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24・クラフターズギルドにて

「まさか依頼してからたった二日で、これ程の数を狩ってくるなんてね……」


 ハンターズギルドでエビル・ドレイクの討伐報告とビスマルク伯爵の依頼を終え、牧場でクズどもからジェイドとフロライトを守った俺達は、クラフターズギルド フィール支部に来ている。グラス・ボアはまだ狩ってないがフェザー・ドレイクならビスマルク伯爵に渡したのを除いても八匹あるし、希少種のウインガー・ドレイクも四匹いるからすげえ驚かれたな。

 あ、ウインガー・ドレイクは俺達も装備を注文する際に使いたいから、二匹は手元に残しておくことにしたぞ。


「全部襲ってきたのを返り討ちにしただけですし、まだグラス・ボアは狩れてないんですけどね」

「いやぁ、グラス・ボアは騎士団の方でも動いてくれているから、私達としてはこっちの方がありがたいね」


 この人はクラフターズギルドのギルドマスターで、フェアリーのラベルナ・シュナイダーさん。Mランクの仕立師で、クラフターズマスターに就任した今でも現役だ。フェザー・ドレイクの皮と羽毛は仕立師や裁縫師にとっては最上の逸品の一つで、肉も美味い。希少種のウインガー・ドレイクは1ランク上になるから、見た瞬間に血沸き肉躍ったらしい。


「ねえ、ウインガー・ドレイクだけど、本当に半分しか売ってくれないの?」

「俺達も使いたいですからね。俺達の防具はそれなりに値打ち物ですけど、ウインガー・ドレイクには及ばない」

「あたし達だって希少な素材は使いたいしね」


 そういうことだから、二匹で勘弁してもらいたいところだ。ジェイドとフロライトがいるからマイライトに行けば狩れるだろうけど、さっきのことがあるからしばらく無理はさせたくないんだよ。


「その防具、私が仕立てようか?魔銀ミスリル晶銀クリスタイトも使うし、あんた達の魔力に合わせて仕立てるから、今あんた達が着てるやつより数段上の物が作れるよ?」


 クラフターズマスターが仕立ててくれるのは願ってもないことだけど、エド達が試してる合金が成功すればそっちを使うことになるから、頼むとしたら鍛冶師のエドと仕立師のマリーナになるだろうな。


 合金が成功した場合、クラフターズギルドに報告するのはいいんだが、レティセンシアにもクラフターズギルドはあるから、そっちに情報が行くのは絶対に阻止したい。

 まあソレムネは全てのギルドに対して高圧的に出てるし、レティセンシアはクラフターや職人を軽視してるから、クラフターズギルドとしても撤退を視野にいれてるみたいだが。


 それはそれとして、どうせなら頼みたいことがあるんだよな。だけど俺の独断ってわけにもいかないから、プリムにも聞いてみよう。


「プリム、例の件なんだけどな、ここで頼むってのはどうだ?」

「いいわね。作るとしてもクラフターズギルドに頼むことになってたんだから、獣車の件と合わせて聞いてみましょう」

「何の話なの?」


 よし、プリムも賛成してくれた。ラベルナさんは何のことかわかってないが、あれも仕立師ならできなくはないだろうから、多分やってくれるだろう。


 俺はエビル・ドレイク討伐の際にヒポグリフを助けて従魔にしたこと、群れの長がジェイドとフロライトのために自分の体を遺してくれたことを話し、そしてその体を使って獣具を作ってもらえないかを聞いてみた。


「是非ともやらせてもらうよ!ヒポグリフなんて扱ったことがないからね!」


 するとラベルナさんは、二つ返事で引き受けてくれた。


 獣具は従魔に乗るためには必須の物で、頭絡とうらく手綱たづなくらあぶみは最低限必要な防具と一体になっている装備品のことだ。さらにヒポグリフは体も大きく空を飛ぶ翼を持っているから、体型が馬やバトル・ホースと似ていても使うことができない。空を飛ばなければ使えるそうだが、それじゃ意味がないから買うことにしてたんだよ。


 だけど牧場にはヒポグリフ用の獣具は売ってなかったし、クラフターズギルドはもちろんフィールにはないってフィアットさんが教えてくれたから、特注で作成依頼をクラフターズギルドに出すしかないってことで、獣車の製作依頼と一緒に頼むことにしていたんだ。


「でだね、ヒポグリフの皮とかを少し融通してもらうことってできるのかい?」


 かなり遠慮がちにだが、ラベルナさんが報酬を要求してきた。

 ヒポグリフはただでさえ少ないって話だし、積極的に人を襲う魔物でもないし、モンスターズランクもPと高いから、素材はほとんど流通しない。ラベルナさんが欲しがるのも無理もない話だ。


「申し訳ないんですが、さっき話した通りの事情がありますから」

「そうだろうね。残念だけど仕方がない。ああ、獣具の件は私が引き受けるよ。明日牧場に案内してもらってもいいかな?」


 あっさりと引いてくれたな。こっちとしても助かるけど、ジェイドとフロライトがよければ羽の数枚ぐらいは報酬に加えてもいいかもしれない。

 明日の予定は昼頃に牧場でジェイドとフロライトを紹介して、今の体格で寸法を測って、さらにどれぐらい成長するかを予測して、それから製作に取り掛かってくれることになる。


 ジェイドとフロライトがまだ子供ということもあって、今獣具を作っても成獣になるまでに何度も作り直さなければならない。当然金もかかるし素材も必要になるが、アジャスティングという着衣調節魔法を上手く使えるように作ることで、作り直す回数を大幅に減らすことができるらしい。

 これはラベルナさんが考えだした製法で、予め大きめに作っておいて、それをコネクティングっていう無属性魔法を使って折り畳んで、アジャスティングでサイズを調整するんだそうだ。コネクティングを上手く使うことが大切らしいから、製作者の力量に左右される技術にある。だが難易度的にはさほど難しくないってこともあって、今じゃ獣具を作るにはこの製法が一般的になっている。

 ラベルナさんはこの技術の開発が評価されてMランクになったそうだ。


「ええ、お願いします」

「私としてもヒポグリフの素材を使ってヒポグリフの獣具を作るなんてことは、多分この先二度とないだろうから楽しみにしているよ」


 クラフターズギルドのギルドマスターに頼めるとは思わなかったが、これは俺達としてもありがたいな。獣具は武器や防具並に命を預ける道具だから、腕の立つ人に頼めるってことはそれだけ信頼性も高いし安心もできる。馬とかバトル・ホースとかならよっぽど下手なもんでもない限り大丈夫だろうけど、ヒポグリフは空を飛ぶんだから万が一の時がシャレにならん。


 とりあえず獣具はラベルナさんに任せることになったから、あとは獣車だな。


「いやラベルナさん、まだ話は終わってないですからね?」

「あ、ごめん。年甲斐もなく舞い上がっちゃったよ」


 気持ちはわからんでもないけど、まだフェザー・ドレイクやウインガー・ドレイクを買い取ってもらってないし、報酬ももらってないんですから勘弁してください。というか獣車を頼むって話は依頼を受けた時にも伝えてあるでしょうが。


「悪かったって。それで獣車だけど、ヒポグリフ用の厩舎を追加するってことだから、多分かなりの時間と費用がかかるよ?」

「具体的にはどれぐらい?」

「まだ設計図すらできてないから確かなことは言えないけど、おそらく一月は見てもらうことになるだろうね。費用も安く見積もっても70万エルは下らないだろう」


 ハイドランシア公爵家の獣車並か。まあ一番金がかかってるのは、間違いなく風呂だから仕方ないんだが。


「予想はしてましたし、神金貨が必要になるかもしれないって思ってますから大丈夫ですよ」

「わかった。腕のいいクラフターを用意するから、詳しくはそいつと煮詰めてほしい。私もできないわけじゃないけど、やっぱり専門外だからね」


 仕立師なんだから当然だよな。それに獣車も大事だが、獣具がないと遠出しにくい。マイライトからフィールまで飛んで戻ってきたけど、そのわずかな時間だけでもケツが痛くなったから、獣具は早めにほしいんだよ。

 そういえば獣具ってどれぐらいでできるんだろう?


「ラベルナさん、獣具ってどれぐらいでできそうですか?」

「まだ何とも言えないね。私もヒポグリフ用の獣具を作るのは初めてだし、実物を見たこともない。成獣がどれぐらいの体長になるかぐらいは知ってるけど、それでも一度見てみないことには、体型とかの問題もあるから答えられないっていうのが正直なところだよ」


 なるほど。確かにヒポグリフは馬やバトル・ホースとよく似た体型をしているが、前脚はライオンの足に鷲の鉤爪、後脚はライオンみたいな脚線にバトル・ホースの蹄になってるし、何より前脚の付け根から翼が生えてるんだから、獣具が干渉しないようにしなきゃ飛べなくなる。

 それなら見てもらってから判断してもらった方がいいよな。


「わかりました。幸い依頼は受けてないんで、明日牧場でジェイドとフロライトを見てもらってから、獣具と獣車の作成を依頼したいと思います」

「そうだね。もうじき日も暮れるし、明日にした方がいいだろう。こっちも急いで担当を決めておくよ。多分、あいつになるだろうけどね」


 多分あいつっていうのは、フィーナっていう木工師のことだろうな。


「あいつってフィーナですよね?」

「そうだよ。って知ってるのかい?」

「エドやマリーナの友達ってことで、二人から話だけは聞いてるんですよ」


 当たりだった。

 フィーナはクラフターズギルドに努めている身請け奴隷のハーピーで、元々はバリエンテにある村に住んでいたらしい。二年前に起きた飢饉のせいで村が危うくなったため、家族を守るために自らフィールの商人に身請け奴隷になることを申し出て、そのままフィールに連れてこられたんだが、元々木工師としての才能があったためにラベルナさんが買い取り、それ以降はクラフターズギルドで修業をしながら働いている。

 元々アミスターは身請け奴隷に対しても寛大、というか普通の人と変わらずに接するから、フィーナも特に問題なく過ごせていると思う。実際俺もエドからフィーナの名前を聞いてたし、近いうちに紹介してくれるって話だったからな。


「ああ、あの二人経由か。それなら納得だ。明日紹介できると思うよ」

「わかりました」


 獣車を作ってもらう以上、フィーナも牧場に同行するって思っておくべきだな。それにフィーナはラベルナさんの奴隷でもあるから、ついてきてもおかしなことはない。

 同じバリエンテ出身で、しかも貴族出身のプリムは思うところがあるみたいだが、魔物に畑を荒らされて、さらにはその村で起きた火事で蓄えが全滅したことが原因だから、プリムには直接関係ないだろう。フィーナの家には幼い弟妹がいたってことだから、働けるフィーナが身請け奴隷になることで家族を助けようとしたこともわからない話じゃない。

 とはいえ俺は奴隷っていう言葉には抵抗があるから、身請け奴隷ぐらいは言葉を変えてもいいんじゃないかと思ってる。俺には手に余る問題だが、できることなら何とか変えたいもんだ。

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