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15・マイライト山脈の麓で

 アルベルト工房で手にいれた武器も防具も、思ったより体にしっくりきた。さすがに晶銀クリスタイトを無理やり取り付けた武器は微妙な感じがしたが、それでもザックで買ったアイアンソードより上だってことがわかる。防具もフェザー・ドレイクの皮鎧に魔銀ミスリルの装甲板をつけてるからすげえ軽いし防御力も高い。いい買い物したと思う。


 現在アルベルト工房は、というかエドは、昨日俺が提案した、魔銀ミスリル晶銀クリスタイト金剛鋼アダマンタイトの合金を作るために、クラフターズギルドと交渉の真っ最中だ。実際の交渉はマリーナがやってるはずだし、大丈夫だとは思うが真似される可能性も考慮して、俺達の報酬となる武具を作るためっていう名目で行ってるから、買い付けも難しくはないと思う。

 何とか上手くいってほしいもんだし、もし成功したら武器も防具もその合金で作ってもらいたいもんだ。


「ま、この依頼が終わってからの話だけどな」

「何の話よ?」


 プリムが不思議そうな顔をしている。


 俺達は今、マイライト山脈の麓に来ている。

 フェザー・ドレイクの生息地は、フィールから3時間ほど北に歩いた所にある森から山頂に進むのが一番近い。山頂へ向かうルートは他にもあるが、オークの集落があったり物理的に突破することができなかったりする地形が連続してたりするから、マイライト山脈はヘリオスオーブでも指折りの難所になっている。

 本来なら二人で行くような場所じゃなく、十人単位の討伐隊で動くことが前提の場所だが、フィールのハンターが信用できないんだから仕方がない。足手まといでしかないしな。


「それにしても綺麗な景色よねぇ。この山にオークの集落があったり異常種が現れてたりするなんて、ちょっと信じられないわね」

「まあな。とは言っても、ここにも魔物がいないわけじゃないんだけどな」


 実際、俺達の足元にオークが数匹とレイク・ビーが10匹ぐらい転がっている。


 レイク・ビーは湖に住む蜂の魔物で、大きさはだいたい50センチぐらいだが青い体色をしており、腹部に隠している毒針を使って攻撃をしてくる。蜂らしく空を飛んではいるが、体色は保護色にもなってるから水の中を飛ぶように泳ぐこともできる。保護色のせいで水中じゃ視認し辛いこともあって、稀に漁師が刺されて亡くなることもある。そのためマリーナのような漁師からは、蛇蝎のごとく嫌われている魔物だ。

 毒は獲物を捕らえるための麻痺毒で、食らってしまえば指一本動かせなくなるらしく、解毒ポーションを使うこともできなくなってしまう。単体ではさほど強いというわけではないが、麻痺毒の厄介さからCランクに位置付けられている。


「レイク・ビーって初めて見たけど、思ってたより小さいのね」


 ビー種にはフォレスト・ビーやフェザー・ビー、キラー・ビーっていうのもいるんだが、他のビー種が1メートル近い大きさがあるのに、レイク・ビーはその半分ぐらいしかない。これは小さな湖や池とかにも生息してることが理由らしい。

 そういや希少種のサイレント・ビーの討伐依頼があった気がするな。まあ覚えてないから、遭遇したら狩るってことでいいか。


「大きかろうと小さかろうと、魔物に変わりはないだろ。それより場所はここでよかったんだよな?」

「ハンターズギルドで聞いた話だと、この辺りでしょうね。この辺りから森が広くなってきてるし、雰囲気も変わってきてるから間違いないと思うわ」


 俺もそう思う。この辺りの森は当然だが魔物の巣で、中腹辺りにはオークが集落を作っている。さらに登ればフェザー・ドレイクの巣があり、エビル・ドレイクはそこにいると思われる。

 アーキライト子爵の部下はハンターの代わりにオークの集落の調査に来ていたんだが、その集落を大きな影が襲った現場を目撃してしまった。その影、エビル・ドレイクはその集落を蹂躙し、オーク達を食い荒らし、悠々と山頂に戻っていったと震えながら報告してきたと聞いている。もちろん希少種のウインガー・ドレイクの可能性もあるんだが、ウインガー・ドレイクの羽毛はフェザー・ドレイクよりも緑がかった青色と聞いてる。毒々しい紫の羽毛を持つ巨体と見間違えることは考えにくいから、見間違いの線はほとんどないだろうな。


 そのエビル・ドレイク、ランクはG-Iに位置付けられおり、異常種ということもあってPランク下位の魔物より厄介だとされている。

 そもそもGランクの魔物を狩ろうと思ったら、Gランクハンターでも十人単位で人数が必要だし、Pランクでも単独討伐は無理だと言われている。今のフィールにはそんな高ランクのハンターはいないから、俺達が負けて死んだらアミスター中のGランクが呼びつけられる可能性もあるってライナスのおっさんが言ってたな。


 それよりも問題なのは、エビル・ドレイクが10メートル近い巨体にまで成長していることだ。フェザー・ドレイクは1~2メートル、希少種のウインガー・ドレイクでも2~3メートルで、過去に討伐されたほとんどのエビル・ドレイクは5メートル前後だったそうだから、かなり前からマイライトに住み着いていたんじゃないかと思う。今回はアーキライト子爵の部下がもたらしてくれた情報だが、おそらく何人かのハンターもエビル・ドレイクを確認していたはずだし、実際去年ぐらいにも目撃されてたらしい。

 その時はいつの間にかいなくなってたとかで討伐依頼も出されなかったそうだが、その判断を下したのも例のハンターズマスター、サーシェス・トレンネルというヒューマンだってことだから、限りなく疑わしい話だ。多分、去年目撃されたのと同一個体だろうな。


「でしょうね。そもそも目撃したって言ってきたのはフィール出身のハンターだって聞いてるわよ。そのハンター達が運悪く遭遇して相当な被害を出したのに、ハンターズマスターは一切取り合わず、それどころか別のハンターに調査依頼を出して問題なしっていう調査報告を上げたって話よね」

「だな。そのことに怒ったフィール出身のハンターが独自に討伐隊を組織してマイライトに乗り込んだものの、誰一人として帰ってこなかった。当然ハンターズマスターの対応を問題視する声は上がったが、同じくしてフィール周辺を荒らす盗賊団が現れたことで問題が有耶無耶になっちまった感がある」


 フィール出身のハンターが一人もいないのは、エビル・ドレイクの討伐で全滅したことが大きな原因だ。もちろん全員が向かったわけじゃないんだが、フィール出身のハンターは当然だが依頼を受けて町の外に出ることが多かったから、そこで命を落とした者も少なくはない。

 逆にフィールの外から来た、今フィールを我が物顔で歩いているハンターどもは、フィールに来た当初からロクに依頼も受けず、ギルドマスターに擦り寄って甘い汁を吸っていた。それどころかそのハンターに殺されたと思われる者もいるって噂があるから信じられない。


「確かケルベロス・ファングだっけ?」

「ああ。フィールじゃ最大規模のレイドだな。確か30人近く所属してて、リーダーもレベル40を超えてたはずだ」


 その噂のハンターは、平均レベル30後半のケルベロス・ファングというレイドだ。ハンターズマスターの護衛についていったレイドと協力関係にあるって聞いてるから、その時点でロクでもない連中だってことが確定している。魔銀亭にチェックインした時に俺達に絡んできたのもこいつらだ。


「同じ宿っていうのは気になるし、できれば早いうちに何とかしたいところね」

「まったく同感だ。あの時ライセンスを見せたのは失敗だったかもしれないな」


 俺に絡んできた女ハンターに俺のライセンスを突き付けたんだが、そのせいで俺達のレベルとランクがフィール中のハンターに広まってしまっている。それ以来、と言っても昨日今日の話なんだが、俺達と目を合わせようともしないハンターが増えていた。ライセンスはライブラリーの情報の一部を写し取った物だし、偽造は絶対に不可能だから俺達のレベルとランクを疑う奴もいない。もちろん搦め手を使ってくる可能性はあるが、そんなことをしたら完膚なきまでに潰すだけだ。その結果命を失おうが、知ったことじゃない。


「さて、そろそろ行きましょうか」

「だな。できれば今日中に中腹辺りまでは行っときたいな」

「そうね。野宿は仕方ないとしても登らないと依頼達成できないし、準備も無駄になっちゃうしね」


 だよなぁ。まあいつまでもこんなとこにいても仕方ないし、行くとするか。

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