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26・新たな指名依頼

「……というわけです」

「話はわかりましたしさっきも襲われましたから、俺としては問題ないですよ」


 俺、プリム、ミーナ、エド、マリーナ、フラム、ラウス、レベッカ、カミナさんの9人は、異郷の都でお食事中だ。

 え?カミナさんはいなかったはずだろって?うん、その通りなんだ。


 カミナさんは俺がダーク・ナイツとホワイト・ビークを捕まえて騎士団から事情聴取を受けてる時に姿を見せたんだが、どうやら俺とプリムに新しい指名依頼の内容を伝えるために探していたらしい。依頼内容はわかってたし、せっかくだからってことで誘ってみたんだが、猫耳をピクピクさせながら喜んでくれたな。


「あたしもよ。いい加減鬱陶しいし、聞く限りじゃもう半分ぐらいは捕まえてるみたいだから、早ければ明日中に終わるんじゃないかしら?」


 カミナさんが持ってきた指名依頼は、フィールにいるハンターの捕縛依頼だ。基本的に生死問わずだが、生け捕りが理想だとも言われている。始末した方が楽なんだが、後々のことを考えると情報があるのとないのとではかなり違うから、面倒ではあるがそっちも了承した。


「ついにそこまで来たか。これでフィールも静かになるな」

「まったくだね。やっと枕を高くして眠れるよ」


 エドとマリーナも嬉しそうだ。人質にされたフラム達も頷いていることから考えても、あいつらがハンターじゃなくただの盗賊だってことがよくわかる。


「ハンターズギルド入口にはサーシェス・トレンネルのハンターズマスター解任、並びにハンターの身柄を拘束する旨を告知しています。同時に大和さん、プリムさん、フラムさん、ラウス君、レベッカちゃん以外のハンターは、ライナス査察官の権限でライセンスを剥奪してありますから、既に彼らはハンターではありません。仮にフィールから逃げ出したとしても盗賊として手配されることになるので、彼らに逃げ場は一切ありません」


 ハンターズギルドも迅速な行動をしているが、ギルドとしても連中の行動は目に余るからってことで何度も注意してたそうだしな。それをサーシェスが握りつぶしてたどころか逆に奨励してたんだから、職員としてもかなり鬱憤が溜まってたってことなんだろう。


 現在フィールにいるハンター、っと、元ハンターどもは、俺達が捕まえたスネーク・バイト18人、ノーブル・ディアーズ16人、ケルベロス・ファング33人、マッド・ヴァイパー8人、ダーク・ナイツ26人、ホワイト・ビーク12人の113人で、残ってるのはタシターンズ・パロット15人、タイガーズ・ペイン20人、ノーブル・ソード17人、そしてサーシェスの護衛についているパトリオット・プライド14人の4レイド64人だそうだ。


 タシターンズ・パロットもたまに依頼を受けていたようだが、ホワイト・ビークと付き合いがあったみたいだから、おそらくはこいつらも外との連絡役を担っていたんだろう。タイガーズ・ペインとノーブル・ソードはどちらもCランクの集まりで、リーダーだけがBランクっていう他のレイドと比べると一段落ちるレイドだ。何にしても、騎士団も動いてるんだからこいつらは問題ないだろう。


 問題となるのはパトリオット・プライドだ。サーシェスの護衛について行ってるから今フィールにはいないし、レベル40オーバーが七人、うち五人がハイクラスに進化してるのはもちろん、他のメンバーも30後半って聞いている。王都で狩りをしてるとは思えないが、それでもレベルアップや進化してる可能性はあるから油断は禁物だな。


「本来でしたら国内のハンターズギルドに通達し、協力を仰ぎたいところなんですが、連絡手段がないのでできません。エモシオンには騎士団から報告をしてもらえることになったので、そちらからになるでしょう。エモシオンのハンターズマスターも処罰は免れませんが」


 だろうな。

 フィールから調査報告を受けたとはいえ、その後も目撃情報が絶たなかったんだし、バリエンテとの国境付近に移動してる可能性だってあったんだから、エモシオン側でも調査を行うのが当然だ。

 だけどエモシオンのギルドマスターはそれを怠ったんだから、下手をすればサーシェスとの内通を疑われるレベルだ。まあエモシオンのハンターズマスターはアミスター出身だから、単に事なかれ主義ってだけだろうが。


「エモシオンのことはよくわからないけど、そこでも噂は聞いてたから、その噂を放置してたことはもちろん、サーシェスとの内通が疑われてるってことね?」

「はい。いずれ査察官が派遣され、その上で処分が決まると思います」

「査察官って、ライナスのおっさんが?」

「いえ、ライナス査察官はフィールのサブマスターでもありますし、現在はハンターズマスターの業務も兼任されていますから別の者になります」


 どうやらライナスのおっさんは、事が落ち着けば正式にハンターズマスターに就任する可能性が高いそうだ。もちろん事前にアレグリア総本部に出向いて報告しなきゃいけないが、ギルドマスターになるにはレベル40以上かつハイクラスに進化していることが条件で、今のフィールで該当するのはライナスのおっさんしかいないんだそうだ。本人はすげえ嫌がってるそうだが、ハンターズマスターしか使えない魔導具もあるから早めに就任してもらうにこしたことはない。


「こちらが依頼書です。領代の御三方と騎士団団長の連名による指名依頼です。ご確認をお願いします」


 依頼内容はこの場にいる五名以外のハンターの捕縛。デッド・オア・アライブの文字がデカデカと躍っているが、申し訳なさ程度に可能ならば生け捕りで、となっていた。建前じゃ情報が大事だって言ってるけど、本音は連中の命なんかどうでもいいってことか。まあ下手に取り逃がしたりしたら何をしでかしてくるかわからないから、これで完全に決めるつもりなんだろうな。


「報酬は20万エルか。けっこう高いけど、早めにケリをつける必要があるし、どれぐらい時間がかかるかわからないから、これぐらいが妥当なのかもしれないわね」

「達成条件は全員の捕縛、あるいは殺害か。まあ一人でも逃がしたりなんかしたら、あっちに連絡を取られる可能性もあるし、そう考えると早めにタシターンズ・パロットを捕まえるべきか」


 ミーナ以外のみんなは何のことかわからないって顔してるが、問題が大きすぎるからあいつらがレティセンシアとつながってることは公表されてないんだよな。

 俺とプリムが知っているのは、レティセンシアの前線基地になっていると思われる、第四坑道東にあるらしい魔物が寄り付かない地域の調査依頼を打診されているからだ。


 なんでも天然の結界みたいなものがあるらしく、おそらくはそこにも天然の結界があるんじゃないかって推測されてるな。街とか村とかにある結界は、天然の結界を参考にして開発されたって聞いている。


「ハンターズギルドとしては準備は万全、俺達もいつでも動けるから、早めにケリをつけるべきだな。急がないとさっきみたいなことが起きるかもしれないし、街の人にも被害が出るかもしれない」

「そうね。さしあたってみんなには、今日はあたし達の泊まってるハウスルームに来てもらうべきかしらね」


 それが一番だな。

 ミーナは騎士団の一員だが騎士見習いで団長の妹、しかも俺達と親しいことは誰でも知っている。フラムはさっき人質にされたばかりだし、ラウスとレベッカもケルベロス・ファングとの一件があるから、俺達の知り合いだってことは知られてるだろう。つまり、どちらも狙われる可能性が高いってことになる。

 エドとマリーナも同じで、俺達が何度かアルベルト工房に行っていることは装備を見れば予想はできるだろう。その上で一緒に飯を食いにきてるんだから、二人も狙われるかもしれないな。

 迷惑をかけることになって心苦しいが、安全のためには魔銀亭のハウスルームに泊まってもらって、明日中に解決するのがベストだ。連絡員という可能性があるタシターンズ・パロットだけは急ぐ必要があるから、後で連中が泊まってる宿、もしくは逃げ出そうとしてるかもしれないから門に行ってみるか。


「ありがたいが俺は家に帰るぞ。例の件だが、けっこう面白いからな」

「あたしもかな。本当にできそうな感じがしてるから、そんなことで時間を無駄にしたくないんだよ」


 エドとマリーナがそう返してきたが、それは俺としてもすごく興味がある話だ。


「手ごたえがあるってことか。それはいいな。だけどたった一日で、そこまでわかるもんなのか?」

「そりゃ量も少ないからな。使ったのはそれぞれのインゴットが一本ずつで今は冷ましてるところだから、実際にどうなってるかは明日にならないとわからねえだろうが」


 インゴットを一本ずつ、計三本を混ぜたのか。適量を調べながらやってると思ったんだが、さすがに一日じゃそこまではできないか。


「でも冷ましてる途中でも、少しはどんなものになったのかわかるんでしょう?」


 プリムも興味津々だ。俺の思ってる通りの金属ができれば、武器の問題も解決するんだから期待は大きいよな。


「なんの話なんですか?」


 そこにラウスが口を挟んできたが、そういえばまだ説明してなかったな。


「ああ、悪い。いや、まずはこれを見てくれ」


 こっちが目的だってのに、あのバカどもの捕縛依頼に意識が持ってかれて軽く忘れてた。俺はライブラリーを、称号も隠さずに全員に見せた。


「レベル59って、なんで上がってんだよ。こないだまで57じゃなかったか?」

「ゴブリン・クイーンにゴブリン・グランドナイト、エビル・ドレイクまで倒されてますから、それでじゃないでしょうか?」

「ってことはプリムのレベルも上がってるね。というか、なんでそんな簡単にレベルが上がってるのさ?」


 エド、ミーナ、マリーナは俺のレベルに呆れていた。見てほしいのはそこじゃねえよ。


「この称号……大和さん、客人まれびとだったんですね……」


 フラムの一言で、全員が氷り付いた。


 客人がどういう存在なのかは、ヘリオスオーブじゃお伽噺にもなっていてかなり有名だ。しかもアミスターは過去に客人が王家に嫁いでいる国ということもあって、当然その人の業績も大々的に讃えている。そんな、ほとんど伝説になりつつある王妃様と同じ存在だってことは、驚くには十分なことなんだろう。


「なるほどな。鎧を着けたことがなかったのも合金とかってのの知識も、お前が客人だからだったのか」

「さっきの魔法も、異世界の魔法だったんだね。納得だよ」


 いち早く立ち直ったのは、やっぱりエドとマリーナか。全部その通りだよ。


「じゃあ大和さんは、いずれ元の世界に帰られるつもりなんですか?」


 不安そうな顔をしてるのはミーナだ。まだ出会って数日だが、既にエドやマリーナ同様俺にとっては気安い友人だから、悲しませるつもりはない。


「いや、俺の予想通りなら帰る方法はないな。仮にあっても、俺は帰らない。まだ数日しか経ってないけど、俺にはこっちの世界のほうが性に合ってる気がするしな」


「帰らないって、いいの?」


 プリムも驚いている。そういえば口に出したのって、これが初めてだな。だけど俺がこの世界に残ろうって決めたのは、プリムがいるからなんだよ。


「ああ。家族とか友達とかぐらいには連絡つくようならしときたいけど、幸い家は兄貴が継ぐし、もうじき結婚するはずだから問題ないしな」


 俺の実家は神社だが、そもそも俺は次男で末っ子だからな。家を継ぐのは兄貴って昔から決まってる。しかも結婚相手も決まってるから、大学を卒業と同時に式を挙げるだろう。


「そ、そうなんですか?」

「というか大和って、お兄さんがいたのね」

「姉さんもいるよ。だから俺が家を継ぐことはないから、将来何をしようかって向こうじゃよく考えてたな」


 多分軍か警察に入ってたろうけどな。


「それにしても大和さんが客人だったなんて、ビックリしました」

「本当にね。ですがこれで、大和さんのレベルにも納得がいきました」


 レベッカとカミナさんが何か言い合ってるな。いや、客人だからレベルが高いってわけでもないでしょ?というか、それを言ったらプリムはどうなりますか?


「翼族は魔力が翼の形をしてることもあって、レベルはそれなりに上がりやすいのよ。魔力の制御も上手い人が多いのも、翼族の特徴ね」


 なるほど、そういうことなのか。


 翼族がこの世界では特殊な存在なのは知ってたが、レベルが上がりやすいってことは魔力の使い方が上手いってことだし、魔力量も多い。当然魔力の制御も上手くなるから、魔法の精度も高くなる。フィジカリングを使っても翼族の方が全ての面で優れているから、多少のレベル差はものともしないし、ハイクラス相手でも正面から渡り合うことができるらしい。


 実際プリムの生まれ故郷であるバリエンテには、当時のプリムよりレベルの高いハイクラスも存在したんだが、誰一人としてプリムに勝つことができなかったって話だ。だからプリムは結婚なんか考えたこともないってアプリコットさんが言ってたな。

 今の俺のレベルが59でプリムも54になってるから、俺も勝てるかどうかは微妙なとこかもしれん。


 だけど落ち着いたら勝負をしてみたい。そしてもし勝ったら、思い切って告白してみよう。

 いや、もし、じゃない。絶対に勝ってみせる。

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