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23・傲慢な狩人達

Side・プリム


 ハンターズギルドでの報告を終えたあたし達は、足早に牧場に向かった。

 ハンターどもが狙ってる可能性がゼロじゃないし、あたし達のいないうちにフロライトとジェイドを殺してフィールから出ることも考えられる。もしそんなことをしたら絶対に許さないし、すぐに追いかけるけど、それが未遂であっても相応の対価を支払ってもらう。


「大和さん!プリムローズさん!急いでください!」


 そう思っていたら、まさに懸念していた事態になってたみたいだわ。ダークエルフのフィアットさんがあたし達の姿を認めるなり、飛び出してきたんだから。


「フィアットさん、何があったんですか?」


 大和が落ち着いた風をよそおってフィアットさんに訊ねた。だけど魔力が漏れてるから、怒ってるのは間違いないわ。


「は、ハンターがヒポグリフを出せって大挙してきたんです!仲間がケガをさせられたんだから、責任を取らせるって言って!」


 処刑確定ね。手加減する必要は一切感じられないわ。


「襲ってきたのはどこのどいつですか?」

「マッド・ヴァイパーです!」


 マッド・ヴァイパーか。人数は8人とレイドとしては少ないけど、全員がレベル40を超えてたはずね。半分以上はハイクラスに進化してたはずだから、ハンターズマスターの護衛についてるレイド、パトリオット・プライドとも同等じゃないかって言われてたはずだわ。あと全員素行が悪いってことでも有名ね。


「納得できるな。急ぐぞ、プリム」

「ええ」


 あたし達はフィジカリングを使って一気に放牧地に入った。

 すると予想通り、ジェイドとフロライトに剣を向けているバカどもが目に入る。というかジェイドが倒れてるけど、生きてるわよね?


「野郎……」


 あ、これはマズイわ。大和が完璧にキレてる。終わったわね、あいつら。


「な、なんだこれはっ!?」

「氷の結界だと!?」


 これって確かニブルヘイムだっけ?強力な結界だから破られることはないし、足を完全に氷らせてるから、あれ以上ジェイドに攻撃を加えることもできないと思うけど、魔法を使える奴もいるだろうから絶対じゃないわよ?


「俺達のいないところで、随分と好き勝手してくれてるじゃないか?」

「て、てめえか、この結界はっ!」

「さっさと解きやがれ!そのヒポグリフは俺達の仲間に手を出したんだ!てめえが責任を取るのが筋ってもんだろ!」

「勝手なこと言ってるんじゃないわよ?そもそもいつどこで、あんた達に手を出したって言うの?」

「街に入った直後に決まってるだろうが!」


 この時点で嘘ってバレバレね。最初っから信じていなかったけど。


「その時点でお前達の言ってることが嘘だってバレバレなんだよ。そもそも俺達は騎士団と一緒にフィールに入ってからここに来たんだ。誰も襲ってないことは騎士団が証明してくれる」

「この国の騎士団が信用できると思ってるのかよ?ふざけてないで結界を解いてそいつを渡せ!」

「ハンターズマスターの後ろ盾があるから調子に乗ってるんだろうが、生憎とそいつはもう解任されたよ。明確なスパイだっていう証拠が見つかったからな」


 大和の言葉に、マッド・ヴァイパーが怯んだのがわかる。


「か、勝手な事を言うな!なんであの人が解任されなきゃならねえんだよ!」

「そ、そうだぜ!あの人は国のことを第一に考えてくれてるんだぞ!」

「ここはアミスター王国内だ。レティセンシアのことを第一に考えるなら、まずは国の考えを直すのが先だろうが」


 まったく同意見ね。そもそもあれだけのことを仕出かしたんだから、発覚した以上普通に開戦ものだわ。その上ハンターズギルドまで敵に回してるんだから、どう考えてもレティセンシアに勝ち目はないし、逆に滅亡する可能性だってあるわね。


 それを言ってもまったく聞く耳持たずか。どうやらレティセンシア国内は相当荒れてるみたいね。他国の領土だろうと遠慮なく侵犯して、隙を見て乗っ取ろうとするなんて、まともな国家のすることじゃないわ。


「もういい。もうお前達と話すことは何もない。本当ならこのまま気絶させて犯罪奴隷にでもなってもらうところだが、俺達にケンカを売ったんだから相応の報いを受けてもらうぞ」


 そう言うと大和は、ニブルヘイムをさらに強く発動させて、マッド・ヴァイパー全員の足を砕いた。


「ぎゃああああああああっ!!」

「あ、足がっ!俺の足がっ!!」

「い、いってえええええっ!!」


 気絶させたと思ってたのに、そうじゃなかったのね。それだけで大和の怒りが強いのがよくわかるけど、そんな連中のことよりジェイドのことが心配だわ。フロライトの前にいるところを見るにかばってくれたんだろうけど、倒れたままだもの。

 っと、落ち着いて見てる場合じゃないわね。


「ジェイド!大丈夫?」


 急いでジェイドに駆け寄って様子を診ると、まだ荒いけど息をしていた。良かった、無事だわ。だけど急がないと。


「ハイ・ヒーリング!ブラッド・ヒーリング!」


 あたしは聖属性魔法も使えるけど、回復魔法はあんまり得意じゃない。だけどジェイドを死なせるわけにはいかないから、あたしが使える最高の回復魔法と血液回復魔法を急いでジェイドにかけた。

 聖属性は回復魔法と聖なる力を武器に宿すことができる魔法だけど、難易度は他の属性と比べても段違いに高い。回復魔法の方は固有魔法が治癒魔法の人ならあたしとは桁違いの回復力を発揮するけど、武器に宿すことは熟練の聖魔法師でも難しい。

 あたしもフレイム・アームズを開発してから何度か試してるけど、まったくできる気がしないわ。


 っと、どうやらあたしのハイ・ヒールが効いたみたいだわ。ゆっくりと傷が塞がって、荒かった息も落ち着いてきてる。失った血も増えてるはずだから、そのうち目を覚ますと思うわ。


「ありがとう、プリム」


 大和も安心したみたいで、さっきまでの殺気と魔力がなくなっている。

 従魔契約したばかりでも契約者と従魔の間にはつながりができる。ハンターズギルドでジェイドが襲われるかもしれないって大和が感じたのも、けっして不思議なことじゃない。だから大和が自分のことのように怒ることも喜ぶことも当然よ。


 でもね大和、いくら嬉しいからって抱き着かないでよ!そりゃあたしもフロライトを守ってくれたジェイドを見殺しにするつもりはないし、あいつらを許すつもりはないけど、でも恥ずかしいのよ!いや、もちろん嬉しいけどさ!尻尾が大きく振られてるのがわかるし、多分今あたしの顔は耳まで真っ赤になってるわよ!


「まさかハイ・ヒーリングどころかブラッド・ヒーリングまで使えるとは思いませんでした。もうジェイドは大丈夫です」


 フィアットさんが安心させてくれたけど、あたしはそれどころじゃないのよ!


「よかった……。フィアットさん、騎士団に連絡は?」

「してあります。もうじき来ると思いますよ」

「そうですか」


 ちょっと大和!いい加減離してよ!


「あ、ああ、ごめん」


 感極まってあたしに抱き着いてきたまでは良かったものの、やっぱり大和も恥ずかしかったみたいですぐに謝ってきた。別にそんなことはいいんだけど、ちょっと残念に思っちゃったりしちゃったり……。

 じゃなくて!


「どうするのよ、こいつら?両足が無くなってるんだから、犯罪奴隷にもならないわよ?」

「カッとしてやったが後悔も反省もしていない。むしろ命があるだけありがたいと思えってところだ」


 それはわかるけどね。失った体の一部を回復させようと思ったら、それこそ最上位の治癒魔法エクストラ・ヒーリングでもないと無理なんだから。治癒魔法師でも使える人は少ない魔法だから、こいつらごときが使えるわけがないし、使おうって考える人もいないでしょうね。


「クワァ……」

「あ、ごめん、フロライト。怖かったし心細かったわよね。ジェイドは大丈夫よ。だから心配しないでね」


 大和に抱き着かれた衝撃でフロライトのこと忘れてたわ。あたしと大和の間に割り込むように頭を押し付けてくるけど、家族を失ってすぐにジェイドまでいなくなったら大変なことになるところだったわね。フロライトが受けた恐怖がどれほどのものかは、あたしにもしっかりと伝わっている。本当に間に合って良かったわ。


「フィアットさん、ジェイドはどれぐらいで目覚めると思いますか?」

「私は獣医ではないので詳しいことは言えませんが、そんなに時間はかからないと思いますよ。それにしても強い仔ですね。お二人から聞いた話と体の大きさからの判断ですが、まだ飛べるようになったばかりなのは間違いないでしょうが、ヒポグリフに限らず魔物の子供は成獣に比べるとだいぶ力が落ちます。おそらくはGランクにも届いていないでしょう。なのに全員がSランクのマッド・ヴァイパーに、一歩も怯まなかったんですから」


 本当にそうだわ。フロライトにケガがなかったのも、ジェイドがかばってくれたおかげだもの。回復魔法で傷の治療と造血をしたとはいえ、しばらくはゆっくりと休ませないといけないわね。


 あの後すぐにジェイドは目を覚まし、フロライトが無事だったことを喜んだ。そしてあたし達の姿を見つけると、すぐに駆け寄ってきて頭を押し付けて甘えてきたわ。もう大丈夫ね。


 マッド・ヴァイパーはローズマリーさん率いる騎士団に引き渡したけど、大和が両足を砕いていたから犯罪奴隷にするのは難しいため、余罪がないかを調べてから刑が執行されることになったわ。余罪を調べるって言っても隷属の魔導具を使うから偽証は無理だし、ハンターズマスターが査察官権限で解任された今となっては後ろ盾もない。これはライナスさんがしっかりと契約魔法を使って文書にするそうだから、マッド・ヴァイパーだけじゃなく他のハンターも観念するでしょうね。


 隷属の魔導具は刑が確定するまでの簡易的なもので、一切の戦闘行為禁止、魔法使用禁止、偽証禁止、脱走禁止の契約をするぐらいね。それでも行動を縛ることができるのは大きいわ。


 結局マッド・ヴァイパーが引き起こしたこの件が原因となって、ハンターは全員捕縛され、隷属の魔導具を使った上で騎士団に取り調べを受けることになった。捕縛にはあたし達も手伝ったけど、予想通り全員が反抗してきたわ。もちろんすぐに捕まえたけど、往生際が悪かったわね。


 これでハンターズマスター、っと、もう解任されたから元ってつけないといけないわね。元ハンターズマスターが戻ってきても何もできないでしょう。

 後はハンターや盗掘者達をしっかりと取り調べた上で、王家に報告をしてもらうぐらいかしらね。

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