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03・武具製作依頼

 俺とプリムの爆弾発言からようやく復活、というか渋々納得してくれたアルベルト工房の面々だが、マイライト山脈を挟んでレティセンシア皇国との国境があるという事実があり、しかもマイライト鉱山第四坑道の東には、魔物が寄り付かない地域が存在している。既にそこにはレティセンシアの工作員がいると目されており、近日中に俺とプリムに調査依頼が出る予定にもなっている。


 さすがにこのことは伝えていないが、他にもそんな地域、天然の結界に囲われた地域がないとは言い切れない。だけどマイライト山脈はヘリオスオーブでも指折りの難所に数えられていることもあって、並のハンターでは無駄に命を散らすことになる。


 だから落ち着いてから、そしてジェイドとフロライトの獣具が完成してからになるが、他にもそういった地域がないかどうかを、空から探せないかとも打診されている。ワイバーンがいれば騎士団も動けるんだが、今のフィールにワイバーンはいないし、そもそも空を自由に飛べる従魔を有しているのは俺とプリムだけだから、安全のためにも俺達に依頼を出すしかないわけだ。


 仕事がないよりマシだが、それでもけっこうこき使われてるよなぁ。


「すまんな。ではこの瑠璃色銀ルリイロカネを使って、二人の武器を作ることにしよう。形状はミスリルブレード、ミスリルハルバードが基本ということでいいかの?」

「それなんですが、俺が客人まれびとってことはもうご存知だと思います」

「うむ。エドとマリーナから聞いておる。驚いたが同時に納得もしたよ」


 俺は納得できないが、今する話じゃないからそれはいい。ストレージから情報端末状携帯型刻印具(じょうほうたんまつじょうけいたいがたこくいんぐ)を取り出すと、俺は日本刀の画像を写し出した。


「ほう、これは美しい剣じゃな」

「ああ、見事だ。大和君の世界には、こんな武器もあるんだな」

「これは刀、あるいは日本刀と呼ばれていまして、俺の育った国に昔から伝わっている武器でもあります。これを作ってもらいたいんですけど、いいですか?」

「もちろんじゃ。じゃがこの刀、じゃったか?その製法をワシらは知らん。形だけなら似せられんこともないが、そういうわけではないんだろう?」


 ヘリオスオーブの剣、というか武器は、炉で熱した金属を工芸魔法クラフターズマジックで変形させ、形が整ってから、魔力を込めた槌で叩くことで強度と硬度を高め、最後に冷水に浸すことで完成する。魔法付与をする場合は水に浸す前に専用の魔導具を使うことになるが、それでも金属が熱している間に終えなければならないため、場合によっては何度も炉に入れなければならない。冷水に浸して熱をとってしまってからでもできなくはないが、その場合は武器の性能は著しく低下するし、魔法付与も失敗する確率が高くなるため、緊急時でもなければそんなことは誰もしない。

 俺達がエビル・ドレイク討伐に向かう時は緊急でもあったから、リチャードさんとタロスさんはこの方法を使って晶銀クリスタイトを配してくれたんだが、そのせいで普通の魔銀ミスリル製の武器よりも性能が落ちていたな。その剣と槍は、今も俺達のストレージに入っている。


 対して日本刀の製法には、当然ではあるが魔法は一切使わない。

 細かい工程は省くが、まずは玉鋼たまはがねという砂鉄から作られた金属を熱し、丹念に槌を打ち付けて不純物を排除し、二枚に折り重ねながら十数回程鍛錬を繰り返す。

 さらに刀が折れないように、刀身が曲がらないように、そしてよく斬れるように、心鉄しんがねと呼ばれる柔らかい玉鋼に鍛錬した皮鉄かわがねでくるみ、それを熱して棒状に打ち延ばして形を整える。

 そして刃紋を作るために焼土刃やきつちばと呼ばれるものを塗り、高温で熱した後に急冷する焼き入れを行う。

 そして刀身や反りを確認しながら研いで仕上げ、最後に銘を入れる。

 細かい作業はまだあるが、大雑把に説明すると、これが日本刀の刀身の製法になる。


 まあ瑠璃色銀ルリイロカネを使うから、素材からして別物になるし、この製法でできるかどうかは未知数なんだけどな。


「ふむ、この刀という武器は、そういった製法で作られておるのか。いやはや、勉強になる」

「金属に含まれてる不純物があるから、武器によって当たり外れができるのか。しかもその不純物、必ずしも悪いってわけじゃないから曲者だな」


 簡単に説明すると、リチャードさんとタロスさんに関心されてしまった。金属に含まれている不純物を排除するっていう考え事態がないから、まさに目から鱗だったみたいだ。


 鋼は鉄に微量の炭素を含ませることで精製され、鉄よりも強く硬くなる。鉄にクロムを混ぜることで錆びにくいステンレスになるし、他にもステンレスより少量のクロムとモリブデンを加えたクロムモリブデン鋼、加熱することで元の状態に回復する形状記憶合金にも鉄が使われているが、鉄に混ぜることになるわけだからこれらも不純物と言えなくもない。


「鉄ではできるようじゃから、同じ鉄系統になる金剛鋼アダマンタイトでも可能じゃろう。瑠璃色銀ルリイロカネは未知数じゃが、金剛鋼アダマンタイトも使っているわけじゃから、やってやれないことはないと思う」

「確かにまずはできるかどうか、そこからですね。試作分も引き取るつもりですから、お願いしてもいいですか?」

「それはありがたいが、ワシらの手元にも置いておきたい。それは完成してから考えるとして、上手くいったらプリム嬢ちゃんの穂先や斧刃、鈎爪もこの製法でやってみようと思う」

「お願いします。それと大和、あたしの槍はあれがいいわ」

「わかった。ちょっと待っててくれ」


 俺は刻印具を操作して、別の画像を表示させた。

 写っているのは飛竜が翼を広げたような、そんな穂先をもった槍だ。


「これはまた……。斧刃が二つあり、しかもワイバーンの翼を模したデザインになってるのか」

「しかも穂先も長く、ランスのように突くことに特化しておる。これは普通のハルバードよりも使いこなすのが難しいぞ?」

「覚悟の上です。翼族のあたしにとって、翼を武器のデザインに盛り込めることは誇りと共に戦えることになる。だから難しくても、あたしはこの槍を使いたいんです」


 俺もプリムが翼族だってことを理解した上で、そういえばこんな槍があるぞって感じで見せただけなんだが、プリムの食い付きが凄まじかった。これ以外の槍は使わない、頼まないとばかりの勢いで、他の槍はけんもほろろに拒絶されてしまったからな。


「石突きがスピアになってるとか、マジでとんでもないな、この槍。大和の世界って、剣だけじゃなく槍もとんでもないんだな」


 すいません、刀と違ってこの槍は実物じゃないんです。CGで作られた架空の物なんです。もっと言ってしまえばただの絵なんです。


「これも面白そうではあるが、デザインはプリム嬢ちゃんに合わせて少し変えるべきじゃな。マリーナ、準備してくれ」

「は~い」


 準備って何のだ?


「この魔導具を借りるわけにはいかないから、あたしが絵にしておくんだよ。同時にデザインを、そうだね、あんた達はヒポグリフを従魔にしてるから、ヒポグリフをモチーフにしたものに変更して、見た目も女の子が持つような感じのデザインに修正するワケ」


 そういうことか。確かにそれは重要だ。それにプリムの翼は天使とか鳥のような白くて綺麗な翼だから、ヒポグリフの翼ともよく似ているし、俺としてもそっちの方がいいな。


「ってことは少し時間がかかるか?」

「だね。プリムの意見も反映させるから、完全に一からってことになるよ。それにそうなると見た目の色も大切になるから、そっちの希望も聞かなきゃいけないしね」


 うん、それだけでとんでもない時間がかかることが確定だな。つか刻印具を見ながら絵にするんだから、刻印具を置いてけってことにはならないよな?


「この絵を写すだけならすぐだよ。元のデザインを上に描いて、修正した最終案を下に描くんだ。それに工芸魔法クラフターズマジックを使うから、そんなに時間もかからないから安心していいよ」


 マリーナが言う工芸魔法クラフターズマジックはドローイングといって、図案や図面はもちろん、完成予想図や完成品に書く家紋や紋章なんかの作成にも使える、用途の広い魔法だそうだ。簡単に言ってしまえばお絵かき魔法なんだが、細部なんかは使い手の力量や感性にも左右されるから、ドローイングを使って同じデッサンをしたとしても、微妙に違う感じになることは珍しくないらしい。下手なやつだと、これはなんだ?っていうこともありえるらしいから恐ろしい。絵心のない奴は魔法を使ってもどうにもならんってことか。


 しかし快癒魔法ヒーラーズマジックもなんでもありかと思ったが、工芸魔法クラフターズマジックも大概だな。まあ魔法で作業することが多いんだから、ある意味じゃ工芸魔法クラフターズマジックが一番多いのも当然なんだろうが。


「それとですね、できれば防具も頼みたいんですけど?こっちは報酬に含まれてないから、ちゃんと買いますよ」

「それも大和君の世界のかい?」

「ええ、まあ……」


 すいません、これもゲームの物なんです。カッコいいデザインだし、瑠璃色銀ルリイロカネの他にもウインガー・ドレイクがあるから、素材はバッチリなんですよ。


「興味あるのう。どんなデザインかね?」

「そうですね。見た目はコートに近いですけど、プリムのバトルドレスみたいに装甲板をつけた感じになります。コートですから羽織るだけでいいし、緊急時に鎧を着るよりも早いんじゃないかって思って」


 半分は建前だが、半分は本音だ。もちろん手甲と足甲も瑠璃色銀ルリイロカネで作ってもらうし、ズボン系もウインガー・ドレイクの皮で作ってもらう予定だ。今使ってる装備は刻印化のテストに使う予定だから、無駄にするつもりもないぞ。


「なるほど。確かにそれは悪くないな。だがいいのかね?君が客人まれびとということは、そう遠くないうちにアミスター国内に広まるだろうが、それとは別に君がデザインした鎧は、必ず誰かが真似をするぞ」


 それは仕方ないし、それぐらいでいちいち目くじら立てるつもりもない。それに流行を作るつもりでもないし、そもそもただ着てみたいっていうだけの理由だから、真似されても別に構わない。


「それならいいんだが、狙われないように気を付けてくれよ?まあ君達の持ち物を狙うなんて、自殺行為以外の何物でもないが」


 ええ、その場合は遠慮なく返り討ちにしますよ。


 そんなわけで俺達は、完成した瑠璃色銀ルリイロカネ、そしてストレージに保管してあったウインガー・ドレイクを一匹使うことで、念願のオーダーメイドの装備を依頼することになった。

 ストレージから出てきたウインガー・ドレイクを見た工房の皆さん方は、目を見開いて絶句していたが、俺達だからってことで納得されてしまったことが納得できなかった。

 完成はいつになるかわからないと言われたが、最優先で作ってくれるそうだから、また数日したら来てみよう。

 いやぁ、楽しみだなぁ。

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