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13・グランド・ハンターズマスター

Side・フレデリカ


 騎士団からの報告を受けた私は、またしても倒れそうになった。異常種のマーダー・ビーが生まれていたことは、可能性があるという報告を受けていたからまだいい。そのマーダー・ビーを討伐したのがあの二人だということも、今までのことを考えれば大いに納得ができる。

 だけどその二人がレティセンシアの前線基地から重要人物を捕縛してきて、しかもその重要人物が次期レティセンシア皇王の第一皇女となれば、どう考えても領代にできる分を超えてしまっている。


 そもそもどういった事情で捕縛してきたのか、第一皇女以外の工作員はどうしたのかなど、直接聞かなければならないことが山のようにあるから、またしても私の屋敷に領代、ビスマルク伯爵、騎士団団長と副団長、各ギルドマスター、そして当事者の二人が集まることになってしまった。建前上領代は爵位に関係なく同列に扱われるんだけど、こういう時は侯爵家に集まることになるのが暗黙の了解なのよ。普通なら年に一度あるかというところなんだけど、ここ数日はとんでもない問題が次々と発覚しているから、私の屋敷に集まる頻度が高すぎて使用人達に負担をかけすぎてる気がするし、侯爵家としての対応をしないといけないから出費が嵩むのよね。


「……というわけです。さすがに俺達も、まさかこんな大物がいるとは思いませんでした」


 大和君とプリムローズ嬢が報告を終えると、全員が頭を抱えた。当然でしょう。確かにレティセンシアの皇族が陣頭指揮を執っていたことは間違いないから、これは十分レティセンシアを糾弾するための根拠と証拠になる。だけどその第一皇女の身柄はどうするのかという問題が残ってしまう。


 彼女には罪を償ってもらうという意味も込めて処刑したいというのが領代の総意だけど、陛下がどんな判断を下されるかがわからない。もちろん処刑すればレティセンシアとの戦争は避けられないけど、それは第一皇女の身柄を抑えているという現状でも十分に条件を満たしている。特にレティセンシアが適当なことで言いがかりをつけてくることなど日常茶飯事なのだから、余程のことがなければ戦争になるでしょう。


 だけど問題はそこじゃなかったのよ。


「まさかレティセンシアが、そんなことをしてたなんてね。さすがにこれはクラフターズギルドとしては見過ごせない事実だよ」

「トレーダーズギルドも同様です。元々トレーダーにしろクラフターにしろ、レティセンシアではギルドが蔑まれていますから商売はしにくかった。トレーダーズギルドが今もレティセンシアで活動できている背景には、各地にあるトレーダーズギルドの好意が大きいのです。当然蔑んでいるとはいえ、レティセンシア国民もその恩恵は受けているのですが、そのことを理解せずにこんなことしてくるのなら、この国は一度滅ぶべきではないでしょうか?」


 トレーダーズマスターのミカサさんが過激なことを言うけど、実際彼女はトレーダーズギルドごと人質になったことがあるんだから、レティセンシアにはいい感情は持っていないということでしょう。


「それはクラフターズギルドもだよ。クラフターズギルドがレティセンシアに進出したのはここ数十年の話だけど、元々レティセンシアは職人を軽んじ、蔑む国風だった。当然クラフターズギルドも軽んじられてるし、噂じゃ奴隷にされてロクに食事も睡眠も与えられないまま衰弱死したクラフターもいるらしい。だからそう遠くないうちにクラフターズギルドはレティセンシアから全面撤退するが、おそらくその時期は早まることになると思う。その結果レティセンシアがどうなろうと、自業自得なんだから知ったことじゃないね」


 クラフターズマスターのラベルナさんも痛烈だけど、レティセンシアが職人軽視の国風ということは有名だから、当時のグランド・クラフターズマスターは最後までレティセンシアへの進出を拒んでいたとも聞いているわ。なぜ進出することになったのかはクラフターズギルドの内情だからわからないけど、こんなことになった以上、今後レティセンシアにクラフターズギルドが進出することはないでしょうね。


「私達ヒーラーズギルドはレティセンシアには進出していませんし、する予定もありませんでしたが、こんなことになってしまった以上、各支部へ連絡をして万が一の事態に備えることをグランド・ヒーラーズマスターに報告させていただきたいと思います」

「バトラーズギルドも同様ですが、おそらくバトラーズギルドとしても撤退を視野に入れることになるかと思われます。バトラーズギルドは職員や指導員を派遣しているだけですので撤退してもさほど大きな混乱もないでしょうから、撤退する場合はスムーズに行くのではないかと思います」


 ヒーラーズマスターのサフィアさん、バトラーズマスターのオルキス・セルヴァントさんも、グランドマスターへ報告してから動くってことね。ここで変に口を出されても困るから、その判断には感謝できるわね。

 あ、バトラーズマスターのオルキスさんも女性よ。フィールのギルドマスターはハンターズギルドのサーシェス、ライナスさん以外は全員女性みたいね。


「ハンターズギルドとしてはサーシェスの野郎を捕まえない限り、どうすることもできないな。王都や総本部への報告もどうなってるかがわからねえが、あれからさらに新事実が発覚してるから、場合によってはグランド・ハンターズマスターが乗り込んでくる可能性もある」

「呼んだかね?」


 全員が驚いて声のする方向に振り向いてしまった。声の主は丁度部屋に入ってきたところだけど、ノックもせずに入ってきたというの?


「申し訳ありません。先程訪ねてこられたのですが、ノックをする直前に皆様の驚く声が響きましたので、さらに驚かせてみようということでこっそりと扉を開けさせていただきました」

「すまんね。全てワシが頼んだことじゃから、彼女を責めないでやってほしい」


 ミュンの隣にいるのはウルフィーの翼族の男性だけど、漆黒の翼のウルフィーっていったら、考えられる人は一人しかいない。本当に来たの!?というかどうやって!?


「不要かもしれぬが、名乗らせてもらおう。ワシはギャザリング・バイアス。ハンターズギルド総本部のグランドマスターをさせてもらっておる」


 やっぱり!レベル73のMランクハンターで、ヘリオスオーブ唯一のエンシェントクラス。ソレムネが島国でもあるアレグリアを攻めあぐねているのは、この方がいるからだとも言われている。

 そのグランド・ハンターズマスターが、なんで私の屋敷に?


Side・大和


 まさかグランド・ハンターズマスターが来るとは思わなかったな。プリムと同じ翼族でラウスと同じウルフィー。だが今のヘリオスオーブでは唯一進化しているエンシェントウルフィーで、レベルも73のMランクハンターでもある。いつかどこかで会うことになるんじゃないかって思ってたが、まさかここで会うことになるとはな。


「い、いつフィールに来られたんですかい?」

 

 ライナスのおっさんも、本当にグランド・ハンターズマスターが来るとは思わなかったんだろう。というかアレグリアからフィールにとなると、船を使ってリベルターへ向かい、そこから陸路でレティセンシアを抜けアミスターに入るか、無茶を承知でマイライト山脈を越えるか、ワイバーンで飛んでくるかだ。

 だが陸路では一月以上かかるし、今回の報告を受けてからというのは時間的に不可能だし、ワイバーンで来たとしても必ず誰かが報告に来る。なのに誰も来てないんだから、どういうことなのかがまったくわからない。


「ライナス君は知っておるじゃろう?トラベリングを使って来たんじゃよ」


 その一言で全員が納得した。長距離転移魔法トラベリングは使える者が少ないどころか、数人しかいないといわれている。その理由は激しく魔力を消耗するし、並の魔力では使う前に魔力切れを起こすからだと言われている。そんなとんでもない魔力を使うトラベリングだが、翼族のエンシェントウルフィーなら魔力には問題がないのかもしれない。


「トラベリングの使い手にお会いしたのは初めてですが、こんなに早くフィールに来られるとは思っておりませんでした。ご挨拶が遅れました。私はフィールの領代の一人で、フレデリカ・アマティスタと申します」

「同じく領代の一人、ソフィア・トゥルマリナと申します。お見知りおきを」

「アーキライト・ディアマンテと申します。グランド・ハンターズマスターにお会いでき、光栄です」


 なんか領代の三人がすげえ緊張してませんか?いや、エンシェントクラスなんて一生に一度会えるかどうかなんだから気持ちはわからなくもないんだけどさ、それでもそこまで緊張しなくてもいいと思うんだけど?


「これはご丁寧に。領代の御三方には、我々ハンターズギルドの不手際で多大なご迷惑をお掛けしましたな。心よりお詫び申し上げますぞ」

「とんでもありません。それに我々は何もできませんでしたが、彼らのおかげで最悪の事態になる前に解決することができましたから」

「若きGランクの二人ですな。ワシも報告は聞いてますぞ。ライナス君、君が依頼した査察官付きの件じゃがな、もう総本部へ報告する必要はない以上、達成ということでよい。しばらくはワシもフィールに滞在するつもりじゃから、サーシェスが戻ってきてもどうすることもできんからな」

「わかりました。後ほど依頼達成の手続きを取ります」


 あ、もういいのか?ってよく考えりゃ元々ライナスのおっさんから依頼されてた査察官付きハンターの件は、アレグリア総本部に報告するまでだから、報告を聞いたグランド・ハンターズマスターのギャザリングさんが出張ってきた以上、確かに達成でもおかしくはないのか。


 というかクラフターズ、トレーダーズ、ヒーラーズ、バトラーズギルドのマスター達が、ガチガチに緊張して一言もしゃべらなくなってるけどいいのか?


 あ、俺達も自己紹介してなかったな。忘れないうちにしとくか。


「そして、君達が報告にあったGランクハンターのヤマト・ミカミ君、プリムローズ・ハイドランシア嬢じゃな。ハンター登録をした初日にGランクに昇格したばかりか、数々の異常種を倒し、さらには災害種のブラック・フェンリルまで倒したと報告を受けておる」


 そう思ってたら既に名前が知られていた。自己紹介する気だったから肩透かしくらった気分だな。


「正面から戦ったのはほとんどいませんから。それに私はそこまでの実力はありません。彼の協力があったればこそです」


 いや、確かに援護はしたけど、異常種には生半可な攻撃は通じないんだから、それだけで倒せるプリムもすごいと思うぞ。


「運が良かったこともあると思いますけどね。あとは時期に恵まれたってとこでしょうか」

「それはあるじゃろうな。じゃがワシとしても君達には会いたいと思っておったよ。エンシェントクラスに進化できる可能性を持った若者など、ここ数十年おらんかったからな。まあ、既に進化しているとは思ってもおらんかったが」


 空気が凍った。


 いや、ちょっと待ってくれますかね?進化してるって誰が?ああ、プリム……はちと厳しいから、やっぱり俺か!?いや、だって進化してたりしたら、門でチェックするときにわかるはずだぞ。毎回ライセンスのチェックは受けてるんだからな。

 ……あれ?今日ってあの女のことがあったから、確認ってされなかった気がするな。ライセンス渡した記憶がねえもん。


 あれぇ?

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