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08・解体師

 おはようございます。昨夜はミーナとの初夜(?)でした。もちろんプリムも一緒です。

 いえ、何も不満はございません。可憐なプリムと麗しいミーナに挟まれて目が覚めたんですから、これで文句を言ったらバチが当たります。

 これ元の世界の友人とか知人とかに知られたら、確実にフクロにされた上で相模湾に沈められるんだろうなぁ。


 あ、実はまだミーナとは神殿に行ってません。王都のご両親には鳥を飛ばして連絡するつもりなんだが、返事がない限りは勝手に結婚するわけにはいかないし、レックス団長にもそう言われてるから、早くても二、三日はかかると思う。断られることはないとも言われてるんだが、俺としては返事が来るまでは怯えて過ごすことになりそうだ。


 そんなわけで俺とミーナは婚約者ってことになっている。結婚前だってのに抱いていいのかって話だが、騎士やハンターみたいな戦闘職の男は戦った後に気が昂ることが多いため、恋人同士、あるいは婚約者同士なら婚前交渉に及ぶことも珍しくはない。特にハンターは魔物との命がけの戦いを日夜繰り広げてるから、娼館に通う人も多いんだそうだ。


 俺はヘリオスオーブに来てからそこまで全力で戦ったことは、先日のプリムとの決闘ぐらいだ。あの時はプリムに勝てたこと、プリムと結婚できたことでかなり昂ってたから、初夜とかがなかったら騎士の誰かを誘って娼館に行ってたかもしれない。

 なお男娼なる職業は存在せず、戦闘職の女性の場合は結婚してもいい、あるいは未婚の母になってもいいと思う男に身を委ねることで解決しているらしい。もちろん全員じゃないけどな。


 そういう事情もあるが、一番の理由はミーナ本人から懇願されてしまったためで、しかもプリムまでノリノリで参戦したこともあって、こんなことになってしまったというわけです。


「おはよう、大和」

「お、おはようございます、大和さん……」


 二人とも恥ずかしがって布団から目を覗かせてるが、すげえ可愛い仕草だな。


「おはよう。体は大丈夫か?」


 ミーナは初めてで、プリムもまだ二回目だから、体調に問題はないかしっかりと確認しないといけない。無理させるのは本意じゃないし、仕事に支障がでたりしたら大変だからな。


「あたしは大丈夫。ミーナは?」

「私も大丈夫です。その……優しくしてもらいましたから……」


 布団から目を覗かせてるが、すげえ可愛い仕草だな。思わずドキッとしたぞ。


「あ~、大丈夫ならいいんだ。ところで神殿の祝福って何時からになるんだ?」

「お昼過ぎですけど、それがどうかしたんですか?」


 昼過ぎか。なら時間はあるな。


「ならアルベルト工房に行って、ミーナの装備も頼もう。もちろん瑠璃色銀ルリイロカネで」

「いいわね、それ」


 プリムも賛成してくれたし、決まりだな。だけど当のミーナはといえば。


「ルリイロカネ?それって何なんですか?」


 という始末だ。いや、瑠璃色銀ルリイロカネはまだ公表してないから、まだ俺とプリム、アプリコットさん、そしてアルベルト工房の面々しか知らないから仕方ないんだけどな。


瑠璃色銀ルリイロカネっていうのはね、大和が提案してエドが精製に成功した新しい金属のことなの。強度と硬度は金剛鋼アダマンタイト、魔力伝達率は神金オリハルコンと同等で、重さも魔銀ミスリルより少し重い程度だから、すごく使いやすいと思うわよ」

「そ、そんなすごい金属を作ったんですか!?」


 驚くよな。ヘリオスオーブには合金っていう単語がないし、誰も試したことすらない。というか発想自体がない。だから金属はそういうものだということが常識であり、最良かつ最高の金属は神金オリハルコンということになっていた。


 しかし神金オリハルコンは、アミスターの東の海の先にあるグラーディア大陸でしか産出しない上に、その大陸を支配しているアバリシア神国がヘリオスオーブ統一を掲げていることもあって、フィリアス大陸の国家とはほとんど取引をしていない。しかもアバリシアにはギルドも一切進出していない、できてないため、内情も不明な点が多い。


 だからフィリアス大陸では迷宮に出没する神金オリハルコンのゴーレム、あるいはパペットを倒すことでしか神金オリハルコンを手に入れることができない。そのために非常に高値で、それこそ神金貨で取引をされることも珍しくないそうだ。


 ちなみにだが、全ての迷宮にゴーレムやパペットが出没するわけではない。アミスターの他にもバリエンテ、リベルター、レティセンシアの迷宮で存在が確認されているが、バレンティアやトラレンシア、ソレムネの迷宮では一切確認されていないそうだ。これはフィリアス大陸統一を掲げているソレムネ帝国にとっては頭の痛いことらしく、そのおかげで大きな戦争を起こすことに二の足を踏んでいるんだとか。


 瑠璃色銀ルリイロカネはその神金オリハルコンに匹敵する金属といえるから、これが広まればフィリアス大陸での金属の常識が覆ってもおかしくはない。

 当然、フィールを荒らしたレティセンシア、フィリアス大陸統一を掲げてるソレムネも狙ってくるだろう。エド達がが迂闊に製法を漏らすとは思えないが、完全に隠すこともできないから、落ち着いたらダミーとして採用することを決めた金剛鋼アダマンタイトをベースにしたやつの製法を、クラフターズギルドに伝えることになっている。エド達が危険になったら意味ないからな。

 まあ重さが違いすぎるし、こっちは青が強くでてて尚且つ若干くすんでるように見えるから、青鈍色鉄アビイロガネっていう名前にしてある。

 青鈍色あおにびいろを無理やりアビって読ませてるが、アビっていうアヒルみたいな鳥がグレー系の羽毛をしてるし、アオニビイロガネとかニビイロアオガネとかより語呂もいいから、無理やりではあるがこんな形にさせてもらった。


「そ、そんな金属を使わなくても、私は魔銀ミスリルで十分ですよ!というか、なんで私までオーダーメイドなんですか!?」


 それを伝えたら、ミーナがパニくってしまった。


「今は良くても、先はわからないでしょ?それに青鈍色鉄アビイロガネはともかく瑠璃色銀ルリイロカネは公表するとしてもかなり先になるから、今のうちに色々と調べておきたいっていう事情もあるのよ」


 瑠璃色銀ルリイロカネは完成したばかりだから、まだ武器の形になった物は一つもない。だから俺とプリムの武器はオーダーメイドであると同時にプロトタイプでもあり、さらにテストタイプでもある。

 だが俺達はGランクだし、魔力も普通の翼族より多いというある意味特殊な存在だから、とてもじゃないがテストに向いていない。


 ところがこれがミーナならば、話はガラッと変わる。ミーナはまだC-Iランクであり、レベルは平均的なハンターより下になる。もちろんこの先どうなるかはわからないし、俺達と一緒に狩りにいけば、レベル30ぐらいならすぐに上がるだろう。

 そのミーナに使ってもらうことができれば、俺達より詳細に完成した武器の性能がわかるんじゃないかと思える。


 もちろんテストのためだけじゃなく、同じ素材で作った装備を使ってもらいたいっていう俺の想いもあるぞ。


「な、なるほど、そういうことでしたら……」


 って説明したら、照れながらも納得してくれたから、朝飯を食いながら例のゲーム画像から剣と盾、鎧を見せてデザインも決めてもらったぞ。ミーナが選んだデザインは、まさにナイトって感じだな。騎士になるのが夢だったのに、騎士になった瞬間に辞めることを決意したんだから、やっぱりどこか心残りがあったんだろうな。


Side・ミーナ


「で、ミーナさんとも婚約したってのか?手が早い奴だと思ってたが、まさか昨日の今日でプロポーズするとは思わなかったぞ」

「うるさいよ。そう言うお前はどうなんだよ?」


 ハンターズギルドで昨日の報酬と買取額を受け取り、大和さんとプリムさんが指名依頼を受けた後、私の装備の発注をするためにアルベルト工房に来たのですが、何やら大和さんとエドワードさんが言い争っているようです。いえ、エドワードさんは呆れているみたいですから、言い争いというのは語弊かもしれません。


「ねえプリム、ミーナもってことは、もしかしてフラムも?」

「当たりよ。近いうちにフラムも連れてくることになると思うわ」

「ってことはラウスとレベッカも?」

「そうしようと思ってるわ」


 プリムさんとマリーナさんも、こちらはこちらで密談中のようです。私には丸聞こえなんですけど、何故マリーナさんがそこまで知っているんですか?


「あたしが話したからってのもあるし、前に一緒にご飯食べた時には気が付いてたみたいよ」


 あの時ですか。確かにマリーナさんは勘が鋭いですから、私達の気持ちに気が付いていても不思議とは思いませんけど、それでもやっぱり恥ずかしいですね。


「で、ミーナさんの装備も例のやつを使って作れってことか?」

「ああ。素材は足りるよな?」

瑠璃色銀ルリイロカネは精製すれば確保できるから問題ないが、ウインガー・ドレイクの方は微妙だな。けっこう裾が長いから、三人分となるとギリギリかもしれねえ」

「じゃあもう一匹あるから、それで頼む」

「あるのかよっ!?つかちょっと待て!ここで出すな!」


 瑠璃色銀ルリイロカネの他に使うメイン素材って、ウインガー・ドレイクだったんですね……。しかも既に一匹お渡ししてるのに、さらにもう一匹あるとか信じられませんよ?


「出すなって、何でだよ?」

「解体はここじゃできないから、クラフターズギルドに持ち込むことになるんだよ」

「そうなのか?」

「ああ。ハンターズギルドじゃ魔石を取り出すぐらいしかしないが、それだってクラフターズギルドから派遣されてる魔物解体師がやることになってるんだぞ?その魔石を含めてクラフターズギルドが買い取ってから解体をして、そこから依頼されてる物を作るか素材のままトレーダーズギルドに引き渡すかってのが流れだな」


 大和さんが感心されてますが、私も知りませんでした。だから各ギルドは近いところに建てられているんですね。


「なるほどな。ってことは自分達で狩ってきた魔物素材を自分達で使いたい場合は、ハンターズギルドじゃなくてクラフターズギルドに頼むことになるのか」

「そうなるな。だけど手数料は取られるぞ?」

「それは当然だろうな。あれ?ってことは昨日置いてったウインガー・ドレイクって、もしかしてお前がクラフターズギルドに解体依頼を出したのか?」

「ああ、神殿の帰りに寄って頼んできた。明日にはできるそうだから、取りに行くのはその時だな」


 魔物の解体はハンターズギルドがやっていると思ってたんですが、クラフターズギルドの管轄だったんですね。確かに建物の解体作業もクラフターが行っていますから、言われてみれば当然かもしれません。

 それにしても大和さんがご存知ないのは無理もありませんが、私も知らないばかりなんだと痛感してしまいます。もっとしっかりと勉強しないといけませんね。


「お、神殿に行ったのか。どうだった?」

「なんつうか、無事に奏上できちまったよ。神殿としても数十年ぶりのことだからってことで神殿長まで出てきたぞ。しかも涙を流して感謝されちまったから、すげえ居心地悪かったな……」

「おお、やったじゃないか。おめでとう、エド」

「ありがとよ、って言いたいとこなんだが、本当はお前がやるべきことだったんだぞ?」


 神殿って、もしかしてマリーナさんとご結婚されたんでしょうか?でも奏上がどうとかって聞こえましたし……まさか、新魔法を奏上したんですか?

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