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20・新人ハンター

Side・フラム


 私はフラム。フィールより少し北にあるプラダ村に住んでいる妖族あやかしぞくのウンディーネです。

 フィールからザックの騎士団に報告に向かうために来られた騎士の方が教えてくれたんですが、先日プラダ村に滞在されたフォクシー親子と護衛のヒューマンがグリーン・ファング、さらにはブラック・フェンリルを退治してくれたそうなんです。ブラック・フェンリルみたいな災害種までいたことはとんでもない恐怖でしたが、おかげで村も活気が戻り、食料も買い付けに出ることができるようになりました。

 だから私は妹のレベッカ、幼馴染のラウスと三人でハンター登録も行い、プラダ村まで商人に来てもらう交渉をするためにフィールに来ることにしたんです。


「ここがフィールのハンターズギルドか。これでやっと俺達もハンターになれるんだな!」

「ラウス、浮かれるのはわかるけど、目的を忘れちゃダメよ?」

「わかってるって。ハンター登録はついでみたいなもんで、終わったらトレーダーズギルドに行って商人の派遣を頼むんだろ?」


 すぐにどうなるわけではありませんが、蓄えが少ないのも間違いありませんし、閉塞感から抜け出すためにも嗜好品は必要です。そのために村長から最低限必要な商品のリストを預かっています。個別に必要な物でも緊急性の低い物は別のリストにまとめてありますが、こちらはできればといったところですね。


 それよりもまずはハンター登録をしてしまいましょう。


「ようこそハンターズギルド フィール支部へ。登録ですか?」


 ギルドに入ってリクシーの女性が受付をしているカウンターに行くと、すごく丁寧に対応されました。一瞬気後れしてしまいましたしラウスとレベッカは驚いていますが、私はすぐに目的を思い出して答えを返しました。


「はい、お願いします」

「わかりました。ではこちらに記入をしていただくんですが、代筆は必要ですか?」

「いえ、大丈夫です」


 私は文字の読み書きができますが、ラウスとレベッカはまだできません。読むだけならできるはずですから、近いうちに書けるようにもなるんじゃないかと思います。


「はい、フラムさん、ラウス君、レベッカちゃんですね。レイド名はウインド・オブ・プラダ。はい、問題ありません。それでは登録しますので、こちらに血をお願いします」

「わかりました」


 私はハンターよりクラフターの方が興味あるんですけど、プラダ村でも魔物を狩ることは珍しくありませんし、ハンターズギルドが一番高く買い取ってくれて、さらには討伐依頼があれば別途報酬までもらえるんですから、魔物を売るならハンターズギルドが一番です。

 いずれはクラフターズギルドにも登録するつもりですが、そちらはハンターとして活動してお金を稼いでからにするつもりです。


「これで登録は完了になります。注意事項はこちらに明記してありますので、時間のある時にでも読んでおいてくださいね」


 簡単な説明を受けて、これで登録完了です。私達はライセンスを確認すると、お互いに見せ合いました。


 フラム

 18歳

 Lv.17

 妖族・ウンディーネ

 ハンターズギルド:アミスター王国 フィール

 ハンターズランク:ティン(I-T)

 レイド:ウインド・オブ・プラダ


 ラウス

 13歳

 Lv.21

 獣族・ウルフィー

 ハンターズギルド:アミスター王国 フィール

 ハンターズランク:ティン(C-T)

 レイド:ウインド・オブ・プラダ


 レベッカ

 13歳

 Lv.19

 妖族・ウンディーネ

 ハンターズギルド:アミスター王国 フィール

 ハンターズランク:ティン(I-T)

 レイド:ウインド・オブ・プラダ


 これが私達のライセンスですが、実は私が一番レベルが低いんです。

 ラウスはよく狩りに行きますから、いつの間にかレベルが上がったみたいです。レベッカもラウスと一緒に行動することが多いですから、そのせいでしょう。それに先日、プラダ村に来られた方から魔法の特徴を教えていただきましたから、そのおかげでわずか数日でいくつかレベルも上がったんです。

 フィールに滞在すると聞いていますから、お会いできたらお礼を言いたいものです。


「へえ。お前ら、ハンター登録したばかりなのかよ。なら俺達がハンターとしての心得を教えてやるよ」

「ありがたく思えよ?俺達ケルベロス・ファングがこんなことするなんて、滅多にないんだからな」

「礼は体で払ってもらうから遠慮はいらねえぜ?」


 ところがハンターズギルドを出ると、30人近くの人達に囲まれてしまいました。話から察するにあの人達もハンターなのでしょうが、とてもではありませんがハンターとは思えません。


「いらないよ。フィールには知り合いがいるから、教えてもらうならその人達って決めてるんだからな」


 ラウスがすぐに断りますが、どうやら逆効果だったみたいです。


「俺達の好意を断るってのか?それでフィールでハンターとしてやってけると思ってんのか?ああん?」

「思ってるよ!だってその人達、すっごくレベルが高いんだから!」


 レベッカも声を上げますが、今度は嘲笑しているのがわかります。


「な、なによ?何がおかしいのよ!?」

「おかしいさ。なにせ今フィールにいるハンターで一番レベルが高いのは、間違いなくこのあたいなんだからね」


 リーダーと思える女の人の言葉に、私達は驚きました。

 そんなはずがありません。今フィールにはあのお二人が、レベル50オーバーのハイクラスのお二人がいるんですから、この人が一番レベルが高いなんてことがあるわけがありません。


「姐さん、もしかしてあいつらのことじゃねえか?」

「ああ、なるほどね。だけどあいつらが帰ってくることはないだろう。なにせ二人でマイライトに向かったって話だからね。いくらハイクラスだろうと、たった二人でマイライトに行って生きて帰ってこられるはずがないさ」

「そんなわけない!それになんであんた達は行かなかったんだよ!?」

「行くわけがないだろ。そんなとこに行ったって何の得にもならないし、命を無駄に捨てるようなもんじゃないか。なんであたいらがこんな街なんかのために、そんなことしなきゃいけないのさ?」


 私は耳を疑いました。確かにマイライト山脈はヘリオスオーブでも有数の危険地帯ですが、それでも依頼で赴くことはあると聞いています。

 なのにこの人達は自分には利益がないから行かない、フィールがどうなっても知らないなんて、とてもハンターとは思えない無責任な発言をしてしまったのです。

 なんでこんな人達がハンターでいられるのか、不思議で仕方ありません。


「そういうわけだから、あんたらにはあたい達がしっかりとハンターの心得を叩き込んでやるよ。フィールで生きていくなら、あたいらの言うことに従いな」

「絶対にヤだね!」

「威勢のいいガキだな。まあてめえは姐さんに可愛がってもらえよ」


 そう言って一人の男の人が、不用意にラウスに近づきました。


「ぎゃあああっ!」


 ところがラウスはその人の腕を取ると、躊躇なく捻り、骨を折ってしまいました。


「てめえ!調子に乗ってんじゃねえぞ!」

「うるさい!悪いのはそっちじゃないか!」


 ケルベロス・ファングの人達が私達を取り囲みましたが、武器を抜いてないのは救いかもしれません。街中で不必要に武器を抜けば騎士団に捕まることになりますから、それを避けたのかもしれませんが。


「今のは油断したあいつが悪い。だからそのことであんたらを罰することはないさ。だけどね、これであいつはしばらく狩りに行けなくなったし、街を守ることもできなくなっちまったんだ。当然慰謝料ぐらいは出すんだろうね?」

「そ、それは……」


 私にも悪いのがこの人達だということはわかっていますが、それでも先に手を出したのはこちらです。だから私は女性に返す言葉を持ちませんでした。お金は持っていますが、このお金は村のためのものですから、私達が勝手に使うわけにはいきません。どうすればいいのか、私にはまったくわかりません。


「金がないのはわかってるよ。だからちょっと付き合ってもらえばそれでいいさ。別に体を売れとかそういう話じゃないから安心しな」


 正直なところ、まったく信用ができません。ですが他に選択肢がないのも事実ですから、私は彼女の言うことに従うことにしました。


「わかりました。ですが行くのは私だけでお願いします」

「そうはいかないよ。実際にこいつにケガさせたのはこいつなんだから、少なくともあんたとこいつは来てもらわないと誠意が感じられないね」


 確かにそうなのですが、それでもラウスは私の弟のようなものです。弟を危険な目に合わせるつもりはありませんから、やはりここは私だけで済ませてもらわなければ。


「おい、俺達の知り合いに何してんだ?」


 そう思っていたら、救いの手が現れました。

 ヤマト・ミカミさん。私どころかプラダ村の人が知る中でも最もレベルの高いハイヒューマンの男性。


 その大和さんが言うには、このケルベロス・ファングという人達だけではなく、今フィールにいるハンターは全員が犯罪に手を染めているそうです。大和さんもこんな目にあったことは一度や二度ではなく、既に何人ものハンターを捕まえているそうですからとても信じられません。


「助けていただいて、ありがとうございました」

「気にしないでくれ。それにしてもタイミングが良くてよかったよ。実際マイライトに向かったのは昨日だったから、普通ならまだマイライトにいただろうな」

「本当にね。あたし達もだけどあんた達も運が良かったってことでしょうね」


 こちらはハイフォクシーのプリムローズさんです。プラダ村に来られた時はフォクシーだったのですが、滞在中にハイフォクシーになられていたので驚いた覚えがあります。

 もう一人のヒューマンの女性は初めてですが、身成からフィールの騎士だとわかります。お名前はミーナさんと仰って、大和さんとプリムローズさんの案内役をなさっているそうです。


「それにしてもフィールに来るって話はした覚えがあるけど、思ったより早く来たな。道中は大丈夫だったのか?」

「はい。お二人がブラック・フェンリルやグリーン・ファングを倒してくださったおかげで、特に問題はありませんでした。何度かグラス・ウルフに襲われましたが、それぐらいですね」

「あれ?グラス・ボアはいなかったの?」

「はい、一度も遭遇しませんでしたし、見かけることもありませんでしたよ」


 どうしてそんなことを聞くのかという顔でレベッカが答えますが、大和さんとプリムローズさんは残念そうな顔をしています。何かあったのでしょうか?


「いや、今グラス・ボアの素材収集依頼を受けてるから、目撃情報があればいいなって思っただけだよ」


 そういうことですか。ですがグラス・ボアはアミスター王国の平野ならどこにでもいる魔物ですから、探すのも難しくないと思いますよ。


「まあそうなんだけどね。それよりこれから予定はあるの?」

「あ、はい。トレーダーズギルドに行って、頼まれた物を注文しなきゃいけないんです」


 量も多いですから、おそらくハンターズギルドに護衛依頼も出さなければいけないと思います。フィールの現状を聞いた今じゃ、とても依頼したいとは思いませんが。


「ああ、なるほどね」

「なら晩飯は一緒に食わないか?せっかくだから俺が奢るよ」

「いえ、そんな……」


 私としては断りたいんですが、ラウスもレベッカも目を輝かせています。プラダ村にも食事処はありますが、あくまでも宿がメインですから滅多に外食をすることはありません。だからラウスとレベッカは、フィールで食事をすることをとても楽しみにしていたんです。もちろんハンターになったばかりですから、しばらくは節約しなければならないので、食べられるとしてもまだ先だと思っていましたけど。

 なのに大和さんがご馳走してくださると仰ってくださったものですから、二人はかなり期待してしまっているんです。


「遠慮しなくてもいいわよ。久しぶりに会ったんだから、ゆっくりと話もしたいしね」


 お二人のお話を聞きたいのは私も同じですが、少し聞くのが怖い気もします。


「聞きたいです!」

「私も!」


 でも弟も妹も、私の気持ちを知らずに呑気なものです。ですが二人が乗り気ですし、久しぶりにお会いできたのも間違いないですから、今日のところはご馳走になることにします。

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