10・合同披露宴の誘い
Side・マリーナ
いやいや、ミーナも大和と婚約できたし、めでたいね。あとはフラムだけど、こっちも問題なく婚約しそうだよ。なにせミーナと婚約したことで大和も開き直ったみたいだから、あと何人かは確実に増えるだろうね。
高ランクハンターは普通に何人も女を侍らせてるし、中にはレイドの女全員を妾にしてるハンターもいるからすごいよね。
「そういえばマリーナ、エドってフィーナとは結婚しないの?」
「う~ん、難しいね。知っての通りフィーナは身請け奴隷だから、簡単にはいかないんだよ」
あたしはフィーナもエドの嫁にって思ってるし、エドもまんざらじゃなさそうなんだけど、身請け奴隷でもあるフィーナは、身請け時に得た金額を稼ぐまで解放されることはないし、あとどれぐらい残ってるのかもわからない。
クラフターズマスターに聞けば教えてくれるだろうけど、簡単に稼げる額じゃないのは間違いないし、とてもじゃないけど肩代わりなんてできないよ。
「瑠璃色銀、じゃなくて青鈍色鉄に新魔法メルティングがあるから、足しにはなるんじゃないの?」
「微妙なとこかなぁ。確かにメルティングの件でランクがあがって金一封ももらってたし、青鈍色鉄も公表すればまたもらえるだろうけど、そこまでだしね」
確かにメルティングも青鈍色鉄もすごいから名声は高まるけど、それ以上の見返りはないんだ。もちろんしばらくはエドが作ることになるだろうけど、材料に魔銀、晶銀、金剛鋼を使うから、ハイクラスに進化してる人でもない限りは注文してこない気がするんだよね。それに稼いだお金も材料の買付で消える可能性があるし、何より青鈍色鉄がいくらになるかわからないから、それが決まるまでは受注ができないっていう問題があるよ。
参考までに標準的サイズの魔銀のインゴットが2,000エル、晶銀が3,000エル、金剛鋼が5,000エル、神金がなんと50万エルだから、青鈍色鉄は最低でも2万前後、瑠璃色銀なら5万エルは固いと思う。
「そうなんですね。それならフィーナさんが解放されてから、エドワードさんとご結婚ということになるんですか?」
「今の流れだと、そうなるかな。フィーナも一緒に合同披露宴したかったんだけどなぁ」
やっぱり一度聞いてみた方がいいかもしれないなぁ。
「マリーナ、ミーナさんの希望は聞き終わったのか?」
「終わってるよ。はい、これ」
プリムやミーナと話してばかりだと思ってたかもしれないけど、しっかりとお仕事はしてたよ。それぐらいのことはクラフターなら誰でもできるし。もちろんしっかりと集中した方がいいんだけどね。
「どれ……また奇抜というか、これじゃハンターっていうより名のある高位騎士だな」
あたしもそう思った。アミスターの騎士でもこんな鎧は着けないよ。
騎士にとって、って言ってもアミスターの騎士しか知らないけど、鎧は所属や階級を表してるから、騎士団ごとに違いがある。
フィールにいる第三騎士団はシーバーンの皮を重ねた皮鎧に魔銀の胸当てと肩当て、腰当て、手甲に足甲、っていう感じになってるよ。見た目は魔銀のハーフプレートアーマーになるようにしてあるけど、腹部はシーバーンの薄く青い皮が覆ってるように見えるのが特徴かな。
第一騎士団はワイバーンの薄い緑の皮、第二騎士団はグラバーンの薄茶色の皮が見えるようになってて、近衛騎士になると魔銀と晶銀、部分的に金剛鋼を使ったプレートアーマーだって話だよ。
だけどミーナのデザインを見ると、プレートアーマーっぽく見えなくもないんだけど、大和と同じくコートに張り付けることになってるから、かなり裾が長いんだよね。しかもバトルドレス系のスカートアーマーと合わせるみたいだから、所属によっては男と同じデザインの鎧を着けなきゃいけない女性騎士が喜びそうなデザインでもあるよ。いや、これは近衛騎士とかでも憧れるかもしれないから、今度レックス団長、じゃなくてローズマリー副団長に売り込んでみよう。もちろん裾はもっと短くするし、装甲板も少なくなるけど、それでも実用性を高くしつつ防御力を高めることができれば、騎士団の女の人達だって喜んでくれそうだし。あ、タイミングが良ければ青鈍色鉄が使えるかもしれない。
「俺の希望も入ってるからな。というかウイング・クレストとしては、コート系を標準にしようと思ってるんだよ」
「なるほどな。だけどそれじゃ、騎士団みたいに同じような装備で固めることにならねえか?」
「そこは装甲板とかの配置やデザインを変えることで、同じようには見えても同じじゃないものができるだろ?あとは色だな」
大和も色々と考えてるね。実際大和が希望してる色は黒っぽい感じの瑠璃色、プリムは深紅に近い緋色、ミーナは光沢のある白百合色だから作る側もけっこう大変なんだけど、色もけっこう大事だし、オーダーメイドなんかじゃ指定されることもあるから、そこは工芸魔法のカラーリングを使って頑張って染色するよ。
あ、大和達が希望してる色は、大和の世界での呼び方らしいから、染色の前にもう一度しっかりと教えてもらうつもり。
「カラーリングのこと教えたのは失敗だったんじゃないかって思えてくるな。そのうち知られるだろうから、できねえって言うつもりもないけどよ」
「そんなこと言ってやがったら、後でクレーム入れてただろうな。それはそれとして、いつフィーナを落とせるんだ?」
おっと、ここで大和が話を変えてきたよ。完全にからかってるのがわかるけど、さっきの逆襲に出てるって気もするねぇ。
「落とすも何も、フィーナは身請け奴隷なんだから、解放されなきゃ結婚も何もないぞ」
正論で返すエドが腹立たしいな。そこは俺がすぐに解放させてみせる、とか、いつでも落とせるぞ、とか言ってみなよ。
「つまり解放されれば結婚するってことだな?」
「……てめえ、何考えてやがる?」
「何も。で、どうなんだよ?」
「そりゃ考えてないっていえば嘘になるが、まだマリーナとも結婚してねえんだから、考えるとしてもそれからだ」
慎重に言質を取られないよう言葉を選んでるなぁ。あたしもイライラしてきたよ。
「それならそれでいいんだけどね。今度、って言っても落ち着いてからになるんだけど、あたし達の披露宴をやるつもりなのよ」
「それは豪勢なこったな。で、俺達も招待してくれるのか?」
「というか、あんたとマリーナ、それからフィーナの披露宴も合同よ」
エドが思いっきり後ろにひっくり返っちゃった。頭から床に激突してたけど、あれは痛いよ。
「だ、大丈夫ですか、エドワードさん?」
無理そうだね。後頭部を抑えながら悶絶してるもん。だけどエドを心配そうに見てるのはミーナだけで、あたし達は今がチャンスとばかりに話を進めるよ。
「あたし達の披露宴も一緒にさせてくれるんだ。ありがたいけどいいの?」
さも今初めて聞いたように口裏を合わせるあたし。あたしも聞いたのはついさっきだけど、せっかく誘ってくれたんだし、あたしとしても披露宴はやってみたいんだよ。
「もちろん。あたし達の都合に合わせてもらう形にはなるけど、それで良ければね」
プリムも今初めて話したように話を振ってくる。さっきまでのわずかな時間で全て決まったから、あとはいかにしてエドがフィーナを落とすか、大和がフラムを落とすかだけだよ。
あ、披露宴で着るドレスはどうしようか?プリム達のも含めてあたしが仕立ててもいいんだけど、大和達からの依頼で仕事が立て込んでるし、せっかくだからクラフターズギルドに依頼出した方がいいかもしれない。フィーナが絡むんだから、クラフターズマスターがやってくれるかもしれないしね。
「待てよ!なんでそんな話になるんだよ!?」
「せっかくだし、結婚の記念にもなるだろ。それにメルティング、青鈍色鉄、瑠璃色銀の完成記念にもなるんだからな」
大和が悟りでも開いたみたいになってるね。まあ大和の場合は色んな意味で披露宴をしないわけにはいかないから、悟りの一つでも開けるか。
瑠璃色銀はまだ公表しないけど、青鈍色鉄も十分に革命を起こせるからね。ってことは披露宴までには公表することになるの?
「それがいいと思うのよ。新しい魔法に新しい合金。この二つがあればPランクになる大和にも見劣りしないでしょ?」
それは確かにそうだね。新しい魔法はここ数十年は奏上されていなかったし、合金なんて発想自体がなかったんだから、これはクラフターズギルドに限らず国からも称えられる偉業だよ。災害種の単独討伐を成した大和とは方向性が違うけど、立ち位置としては同格になってもおかしくはないね。
「というか大和、まさかPランクになっちゃったの?」
「いや、レベル60にはなったがまだランクアップはしてないぞ」
なんでそんなに早くレベル上がるのさ!こないだは59だったじゃん!
……いけない。大和のやることにいちいち驚いてたら身が持たないんだから、ここは華麗にスルーするべきかな。
「レベル60になったってことは、大和ならすぐにPランク昇格だね。エンシェントクラスへの進化も時間の問題かぁ」
ハイクラスから進化するのがエンシェントクラスだけど、そこまで到達できる人は今も昔もほとんどいない。実際今のヘリオスオーブには一人しかいないし、今いるPランクハンターはもちろん、Gランクハンターもここ数年はレベルが上がらないって噂があるから、今後数十年はエンシェントクラスに進化できる人はいないんじゃないかって言われてたと思う。
だけど大和は手が届くどころか、既に片足を突っ込んでいた。確かエンシェントクラスはレベル61になったら進化できる可能性があるらしいから、次に会ったときにはエンシェント・ヒューマンになっててもあたしは驚かないよ?
「さすがにそれはないだろ。ハイクラスはレベル45が平均で、レベルが上がれば進化しやすくなるみたいだから、エンシェントクラスもほとんど同じだと思うしな」
それは確かにね。
だけどね大和、それってフラグだよ?実際レベル41でハイクラスになった人だっているんだから、絶対に進化しないなんて言えないんだよ?
フラグは客人がもたらした言葉で、言ったことが現実になるって意味の諺にもなってるんだけど、けっこう当たることが多いんだよ。大和の世界の言葉なんだから、当然大和も知ってるよね?




