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04・侯爵の悩み

Side・プリム


 アルベルト工房で大和が考案した合金、瑠璃色銀ルリイロカネが完成し、それを使ってエビル・ドレイク討伐の報酬になる武器をお願いして、さらに防具の製作依頼も、ウインガー・ドレイク持ち込みでお願いしてたら、思ったよりも時間がかかっちゃったわね。


 お昼が近かったからこないだ行った異郷の都で食事をして、ついでとばかりにヒーラーズギルドに寄って回復魔法や快癒魔法ヒーラーズマジックの載った本、使い方を勉強するための本、試験対策の本なんかを買ってから、あたし達はアマティスタ侯爵家に向かうことにしたわ。

 まだしばらく母様はアマティスタ侯爵家に滞在してもらう必要があるけど、なるべく不自由はさせたくないのよ。だけどハンターはライセンス剥奪の上で捕縛したし、以前より母様の安全は確保されているから、あたしも会いに行きやすくなったし、近いうちに家を買うつもりだから、そうしたら母様にも住んでもらいたいわ。


「送ってくれてありがとう」

「当然のことじゃないですか」


 あたしと結婚したことで、母様は大和の義母ははになった。だから大和にお願いしていた護衛も、結婚と同時に解約されている。というか大和に無理やり解約させられたわ。家族を守るのは当然なのになんで金を取らなきゃいけないんだ、って母様と一緒に怒られちゃったわ。すごく嬉しかったけどね。


「お帰りなさいませ、アプリコット様。ようこそいらっしゃいました、プリムローズ様、大和様」


 アマティスタ侯爵家のメイド長、ラミアのミュンさんが出迎えてくれたんだけど、ちょっとイラッとしちゃったわ。今までは大和よりあたしの名前が先に呼ばれる理由もあったし、大和はあたし達親子の護衛という建前もあったから仕方ないんだけど、あたし達は夫婦になったんだから、夫の名前を先に呼ぶのが普通じゃない。ミュンさんは知らないから、今まで通りに対応してくれただけなんだけど、それでも一言いっとかないといけないわね。


「ミュンさん、実はあたしと大和は、昨日結婚したの」

「それはおめでとうございます。知らぬこととはいえ、失礼を致しました」


 さすがはアマティスタ侯爵家のメイド長だわ。理解が早い。


「すぐにフレデリカ様をお呼びいたしますので、恐れ入りますが少々お待ちくださいませ」


 と思ってたんだけど、慌ててフレデリカ侯爵を呼びに行っちゃった。あたし達の案内はタイガリーのメイドに任せてはいるけど、メイド長としてそれはどうなのかしら?


 とりあえずあたし達は昨日の応接間に通されたけど、あたしと大和は母様を送ってきただけなのよね。この後はクラフターズギルドに寄って、それからハンターズギルドで依頼を受けてから牧場に行って、簡単に狩りをしてからミーナと待ち合わせだから、予定はけっこうビッシリよ?


「お待たせしてごめんなさい」


 この後の予定をどうしようかと考えてはじめた矢先、フレデリカ侯爵がやってきた。思ったより早かったわね。


「只今戻りました、フレデリカ様。申し訳ありませんが、またしばらくご厄介になります」

「お帰りなさいませ、アプリコット様。昨日は楽しめましたでしょうか?」

「はい。ミュンさんからお聞きになったと思いますが、昨日娘が大和君と結婚しましたので、遅ればせながらご報告させていただきます」

「おめでとうございます。遠くないうちにご結婚されると思っていましたが、心からお祝い申し上げます」


 固いわねぇ。かたや元とはいえ公爵夫人、かたや侯爵家現当主だから、ある意味じゃ仕方ないのかもしれないけど、あたしが家を継いでいたら、こんなことは日常茶飯事にだったのよね。正直あたしに貴族の立ち居振る舞いができるとは思えないから、そう考えるとけっこうな恐怖だわ。


「ありがとうございます。俺達は互いにハンターですけどGランクということもありますので、近いうちにみなさんを招待して、小さな披露宴でも開きたいと思います。その際は侯爵も参加していただけるとありがたいです」


 そういえばエドとマリーナには、合同で披露宴をやろうってことを言うの忘れてたわ。よく考えたらリチャードさんとタロスさんには結婚したことすら伝えてない気がする。そこはエドから伝わってるかもしれないけど、さっき装備製作依頼を出してきたし、忘れられてるような気がしないでもないわ。


 まあいいわ。外堀から埋めればいいだけだから。エドが考えた新しい魔法はおそらく奏上されると思うし、レティセンシアとの件が落ち着いて大丈夫だと判断できたら金剛鋼アダマンタイトベースの瑠璃色銀ルリイロカネの存在も公表してもらうことになるから、おそらくエドはGランクに、もしかしたらPランクにランクアップできるかもしれない。あ、経験が足りないから、そこまでは無理か。


 だけどエドが名声を得るのは間違いないし、リチャードさんの孫ってことで領代も面識があるみたいだから、断られることもないでしょう。


「ありがとう、是非参加させていただくわ」

「それと、これはまだ本人達に確認をとってないんですが、アルベルト工房のエドとマリーナの披露宴も合同でやろうと考えてますので、そちらも了承いただけると助かります」

「リチャード師のお孫さんね。話には聞いてたけど、ついに彼も結婚するなんて、これはお目出度い話だわ。もちろん問題ないわよ」


 予想はしてたけど、随分とあっさり承諾してくれるわね。こっちとしては助かるからいいんだけど。


「それで、二人はこれからどうするの?」

「クラフターズギルドに獣具製作依頼を出していますし、正式に獣車製作依頼もしようと思ってるので、まずはそちらへ行きます。その後でハンターズギルドへ行って、簡単な依頼でも受けようかと」

「それは助かるわ。ヒポグリフがいれば遠出も苦にならないだろうし、何よりハンターがいない現状では、どうしてもあなた達に頼ることが増えてしまうから、少しでも依頼を受けてくれることは領代としても私個人としてもありがたいわ」

「狩りをしてこそのハンターですからね」

「その言葉、私としても耳が痛いわ」


 なんでかしら?そもそもフレデリカ侯爵は領代としてフィールを支えてくれているんだから、そんなことで耳が痛くなるはずはないし、そもそも大和が言ってるのはあのクズどものことだから、侯爵には関係ないんですけど?


「私もハンターズギルドに登録はしているのよ。と言ってもCランクだから一人じゃ何もできないし、何より今は領代としての仕事もあるから、狩りに行くことはできないのよ」


 フレデリカ侯爵もハンターだったのね。それなら納得だわ。というか他にもギルドはあるのに、何故にハンターズギルドに登録を?


「アミスターの貴族は王家も含めて、どこかのギルドに登録しなければならないのはご存知かしら?」

「はい。それは有名ですから。確か友好国のバレンティア竜国、トラレンシア妖王国も同様だったと記憶しています」


 なるほど、それでハンターズギルドに登録をしたのね。でも多くの貴族はクラフターズギルドかヒーラーズギルドに登録することが多いって聞いてた気がするんだけど?


 大和が、そうなの?って感じで視線を向けてくるけど、そうなのよ。騎士や兵士でも貴族出身ならどこかのギルドに登録してるけど、騎士の家に生まれた人はその限りじゃないから、大半の騎士や兵士はどこのギルドにも登録をしていないわね。

 そんな事情があるから、レックス団長とミーナはギルドには登録してないけど、副団長のローズマリーさんはヒーラーズギルドに登録してたはずよ。快癒魔法ヒーラーズマジックがあるからヒーラーズギルド、それと王都に総本部があるクラフターズギルドに登録する人が多いみたいね。


「ええ。もちろんギルドへの登録は義務じゃないからしなくてもいいんだけど、何かあったときに快癒魔法ヒーラーズマジックがあるのとないのとではかなり違うから、できれば騎士団にはヒーラーズギルドに登録してもらいたいところなのよ」


 それは確かにそうだけど、ただ登録するだけじゃヒーラーズギルドだって大変でしょう。それにヒーラーって回復魔法の才能がないと大変だって聞いてるから、登録できるかどうかもわからないんじゃない?

 大和はハイ・ヒーリングまでなら使えるようになったけどブラッド・ヒーリングはまだ無理だし、あたしもノーブル・ヒーリングは使える気がしないわ。


「それがあったわね……。ヒーラーズギルドもクラフターズギルドも王都に総本部があるから国としても力を入れてるんだけど、それでも本人のやる気が繁栄されるクラフターと才能に左右されるヒーラーだと、クラフターになる人が多くなるのも仕方ないことか……」


 そう、ヒーラーズギルドもクラフターズギルドも、どちらもアミスター王国の王都に総本部があるの。これはどちらもアミスターで設立されたギルドだからで、総本部が置かれるのは最初に設立した国の首都が基本になっているの。商人が所属しているトレーダーズギルドの総本部はリベルター連邦に、執事やメイドなんかの使用人を育てるバトラーズギルドはトラレンシア妖王国に、そしてハンターズギルドはアレグリア公国にあるわ。


「その問題に関しては、一朝一夕で解決はできないでしょう。そもそもヒーラーズギルド自体、まだ設立されて50年の新しい組織なのですから」


 それは確かにね。他のギルドは1,000年近く前に設立されてるから、歴史の長さじゃ比べるべくもないし、ヒーラーズギルドの理念は客人まれびとの世界に沿ったものが多いとも聞いているから、簡単にヘリオスオーブの人には受け入れられないのよ。公衆衛生に関しては徹底されたからあたしは理解できるけど、それでも納得できてない人、余裕のない人は少なくないと思うのよね。


「そうですね。私は回復魔法の才能がないので登録を諦めましたが、だからといって何もしなくていいわけではありません。何ができるかはわかりませんが、微力ながら力を尽くしてみることにします」


 それはあたし達もね。あたしも余裕ができたら、ヒーラーズギルドに登録しようかしら?一応ブラッド・ヒーリングまでは使えるし、頑張ればPランクぐらいまでなら……あ、ヒーラーズランクのPって、オール・ヒーリングだわ。広範囲回復なんてあたしには無理。


 人にはできることとできないことがあるって前にエドが言ってたけど、あたしもその通りだと思うわ。



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