27・進捗状況
「そうだな、見た感じは金剛鋼より深い青って感じだな。軽く魔力を流してみたが、金剛鋼よりスムーズだったぞ。固まったら変わる可能性もあるからなんとも言えないし強度や硬度はわからないから、今言えるのはこれぐらいだな」
エドが試作合金の説明をしてくれている。魔力に関してはいい感じだが、まだドロドロに溶けてる状態だから完全に冷ましてみないとわからないらしい。確かに固まらないと硬さとか強さはわからないから、これは仕方がないな。
「俺としては魔銀に金剛鋼と晶銀を少量加えて、ってのを考えてたんだが、まさかインゴット一本丸々ブチ込むとは思わなかったな。合計三本のインゴットを使ってるんだから、重量は単純計算でもインゴット三本分だろ」
ヘリオスオーブにもインゴットはあって、専用の機材とデフォルミングっていう無属性魔法を使えば簡単に作れるらしい。簡単って言ってもデフォルミングは形を変えたり整えたりする魔法だから、クリエイターズギルドが規定しているサイズに足りなければ、金属塊を熱して少し溶かしてから混ぜ合わせて、冷えて固まってからデフォルミングを使わないといけないらしい。
ちなみにこの世界のインゴットは重さを測るためのものじゃなく、素材として使いやすくするために大きさを揃えた物になっている。標準的なインゴットで50×20×10っていうサイズになってて、他にもこれの倍とか半分っていうサイズのインゴットも存在しているぞ。
「あ……」
って言ってみたらエドが固まった。考えてなかったのかよ。
「まあインゴット三本分の重さだから、三分の一にすればいいだけだけどな。多分同じ大きさのインゴットと比較すれば金剛鋼よりは軽くなるんじゃないか?」
「大和、てめえ……」
いや、簡単な計算問題だろ。それぐらい始める前に気づけよ。
「エドって計算とかが苦手なんだよ。何か作る時だって、いっつも目分量や感覚でやるから、いつか失敗するんじゃないかって口を酸っぱくして言ってるし、リチャードじいさんやタロスさんからも注意されてるんだけどねぇ」
マリーナが暴露してくれた。それは確かにマズイだろ。店売り品とかなら多少の性能差はなんとかなるかもしれんが、依頼とかじゃ致命的だぞ。
「いざって時はマリーナやフィーナが手伝ってくれるから大丈夫だ」
「他力本願かよ。少しは自分で覚える努力をしろよ」
「人には出来ることと出来ないことがある!」
格言っぽく言うなよ。マリーナは呆れてるぞ。
「もう慣れたけどね。それに最近はフィーナも手伝ってくれるから、あたしの手間も減ってるし」
ハーピーのフィーナか。というかフィーナって、クラフターズギルドの身請け奴隷だろ?なんでお前らの手伝いができるんだよ?
「身請け奴隷は犯罪奴隷みたいに、朝から晩まで休みなく働くってわけじゃないぞ。少ないとはいえ給金も出るし、休みもある。しかもフィーナは腕もいいし仕事も丁寧だから、こっちから頼んで工房に来てもらうこともあるんだよ」
なるほど。
というか身請け奴隷って、すげえ金がかからないか?いくらで身請けしたのかは知らないが、行ってしまえば出稼ぎ労働者と変わらない。違いがあるとすれば借金が無くなったり家族に身請けした時に得た金がすぐに入ることぐらいか。しかも条件を達成したら奴隷から解放されるし、奴隷でいる間の衣食住は主人が用意することになってるから、奴隷を買うメリットが見つけられないんだが?
「あるよ。普通に人を雇うより安いし、奴隷だから情報を漏らすこともない。初期コストこそかかるけど、その金額を稼ごうと思ったら少ない給金を貯めるしかないし、最低でも数年はかかるわね。人によっては解放される前に死んじゃうことも珍しくないから、意外と解放される人って少ないんだよ」
簡単に考えて身請けしたら、死ぬまで奴隷のままって可能性のが高いのか。休みがあるとはいえ、金が使えないのは痛い。衣食住の心配はしなくていいとは言っても、それじゃストレスも溜まるよなぁ。
「すごいです!そんな金属ができたら、世界が変わりますよ!」
ラウスが目を輝かせているが、気持ちはわかる。成功すれば魔銀以上の金属になるかもしれないんだからな。
「俺もそう思って引き受けたんだよ。まさに革命ってやつだな。だけどかなり魔力を使うから、実際に作るとしても、クラフターズギルドでも魔力の多い種族かレベルの高い人でもないと難しいな」
そうなのか?そういえばデフォルミングにしろアジャスティングにしろコネクティングにしろ、そういった工芸魔法と呼ばれる魔法は、クラフターズギルドに登録しないと使えないんだったな。
工芸魔法はクラフターズギルドに登録していれば使うことができる無属性魔法だが、当然除名されたりすれば使えなくなる。
他にもトレーダーズギルドに登録すれば武器や防具、魔導具の素材を見抜けるインヴェスティング、素早く計算するためのカウンティングという商業魔法が、ヒーラーズギルドに登録すれば毒や麻痺を治すことができるディスペリング、風邪や頭痛、腹痛などの軽病に効果のあるキュアリングという快癒魔法を使うことができるようになる。
もちろんハンターズギルドにも、地図に現在地を示すことができるサーチング、迷宮内限定だけど地図を作成することができるマッピング、ライセンスやライブラリーに倒した魔物の数と場所が表示されるクエスティングっていう狩人魔法があるぞ。特にクエスティングは依頼を受けた魔物を、ちゃんと指定された地域で狩れているか確認ができるし、依頼数も確認しやすいからけっこう便利だ。
といっても俺もプリムも、さっきカミナさんに教えてもらうまで知らなかったんだが。登録時にもらった注意事項の紙にも明記してあるんだそうだ。確認って大事だよなぁ。
「エドでも難しいの?」
「難しいな。幸い俺はフェアリーハーフだからできなくはないが、タロスさんは無理だった」
エドはフェアリーハーフ・ドワーフ、マリーナはフェアリーハーフ・ドラゴニュートだから、普通のドワーフやドラゴニュートよりも魔力は多い。これは二人ともフェアリーが交じってるから魔力が多くなってるだけで、ハーフだから多いってわけでもないぞ。
「リチャードさんは?」
「じいちゃんはできそうだが、実際に試したわけじゃないから何とも言えないな」
「どっちにしてもリチャードじいさんには、武器を打ってもらうために魔力を残しといてもらわないといけないから、インゴット作成はできないと思うけどね」
ああ、それがあったんだった。インゴットを作るだけでそれだけの魔力を消耗するなら、武器を打ったりすればどれだけ消耗するか想像もできないな。
「まあ全部できてからの話だけどな。早ければ明日にはわかるが、大和の話を聞く限りじゃ配分も重要っぽいからそっちも考えなきゃいけねえと思う」
だなぁ。素材の配分によって強度や硬度が変わるのはよくある話だし、使う金属によっても変わるから試行錯誤は必須だ。早く完成してほしいが、焦って粗悪品になったりしたらたまったもんじゃないから、こればっかりはエドとマリーナに任せるしかないな。
「あたし達には頑張ってとしか言えないけど、無理はしないでよ?」
「もちろん。あたしが倒れたら、誰も工房の人達を止められなくなるからね」
それもそれでどうかと思うぞ。
だけどホント、無理だけはしないでくれよ?
「出来る範疇でなんとかやるさ。で、俺とマリーナは帰るが、他はどうするんだ?」
おっと、そうだった。まあ答えは決まってるんだが。
「泊めるよ。ああ、お前らも俺が送っていくぞ」
「Gランクハンターが護衛してくれるなんて、なんか贅沢ね」
「だな。っていうか、そこまで気を使わなくてもいいんだぞ?」
「そうはいかないわよ。あいつら、何をしでかしてくるか想像できないんだから」
まったくだ。まあ連中が気が付いてないとか、既に逃げ出す算段をしてる可能性も高いんだが、用心に越したことはない。
「というか、私達が泊まるのは確定なんですか?」
諦めろ、レベッカ。というか今日だけで二回もバカどもにからまれたんだから、安全を考えれば俺達と一緒にいた方がいい。見ろ、既にミーナは諦めてるぞ。
幸いアルベルト工房に向かう途中に魔銀亭があるから、プリムにミーナ達を任せることができるし、俺はついでに軽く町を見回るつもりでいる。さすがに簡単に見つけることはできないだろうけど、騎士団が門を封鎖するから町の外に出ることもできない。時間をかければバカなことをするバカは絶対に出てくるから、最悪の場合はバカどもが泊まってる宿に押し入ることも考える必要があるだろうな。
「ホントはあたしも行きたいんだけど、みんなのこともあるし、一気に殲滅するなら大和の刻印術の方が適してるしね」
うむ、広域系は本当に便利だからな。しかもソナー・ウェーブにドルフィン・アイの併用で不意打ちにもしっかり備えてるから、少なくとも俺に死角はない。と、思う。
「それに大和のフィジカリングとマナリングなら、多分あいつらの攻撃は一切効かないと思うしね」
フィジカリングを使えば肉体の防御力が、マナリングを使えば装備品の防御力が上がる。その防御力は、話を聞く限りではゲームとかと同じようにレベルの低い相手からの攻撃をシャットアウトすることができる。さすがに怖くて試したことはないが、今の俺のレベルならレベル20代の攻撃はほとんど無効化できて、レベル40代が相手でもハイクラスでもなければ致命的な攻撃を受けることはほぼないらしい。
もちろんフィジカリング、マナリングを使ってればの話で、使わなければレベル1の人間でも殺すことができてしまう。だから寝ている時が一番危険なんだが、逆に寝ている時だからこそ使えるようにならなければ、使いこなしたとは言えないんだそうだ。
魔法に関しては遅れてると感じたことがあるが、無属性や固有魔法に関しては刻印術以上の魔法が多いことに、改めて驚いたな。




