22・ヒポグリフの生態
依頼の報告も終わったし、ハンターズマスターやハンターどもをどうするかは俺達のいないところで話し合ってもらうとして、あとはジェイドとフロライトのことを話さないといけないな。
「ライナスさん、ヒポグリフの話をしたいんだけどいいかしら?」
「ああ、そうだったな。頼む」
「待ってくれ。ヒポグリフとはどういうことだ?」
そう思っていたらアーキライト子爵が待ったをかけた。ソフィア伯爵も首を傾げているが、説明もなしにいきなりヒポグリフの話をされたらそら止めるか。
「何て言ったらいいかわからないけど、大和君もプリムローズ嬢も、ヒポグリフと契約したらしいんですよ」
困った笑顔でフレデリカ侯爵が答えてくれたが、二人とも絶句してしまった。見ればビスマルク伯爵もだな。
「ヒポグリフと契約って……何がどうなればそんなことになるの?」
ソフィア伯爵の意見に、全員が首を縦に振った。
そう思うよな。だけどエビル・ドレイクに関係ある話だし、フレデリカ侯爵やライナスのおっさんにも話すって伝えてあるんだから、俺はゆっくりと口を開いて状況説明を開始した。
「契約した二匹の子ヒポグリフ以外は全滅。そして長と思われる個体が、自分の死体を含めて君達に託した、と?」
「あの状況じゃそう考えるよりほかになくて」
「魔物によりけりだが、義理堅い種なら稀にある。それにお前さん達なら、託せると思ったんだろうな。滅多にないことだが、そうやって契約した従魔は、同じ種族の中でも飛び抜けて強くなるそうだ。当然、契約者にも恩恵がある。もしかしたらお前ら、レベル上がってないか?」
言われてライブラリーを確認してみた。
ヤマト・ミカミ
17歳
Lv.59
人族・ハイヒューマン
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:ゴールド(G)
レイド:ウイング・クレスト
双刻の生成者、異界からの客人、異世界の刻印術師、魔導探究者、ヒポグリフの主
上がってますな。それに称号も増えてる。ヒポグリフの主ってのはわかるが、魔導探求者ってのはなんだ?
ちなみにプリムのライブラリーも見せてもらったがこんな感じだった。
プリムローズ・ハイドランシア
17歳
Lv.54
獣族・ハイフォクシー
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:ゴールド(G)
レイド:ウイング・クレスト
白狐の翼族、元ハイドランシア公爵令嬢、極炎の翼を宿せし者、ヒポグリフの主
極炎の翼を宿せし者ってのは極炎の翼を使ってるからだろうが、それが称号になるとは思わなかった。
だがそれよりも問題なのは、称号を隠し忘れたことだな。
「あなた、客人だったの!?」
「あ……」
「大和……」
完全にうっかりだった。皆さんすごく驚いていらっしゃいます。
もう誤魔化すのは無理だし、観念するしかないなぁ。どこから話すべきか。
「ですが色々なことが納得できました」
「団長の仰る通りです。客人は類稀なる魔力と比類なき知識を持っていると聞きますが、少なくとも魔力はレベルに表れていますし、異常種や災害種までも倒していますから」
俺の身の上話を終えると、レックス団長とローズマリー副団長がそんなことを言ってきた。その評価は気になるが、なんでそれで皆さん納得しますかね?
「つまりお前については、驚くだけ無駄だってことだ」
とはライナスのおっさんの弁だ。人を人外扱いするんじゃねえよ。
「で、ヒポグリフはどこにいるんだ?」
あれ?なんかほとんどスルーされてる気がするんですけど?いや、別に根掘り葉掘り聞かれたいかっていわれたら、絶対に嫌なんだけどさ。それでも釈然としないぞ。
「お前が何者だろうと、今フィールで一番頼れるハンターってことに違いはないんだよ」
「それに根掘り葉掘り聞きたいのはやまやまですが、そんなことをしてアミスターから出て行かれる方が問題ですからね」
そういやアミスター王家には、過去に客人が嫁いだって話だったな。
それにしてもなんか拍子抜けだな。てっきり貴族が俺を囲い込むんじゃないかって思ってたんだが。
「それはそれで問題だし、客人がライブラリーを公開したらそれまでだろう?防ぐには契約魔法で縛るしかないが、事故をよそおってライブラリーを公開する方法はいくらでもある。それにそんなことをして、もし王家の耳にでも入ってしまえば、下手をすれば叛意ありとみなされて、逆にこちらの身が危なくなる」
確かに契約魔法で縛れば、ライブラリーを公開することは難しい。だが絶対にできないかといわれれば、そんなことはない。例えば町中でライブラリーを確認している最中に、偶然他人が見てしまう場合だ。ライブラリーは自分だけしか見られないわけじゃないし、契約内容の穴をつけば難しいことじゃない。他にも相手が調子に乗って漏らすこともありえる。
だがこれは、あくまでもアミスターでの話だ。ソレムネやレティセンシアだったら有無を言わさずに隷属の魔法、あるいは魔導具を使われていただろうし、場合によっては殺されていたかもしれない。
転移先がアミスターだったのは、本当に不幸中の幸いだったな。
「それについては俺も同感だ。まあアミスターの国民性が大きいんだろうけどな。で、ヒポグリフはどこにいるんだ?」
アミスターは王家からしてのんびりした国民性らしいからな。だからといって頭の回転が鈍いかというと、そんなことはない。むしろ普段のんびりしている分、余裕をもって考えるから鋭いと思う。
まあアミスターで無事でいられることを喜ぶより、目先の問題を片付けるべきか。
というかおっさん、そこまで知りたいのかよ?
「牧場に預かってもらってるよ。幸いヒポグリフの世話をしたことがある厩務員がいたから、その人に任せてきた」
「ほう、そんな人物がいたのか」
「ええ。フィアットさんと言って、王都に研修に行った際にヒポグリフと契約したハンターに会ったことがあるそうです」
この世界で名字があるのは王侯貴族のみだが、例外は存在する。その辺は国によって異なるが、アミスターの場合だとギルドランクP以上の者は名字を名乗ることができるんだそうだ。リチャードさんはクラフターズギルドのAランクだから名乗れっているし、他にも名乗ることを許されているクラフター、トレーダーは少なくない。
他にもリベルター連邦とバシオン教国が特殊な事例を持っている。どちらも連邦総領、教皇に就任した場合に名字を名乗ることになり、さらに就任中に限っては国名も名乗ることが認められている。これは他国が王政であり、貴族が少ない、あるいはいない両国が外交で遅れをとらないための苦肉の策でもあると言われている。実際ソレムネやレティセンシアはあからさまに見下してきているそうだが、バシオンは宗教の関係で、リベルターはその両国に挟まれているため、すぐに国交断絶というわけにはいかないらしい。特にフィリアス大陸統一を狙っているソレムネからの干渉は執拗で、今もどこかで戦いが起きているそうだ。
フィアットさんは代々育成師の家系で、クラフターズギルドでも指折りの名家なんだそうだ。ジェイドとフロライトを預けた牧場の正式名はラグナルド騎獣牧場といって、フィアットさんの実家でもあるラグナルド家が経営している。現在の家長はフィアットさんのお父さんで、フィアットさんも名字を名乗れるPランクになったら家を継ぐことが許されるそうだ。ちなみに現在のフィアットさんのクラフターズランクはBだから、家を継ぐとしてもまだまだ先の話になるだろうな。
「ああ、彼ですか。そういえば王都から帰ってきたと聞いた覚えがあります」
「彼は優秀な育成師ですし、ラグナルド家はアミスターでも有名だから私も何度か会ったことがあるわね」
フィール在住三年目のアーキライト子爵と二年目のソフィア伯爵は、フィアットさんのことを知っていたようだ。特にソフィア伯爵は、バトル・ホースの育成でラグナルド家にアドバイスをもらったこともあるそうだから、ほとんど家族ぐるみの付き合いなんだとか。
逆にまだフィールに着任したばかりのフレデリカ侯爵は、噂は聞いたことがあるといった感じだな。
「というかライナスさん、そんなにヒポグリフが見たいの?」
「当然だ。なにせアレグリアにはいなかったし、レティセンシアは国交が少ないから行く機会がなかった。トラレンシアは行ったことあるが、残念ながら見られなかったんだよ」
なるほどね。まあわからん話でもないな。
「まだ子供だから、あんまり無理をしないでくれよ?親が殺されて心細くなってるんだから、余計な心配はさせたくないんだ」
フィアットさんにも伝えてあるから大丈夫だとは思うが、それでも町の人が見に行くのは止められない。ハンターなら話は別だが。
あ、なんか心配になってきた。バカなハンターどもが貴重で高価な素材にもなるヒポグリフを狙う可能性は否めない。クラフターズギルドとは正反対の方向だが、一度様子を見にいった方がいいかもしれないな。




