18・ウイング・クレスト専用装備
朝になって目が覚めると、俺の隣にはプリムとフラム、プリムの隣にはミーナが寝ていた。俺も含めて全員全裸でだ。
昨日フラムとも婚約した俺は、フラム達ウインド・オブ・プラダのウイング・クレストへの加入手続きを済ませ、強引に三人の宿を引き払って魔銀亭のハウスルームに連れ込んだ。そしてミーナを迎えに行ったんだが、ミーナも満面の笑みでフラムを受け入れてくれた。
既にラウスとレベッカは関係を持ってると聞いてたから二人で一つの部屋をあてがい、俺達は俺達でフラムの初夜のために俺が宿泊している部屋に入った。そして無事に済ませて朝を迎えたということになるわけです。
あ、ウンディーネって太ももの真ん中あたりから下が魚っていうのが本来の姿で、これはラミアも同じらしい。なので人化魔法を使わなくても合体できることがわかった。これは俺的には大発見だ。
ミーナもそうだが結婚してないのに初夜というのはスルーしてくれ。
「これで無事に三人とも大和と結婚できるんだし、あとでアルベルト工房で三人の装備も頼みましょう」
それについては俺も異存はない。だからラウスのミスリル・ラウンドシールドも、間に合わせの意味で安物を買ったんだからな。エドには怪訝な顔をされたが、そのことを伝えたら納得してたし、逆に急いで瑠璃色銀を製錬しなきゃいけねえって焦ってたぞ。
朝飯を食いながらになるが、聞いてみるとするか。
「新しい装備、ですか?昨日、魔銀のラウンドシールドを買ったばかりですし、そんな金はありませんよ?」
開口一番、ラウスがそう答えた。だがそれは予定通りの返答だ。
「それはウイング・クレストの活動資金から出すから心配するな。レイドはそれぞれが特色を持ってるだろ?俺達もそれを出したいと思って考えてたんだが、その結果考え付いたのがこんな感じのデザインのアーマーコートと瑠璃色銀を使った装備なんだよ」
これはプリムも了承してる、というか積極的に賛成してくれたから、既に決定事項と言ってもいい。
レイドにはレイドごとの特色がある。揃いの皮鎧を着けるのは基本で、中には全員が剣と盾を装備してたりするし、槍オンリーのレイドだってある。一番多いのはレイドの紋章を装備に付けることだな。
当然だがウイング・クレストも紋章は考えてあって、一対の翼に剣と刀をクロスさせ、中央に斧みたいなデカい斧刃をしたハルバードを立てた感じのデザインをしている。この紋章を付けることはアルベルト工房には伝えてあるから、完成した装備品には漏れなくこの紋章が入ることになっているぞ。
「レイドの特色を出すのはわかりますけど、それって私達の装備に紋章を付けてもらえばいいだけじゃないですか?」
「それだけじゃ他のレイドとあんまり変わらないでしょう?だから見た目でも違いを出そうと思って、大和がこのコートを選んだのよ。コートって言ってるけど、実際はプレートアーマーより防御力が高いけどね」
その説明でラウスとレベッカが倒れそうになった。フラムもそうだが三人の防具はグラス・ボアの皮鎧と鉄でできた手甲、足甲で、性能も高いわけじゃない。本当にルーキーハンター用だ。ラウスはそれに加えて鉄の丸盾を持っていたが、こちらはスパイラル・ラビットに壊されてしまってるので魔銀の丸盾に更新してある。
だが俺達が使おうと思っている素材はウインガー・ドレイクと瑠璃色銀だから、装備のグレードは一気に最高峰にまで跳ね上がる。デザインもさることながら、ルーキーハンターが着けるような装備じゃないことは間違いない。
「もしかしてなんですけど、瑠璃色銀ってこないだエドワードさんが言っていたあれのことですか?」
興味があっただけにラウスも気が付いたか。
「正解だ。心配しなくても瑠璃色銀で盾も作るから安心しろ」
なんて言ったらひっくり返った。椅子ごと後ろにひっくり返るなんて、器用だな。
「ちょ、ちょっと待ってください!瑠璃色銀って、大和さんとプリムさんの魔力に魔銀じゃ耐えられないからってことで作ったんですよね!?だったらお二人が使えばいいだけなんじゃないんですか!?」
「何を言ってるんだ。使える物は使うべきだろ。なにせ神金に匹敵する性能になったんだからな」
「それに心配しなくても、青鈍色鉄っていうダミーも用意してあるから、あんた達の装備が狙われることもないと思うわよ」
仮に狙ってきたりなんかしたら、俺かプリムが叩きのめすけどな。
そういうわけだから、諦めてデザインを決めてくれ。これは決定事項なんだからな。
「ラウス君、レベッカちゃん、諦めてください」
全てを悟ったようなミーナの呟きに、ようやく観念したようだ。
さて、この三人はどんなデザインを選ぶのかねぇ。
Side・フラム
朝食後、私達はまたしてもアルベルト工房に赴くことになりました。理由は私、ラウス、レベッカの装備を注文するためです。既に大和さん、プリムさん、ミーナさんは注文済みだそうですが、一気にこれだけの人数の装備を、しかも希少な素材で依頼することになってしまいましたが、アルベルト工房のみなさんは大丈夫なんでしょうか?
「引き受けるのは構わないが、時間はかかるぞ?」
「それは仕方ない。ああ、瑠璃色銀は武器と盾優先で頼みたいから、コートはとりあえず魔銀の装甲板でいいぞ。もちろん、俺達のもな」
「魔銀を代用品扱いすんのはお前らぐらいだよ。だけどそうしてもらえると、こっちも助かる。なにせ金剛鋼が、クラフターズギルドにも少なくなってきてるからな。お前の刀、プリムのハルバード、ミーナさんとラウスの剣と盾、それからフラムとレベッカの弓は問題ないが、防具までとなるとさすがに足りねえ」
武器や盾だけでもけっこうな量を使うと思うんですが、それでも足りなくなるということは、本当にクラフターズギルドにも在庫がなかったんですね。その金剛鋼のほとんどを私達が使うことになるのは申し訳ないんですけど、いいんでしょうか?
「なるほどね。じゃあミーナを含めて四人の防具だけ先に見繕いましょう。魔銀でいいわよね?」
「もちろんだ。アーマーコートができればそっちに交換するから、できればコートの下に着けても問題ないのがいいな」
ミーナさんは騎士団の装備を使われていますが、退団してしまえば当然使えなくなります。ですからミーナさんの装備も必要になるんですが、まさかアーマーコートだけでなく、その下にも着けられるような鎧まで買うことになるとは思いませんでした。
「鎧下代わりってことか。そうなるとチェインメイルがいいんだろうが、あれは作るのが面倒だし、何より需要が低いから扱ってねえんだよ。鎧下についても考えがあるから、できるまでは今の皮鎧で我慢してくれ」
「それはいいが、今のままじゃ問題があるから魔銀に換装するぞ?」
「当然だろ。そのタイプの装甲板ならあるから、昼過ぎまでにやっといてやるよ」
どうやら大和さんにとって、魔銀は完全に代用品でしかないようです。元々魔力が高すぎて武器の耐久性に問題があるというお話でしたし、エンシェントヒューマンに進化された今では問題はさらに深刻でしょう。
理由はわかるのですが、だからといって即決されてもこちらは困惑するしかありません。
「ミーナの鎧はこれでいいかしら?」
「これってブルーレイク・ブルの皮鎧ですよね?けっこう上等な物みたいですけど、本当にいいんですか?」
ミーナさんは皮鎧から用意しなければいけませんが、どうやらブルーレイク・ブルの皮を使った鎧に決まったようです。
ブルーレイク・ブルはベール湖に生息している牛型の魔物です。蹄がヒレになっているため、水の中はもちろん、水の上でも自由に走り回ることができるんですけど、臆病で人には懐かないこともあって、遭遇するのが難しいんです。普段は水の中で生活しているんですが、一度水上に出てしまえば潜るのに時間がかかってしまうこともあって、腕に覚えのあるハンターなら一撃で仕留めることも珍しくありません。しかもブルーレイク・ブルのお肉はとても美味しいので、Cランクの中ではかなりの高値で取引がされています。
「代用品とはいえ、命を預けることになる防具なんだからな。妥協はしない方がいいに決まってる。あとは武器だが、ラウスは昨日盾を買ってあるから剣だけでいいとして、ミーナは剣と盾、フラムとレベッカは弓と矢か。エド、任せた」
「丸投げかよ。まあいいけどな。剣はこのミスリルソード、盾はミスリル・カイトシールド、弓はミスリル・コンポジット、矢は消耗品だから鉄の矢と魔銀の矢、それからちょいと高いが金剛鋼の矢でどうだ?」
まさか武器まで更新するとは思いませんでした。確かに納期がどれぐらいになるかはわからないと聞いていますが、私達の武器はまだまだ使えますから、更新はしなくてもいいんじゃないかって思いますよ?
「じゃあそれで。ああ、矢は鉄と魔銀が50本ずつ、金剛鋼が20本ずつで頼みたいんだがいいか?」
「鉄と魔銀は大丈夫だが、金剛鋼は20本しかないから、10本ずつってことにしてくれ」
「わかった」
なのに大和さんは、あっさりと決められてしまいました。いくらなんでも即決がすぎますよ。
ミスリルソードが2,800×2、ミスリル・カイトシールド3,300エル、ミスリル・コンポジット3,200×2、鉄の矢50エル×100、魔銀の矢100エル×100、金剛鋼の矢500エル×10、魔銀の手甲2,400エル×4、足甲2,800×4、ブルーレイク・ブルの皮鎧6,200エル、私達の皮鎧に換装する魔銀の装甲板が4,000エル×3ですから、え~っと……いくらになるんでしたっけ?
「全部で74,300エルか。これで頼む」
計算早いです、大和さん。商業魔法のカウンティングを使ってるわけでもないのに、どうしてそんなに早いんですか?
って、それもそうですけど、そんなにするんですか!?いえ、確かに矢は消耗品ですから、弓術師は自分で作れるようにする人も多いんですけど、それでも一度にこれだけの矢を買うなんてありえません。私もレベッカも木の矢や石の矢ぐらいならよく作っていますし、それをメインに使っているんですから。
大和さんはストレージから事もなげに白金貨を取り出し、右手の親指で弾いてエドワードさんに向けて飛ばしました。白金貨はプラダ村にはありませんでしたから、見たのは初めてです……。
「あいよ。大量購入だし新規での注文もあるから、全部で7万エルにしといてやるよ。ほれ、釣りの金貨3枚」
エドワードさんも剛毅なお方なんですね。4,300エルも値引いてくださるとは思いませんでした。というか換装用の装甲板が一人分丸々タダで交換できる計算ですけど、本当にいいんですか?
「またかよ。お前だってマリーナとフィーナとの結婚が控えてるのに、なんでそんなに値切るんだよ?」
「お前らが注文してくれてるから、最近は生活が楽なんだよ。というかなんでそこにフィーナが入ってくる?」
「そりゃお前の態度で丸わかりだからだよ。男には見栄が必要な時もあるんだぞ?」
エドワードさんが狼狽えていますけど、大和さんが珍しく追撃の手を緩めません。というか初めてじゃないでしょうか?
「大和、ちょっと耳貸して」
そう思ってたんですけど、プリムさんがエドワードさんの味方をするかのように大和さんを止めています。いえ、エドワードさんの味方ではありませんね。その証拠にマリーナさんがニヤニヤしながら見ていますから。
「なんだよ?……そうなのか?なるほど、わかった」
大和さんもあっさりと引かれましたが、それが逆にエドワードさんの不安を煽っています。ものすごく不安そうな顔をされていますね。
「すげえ怖いんだが、プリム。お前、何か企んでるのか?」
「べっつにぃ~。ああ、そうだ。そんなことよりもあたしと大和の武器は報酬だからいいとして、他のみんなの武器とアーマーコートはどれぐらいになりそうなの?」
確実に企んでいますね。ですが私には何もできませんし、本命の装備の方が気になります。
「まだ何とも言えないが、ウインガー・ドレイクの素材は持ち込みとはいえ、加工の手間を考えるとアーマーコートが2万エル前後、武器はそれなりに種類があるから1万エルから2万エル、あるいは3万に届くかもしれない」
あ、もう倒れそうです……。最低でも金貨が数枚必要で、さらに加算される可能性があるなんて、どんな装備なんですか……。
「わかった。後は納期だけど、こればっかりはどうにもならないか」
「ああ。今じいちゃんがお前の刀を打ってるが、けっこう大変そうで難儀してる。昨日試作は出来たみたいだが、完全な失敗作だったからな」
大和さんの世界の技術で作られた剣だと聞いてますが、そんなに大変なんですね。リチャードさんはフィールで一番の鍛冶師だと紹介されていますが、そんな人でも失敗するなんて、大和さんの剣やプリムさんの槍ができるまではけっこうかかってしまいそうですね。




