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21・確定情報

 フラム、ラウス、レベッカと再会した俺達は、晩飯の約束をしてからハンターズギルドに入った。

 用件は二つあって、一つはエビル・ドレイク討伐の報告と死体の引き渡しだから、こっちは領代が来ないと勧められない。

 だがもう一つはそんなに時間もかからないだろうし、ライナスのおっさんならどうとでもなるはずだ。


「随分早く帰ってきたが、何か問題でもあったのか?」


 さすがのおっさんでも、既に俺達が狩り終えているとは思っていないようだ。まあ当然だよな。


「そっちは領代が来てからまた話すけど、とりあえずエビル・ドレイクは狩り終えたわよ」

「……悪いがもう一度言ってもらえるか?ちょっと耳の調子が良くないようでな」

「だからエビル・ドレイクは狩ってきたぞ。依頼されてるフェザー・ドレイクと、ついでにウインガー・ドレイクも何匹かあるから、後でクラフターズギルドにも行くけどな」

「……」


 絶句しやがった。


「もう倒してきたとか、早すぎるでしょう!」


 と思っていたら突然サブマスターの部屋が派手に開いた。見ればフレデリカ侯爵が超特急でやって来たようで、かなり息を荒げている。


「ビックリさせないでくださいよ。何事かと思ったじゃないですか」

「……それはこっちのセリフよ。それにしても、なぜこんなに早く帰ってこれたの?」


 フレデリカ侯爵の疑問は当然で、俺達もジェイド、フロライトと従魔契約ができなければあと一日二日はかかっただろう。


「後で詳しく説明しますが、ヒポグリフと従魔契約することができましたから、かなり短時間で帰ってこれたんですよ」


 その説明にフレデリカ侯爵もライナスのおっさんも、力が抜けたようにソファーに崩れ落ちた。


「まだ報告も聞いてないのに、すごく疲れたわね……」

「同意しますよ。報告を聞くのがこんなに怖く感じたことはありませんぜ……」

「同意見よ……」


 ライナスのおっさんはともかく、フレデリカ侯爵は20歳前後とまだ若いのに、なんでそんな疲れた顔してますかね?


「私はお二人のお気持ちがよくわかりますよ?たった二日でマイライト山脈の異常種を討伐して帰ってくるなんて、普通じゃありえませんから。しかもそれをお二人だけで達成しているんですから、誰でもこうなります」


 言外に人外と言われてる気がするが、フレデリカ侯爵もライナスのおっさんもミーナの意見に大きく首を縦に振っている。失礼だな。


「それはともかく、先にライナスさんに聞きたいことがあるのよ」

「俺に?何か、ってヒポグリフのことか?」

「そっちは報告と一緒にさせてもらうから別件よ。実はね……」


 プリムが口を開いて、先程ギルド前で起きた騒ぎについて説明する。当然ライナスのおっさんは顔を顰めているし、フレデリカ侯爵も不愉快そうだ。


「そいつらについては騎士団に任せるが、余罪が判明すればリーダーの女は死刑になる可能性があるな」

「罪状次第ね。だけど減刑嘆願とかではないのでしょう?」


 当然だ。なんであいつらの減刑を俺らがしないといかんのか、全くもって意味不明でしょう。


「いえ、俺達が聞きたいこと、お願いしたいことは、トレーダーズギルドのことです」

「なるほど、つまりはプラダ村までの護衛ってことか。それぐらいなら全然構わないが、お前らが手を貸すメリットがないんじゃないのか?」

「あるわよ。今のフィールにいるハンターは、全員があたし達にとって敵よ。だけどあの子達はそうじゃない。フィールにとっても悪い話じゃないと思うしね」

「それは確かにそうね。普通のハンターがいない現状は私達としても好ましくはない。昨日私の部下を王都に報告に行かせたけど、同時に王都にあるハンターズギルド・アミスター本部のハンターズマスター宛ての書状も持たせてあるのよ。ライナス殿と領代の連名だから無下にはされないと思うけど、それでもどうなるかはわからない。だからこの直轄領内でハンターになってくれる人がいるなら、それにこしたことはないわ」


 フィール北部の王家直轄領はマイライト山脈周辺で、直轄領にある人里はフィールとプラダ村のみとなっている。フラム達がフィールに来たのは、そういった理由もあったようだ。ちなみにザックは直轄領ではない。


「フィールのことを考えてくれるのはありがたいが、そういうことなら報酬も依頼板に張り出すものと変わりはないぞ?Gランクの報酬よりかなり安くなるが、それはいいのか?」

「構わないわよ」

「別に報酬が目的じゃないからな」

「まったく、今いるハンターにも見習ってもらいたいものね」


 報酬が高いに越したことはないが、だからって無理をさせるつもりもないからな。押しかけて依頼を受けて高額の報酬をぶんどるって、それはそれで悪徳ハンターだろ。


「それじゃトレーダーズギルドには、後で話を持っていくとするか。あっちもハンターの現状はよく知ってるが、同時にお前らのことも知ってるから歓迎してくれるだろう」


 商人は情報が命なところがあるからな。商品の準備もあるから今日明日って話じゃないだろうけど、俺達も準備はしておくか。

 そのタイミングで部屋のドアがノックされ、扉が開き、カミナさんが姿を見せた。


「失礼します。ソフィア伯爵、ビスマルク伯爵、アーキライト子爵が到着なさいました」

「わかった。第十鑑定室に通してくれ」

「わかりました」


 ビスマルク伯爵も来たのか。今回の件に無関係じゃないし、フェザー・ドレイクの納品もあるから来てもらった方が俺達としても都合がいいんだが、気軽に貴族を呼び出してもいいのかね?

 まあ俺が呼び付けたわけじゃないし、そっちは気にする必要もないか。

 そんなわけで俺達は鑑定室に移動することにした。


Side・プリム


 ハンターズギルドの鑑定室は10部屋あり、第一から第五鑑定室まではそんなに大きくはない。大きくないとは言ってもゴブリンなら20匹はまとめて鑑定できる広さがあるわよ。第六から第八まではその倍の広さがあって、第九になるとさらに倍かしら。そして第十鑑定室はとんでもなく広くて、エビル・ドレイクでも数匹は入るんじゃないかしら?


 鑑定室は第一から第八までは地上3階建ての建物の中にあるけど、第九と第十鑑定室はその広さから地下に作られているわ。その第十鑑定室に通された理由は、あたし達が狩ってくる魔物の数が普通のハンターと比べても多すぎて、入りきらない可能性が高いからよ。ビスマルク伯爵に依頼されてたフェザー・ドレイクもそこで渡すことになったから、あたし達としても都合がいいわ。


 どの鑑定室もそうだけど、ギルドの施設だってことに違いはないから、もし盗難なんかしようものならすぐに捕まってライセンスを剥奪されて、国の騎士団とかに引き渡されることになってるわ。


 第十鑑定室に集まったのはあたしと大和、ミーナ、レックス団長、ローズマリー副団長、ライナスさん、カミナさん、フレデリカ侯爵、ソフィア伯爵、ビスマルク伯爵、アーキライト子爵の11名ね。あ、査定のための職員と調査のための騎士も数人いるけど、この人達は話には参加しないからとりあえず除外しといたわ。

 最初に出したのはビスマルク伯爵の依頼でもあるフェザー・ドレイク。できれば三匹ってことだったから三匹出したけど、もうちょっとぐらいなら渡せるし、ウインガー・ドレイクも一匹なら問題ないわよ?


「まさかこんな短時間で依頼を達成してくれるとは……。しかもウインガー・ドレイクまでいるとは、最早何と言っていいのかわからんな……」

「クラフターズギルドからも依頼を受けていますから、必要なければこれはそっち行きになりますね」

「手に入るならそれに越したことはないが、ウインガー・ドレイクとフェザー・ドレイクは羽毛の色が違うからな。巫女の衣装はフェザー・ドレイクの紺碧色で統一していることもあるから、むしろこちらの数を、あと三匹ぐらい融通してもらえると助かる」


 なるほど、高級感は出るだろうけど、色が違うから統一感が出せないってことね。そういうことなら納得だわ。それとフェザー・ドレイクを三匹追加することは、何も問題はないわよ。


「感謝する。報酬には追加してもらった三匹分も加算して40万エルとさせてもらう。これだけの数が揃えば全員分の衣装を仕立て直せるから、私としても助かる」


 実はフェザー・ドレイクの皮を使った巫女服って、ちょっと興味があるのよね。大和の実家は代々神社っていう神殿みたいな施設に住んでいるそうだし、大和の世界の巫女服も刻印具で見せてもらったことがあるんだけど、実はバシオン教の巫女服とすごく似てる、というかほとんど同じだったのよ。多分これも客人まれびとが絡んでるんだと思うけど、だからこそフェザー・ドレイクの皮で仕立てた巫女服が気になるのよね。確か10月が収穫祭だから、余裕があったら行ってみたいわ。


「では全部で六匹ですね。この場でお渡しする形で?」

「ああ。トネルはストレージングを使えるし、ストレージバッグも持ってきているから六匹ぐらいなら問題ない」


 なるほど、ストレージバッグがあるなら持ち運びは問題ないわね。


 ストレージバッグはストレージングを付与させた魔導具で、高ければ白金貨数枚もするとても高価な魔導具よ。容量はストレージバッグごとに違うけど、少なくてもフェザー・ドレイクぐらいなら二匹は入るわね。

 当然ミラーリングを付与させた魔導具もあって、そっちはミラーバッグって呼ばれてるわ。ミラーバッグはカバンの容量を数倍に広げてるだけの簡易的な物だけど、高くても金貨2枚ぐらい、安ければ魔銀貨数枚で買えるからものすごく人気が高いのよ。


「ではビスマルク伯爵の依頼は完了になりますので、後程お二人には報酬をお渡しさせていただきます」


 カミナさんが依頼書に何かを記入すると、依頼を受けた時と同じように光った。後はあたし達が報酬を受け取ってサインをすれば契約は終了となって、契約魔法の効果も消えることになる。


「こんなにも早く手に入れることができるとは、想像すらしていなかった。だがこれで今年の収穫祭も無事に迎えることができる。本当に感謝する」


 ビスマルク伯爵がすごく良い笑顔をしてるわ。収穫祭を中止するかどうかの瀬戸際だったんだからわからなくもないけど、けっこうな出費になったことも間違いないと思うわよ?


「じゃあ次はエビル・ドレイクを頼む」


 ビスマルク伯爵には悪いけど、あたし達にとっての本命はこっちね。しっかりと頭部も確保してきてるから、問題なく調査できると思うわよ。


「やはりアーキライト子爵の部下から報告があった通り、エビル・ドレイクですね。しかも思っていたよりもずっと大きい……」

「ええ。オークの集落を蹂躙していたとのことですが、それでもこれほどの大きさだったとは思ってもいませんでした……」


 エビル・ドレイクは何度か討伐されているけど、その全ての個体が体長5メートル前後。なのにこの個体は10メートルを超えているんだから、これだけでも異常だってことがよくわかる。


「首は大きく抉れてるが、頭部は無事だな。というかほとんど一撃じゃねえか。これだけの巨体のエビル・ドレイクは過去にも例がないから、一つ上のランクになってもおかしくないってのに、本当に呆れた奴らだよ」


 苦笑するライナスさんだけど、別に正面から戦ったわけじゃないしね。いずれバレるとでしょうけど、手の内をさらすことになるから討伐方法は基本的に報告しなくてもいいのがありがたいわ。


「ありました、契約印です」

「やはり従魔ですか。ということは情報を握りつぶしていたことはもちろん、フィール出身のハンターも見殺しにしたわけではなく、意図的に殺したことになりますね」


 従魔や召喚獣にはその証となる契約印がある。契約者が魔力を流せば契約印が視認できるようになるんだけど、その場所は誰が見ても一目でわかるようにってことで、額に現れるようになっている。

 契約者の魔力がなければ従魔かどうかはわからないんだけど、稀に従魔や召喚獣が人を傷つけるといった事件も起きている。その場合その従魔、召喚獣は処分され、契約者にも相応の処罰が下ることになってるんだけど、誰の従魔、召喚獣かわからなければ責任を追及することができない。


 それを防ぐために、従魔魔法には誰と契約しているのかを調べることができるコントラクティングっていう魔法があるの。これは従魔、召喚獣の種族名や固体名はもちろん、契約者のライブラリーの一部を見ることができるのよ。一部とはいってもハンターズライセンスと同じ情報が見られるから、人違いっていう可能性はありえない。


 そのコントラクティングをレックス団長が使って確認したのが、この情報になるわ。


 種族名:エビル・ドレイク

 個体名:ニック


 契約者:サーシェス・トレンネル

     33歳

     Lv.47

     人族・ハイヒューマン

     ハンターズギルド:アミスター王国 フィール支部ギルドマスター


 予想通りだけど、これでハンターズマスターの従魔だったことが確定したわね。


「このエビル・ドレイクがハンターズマスター、いえ、サーシェス・トレンネルの従魔ということが確定した今、色々と推測ができますね。例えばレティセンシアの工作員がブラック・フェンリルやグリーン・ファングがいるのに自由に活動できていたのは、エビル・ドレイクを護衛につけていた、とか」


 その可能性は高いでしょうね。他にも非合法奴隷をフィールから連れ出す際、魔物に襲われないように護衛をさせていたっていう線も考えられるわ。


「ありえる、というよりその通りでしょうね。ライナス殿、ハンターズギルド総本部としては、あの男の処罰はどうなさるおつもりですか?」

「さすがにこれはハンターズギルドへの裏切り行為ですからね。権限の一切を剥奪した上で除名し、アミスターに身柄を引き渡します。これは査察官の権限で確約できますな」


 国家騒乱罪に外患誘致罪、契約不履行、他にも数え上げたらキリがなさそうね。処刑は確実で、場合によってはレティセンシアとの戦争に発展するでしょうけど、領代を見てる限りじゃ戦争を恐れてないみたいだし、何よりハンターズギルドだって黙ってないから、戦争になる可能性は案外低いかもしれないわ。


「それは重畳。王都へは事後報告になりますが、まずは彼の身柄を拘束することにしましょう」

「そうですな。ですがハンターはどうするのですか?当然ハンターの罪も問う必要がありますが、さすがに騎士団の手が足りないでしょう?」


 ソフィア伯爵に話を振られたレックス団長が申し訳なさそうに首を縦に振る。だけどこれは仕方ないわよね。


「とりあえず捕まえてから考えたらどうです?捕まえるだけなら俺達も手伝いますよ」

「あたし達も何度も不愉快な目にあったしね」


 ハンター登録をしたその直後からだしね。いい加減鬱陶しいから、大義名分があるなら喜んで手伝うわよ。そうすればミーナやフラム達も安全になるし、安心してプラダ村に行くことができるしね。

 すぐに結論が出る問題じゃないけど、ゆっくりと考えられる問題でもないから、明日か明後日にはどうなるか決まるでしょうね。なるべくならプラダ村に行く前に決まってほしいところだわ。

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