

 まあ何も考えてなかったんだろうが、レティセンシアにはどうするつもりだったのか、マジで一度聞いてみたいもんだ。


「失礼します。クラフターズマスターとトレーダーズマスターがお見えになられました」

「わかったわ。お通しして」

「かしこまりました」


 そう思ってたらクラフターズマスターとトレーダーズマスターが来たらしい。ラベルナさんとミカサさんか。つか何か用でもあるのか?


「失礼します。突然押しかけて申し訳ありません、フレデリカ侯爵」

「いえ、こちらも来てくださって助かりましたよ。どうぞ、お掛けください」


 二人がソファーに座ると、ミュンさんが待っていたかのようにお茶を淹れた。さっき二人を通したばっかなのに、いつお茶を淹れたのさ?いや、俺もお代わりもらえたからいいんだけどさ。


「それで、本日はどうされたのですか?」

「スカイダイブ・シャーク、それとデビル・メガロドンが討伐されたと聞きましてね。滅多に手に入らない魔物ですから、半分は剥製にしようと思っているんですよ。一匹は陛下に献上するつもりですが」


 剥製か。それは迫力があるんだろうが、スカイダイブ・シャークはともかくデビル・メガロドンはデカすぎじゃないか?


「剥製って、デビル・メガロドンのですか?」

「いえ、さすがにあれは大きすぎますし、異常種なのですから上質な武器や防具の素材になります。剥製にするのはスカイダイブ・シャークの方だけです」

「ミカサの提案なのですが、一匹はトレーダーズギルドに飾る予定でいます。なにせブルー・シャークは肉食とはいえ大人しいですが、スカイダイブ・シャークは普通に人を襲ってきますからね。滅多に見られないこともあって、漁師の中にはスカイダイブ・シャークがどんな姿をしているか知らない者もいるそうなんですよ」


 そんなことを考えてるのか。確かに剥製ならどんな姿をしているかは一目瞭然だし、不慮の遭遇事故の場合でもどんな魔物なのか悩む必要もなく逃げを選択できるようになるだろうから、安全のためには必要かもしれないな。


「それはいいな。ベール湖で最も警戒しなければならない魔物はレイク・ビーだが、他の魔物を無視してもいいというわけではない。その中でも希少種であるとはいえスカイダイブ・シャークは目撃例も多くはないために、危険性を認識できてない者が多い。だがトレーダーズギルドに剥製を飾ることができれば、注意を促すことも容易となる。なにせ実物が目の前にあるのだからな」

「私も賛成よ。それに漁師やハンターに限らず、安全に魔物の姿を確認することができれば、無謀な旅をする人が減るかもしれない。いっそのことどこかに魔物の剥製を展示する施設を作ってもいいかもしれないわね」


 博物館みたいなもんか。悪くないな。本とかには魔物の絵とわかる限りの生態が載ってるが、実際の大きさがわかりにくいこともあってどれだけ脅威なのかが伝わりにくい。

 だけどその施設ができれば、剥製とはいえ実物を見られるわけだから、魔物の恐ろしさは伝わりやすい。管理とかは大変だが、そこはどこかのギルドが率先してやれば解決できるだろうし、何より安全につながるわけだから、それぐらいは必要経費として割り切れるかもしれない。ああ、格安とはいえ入場料を取れば、多少は経費も回収できるな。そうなるとトレーダーズギルドが管理するのが無難か。


「それはいいですね。どれだけ維持費がかかるかはわかりませんが、街道の安全を考えれば悪くない考えです。それに入場料を設定すれば維持費だけではなく、購入費も多少ですが賄えます。展示品の管理もトレーダーズギルドの管轄になりますから、総本部も交えて検討してみます」


 提案してみたら、ものすごく前向きにとらえられた。というか総本部まで交えるなんて、話がデカくなりすぎてませんかね?


「安全に魔物の姿形を知ることができるのは、私達としてもありがたいことなのよ。だからトレーダーズギルドが動いてくれるのは、国としても個人としてもすごく助かるわ」

「確かに良い案ですね。剥製にした魔物の素材は使えなくなりますが、クラフターズギルドとしてもメリットは大きい。おそらくグランド・クラフターズマスターも賛成されると思いますよ」


 ギルドマスターがいるからなのか、スイスイ話が進んでくな。いや、トレーダーズギルドもクラフターズギルドも総本部に打診してみるとか言ってるから、本決まりまではまだかかるんだろうけど。


 というかグランド・クラフターズマスターって、確かエドの親父さんじゃなかったか?


「すいません、ラベルナさん。グランド・クラフターズマスターって、エドの親父さんでしたよね?」

「そうだよ。お父さんがグランド・クラフターズマスターで、お母さんが補佐をしている。ちなみにエドのお母さんは私と同じフェアリーだよ」


 それはさすがに知ってる。なにせあいつはフェアリーハーフ・ドワーフなんだから、これでおふくろさんがドワーフだって言われたら、親父さんは誰だよって話になるぞ。


「君の言いたいことはわかるよ。フィーナのことだろ?」


 何も言ってないのに心を読まれた。いや、確かにそうなんだけどさ。


「フィーナって、確かクラフターズマスターが身請けしている奴隷でしたよね?彼女がどうかしたんですか?」

「ええ。彼らが合同で披露宴をやろうとしているのはご存知ですか?」

「ええ、先日彼からお誘いをいただきましたから」

「その際になんですが、フィーナもエドと結婚させたいらしくて、私に彼女のことを聞かれましてね」


 なんか当事者の俺抜きで話が進んでる気がするな。というかフレデリカ侯爵もラベルナさんも、えらい乗り気じゃないか?


「なるほど、そういうことですか。ですが身請け奴隷ということは、そう簡単に解放はされないということですよね?」


 そう、そこが問題なんだよ。なにせ身請け奴隷の借金は、契約で他人に話すことができないらしいからな。これは個人での奴隷の譲渡を禁止していると同時に、奴隷を守るためでもあるらしい。


 なんでも借金を肩代わりすると言って奴隷の主人になり、その後奴隷と共に姿をくらました奴がけっこういるらしいんだよ。当然だが借金の肩代わりなんてするはずもなく、奴隷の借金は前の主人に残り、その奴隷は数ヶ月後に偶然別の国で見かけられ、引き渡しの交渉をしている間に命を落としたそうだ。しかも毎年何人も同じ目にあってるそうだからタチが悪い。

 だからアミスターでは、借金を肩代わりするなら必ず領主や代官に報告に行き、トレーダーズギルドで契約書を交わした上で登録の変更をしているそうだ。勝手に変更した場合は非合法奴隷扱いになり、そいつは犯罪奴隷に落とされるそうだから徹底している。


「ええ。ですが意外と知られていませんが、主人が許可をすれば奴隷でも結婚できます。なので私が許可をすれば、全ては解決するというわけです」


 なんだと?普通に初耳なんだがそうだったのか?


「そ、そうなんですか?」


 フレデリカ侯爵も知らなかったみたいで、ミカサさんに目で訴えている。


「はい。その場合は結婚相手が新しい主人になることが多いようです」


 つまり何か?ラベルナさんがフィーナの結婚の許可を出して、エドがフィーナの新しい主人になれば、晴れてエドとフィーナは結婚できると、そういうわけなんですか?


「その通りですが、主人はクラフターズマスターのままでも大丈夫ですよ」

「ちなみにだけどね、マリーナとプリムローズ嬢はそのことを知っているよ。なにせこないだ、私のところに直接聞きに来たんだからね」


 あの二人、外堀を埋めたんじゃなくて、飛び越えたのかよ。つかこないだって、まさか獣具の進捗状況を確認した日のことか?確かにマリーナもクラフターズギルドに来てたが、あれはあれでお仕事しに来てたはずだぞ?


「つまりそのフィーナという奴隷も、エドワード君と結婚するということで間違いないんですか?」


 フレデリカ侯爵が戦慄しつつも、直球で答えを聞きにきた。ど真ん中すぎでしょう。


「私はそのつもりです。近いうちにフィーナの意思を確認しますが、おそらくは断られないでしょう」


 おめでとう、エド。これで何の憂いもなくフィーナを嫁にできるぞ。あとはフィーナを解放するだけだが、結婚すれば解放したも同然だろうから、そこまで急がなくても大丈夫だろうな。


「おめでとうございます、と言うべきなんでしょうね」


 めでたいと思ってたんだが、なんかフレデリカ侯爵のテンションがダダ下がりだな。何かありましたか?


「私もそろそろ結婚しなければいけないんですけど、なかなかいい相手がいないんですよねぇ……」


 ああ、なるほど。フレデリカ侯爵は既に家を継いでいるから、結婚相手を探すのも一苦労なんだよな。独身の男か侯爵家に入ってもいいっていう若夫婦を探すとこからはじめないといけないし、かといってバカとかクズを迎え入れたりしたらとんでもない結果になる。他人事だが頑張ってくださいとしか言えないよなぁ。


「ねえ、大和君」

「はい?」

「私とも結婚しない?」


 なんて思ってたら、特大の爆弾を投げ込まれた!?いやいやいやいや、無理ですってば!ほら、アーキライト子爵やラベルナさん、ミカサさんも驚いて……ないな?あれ?なんで?


「わかってるわよ。あわよくばと思わなくもないけど、そんな簡単に結婚を決めるつもりはないわ」


 あー、ビックリした。冗談だと思うが、そんな話をぶっこまれるとは思わなかったから滅茶無茶焦った。そもそもフレデリカ侯爵は領代として赴任してきてるんだからフィールじゃ結婚相手を探すのも難しいし、一応適齢期だし、何より結婚しないとお家断絶の危機なんだから、焦る気持ちもわからなくもないけどさ。だからって軽々しく結婚は決めない方がいいと思いますよ。既に三人の嫁がいる俺が言っても説得力はないけどな。

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