表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/105

29・恋のジレンマ

 朝起きるとプリム、ミーナ、フラムの三人が、真っ赤な顔をして挨拶をしてきた。ガールズトークをするとは聞いていたが、いったいどんな話をしてたんだよ?

 聞いたところで答えが返ってくるわけじゃないし、色々と怖いから一生聞くことはないが。


 そんな三人になんて声をかけたらいいのかわからないまま俺達は朝食を済ませ、揃ってアルベルト工房に向かった。


「おはよう」

「おっす」

「おう、おはよう」


 工房に着くとエドとマリーナが出迎えてくれた。


「リチャードさんとタロスさんは?」

「お前らの武器をどうしたもんかって、昨日からずっと工房で考え込んでるよ」


 そういやエビル・ドレイク討伐の報酬って、リチャードさん作の武器だったっけな。忘れてたわけじゃないが、そっちは合金次第って思ってたからもうちょい先でもいいと思ってたんだけどな。


「それは俺も言ったんだけどな。合金が成功した場合でも予備にはなるだろうってことで、報酬とは別口で考えてるんだよ」

「ああ、なるほどね。確かに予備の武器は持っておくべきだし、そういうことなら頼むのもアリよね」


 確かにそうだ。合金が成功するにせよ失敗するにせよ、武器の寿命がどうなるかはわからない。戦闘中に過負荷がかかり過ぎて折れることだってありえるんだから、予備の武器を持っておくことは俺も賛成だ。


「だな。それなら俺も作ってほしい剣があるから、今の依頼が片付いたら聞いてみよう」

「そうしてくれ。二人とも昨夜はロクに寝てないみたいだからな」


 それはマズいだろ。事故にも繋がるんだから、睡眠はしっかりとった方がいいぞ。


「あたし達もそう言ってるんだけど、ああなった二人は止められないよ。ばあちゃんが生きてたら話は別だったんだけどね」


 エドのおばあちゃん、亡くなってたのか。


「気にすんなって。もう10年近くも前の話なんだからな」


 けっこう前だったのか。だけど確かに気にしてもどうしようもない。ここはエドの気遣いに感謝しておくか。


「わかった。じゃあクラフターズギルドに行こう」

 

 エドとマリーナも、ジェイドとフロライトに会うのを楽しみにしてたからな。クラフターズマスター ラベルナさんに依頼した獣具のこともあるから、まずは牧場に行かないとな。


「おはようございます」

「おはよう。紹介するよ。この子が君達の獣車を担当するフィーナだ」

「フィーナです。お二人のことはエドさんやマリーナさんからも聞いています。よろしくお願いします」


 クラフターズギルドに着くと、予想通りフィーナも待っていた。薄桃色の、背中まで届く長い髪に、ノースリーブの上着とスカートを穿いた、俺より年下に見える女の子で、腕には短い羽毛が、足には鳥の鱗が少しあるのがわかる。

 この世界に来てから思ったことだが、知り合った女性ってなぜかみんな美形なんだよな。


「あたし達もエドとマリーナから、腕のいい木工師だって聞いてるわ。設計図はまだできてないけど近いうちに完成できると思うからよろしくね」

「こちらこそ、大きなお仕事を任せていただいて、ありがとうございます」


 設計図すらできてない獣車だが、内装はリビングの他に風呂にトイレ、さらにはジェイドとフロライトの厩舎が確定している。寝室もいくつか作るつもりだから、当初の予定よりだいぶ広くなるな。


「こっちこそよろしくな」

「はい。内装は獣車の形が出来て、ミラーリングを付与させてから行うことになりますから、外装ができるまでなら変更も可能です」


 営業トークを挟んできたな。確かに内装変更の可能性がないわけじゃないから、余裕があるのはこっちとしてもありがたい。


「挨拶はそれぐらいにして、そろそろ牧場に行こうか。フィーナもヒポグリフを見るのは初めてだろう?」

「はい、マスター。私が任される獣車はそのヒポグリフが引くと聞きましたから、私も楽しみです」


 ヒポグリフが引く獣車がないわけじゃないが、従魔にしてる人は少ないって話だから、滅多に見られないのは間違いないな。


 俺もプリムも獣車への期待は高いし、フラム達も初めてヒポグリフを見るからかなり興奮している。ミーナも昨日ぶりとはいえジェイドとフロライトに会うのを楽しみにしてくれている。なのに三人とも俺とは顔を合わせてくれないし、話もすぐに途切れてしまう。

 俺はまったく心当たりはないんだが、微妙な空気をどうすることもできず、ギクシャクしながら牧場に向かうことにした。


Side・プリム


 牧場に着くとすぐに、ラベルナさんとフィーナがフロライトとジェイドに挨拶をしてから獣具の寸法を測り始めたんだけど、あたしは、あたし達はまだ大和とまともに顔を合わせることができないでいる。大和は何も悪くないし、あたし達が勝手に意識して避けちゃってるだけなんだけど、そのせいで朝からずっとギクシャクしてしまっている。


「まだ大和さんとちゃんとお話しできないんですか?」


 事情を知ってるレベッカが呆れたように声をかけてくるけど、焚き付けたのはあんたなんだからね?わかってるの、そこんとこ?


「意識するのはわかりますし、当然だと思いますけど、それで大和さんとケンカとかになったら意味ないですよ?」


 痛いとこ突いてくるわね……。だけど確かにケンカとかは論外だし、愛想つかされちゃったりなんかしたら泣くしかないんだから、何とかしないといけないわね。


「大和さん、マイライトで従魔契約したって言ってましたけど、マイライトってどんなとこなんですか?危険だって話は聞いてますけど、実際に行ったことのある人って少ないし、山頂に行ったことある人はいないそうですから、どんな様子なのか興味があるんです」

「あー、悪いが俺達も山頂にまでは行ってないんだよ。一応山頂付近までは行ったけど、そこまででよければ話せるぞ?」


 ラウスはマイライトが気になるようで、大和に話をねだってるわね。確かに山頂にまでは行ってないから話はできないけど、山頂付近までは行ったからそこまでの話はできるわね。

 空飛ぶ従魔を所有していてもマイライト山脈にはフェザー・ドレイクがいるから、迂闊に近づく人はいない。そのせいでマイライト山脈の山頂は未踏破地域になっているの。


「お願いします!」

「わかった。マイライトには森があることは知ってるよな?」

「はい、それは有名ですから。山頂付近にも森があって、そこがフェザードレイクの巣になってるんですよね?」

「ああ。けっこう森は深くて、植生はこの辺りじゃ見ない植物ばかりだったな。だけどずっと木が生い茂ってるかといえばそうじゃなくて、けっこう大きな広場みたいな空間がいくつもあった」


 ラウスは大和の話に興味津々ね。だけどこれは助かるわ。


「ラウスも皆さんのことは気が付いてますから、先に動いてくれたんですよ」


 と思ってたら計算ずくだったわ!何なの、この子達!なんでそんな熟練夫婦みたいなことができるの!?


「わかりやすすぎるからですよ」


 また心を読まれた!?違う、口に出てたのね!?怖いからその目はやめてっ!あたしを見透かさないでっ!!

 チラッとミーナやフラムの方を見たけど、二人も戦慄してるじゃないの!!


「とりあえず今やるべきことは、落ち着いて、恥ずかしがらずに大和さんとお話しすることですね」


 解決策まで示された!?この子、本当に心が読めるんじゃないの!?


 ……だけどレベッカの言う通りね。まずはゆっくりと深呼吸して落ち着かないと。


「妹ながら、恐ろしい子です……」

「だけどその通りですから、まずは落ち着きましょう」


 フラムとミーナも何とか落ち着こうとしてるけど、動揺は隠せてないのよね。あたしもそうだけど、今のままじゃヤバいのは間違いないから、頑張って大和と話せるようにならないと!


「昨夜は面白そうな話してたみたいね。こんなことならあたしも泊まればよかったかな」


 マリーナがそんなこと言ってくるけど、あたしとしては帰ってくれて助かったって思ってるわよ。マリーナまで加わったらどうなってたか、わかったもんじゃないもの。

 でもエドとの結婚秒読み段階のマリーナなら、良いアイディアを出してくれるかもしれないから、今度相談してみようかしら?


「プリム」


 そう思った矢先に、いきなり大和から話しかけられた。心臓が飛び出るかと思ったわ。


「な、なに?」

「あれを見ろ。タイガーズ・ペインだ」

「え?」


 なんでこんな所に……って馬か何かを奪って逃げようって算段ね。誰がそんなことさせるもんですか。


「行くか」

「そうね」


 視線を交わして頷き合うと、あたし達は厩務員に何か言ってるタイガーズ・ペインを捕まえるためにフィジカリングとマナリングを使い、二人そろって一気に加速した。


「な、なん……ぎゃあああああっ!!」


 あたし達は一瞬でタイガーズ・ペインの意識を奪うと、ストレージにあったロープで捕縛して、厩務員に騎士団への連絡をお願いしてから、視線を放牧地にいるジェイドとフロライトに向けた。


「予想通りだけど、あっけなかったな」

「タイガーズ・ペインはハイクラスはおろか、レベル40オーバーすらいないしね。人数も多くはないからこんなもんでしょう」


 こんなところで遭遇するなんて、タイミングが良かったのか悪かったのか判断が難しいけど、大和と自然に話せるきっかけになったんだから、今回に限っては良かったってことにしときましょう。


「ごめんね、大和。ちょっと色々あって、考えさせられることがあったから」

「ああ、今朝のことか。いや、大丈夫ならそれでいいさ」


 良かった、謝ることもできたわ。大和も怒ってないみたいだから、これで昨日までみたいに自然に話せるわ。


「ひょっとしてミーナとフラムもか?」

「ええ。問題はないから二人も許してあげてくれると助かるわ」

「別に怒ってないしな。何かあったのかと思ってたけど、そうじゃないなら問題ない」


 大和が怒ってないことには安心したけど、だからって安心してばかりじゃダメよね。恥ずかしい、照れくさいって気持ちはあるけど、それで大和と話せなくなったりしたら本末転倒だわ。

 やっぱりここは、早めに告白するべきかもしれない。

 でも断られたりしたらどうしよう……。ううん、怖がってちゃダメ。女は度胸。当たって砕けろよ。

 自分で言っててなんだけど、絶対に砕けたくないわね……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ