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17・ウイング・クレストへの加入

Side・プリム


「今日はこんなとこかしらね。どう?少しは感じが掴めた?」

「なんとかく、としか言えませんよ……」


 フラムが大和に告白してると思われる中、あたしはラウスの受け流しの練習に付き合って何度も突きを繰り出していた。もちろん手加減はしてるし、安全のために木槍を使ってるから、ラウスにはケガ一つ……訂正、けっこうな数のアザを作ってるわね。これは何とかしないと、さすがに怒られるわ。


「『ハイ・ヒーリング』『ブラッド・ヒーリング』。どう?少しは楽になった?」


 回復魔法をかけてアザも綺麗に消したし、血流も正常になったはずだから、これで大丈夫でしょう。


「ありがとうございます。プリムさん、回復魔法も使えたんですね」

「そんなに得意じゃないけどね」

「得意じゃない人はブラッド・ヒーリングなんて使えないと思いますよ?」


 レベッカに呆れたような視線を向けられたけど、そんなことないでしょ。確かヒーリングを使える人は多いし、ハイ・ヒーリングだって五人に一人は使えるわよ。ブラッド・ヒーリングはけっこう難しいから、Gランクと同じぐらいだったと思うけど。


 ……あれ?そう考えると、ブラッド・ヒーリングが使えるあたしって、実は回復魔法って得意だったの?いや、でもノーブル・ヒーリングは使えないし、ブラッド・ヒーリングだってけっこう魔力使うわよ?さすがに極炎の翼ほどじゃないけどさ。


「ノーブル・ヒーリングを使える人はGランクの人より多いかどうかってとこなんですから、基準にはなりません。それにブラッド・ヒーリングは血の流れを良くしたり造り出したりする魔法なんですから、元々消費魔力は多いですよ。あんまり使ってないから、慣れてないだけなんじゃないですか?」


 言われてみたら、確かにあたしはあんまり回復魔法は使わない。使う機会がないと言い換えてもいいわ。元々自分のケガを治せるようにってことで母様に教えてもらったのに、どんな相手でもケガらしいケガをしたことがないんだから、使いようがなかったのよ。訓練の時にしたケガを癒すぐらいだったかもしれないわ。


「やっぱり。大和さんが知らないのは仕方ないと思いますけど、プリムさんだって人のことは言えませんよ?もう少しハンターの標準を知っておいた方がいいと思います」


 反論できないのが痛いわ……。こんなことならバリエンテにいた頃にハンター登録しておけばよかった。バリエンテにいた頃はハンターが手に負えなかった魔物や盗賊の相手に出張ることが多かったから、登録しててもおかしくなかったのに。


 でもそのおかげで大和と出会えたようなものなんだから、やっぱり登録しなくてよかったのかしら?


「ところでラウス、受け流しっていうのの訓練は村じゃできなかったけど、どんな感じなの?」

「プリムさんの攻撃ってスパイラル・ラビットの比じゃないから受けるだけでも精一杯なのに、攻撃を予測して避けながら盾と体を動かしながら反らして隙を作るなんて、とてもじゃないけど無理だよ」


 いつの間にかラウスに受け流しの感触を訊ねてるレベッカだけど、そう簡単にコツはつかめないわよ。だけどあたしの攻撃に慣れればスパイラル・ラビットはもちろん、ホーン・ラビットの攻撃だって簡単に受け流せるようになると思うわよ。なにしろ魔物の攻撃は単調だからね。


「まだ初日だし、そんなものだと思うわよ。それよりそろそろ大和とフラムが戻ってくると思うから、上に行きましょう」

「そうですね。お姉ちゃん、ちゃんとやったのかなぁ?」

「大丈夫だと思うよ。俺としてはそっちより、ちゃんと魔銀ミスリルの盾を買ってきてくれるのかが不安だなぁ」


 ラウスもレベッカも、あたしが大和とフラムを二人きりにした理由をちゃんとわかってるのが恐ろしいわ。


 あたしも立ち寄ったからわかるけど、プラダ村にはフラムと同じ年頃の男はいない。強いて言うならラウスだけど、フラムにとってラウスは弟みたいな存在だから、恋愛感情を抱くのは難しいでしょう。だからといって他の男となると若くても30歳を超えてるんだから、それはそれで恋愛対象にはしにくい。


 だから本来ならフラムは、村に立ち寄った同年代の男に未婚の母になることを頼むことになっていたはずなの。


 未婚の母は結婚せずに子供を生み、女手一つで育てる女性を指して、男が少ないヘリオスオーブじゃさほど珍しくはないわ。小さな村や貴族の場合は男を束縛することにもなっちゃうから、結婚はしにくいのよ。

 だから頼み込んで子供だけ作らせてもらって、後は女手一つで子育てをすることになるの。結婚してるわけじゃないから男も立ち寄るたびに抱くわけにはいかないけど、それでも貴族は跡取りを生むことができるし、小さな村も子供ができることで働き手を確保することができるから、大昔から普通に行われていることよ。

 当然プラダ村も例外じゃなく、フラムの他にも対象となる女の人はいるわ。


 だけどフラムは色々な偶然が重なった結果、大和という最高の男に巡り合うことができた。もちろんあたしやミーナもそうなんだけど、その偶然のおかげで大和と結婚できるんだから、あたしは毎晩神様に感謝の祈りを捧げているわ。


 っと、そろそろ上に戻らないと、大和とフラムが帰ってきちゃうわ。ミーナも迎えに行くって約束してるんだから、いつまでもハンターズギルドにいるわけにはいかない。

 だけどその前に、三人のウイング・クレストへの加入手続きを取らないとね。フラムが大和に迎え入れられてるのは確定だし、そうなったら妹のレベッカ、その彼氏のラウスと同じレイドになるのも当然のことなんだから。


Side・ラウス


 今日の狩りじゃ不覚を取ったけど、なんとかスパイラル・ラビットの討伐に成功した俺達は、ヒーラーズギルドで俺のケガを治してからハンターズギルドに向かうことになった。

 だけどハンターズギルドに着くと、俺達の師匠ともいうべきGランクハンターの二人に遭遇してしまった。師匠相手に遭遇っていうのはどうかと思うが、俺の心境はまさに遭遇だ。


 なにしろスパイラル・ラビット討伐の話をしたら、ハイフォクシーのプリムさんが俺の稽古を買って出てくれたんだから。どう考えてもスパイラル・ラビットを狩る方が楽だよ……。


 案の定、俺はズタボロにされた。レベッカの回復魔法じゃ治せないんじゃないかっていうぐらい、俺の体には無数のアザができていたよ。だけどプリムさんはハイ・ヒーリングとブラッド・ヒーリングを同時に使って、俺の体をあっという間に治してしまった。またヒーラーズギルドに行くことも考えてたけど、もしかしてプリムさんって一流ヒーラーより回復魔法の腕は上なんじゃないかな?本人は苦手って言ってたけど、とてもじゃないけど信じられないよ。


「さて、フラムはどんな顔をして帰ってくるかしらねぇ?」


 俺の傷を治してからロビーに戻ったら、プリムさんがそんなことを言い出した。


 プリムさんが俺に稽古をつけてくれた理由は、俺のためだけってわけじゃない。プリムさんのパートナーで旦那さんの大和さんに、フラム姉さんが告白するためでもある。というかこちらの比重の方が、間違いなく大きい。何しろ大和さんはPランクに昇格したし、驚いたことにエンシェントヒューマンに進化していたんだから。


「満面の笑みで帰ってくると思いますよ。そうなると大和さん、私のお義兄にいちゃんになるんですねぇ」


 レベッカも結果がどうなるのかは分かり切ってると言わんばかりだけど、俺もそう思う。事前にプリムさん、ミーナさん、フラム姉さん、レベッカの四人で意思を確認し合って、さらには大和さんの気持ちまで確認済みなんだから、これで断られることなんてどう考えてもありえない。フラム姉さんは未婚の母になると思ってたから、俺としても結婚してくれるのは嬉しいよ。


 だけど俺としては、そっちは確定してるんだから、しっかりと魔銀ミスリルの盾を買ってきてくれるかっていう方が問題だよ。俺のアイアン・ラウンドシールドはもう使い物にならないんだから、ないと明日の狩りにはいけないんだ。受け流しどうこう以前に、絶対に必要なんだよ。


「お、もう終わってたのか」


 そう思ってたところに、大和さんとフラム姉さんが帰ってきた。あ、フラム姉さんが大和さんと腕を組んでるぞ。


「お姉ちゃん、やったんだね?」

「う、うん……」

「おめでとう、お姉ちゃん!」


 照れるフラム姉さんだけど、すごく嬉しそうだ。俺も姉さんには幸せになってもらいたかったから、素直に嬉しいな。


「おめでとう、フラム姉さん」


 だから自然と、祝福の言葉が出てきた。


「ありがとう、レベッカ、ラウス」

「お姉ちゃんをよろしくお願いします、大和さん!」

「ああ。レベッカもこれからよろしくな」

「はい!」


 そうだよ、これで大和さんはレベッカの義理のお兄さんってことになるんだ。俺もいずれはレベッカと結婚するつもりだから、そうなったら俺の義兄さんってことにもなる。うわ、すげえ!エンシェントヒューマンが義理の兄さんになるんだ!


「そういうわけだから二人もウイング・クレストに加入してもらうぞ。それとラウス、今度は俺も訓練に付き合うからな?」


 しまった、そうなるのか!


 大和さんとフラム姉さんが結婚する以上、姉さんが大和さんのレイド、ウイング・クレストに加入することになるのは自然な流れだ。そうなると俺達はって話になるんだけど、レベッカはフラム姉さんの実の妹なんだからわかる。ということは俺は一人ってことになるから、レイドは解散になってしまう。それはそれでマズいし、俺もフラム姉さんやレベッカの関係者だからウイング・クレストに加入させてくれるって話なんだろう。

 それはわかるし俺としても嬉しいんだけど、大和さんまで俺の訓練に付き合ってくれるなんて、死ねって言われてるのと同じだよ!手加減はしてくれるだろうけど、災害種すら単独討伐できる人が相手なんて、訓練になるかも怪しいよ!


「それはそれだろ。逆に俺達に慣れれば、大抵の魔物には対処できるようになるだろうし、ラウスの腕も上がるんだから悪い話じゃない。違うか?」


 違わないけど、その前に俺が死んじゃうよ!


 だけど何を言おうと、もう俺達ウインド・オブ・プラダがウイング・クレストに加入することは決定事項なんだから、俺にはどうすることもできない。


 レイド同士が合併することは珍しくなく、その場合ランクの高いレイドに統合されることになっている。これには登録したばかりのハンターを守るという意味合いも含まれているし、ランクが下のレイド名を名乗るメリットがないことも理由になっているんだ。所属しているハンターはレイドの名前に守られていることにもなるから、余程のことがあっても変な輩に狙われることもなくなるのもありがたいよ。俺達もフィールに来たその日に、変なレイドに絡まれて大変だったからね。


 俺もウイング・クレストの一員になれることは嬉しいけど、それ以上にどんな訓練が待ってるのかわからなくて怖い。だけどレベッカを守れるようになりたいのも間違いないから、頑張るしかない。


 よろしくお願いします、大和さん、プリムさん!

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