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19・ハンターズギルドでの再会

Side・プリム


 何とかフロライトとジェイドをなだめたあたし達は、後ろ髪ひかれる思いで牧場を後にした。あんな悲しそうな声をあげながら心細そうな目をされたら、こっちの心がすっごく揺さぶられるからたまったもんじゃないわ。なるべく早く家を何とかしないと。


「それにしてもジェイドもですけど、フロライトがすごく甘えん坊ですね」

「あんなことがあった以上当然なのかもしれないけど、あの仔の場合元々の性格って気もするのよねぇ」

「まあ甘えられて悪い気はしないけどな。それじゃギルドに……ってこの場合依頼者んとこいって報告するんだったか?」

「普通ならそうだし、ビスマルク伯爵とクラフターズギルドに依頼されたフェザー・ドレイクはそれでいいと思うわよ。あ、そういえばグラス・ボアは狩ってないんだったっけか」


 忘れてたけどクラフターズギルドからの依頼はフェザー・ドレイクとグラス・ボアを狩れるだけ。フェザー・ドレイクはビスマルク伯爵が優先ってことを伝えてあるし、緊急に必要ってわけじゃないから数が少なくても問題ないんだけど、グラス・ボアは食用でもあるから急ぐに越したことはない。

 それでもすぐに餓死者が出るとかっていう状況じゃないし、クラフターズギルドもマイライトにグラス・ボアがいないことは知ってるから、まずはフェザー・ドレイクだけでも納品するべきね。


「そういえば、どれぐらい狩ってきたんですか?」


 ミーナの疑問で、あたし達は何をどれぐらい狩ったのかを頭の中で整理した。

 えーっとね……


「レイク・ビーが14匹、キラー・ビーがクイーンを含めて53匹、ウッド・ウルフが6匹、フォレスト・ディアーが5匹、オークが上位種を含めて19匹、フェザー・ドレイクが14匹、ウインガー・ドレイクが4匹、あとはサイレント・ビーとエビル・ドレイクだな」


 よく覚えてるわね。ってサイレント・ビーがいたの?どこで倒したのよ?


「覚えてないか?キラー・ビー・クイーンと一緒にいたぞ。クイーンより一回り小さかったから、気付かなかったのかもしれないな」


 ああ、キラー・ビーの巣にいたのね。ってことはあたし達が倒したサイレント・ビーは、キラー・ビーから進化したってことだからサイレント・キラー・ビーとでも呼ぶべきかしらね。たまたま進行方向にキラー・ビーの巣があったから狩ることにしたんだけど、思ったより大物が狩れたわね。


 キラー・ビーの巣からは上質の蜂蜜が取れるし、錬金術なんかでも使うことが多いから巣はかなり高値で買い取ってもらえるのよ。あたし達としては蜂蜜狙いだったから巣は売るけど、蜂蜜は絶対に確保するつもり。ちなみにキラー・ビーの巣は直径2メートルはある球体状になってるから、蜂蜜だけでも相当な量が採れるわよ。


「思ったより多くの魔物を狩ってきてたんですね……。というかサイレント・ビーってハンターズギルドに討伐依頼があったはずですし、騎士団にも動けないか確認があったんですけど?」


 そうなの?だけどフィールからはかなり距離があるから、あたし達が狩ったサイレント・ビーとは別の個体なんじゃないかしら?


「大和、知ってる?」

「サイレント・ビーの討伐依頼は知ってるが、場所は覚えてないな。だけどあんなとこにいる希少種の討伐依頼が出るとは思えないから、多分鉱山の方じゃないか?」

「はい。第四坑道の近くに森があるんですけど、そこに生息しているフォレスト・ビーから進化したと思われています」


 マイライト鉱山第四坑道の近くだったのね。確か今日ぐらいから鉱山が再開されるって話だから、危険は少しでも排除したいから依頼になるのも当然の話だわ。

 あれ?ということはこのサイレント・ビーって、討伐報酬は貰えないってことよね?もしかして無駄骨だった?


「無駄ってことはないだろ。それにキラー・ビーの巣にいたんだから、どっちにしても倒さないとだったしな。それに第四坑道って、確か第二坑道が封鎖されてるから使いにくいって聞いた覚えがあるぞ」


 ああ、そういえばそうだったわね。

 マイライト鉱山は第一坑道を中心に、東に第二坑道と第四坑道、西に第三と第五坑道がある。だけど第二坑道は落盤事故があったから封鎖されているし、第四坑道は第二坑道よりさらに東にあるから基点となる第一坑道からはそこそこ遠い。

 今回は犯罪奴隷の関係で第一と第三坑道が再開されることになってるけど、さすがに第三坑道から第四坑道はかなり遠いから移動だけでも時間がかかる。それならあまり手が入ってないとはいえ、第五坑道を使った方が効率がいい。


 だけど鉱山の安全が確保されないと、安定して魔銀ミスリルが供給されないだろうから、あたし達としても困ることになってしまう。近いうちに第四坑道の近くにいるフォレスト・ビーも狩っとくべきでしょうね。


「お二人が行ってくださるなら、騎士団としても助かります」


 騎士団は街の警備や治安維持もしなきゃいけないし、さらに今はハンターの代わりに駆り出されてるからすごい人手不足なのよ。

 それもこれも、全部ギルドマスターのせいね。ハンターともどもフィールを荒らしてるようにしか見えないし、それどころかレティセンシアのスパイっていう可能性が出てきたんだから。

 昨日ビスマルク伯爵のワイバーンを借りてフレデリカ侯爵の部下が王都に向かったはずだけど、今頃王都は大わらわでしょうね。


 騎士団が領代に報告に行ってくれてるからどこで報告するかはライナスさんに聞くとして、まずはエビル・ドレイクの討伐報告、その次にビスマルク伯爵の屋敷に行ってフェザー・ドレイクの納品、最後にクラフターズギルドでフェザー・ドレイクの納品と獣車の注文が無難かな。


「大和さん、プリムさん。あれを見てください!」


 なんてことを考えていると、ミーナが小さく声を上げた。器用なことするわね。


「なんだ……ってあれは!」


 大和も驚いてるけど、それはあたしも同じ。なにしろハンターズギルド前で絡まれてるのは、あたし達がプラダ村で出会った短髪で身軽そうな皮鎧を身に着けているウルフィーの少年とウンディーネの姉妹だったんだから。

 青みがかった黒髪ショートで胸も大きい方が姉で、同じく青みがかった黒髪のセミロングで控えめなサイズの胸が妹だったわね。


「どう見ても絡まれてる、って言うか無理やり連れていかれそうになってるな」

「普通ならどっちに非があるか考えるところなんだけど、絡んでるのがあいつらだからその必要はないわね」

「ああ。プリムはミーナを頼む。いい加減鬱陶しいから速攻で片付けてくるよ」


 プラダ村の少年少女に絡んでるのは、あたし達に魔銀亭で絡んできたことがあるケルベロス・ファングっていうレイドね。フィールどころかアミスター内で見ても最大級の規模で所属ハンターも多いんだけど、ハンターズマスターの護衛についてるレイドと協力関係にあるから、その時点でバカかクズかが確定してるわ。実際あの子達に絡んでる時点で救いがないし。


「仕方ないわね。絶対にあの子達にケガさせないでよ?」

「当たり前だろ」


 あ、大和がミラー・リングを生成してるわ。腕輪だから目立ちにくいし、刻印術の精度と強度が飛躍的に上昇するから本気で制圧する気満々ね。いいことだわ。


Side・大和


「おい、俺達の知り合いに何してんだ?」

「ああん?何言って……て、てめえはっ!」

「マイライトに行ってるはずじゃなかったのか!?」


 俺が声をかけたら、姉妹に手を出そうとしていた男どもが目を見開いて驚いた。俺とプリムがマイライトに行くことは別に秘密でもないし、ギルドや街中でも普通に話しながら歩いてたから、こいつらが知っていても別に不思議じゃない。

 驚いてるのはマイライトに行ったはずの俺達が、たった一日でフィールに戻ってきていたことだ。


「おかげさんでそっちでの用はもう全部終わったよ」


 軽く皮肉を交えながら答えてやると、何人かはそれがわかったようで思いっきり嫌そうな顔をした。


「で、俺達の知り合いをどこに連れてこうってんだ?」


 連中、ケルベロス・ファングのプライドを傷つけたようだが、そんなことは知ったことじゃない。そもそもハンターとしてのプライドがあるなら、依頼を受けずとも魔物を狩る。もちろん無償でっていうのは色々とキツいからハンターズギルドでしっかりと買い取ってもらうし、依頼が出ていればその分の報酬も貰える。

 だがこいつらは狩りにも出ない、街の人に迷惑をかける、そのくせ文句だけは一人前と救いようがない。そんな連中のプライドや矜持を考える必要なんて、どこにもないんだよ。


「て、てめえの知り合いだと?」

「そう言ってるだろ。たった三人にそんな大人数で取り囲んでどこかに連れて行こうってんだから、相応の理由があるんだろうな?」


 フィジカリングとマナリングを使いながらガンを飛ばす。何人かがビビッて腰抜かしたようだが、それでも追及を緩めるつもりはない。


「なるほど、さすがにレベル57のGランクだね。だけどね、こいつらがあたいらにケンカを売ったのは事実なのさ。見てみなよ、あれを」


 リーダーと思われる女が首を振った。その視線の先にいるのは右腕を抑えて蹲っている男だ。


「つまりこの三人が先にあの男にケガをさせたから、その報復ってことか?」

「遠からずってとこだね。あいつの治療費ぐらいは出させて、ついでにあたいらにケンカ売ったことを後悔しながら奴隷になってもらおうと思ってるのさ」


 この時点で三人に非がないことが確定したな。そもそもケンカでケガをした場合でも、ハンターなら自己責任の範囲でしかない。そのたびに奴隷なんかになってたりしたら、すぐにハンターはいなくなる。あの男がケガをしたのは予想外だったのかもしれないが、それでも合法的とはとても言えない。


「お前らの言い分はわかった。じゃあ聞くが、なんでこの三人がケンカを売ったってことになってるんだ?俺達もスネーク・バイトに絡まれた経験があるが、お前らが先に新人ハンターをカモにしようとして返り討ちにあったってのが真相なんじゃないのか?」

「仮にそうだとして、なんであんたが出てくるのさ?」

「知り合いだって言っただろ。そもそもそんなことでいちいち奴隷になってたら、どこの町からもハンターがいなくなる。度を越せば話は別だが、単なるケンカなら騎士団だって関与しないし、完全に自己責任だ。今回もその範疇だろうが」

「知ったことじゃないさ。それよりこの三人は納得してるんだから、あんたが手を出してきたら犯罪者になるのはそっちだよ?」

「違います!私達、奴隷になるなんて聞いてません!」


 どうしようもない理屈だと思っていたら、姉妹の姉の方、確かフラムって名前だ。フラムが声を上げた。予想通りだったがやはり非合法奴隷にしようって魂胆だったか。


「だそうだが?」

「今更怖気づくんじゃないよ。それにあいつのケガをどうしてくれるってのさ?これであいつは、しばらく狩りにもいけなくなっちまったし、街を守ることもできないんだよ?」

「そ、それは……」


 これは禁句だ。フラムはフィールの現状を知らないから口ごもったが、俺達からすればこの一言が何の意味もないことをよく知っている。


「笑わせるなよ?狩りにもいけないってどの口が言ってやがるんだ?それに奴隷になるってことを了承してるわけじゃないんだから、犯罪者になるのはお前らの方だよ」

「あたいらにそんな心配は無用さ。なにせハンターズマスターから直々にお達しをもらってるんだからね。ほら、さっさと歩きなよ。あんたも動くんじゃないよ?この子の可愛い顔に、一生消えない傷が残ることになるんだからね」


 フラムに剣を突き付けながら、話は終わりだとばかりに立ち去ろうとしているが、そんなことを許すつもりはない。

 俺は無言でニブルヘイムを発動させてケルベロス・ファングを氷らせて意識を奪い、三人を解放した。街の中だからこの程度で済ませたが、そうじゃなかったら粉々に砕いてたかもしれないな。


「ミーナ、聞いたよな?これってどっちが犯罪者になるんだ?」

「もちろんケルベロス・ファングです。それにおそらく彼らに協力している奴隷商人もいると思いますから、そちらも捕らえます」


 騎士団の仕事をまた増やしてしまったが、今度差し入れでも持って行って謝ろう。


 さすがにハンターズギルドの前だから騎士団も動きが早い。事情を説明するとすぐにケルベロス・ファングを捕縛して、隷属の魔導具を使って尋問を行い、ミーナが予想した奴隷商人を探すことになったそうだ。


 後日、その奴隷商人は捕まり、フィールで手に入れた非合法奴隷をレティセンシアに送っていることがわかった。グリーン・ファングやブラック・フェンリルがいるのにどうやってと思ったが、マイライトの第四坑道よりさらに東に、魔物が寄り付かない地域があるらしい。もちろんそこに着くまでに襲われることはあるが、そこはかなり大きな広場となっていて、さらには洞窟もあるそうだから人目に付きにくい。

 第三坑道で盗掘を行っていた連中からも同じ情報が得られたから、そこがレティセンシアの拠点になっていることは間違いない。

 俺としても面白くない事態だから、近日中に潰すことは決定だな。



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