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16・翼族の夢

 そろそろ日が暮れるな。


 あれから山を登ってなんとか中腹ぐらいにある開けた場所に出たんだが、さすがにこれ以上は危険だな。今日はここで野営するか。


 倒した魔物は数知れず、オークやフェザー・ドレイクはもちろん、ウインガー・ドレイクも何匹かストレージに入っている。異常種がいると希少種が生まれやすくなるって説があるが、その説は正しい気がするな。


 晩飯はパンとレイク・ラビットの肉を使ったシチューにした。ラビットといいながらも鶏肉のような味がしてけっこう美味い。レイク・ラビットは湖のほとりに生息しているからフィールではポピュラーな食材なんだが、保存には向かないという欠点がある。

 まあ俺達にはストレージングがあるから、その点は問題にならないんだが。定番だと干し肉とかの保存食しかないんだからな。


 食べ終わって食器を無属性魔法クリーニングで洗いストレージに収納すると、俺は獣車に入った。先にプリムが見張りをし、途中で俺が交代するということになったんだから、俺がいつまでも起きているわけにはいかない。


 獣車はフィールに来るまで使っていたハイドランシア公爵家の物を借りている。本当はオネストもいるからアプリコットさんが使うべきなんだが、今回の討伐依頼が急だったこともあって、獣車を買う時間がなかった。買おうと思えば買えたんだが、ミラーリングが付与されてる物はなかったし、どうせならオーダーメイドで作りたかったから、今回だけテント代わりに借りることにしたんだよ。アプリコットさんも快く貸してくれたから助かったが、エビル・ドレイクを狩り終えたら早めにクラフターズギルドに依頼したいところだな。


「それじゃ先に寝かせてもらうぞ。何かあったらすぐに起こしてくれよ?」


 見張りは御者台ですることに決めてあり、念のためにソナー・ウェーブを刻印化させた水の魔石を渡してあるから、不意打ちされることもないだろう。


「わかってるわよ」


 時計を見ると、9時を回ったところだった。二人だけで来てるから見張りは一人でしなきゃいけないんだが、これは仕方がない。かといって徹夜なんかしたら、明日が大変だからな。 夏ってこともあって日の出はだいたい5時ぐらいだから、4時間は眠れるな。5時に起きて行動開始するならプリムも睡眠時間は同じだが、俺はプリムを起こすつもりはない。

 俺が先に眠れば、当然プリムが後で眠ることになる。だが出発時間は特に決めてないんだから、俺と同じ睡眠時間じゃなくても問題はない。むしろ男としては、女の子に無理をさせたくはないっていう意地がある。まだ出会って一週間も経ってないないが、魅かれてるってのもあるからな。少しぐらい格好つけたいお年頃なんだよ。

 あ、そうだ。交代するときにアイアンスピアを借りよう。試してみたいこともあるし。


 そんなことを考えながら、俺は瞼を閉じた。


Side・プリム


 やられたわ……。


 深夜の1時に大和と交代して眠ったのに、起きたら7時過ぎ……。寝過ごしたあたしが悪いんだけど、大和も起こしてくれればいいのに……。

 寝坊したあたしに「よく眠れたか?」って声をかけてくれたから間違いなく確信犯だってわかってるのに、気を遣って寝かせておいてくれたことをすごく嬉しく感じてるあたしもいるのよね……。もしかして実はあたし達って、互いに一目惚れだったのかしら?……さすがにないわよね。


「それで、交代してから魔物は出たの?」

「一匹も出なかったな。おかげで試したいことに集中できたんだが、一匹も来ないとは思わなかったからちょっと気になってるよ」


 確かにね。

 野営するハンターは多い、というかハンターなら当たり前なんだけど、一度も襲われずに終わるなんてことも珍しくない。

 だけどここはマイライト山脈の中腹。オークの集落もあるし、フェザー・ドレイクの巣にも近い危険地帯なのよ。なのに一度も襲われないなんて、逆に何かがあるんじゃないかって気になるわ。十中八九、原因はエビル・ドレイクだと思うけど。

 だけどそれは後で余裕があれば調べればいいわね。今は寝る前に大和に貸した槍の方が気になるわ。


「ねえ大和、寝る前に話してたあれ、できたの?」

「一応成功した、といっていいかな。少し設定を変えた刻印化プログラムが使えたから、多分大丈夫だと思う」


 そう言うと大和は、ストレージからアイアンスピアを取り出した。あたしがザックで買った鉄製の槍で、普通の鉄槍より硬い当たりの槍だったのよ。


 武器や防具に限らず、金属製品には同じ鉄製、魔銀ミスリル製でも当たり外れがあるの。もちろん当たりの商品は高くなるんだけど、稀に売り手が気がつかないこともあって、普通の物と同じ値段、場合によっては外れとして扱われていることもあるわ。これが所謂当たりってやつで、武器としてはかなり信頼度が高いのよ。逆に外れはすぐに折れたり刃毀れしたりするから、お金の無駄遣いにしかならないわね。


 以前大和が鋼?とか何とか言ってたけど、聞けば大和の世界には合金っていう、異なる性質の金属を混ぜ合わせた金属なんて物が存在してるって言うじゃない。鉄より硬くて強くて錆びない金属とか、ハンターからしたら垂涎物よ。


 そのアイアンスピアに、テストと称して大和が魔法を付与してくれたの。


「フレイム・アームズとフレイム・ランスを刻印化プログラムを使って試してみた。幸い少し設定をいじるだけで何とかなったし、十分実用的になってると思う」


 武器に魔力を纏わせて強化するフレイム・アームズ、槍の形に収束、圧縮して放つフレイム・ランスか。槍に付与させるわけだからその選択はわかるけど、設定をいじるってどういうこと?


「フレイム・ランスは魔力を収束、圧縮させることで炎を槍の形にして放つ魔法だろ?それをフレイム・アームズで強化された穂先に集中させることで、さらに貫通力を増すように調整してみたんだ。同時に二つの魔法を使うより魔力の消費は抑えてあるつもりだから、普段使いする分には問題ないと思う」


 それはありがたいわね。というかフレイム・ランスを穂先に集中させるなんて、客人まれびとの考えってすごいわ。魔力強化の応用でフレイム・アームズっていう魔法を開発してはみたけど、さらにその先なんて考えもしなかったもの。


 何でも刻印をプログラム?とかっていうので付与させたそうだから、魔力を流してイメージすれば発動するらしいわ。一応完成っていう言葉の意味は、あたしが使うとどれだけ魔力を消耗するかがわからないからってことで、大和が使う分には問題なかったって聞いてる。


「せっかくだし、一度ぐらいは使ってみたいわね。ねえ、試してもいい?」

「もちろんだ。そのためにやってみたんだからな」


 すごく楽しみだわ。あたしはワクワクしながら大和から槍を受け取ると、ゆっくりと魔力を流す。

 すると穂先が赤く輝き、真っ赤な炎が宿った。すごくいい感じだし、なんか綺麗だわ。


「すごい……!そんなに魔力を流してるわけじゃないのに、こんなに強い炎がでるなんて……」

「魔法付与はまだ見たことないから何とも言えないが、普通は違うのか?」

「ええ。この槍みたいに武器に纏わせるか放つかのどっちかね。だけど魔力の消費がすごいのよ。それに同じ魔法を付与させた武器でも、効果が違うことが普通らしいわ。多分だけど魔法が形になってないから、余分な魔力を消費してるってことだと思うわ」

「なるほど、魔法付与にもイメージが大事ってことか。俺としても参考になる話だな」


 刻印術を魔石とかに付与させている大和だけど、刻印術は術式そのものが完成されたものだって話だから、イメージなんかしなくても所定の手順を踏めばだいたい同じような性能で付与できるらしいの。

 だけど魔法は、しっかりとイメージをしないと形にはならない。これは魔法がまだまだ未熟、言葉を選べば発展途上だっていう証拠なんでしょうね。刻印術も普通に使う分にはイメージも重要なファクターらしいけど、実際に使われてる刻印術は法律で完成されたものしか使えないって決められてるそうだから、知識面でも技術面でもヘリオスオーブは大和の世界に完全敗北してるってことになっちゃうわ。


「それじゃ飯でも食って、先に進むとしようぜ」

「あっと、そうね」


 大和が魔法を付与してくれたアイアンスピアをうっとりと、それでいて激しく尻尾を振りながら見ていたあたしの意識が現実に引き戻された。忘れてたわけじゃないけど、これだけの魔法が付与された魔導武具なんてほとんどないんだから仕方ないのよ、これは。


 アイアンスピアに魔法を付与させたのはあたしが普段使いできない武器だってこともあるけど、それ以前に極炎の翼を使えば数回、下手をすれば一回の戦闘で魔力疲労が溜まって壊れる可能性が高いからなの。

 実際、グリーン・ファングを倒した時に使ったロングスピアは、グリーン・ファングを倒した直後に壊れちゃったし。バリエンテを出る前に買った槍でそれなりに使ってはいたから、グリーン・ファングを相手にする時に反射的に選んだんだけど、あの一撃で倒し切れてなかったら危ないところだったわね。


 大和はウイング・クレストの装備に付与させたいって考えてるみたいだけど、あたしもものすごく楽しみだわ。さすがに空は飛べないだろうけど、翼族としては空を飛ぶのは夢だから、風魔法を付与してもらってアシストしてもらうことができれば夢が叶うかもしれない。そう考えただけで、尻尾が止まらない。


 人間は空を飛べない。翼族なら飛べないこともないんだけど、自由自在に空を飛ぶなんて夢のまた夢。妖族のハーピーやフェアリー、竜族も含めて翼を持つ種族は、風をつかめば多少は自由に動けるけど、それでも滑空がせいぜいだし、ものすごく体力と魔力を使うのよ。


 対して魔物は、自由自在に空を飛べる。開けた場所や海の上で遭遇するとすごく不利な戦いを強いられるのよ。空を飛べる従魔がいれば楽になるんだけど、従魔の世話を嫌う人もいるから何ともいえないわね。そういう奴に限って、バカみたいに文句を言ってくるんだけど。


 だけど風魔法を上手く付与することができれば、翼族や翼のある種族限定ではあるけどその不利を覆すことができるようになるかもしれない。これはヘリオスオーブじゃ大革命よ。


 大和は苦笑してるけど、あたしは大和ならできるんじゃないかって思ってるわ。あたしが期待しすぎてるっていう自覚はあるけど、それでもこの槍を見たら期待しちゃうのも仕方ないわよね?

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