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12・レティセンシア皇国第一皇女

Side・プリム


 まさかあんな大物が、直接出張ってきてたなんてね。さすがにこれは予想外だったわ。

 その大物が第一皇女、しかも王位継承権第一位っていうレティセンシアの次期皇王だったんだから、アミスターとしても扱いが面倒よね。レティセンシアとしても見捨てるわけにはいかないから、本気で近いうちに戦争になるかもしれないわ。


 だけど懸念事項ができてしまった。それがアバリシアから献上されたっていう、異常種を生み出すことができる魔化結晶。これは本当にヤバいわ。マーダー・ビーの挙動を見る限りじゃ操ることはできないみたいだけど、サーシェスの従魔になっていたエビル・ドレイクの件もあるから、もしレティセンシアが異常種を制御できるとしたら、物資や兵の質を覆される可能性がある。


 試作品だって話だしアバリシアで製造されたものみたいだから、簡単にレティセンシアが使えるとは思えないけど、それだってどこまで本当のことかがわからないし、そのアバリシアが参戦してくれば色んな意味で厄介なことになる。アバリシアが参戦してくれば、間違いなくソレムネが動くし、バリエンテやリベルターだって黙っているとは思えない。そうなればフィリアス大陸は戦火に包まれることになって、いくつかの地域がアバリシアに占領されてしまうかもしれない。


「アバリシアって、確かフィリアス大陸には仕掛けてきたことがないって話だったよな?」

「ええ。一度だけアミスター近海に攻めてきたことはあるんだけど、偵察が目的としか思えない規模だったはずよ。だからすぐにアミスターが追い払ったんだけど、それ以来アバリシアの噂は聞いてないわね」


 確か5年前だったかしらね。アバリシアの軍船が三隻、アミスターの沖合に現れて、いくつかの町や村を襲撃したらしいわ。もちろん多くの人が犠牲になったんだけど、占領するようなことはせず、アミスター海軍が出航してくるまで沖合で待機していたんだけど、十数隻のアミスター海軍船によって三隻とも沈められ、乗っていた兵士達も全員が死亡したって聞いている。


 あまりにも不可解なその事件はバリエンテでも様々な憶測を呼んだけど、最終的にはアミスターの国力を調査するために、犯罪奴隷で構成された部隊による威力偵察だったと結論付けられたはずよ。もちろん異議は多く出たけどそれ以外に説明のしようもなかったくて、そうじゃないかっていうだけのことで決まっただけだから、今でも色々と憶測は飛び交ってるんじゃないかしら。


「そんなことがあったのか。ってことはレティセンシアにも同じようなことをしてるかも、じゃなくてしてるんだろうな」

「でしょうね。その結果レティセンシアは敗れて、それを周辺各国には知らせてない。もちろん各国の上層部辺りは知ってるだろうけど、レティセンシアは絶対に認めない。自分達だけじゃ何もできない者の集まりなのに、プライドだけは人一倍高いからね」


 アバリシアがレティセンシアに侵攻していたとしても、レティセンシアは絶対に敗れたことを認めない。認めるぐらいならその事実を徹底的に隠蔽するわね。おそらくレティセンシアはアバリシアに占領されたに等しい状況だろうけど、工作員が”献上”という言葉を使った事実がその証拠よ。


 だけどアバリシアは、ほとんど政治には介入していない可能性がある。本当にレティセンシアが占領されていたら、いくら隠そうとしてもすぐに噂になる。なのにそんな噂は聞いたこともない。いったいどういうことなのかしら?


「考えられることはあるけど、それはこのお姫さんが教えてくれるだろ。ここまでされてるんだから、よっぽど弱腰でもない限りは相応の報復を行うだろうし、全て聞き出したらこのお姫さんだって処刑されるんじゃないか?」


 判断が難しいところだけど、その可能性はあるわね。


 このお姫様がフィール襲撃の陣頭指揮を執ってたことは、ほとんど疑いの余地がない。陣中見舞いとかっていう可能性もないわけじゃないけど、異常種を使った作戦の最中だったんだから万が一の事態を考えるのは当然だし、普通ならそんなとこに行こうなんて考えない。


 このお姫様は、レベルも高いし進化もしている。それに称号に戦姫いくさひめってあることから考えると、戦闘力もかなり高いと思う。そこまでは誰でも簡単に推測できるし、外す方が難しい気がする。


 多分だけど次期皇王として即位する前にマイライトを手に入れ、権力と影響力を増そうっていう考えだったんじゃないかしら?


「そう考えるのが普通だよな。まあ俺達が考えることでもないし、このお姫さんを引き渡せば終わりだろう。もちろん戦争になったりしたら、手伝うつもりでいるが」


 それはあたしもよ。フィールに来てからたった数日だけど、それでも並々ならぬ迷惑を被ったし、アミスターの人達には本当に助けられたから感謝している。何よりフィールにはミーナとフラムが、王都にはあの子がいるんだから、彼女達を泣かせるような真似をしたレティセンシアを許すつもりはないわ。


Side・大和


 森を抜けた俺達はジェイドとフロライトに乗り、マリアンヌという名のレティセンシアのお姫さんをロープでグルグル巻きにして荷車の上に乗せてフィールに向かっている。その荷車はジェイドに引いてもらってるが、ジェイドには大したことでもないようで、普通に歩いてる。獣車はフロライトと二頭立てで引いてもらうことを考えてたんだが、大きさによってはジェイドだけでもいけるかもしれないな。


「ここは……はっ!貴様ら、この縄を解け!私を誰だと思っている!?」


 森を出てから20分ぐらい歩いてると、問題のお姫さんが目を覚ましたようだ。高圧的に出てくることは予想してたが、はっきりいってうざったい。もう一度気絶させてやろうか?


「誰だも何も、レティセンシアの次期皇王陛下でしょ?まさかそんな大物が出てくるとは思わなかったけど、あの場にいたんだから死ぬことだって覚悟はしてたんじゃないの?」

「わかっていながら無礼な口を利く。いい度胸だが私は無礼を許さん。貴様は即処刑だ」

「立場がわかってんのか?今のあんたはただの捕虜だ。いや、フィールに異常種を放った実行犯なんだから、ただの犯罪者だな。それが皇族の、しかも次期皇王だってことは、レティセンシアがアミスターに不意打ちで戦争を仕掛けたも同然だろ?なのに自分は助かるとでも思ってんのか?」

「立場がわかっていないのは貴様の方だ。私を処刑すれば、アバリシアが黙ってはいない。我々皇家がアバリシアを抑えているからこそ、フィリアス大陸は平穏でいられるのだ。その皇家の、しかも次期皇王の私がアミスターに命を奪われたとなれば、アバリシアは絶対にアミスターを許さん。必ずや全軍を率い、愚鈍なアミスター王家を滅ぼすだろう」


 面白いまでに自己中心的で希望的な意見だな。レティセンシアがアバリシアの支配下にあるのは確定したようなもんだが、このお姫さんを取り戻すために全軍を派遣するなんてことはありえんぞ。

 というか、本当に立場がわかってないな、こいつ。確かに王家とか皇家とかの人間を殺せば、それは即開戦を意味するだろうが、少なくとも領代の話を聞く限りじゃアミスターは戦争を恐れていないし、ハンターズギルドだってかなりの被害を受けたんだから黙ってないはずだ。レティセンシア国内のハンターはわからないが、他の国のハンターはハンターズギルドからの依頼を受けてアミスター側について参戦してくるかもしれない。


 レティセンシアは皇家や貴族の立場が強いため、庶民出身のハンターは見下されている。そのくせ子供の頃から歪んだ愛国心を、どんな小さな村でも徹底して教育しているから、他国へ行くハンターはいない。だからなのかはわからないが、レティセンシアはハンターの質も低く、レベル50の壁を超えたハンターはいないらしい。

 他国のハンターも見下されることはよく知っているから、用もないのにレティセンシアに行くハンターはおらず、アミスターからリベルターに抜ける場合にやむなく使うことがある程度だ。これはハンターに限らず、旅人やトレーダーも同様だそうだから、レティセンシア国内で命を落とす者も少なくないんだとか。


 アミスターがナダル海にしっかりとした港を整備すればそんなことはなくなると思うし、それを望む声も非常に大きいんだが、ナダル海に面しているのはプラダ村しかない。

 そのプラダ村もベール湖とナダル海に挟まれた狭い土地にあるため、港を整備することも難しい。しかも港を整備すれば交易が始まるし、レティセンシアを経由しなくても済むことになるため、物価も下がるだろう。当然トレーダーズギルドはすぐに支部設立に動くだろうし、他にもトレーダーが集まるだろう。そうなればプラダ村の規模ではどうすることもできないから、確実に大きくなる。

 だがそのための土地がなく、水深も浅い。これがナダル海に港を整備できない大きな理由になっている。


 それは別の話になるから、今はいいか。


「アバリシアって、そんなに甘い国かしらねぇ?」

「……何が言いたい?」

「アバリシアからアミスターまで、どれだけの距離があると思ってるの?兵を集めて武器や食料を調達して、さらに何日も船に乗ってアミスターを攻める。すぐに思いつくだけでも、これだけのことが必要なのよ。しかもそれが属国のお姫様を助けるため、あるいは仇を討つためじゃ、アバリシアだって士気は上がらないでしょ」


 同感だ。アバリシアがレティセンシアを属国にしたのは、おそらくフィリアス大陸で活動するための足掛かりだろう。アミスターと同じく海に面しているレティセンシアだが、国力には比べ物にならないほど開きがある。もしソレムネがリベルターが落としたら、レティセンシアは瞬く間に占領されるだろうとも言われているほどだ。それはつまり、ソレムネと同等の軍事力を持つアミスターが本気になれば、すぐにでもレティセンシアを滅ぼせるということにもなる。


「属国だと!?貴様、我が祖国を馬鹿にするつもりかっ!?」

「属国だろ。魔化結晶とやらを献上してもらったらしいが、どう見てもあんたらに実験しろって持ち込んだだけじゃないか。しかも試作品ってことは、何が起こるかわからないってことだ。事実マーダー・ビーは、あんたらを攻撃してたしな」

「そんなわけがなかろう!レティセンシアとアバリシアは深い絆で結ばれている!だからこそ開発したばかりの魔化結晶を、即座に皇家に献上してきたのだ!」


 なわけないだろ、って言いたいが、話しても無駄だな。ハンターどももこんな感じだったから、レティセンシア人とは話が通じないって思った方がよさそうだ。


「はいはい、勝手に吠えてろ。とは言ってもフィールに入るためには身分証が必要になる。あんたが持ってるとは思えないし、素直にライブラリーを出すとも思えないから、もう一度寝てな」


 話が通じない相手と話すことほど時間の無駄はない。だから俺はお姫さんに、スタンガンと同じ感覚で使用できる火性C級攻撃系術式ショック・フロウを当てて気絶させた。

 興味があったから話を聞いてみただけだが、ただ不快になるだけだったな。次からは起きたらすぐに気絶させてやろう。

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