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07・騎士の純情

「大和さん、愛しています。私も大和さんと結婚させてください」


 牧場にジェイド、フロライト、ブリーズを預けた直後、ミーナにそんな告白をされてしまった。

 ヘリオスオーブは一夫多妻が基本、というより常識だから、俺もいずれは二人目、あるいは三人目の奥さんを持つことは覚悟していたんだが、マジでこんなに早いとは思わなかった。


 今朝の話だが、プリムからミーナを二人目にという提案は、確かにもらった。俺としては昨日プリムと結婚したばかりなのに、次の日に別の女と結婚することになるのは抵抗があるんだが、そうも言ってられない可能性が高いらしい。


 俺がフィールに来たのは、偶然以外の何物でもない。だが俺、そしてプリムがフィールに来たことで、サーシェス・トレンネルをはじめとしたレティセンシアの陰謀は、ほとんど瓦解している。しかも異常種、さらには災害種までもたった二人で討伐しているから、アミスターは絶対に俺達を手放さないとプリムに断言されてしまった。


 ではどうするのかといえば、婚姻関係を結ぶことが一番手っ取り早いし確実だ。そこには俺の意志はない。もちろんあんまりしつこかったり、ありえない女を押し付けられたらこっちもキレるが、今回の件の褒美と言われてしまえば、断るのは性格や私生活面に難があったりしない限りは難しい、らしい。そんなひどい女をあてがって俺の不況を買ってしまえば、最悪アミスターから出ていかれることになるから、それはないだろうけどな。

 政略結婚には縁がなかったし、まったく実感もないんだが、それは俺がそう感じているだけで、アミスターとしては絶対に見過ごせないって言われてしまえば、そういうもんかと納得するしかなかった。


 だからプリムは、早めに俺の身を固めておきたいみたいだ。だからミーナ、そしてフラムを俺の奥さんとして迎え入れたいって言ってたな。


 だけど昨日あんなことまでしてプリムと結婚したばかりだってのに、次の日にミーナを嫁にするなんてのはさすがに想定外だ。いや、ミーナは綺麗だし素直でいい娘だから、俺としてもミーナならいいと思ってたよ?理由はわからなくもないけど、いくらなんでも早急すぎないか?


「大和、どうするの?」


 プリムも俺の隣で、ミーナの告白を受けている。夫婦仲がこじれたりしないように、相手の奥さんにも結婚の許可を求めるってのが普通らしいが、既にプリムは了承してるから、あとは俺の気持ち次第ってことみたいだ。


「大和、あんたが戸惑うのもわかるけど、ヘリオスオーブじゃ同じ日に何人もの女に告白して結婚する人だって珍しくないのよ?大切なのはお互いの気持ちだけなんだから、あんたがミーナのことも好きなら、どこにも問題はないの」


 今朝も同じことを言われたし、アプリコットさんも同意していたな。少なくとも俺には貴族のお嬢さん、場合によっては王族からお姫さんをあてがわれることが確定してるが、事前に複数の嫁を侍らせておくことで、ある程度牽制したいって狙いもあるみたいだ。


 Gランクハンター、というかレベル50の壁を突破した者はヘリオスオーブでは数十人、多くても百人程度しかいないと言われている。レベル50の壁を超えた者はハイクラスに進化していることもあり、一騎当千の働きをすることだって珍しくない。戦争の脅威以外に魔物の脅威があるこの世界では国の安全に直結するから、国としても積極的に取り込むため、結婚による遠戚関係を結ぶことが常識となっていて、俺もしっかりと該当している。


 さらに拠点に関しての問題もある。俺もプリムもフィールを拠点にしているが、貴族が娘を嫁がせてきた場合、そちらの領地を拠点にせざるをえなくなってしまう。フィールでやりたいこともあるし、何より俺もプリムもフィールが気に入っているから、それはさすがに避けたい。その点でもあと一人二人嫁を増やしておけば、断りやすくなると言われてしまっている。

 打算や下心満載すぎて、こんな気持ちでミーナに応えていいのか、すげえ迷うんですけど。


「大和さん」

「は、はい?」


 心の葛藤に悩んでいた俺を見透かしたかのように、ミーナが正面から抱き着いてきた。これは恥ずかしいぞ。


「何を悩んでいらっしゃるのかはわかりますけど、その迷いは当たり前のことです。打算や計算、下心なんて、政略結婚では当然なんですから。私だってないって言ったら嘘になります。大和さんが悩むとわかっていて、告白させていただいたんですから」


 それはそれで衝撃なんだが、確かに結婚にそういった側面があるのも間違いない。政略結婚なんて、まさにその典型だ。


「だけどそれでも、私は大和さんが好きなんです。私は弱いし、今まで剣しか振ってきませんでしたから、女らしくもありません。それでも私は、大和さんをフィールに繋ぎ止めておくことはできます。だから……」


 これはキツいなぁ。確かにミーナの気持ちが変わってなければ、数日、はさすがに短すぎるから、数ヶ月ぐらいしたら結婚を申し込んでたかもしれないけど、まさかここまで健気に想ってくれてたとは。

 これが元の世界なら、すでに結婚している俺としては断るしかないんだが、一夫多妻のヘリオスオーブでは受け入れても何も問題はない。プリムが認めてるんだから尚更だ。

 ミーナが好きかどうかと聞かれれば、間違いなく好きだ。それが愛かどうかはわからないが、好意、親愛に近いのは間違いないと思う。


 それに政略結婚に限らず、お見合いとかでも結婚後に愛を育むって話は俺の世界でも普通にあるから、俺が努力すればいいだけか。


 俺は抱き着いているミーナをそっと抱きしめるて口を開いた。


「ミーナ」

「は、はい……」

「俺もミーナは好きだ。でもそれが愛なのか好意なのか親愛なのか、それはまだわからない。それに俺はフィールを離れたくないから、そのためにミーナを利用することにもなると思う。それでもいいのか?」

「はい!その程度で大和さんと結婚できるなら、いくらでも利用してください!」


 迷いなくそう答えるミーナに、俺も覚悟を決めることにした。


「わかった。ありがとう、ミーナ。プリムのようにミーナも愛せるよう努力するよ。だから結婚してくれるか、ミーナ?」

「っ!はい……はいっ!!」


 ミーナは俺の胸で泣きながら承諾してくれた。これで二人目かぁ。まさかたった二日で嫁さんが二人もできるとは思わんかったぞ。この分じゃ近日中にフラムも加わりそうな気がする。

 というか、加わるだろうな。ミーナを受け入れたことで俺の中である種の覚悟が決まったから、あと数人ぐらいまでなら普通に受け入れられそうだ。


Side・プリム


 大和がミーナに告白されて、それを受け入れてくれた。一抹の不安があったから、あたしも素直に嬉しいわ。


「おめでとう、ミーナ」

「ぐすっ……ありがとうございます、プリムさん」


 綺麗な顔が涙でグシャグシャになっちゃってるけど、嬉し涙だし、それが逆に夕日に映えて綺麗に見えるから不思議だわ。もしかしたら大和、雰囲気にも押されたのかしら?まあいいか。


「ミーナ、余韻に浸ってるところを悪いんだけど、あんまり遅くなってもあれだから、登録と報告に行きましょう」

「はい」


 これでミーナは大和の婚約者になったけど、まずはレイド登録をしないとね。依頼の達成報告に買取査定もあるし、それが終わったらレックス団長にも結婚の報告をしなきゃだから、けっこうタイトかもしれない。今日は査定だけお願いして、依頼料と買取額の受け取りは明日にしてもいいかもしれないわね。


 とりあえず、ハンターズギルドからにしましょうか。

 あたしは大和の右腕と組んで、ミーナには大和の左腕で組んでもらえばいいわね。ちょっと歩きにくいけど、これぐらいは十分許容範囲だわ。


 というわけでハンターズギルドにマーダー・ビーが生まれているかもしれない可能性を示唆すると、すぐにあたし達に調査が依頼されることになったわ。あたしとしてもそのつもりだったから、依頼は明日の朝受けることになって、今日の依頼料と買取額も明日受け取ることに決めて魔物を鑑定室に放り込んだから、ギルドでの用事も終わり。


 次はレックス団長への報告だから、あたし達は門に併設されている騎士団の詰所に向かうことにした。


「そ、そうなのか……」

「おめでとう、ミーナ。大和さん、ミーナをよろしくお願いします」


 開口一番驚きで固まったしたレックス団長に対して、ローズマリー副団長がにこやかな笑顔で祝辞を述べてくれた。まだレックス団長と結婚してないのに、ローズマリー副団長にとってもミーナは妹ってことなんでしょうね。


「はい。なるべく早く、王都のご両親にもご挨拶に伺わせてもらいます」


 ミーナのご両親は王都にいるから、挨拶に行きたいっていう大和の気持ちもわからなくはないんだけど、それはそれで大変じゃない?ジェイドとフロライトがいるから、王都まではそんなにかからないけど、今のあの仔達じゃ二人乗せて飛ぶのは難しいと思うわよ?


「ま、待ってくれ。ミーナ、彼と結婚するということは、まさか?」

「はい。騎士団も退団させていただきたいと思っています」


 本当は妊娠するまで退団しなくてもいいし、普通はそうなんだけど、ミーナは大和と離れるつもりはないし、この先あたしも含めて王家や貴族とかに招待されることもあるから、騎士のままだとそれなりに問題が発生してしまう。だからミーナは退団することを決めているの。


「……わかった。だが手続きもあるし、何より明日ミーナの騎士就任の儀式を行うことを、先程バシオン神殿に通達したところだから、すぐには無理だぞ?そうだな、短くても一週間は騎士として職務に励んでもらうことになると思う」


 動きが早いわね。


 アミスターで騎士に就任するためには、バシオン教の神殿で司祭に祝福してもらわなければいけないらしいわ。なんでも祝福をいただくことで、回復魔法の才能がない人でもヒーリングとハイ・ヒーリング、さらに快癒魔法ヒーラーズマジックでもあるキュアリングまで使えるようになるそうなの。だからヒーラーズギルドに登録する騎士が少ないみたいなんだけど、これは神殿としてもヒーラーズギルドとしても頭の痛い問題みたいよ。


「わかりました。その一週間、全力で騎士として努めます」

「それから……ミーナ、結婚、おめでとう。大和さん、プリムローズ嬢、妹をよろしくお願いします」

「ありがとうございます、兄さん」

「幸せにします」


 ミーナが嬉しそうに答え、大和は真剣な表情でレックス団長に頭を下げた。あたしも大和に倣って頭を下げたけど、多分あたしは笑ってたと思う。もちろん歓迎してるからよ。

 これでミーナとも家族になれたし、今日は魔銀亭に泊まってもらって、しっかりと初夜を過ごしてもらわないと。


 その前にヒーラーズギルドに行って、ミーナにもコントレセプティングをかけてもらわないとね。緊張しなくても大丈夫よ?あたしも手伝うから。

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