34・決着
Side・ミーナ
大和さんとプリムさん、ハイクラスの中でも、おそらくは上位の実力を持つお二人が全力で向かい合っている姿は、本当にすごい光景です。
魔力が拮抗しているばかりか、お互いの隙を見つけることができず、一歩も動くことさえできない……こんな勝負、見たことがありません。
昨夜魔銀亭でレベッカちゃんに焚き付けられたとはいえ、最初に大和さんと出会い、それからずっと一緒に過ごしていたプリムさんからと順番まで決めてしまった私達ですが、こんなことになるとは思ってもいませんでした。
何度かお会いして思ったことですが、大和さんの想いは間違いなくプリムさんに向いています。
ですがプリムさんは気が付いていませんし、大和さんもプリムさんの想いに気付いていません。
だからなのか、プリムさんは動くことを決められましたが、それは大和さんも同じだったようです。
悔しいですけど、お似合いのお二人なのですから、素直に祝福できます。
そんな私にも、プリムさんはチャンスをくださいました。
順番を決めていたとはいえ、プリムさんは認めてくださったんです。
だからこそ、私達はここから動くこと、逃げることは許されません。
ここで逃げてしまえば、私には権利がなくなってしまいます。
皆さんはそんなことは言わないでしょうが、私自身が納得できません。
それが大和さんに一目惚れしてしまった私の義務、責務でもあります。
どんな形になろうと、私は決着がつくまで、絶対にここを動きません。
だから勝ってください、大和さん。
Side・フラム
お二人と初めて会ったのは、私の故郷のプラダ村でした。
その時は少しお話をして、魔法の使い方を教えていただいたぐらいでしたし、フィールに行くことがあったらお礼を言おうと思っていた程度でした。
ですがフィールに来てから、私は二回も、それも同じ日に、同じような相手に、同じような方法で人質になってしまいました。
その私を助けてくれたのが大和さんです。
その時私の胸は高鳴り、初めての気持ちに戸惑いました。
夜、妹のレベッカに言われて自覚しました。
これが恋なのだと。
ですがお二人も大和さんに恋をしていて、聞く限りでは大和さんの気持ちはプリムさんに向いているようでした。
ですがここはヘリオスオーブ。
女性比が高いこともあって、昔も今も、身分を問わずに一夫多妻が普通の世界です。
大和さんの気持ちがプリムさんに向いていたとしても、他にも大和さんに恋している方がいたとしても、大和さんと結ばれることの障害にはなりません。
それどころかお二人も、私と同じことを考えていました。
ですがここで恐怖に負けて逃げてしまえば、それは私にとっては越えられない障害となるでしょう。
だから私は見届けます。
大和さんの勝利を信じて。
Side・プリム
すごいわ、大和。
私は翼族であることに誇りを持ってるし、私と互角の魔力を持ってた人なんて、ハイクラスにもいなかった。
後で聞いた話じゃ、私は翼族の中でも保有魔力が多すぎて、その魔力に振り回されるんじゃないかって言われていたそうよ。
その証拠かどうかはわからないけど、ハイクラスへの進化もレベル49になってからだった。
平均するとレベル45あたりで進化するといわれているから、あたしはかなり遅かったことになる。
だけどその進化も、大和からアドバイスをもらってなければできなかったかもしれない。
だからあたしは、大和には感謝している。
だから今、あたしはあたしの出せる全ての力を振り絞って、大和と向かい合っている。
傍から見れば槍を持っているあたしの方が有利に見えるかもしれないし、実際に剣と槍だとこの間合いは槍の方が強い。
近接されてしまったら剣の方が有利だけど、あたしにはそのつもりはない。
武器の問題はあるけど、その前に勝負を決めるつもりよ。
だけど大和には隙が見当たらない。
迂闊に動けばすぐに接近されて、あたしの負けが確定する。
こんなにギリギリの勝負をしたことは、一度もない。
それに魔力も今は拮抗しているけど、あたしはもう限界に近い。
対して大和は、まだまだ余裕があるように見える。
翼族でもないのに、翼族の中でも最高クラスの魔力を持つあたしより魔力量が多いなんて、客人っていうのは理不尽な存在よね。
いえ、大和は刻印術師だし、両手に刻印を持っている人は大和の世界でも少ないっていう話だから、ある意味じゃ翼族と似たような存在なのかもしれないわね。
だけどいつまでも睨み合っているわけにはいかない。
このまま何もしないまま、魔力切れで敗退なんて、あたしのプライドが許さない。
それに何より、あたしにとってこの勝負の勝敗はどうでもいいこと。
大和と全力を出して戦うことに意味がある。
だから行くわよ、大和。
あたしの全てをかけて。
Side・大和
互いに武器を構えて向かい合って、どれぐらいの時間が経っただろうか?
何時間も経っている気もするし、数秒しか経ってないような気もするな。
俺の方がレベルが高いから魔力も俺が上だと思っていたが、翼族の魔力を甘くみていたかもしれない。
互いの魔力は中央付近で拮抗しているし、審判のカミナさんも辛いかもしれない。
だけど俺の目にはプリムしか写っていない。少しでも油断すれば、あの槍で俺は貫かれるだろう。
剣道三倍段っていうのがあるが、魔法も刻印術もなしのこの勝負じゃ、俺とプリムの力量は間違いなく互角。
つまり槍を持ってるプリムを相手に、俺が勝てる可能性はかなり低いってことになる。
それにこのままじゃ、いずれどちらかの魔力が尽きてしまう。
いや、プリムの汗が尋常じゃなくなってきているのがわかるから、おそらく先にプリムの魔力が尽きるだろう。
その場合は立っている俺の勝ちになるが、そんな決着なんて俺は認めない。
正々堂々と打ち合って、正面から打ち破れなければ、俺はプリムに勝ったと胸を張ることができない。
それに俺はまだ余裕があるとは言っても、多分ギリギリだ。
俺の魔力はプリムより少し多い程度ってことに間違いない。
両手に刻印がある刻印術師は魔力が多いらしいが、そのおかげでプリムの魔力を上回ってるだけだろう。
だから勝負をかけるなら今だ。
行くぜ、プリム。
この勝負、俺が勝つ……!
Side・カミナ
とてもとても長く感じた時間だけど、どうやらそれも終わりに近づいているみたいです。
プリムさんの様子がおかしくなってきているんです。息も荒いし、すごい汗をかいて……。プリムさんは翼族でもありますから魔力量が多いのはわかっていましたが、まさか大和さんの方が多いとは思いませんでした。
その大和さんはまだ余裕があるように見えますし、その目にはプリムさんしか写っていないみたいで、一瞬の隙も見逃さないとばかりに、瞬きもせずにプリムを見つめています。
先に動いたのはプリムさんでした。
翼を大きく広げ、フィジカリングで強化した身体能力を使って一気に大和さんの懐に、手にした槍を突き刺す勢いで突っ込んだんです。私の目でもかろうじて捉えられるかどうかといった、とんでもないスピードでした。
ですがそのプリムさんの突進を、大和さんは手にしていた木剣で受け流しました。さすがにプリムさんの勢いを完全に殺すことはできなかったようで反撃には至りませんでしたが、大和さんにはプリムさんの動きが見えていた証拠です。
プリムさんもそれは予測していたようで、驚いた様子もなく次の一撃を、槍を長く持ち替えて薙ぎ払っています。
普通ならこれで決着なんですが、大和さんはこれでも読んでいたようで、剣を構えて受け止めました。
ですがその衝撃で木剣も木槍も砕け、辺りに破片が散らばっていきます。
プリムさんは手にした槍を手放し、大和さんは折れた剣を手にしたまま互いに接近し、格闘戦で決着をつけようとしています。
ですが寸前で大和さんが手にしていた剣をプリムさんに投げつけたことで、プリムさんは大きく体勢を崩してしまいました。
その隙をついて大和さんは、いつの間にか手にしていた折れた剣先を、プリムさんの喉元に突き付けています。
「まいった」
プリムさんの口から降参の言葉が紡がれました。
勝負ありです。
今一歩及ばなかったプリムさんですが、その満足そうな顔からは、悔しさは微塵も感じられません。
対して大和さんは、心底安心したような表情です。
なぜお二人が勝負をすることになったのかは聞いていませんが、ただの模擬戦というわけではないでしょう。
互いの気迫も魔力も、間違いなく真剣勝負のそれでした。
事情があったのは間違いありませんが、それをただの受付嬢が聞くわけにはいきません。
ハンターにハンターの事情がありますからね。
それにしても、すごい戦いでした。
レベル50オーバーの模擬戦、いえ、真剣勝負を見たのは初めてですが、ここまですごいとは思いませんでした。
私はかろうじて目で追うことができましたが、他のみなさんは目が追い付かなかったのではないでしょうか?
ですが決着はつきましたし、みなさんも大きな拍手をされていますから、どんな戦いだったのかよりも結果が大事だったのではないかと思います。
私としても、これほどの高レベルの戦いを間近で見れたことは勉強になりました。ハンターを引退してそれなりに経ちますが、復帰しようかと本気で考えてしまいますね。
なんにしてもお疲れさまです、大和さん、プリムさん。




