14・客人の提案
Side・マリーナ
「やっぱり魔銀は軽いわね」
「それが魔銀の特徴だからね。それにしてもこのバトルドレス、けっこうな値打ち物だね。エドもリチャードじいさんもタロスさんも驚いてたよ?」
あたしは今、プリムの着替えを手伝っている。
フェアリーハーフでもあるあたしはドラゴニュートにしては背が低いんだけど、胸は大きい方だと自負している。
だけどプリムは、そのあたしよりも大きい。こんなに大きいと戦う時邪魔になるんじゃない?って心配になるぐらい大きい。別に魔物に抉られてしまえなんて思ってないよ?
「?どうかしたの、マリーナ?」
「あんたと大和の関係って、一体何なのかなってって思ってね」
「べ、別に……ただのパートナーよ」
真っ赤な顔して否定されても、全然説得力ないわよ。
そもそも男女でコンビ組んでるハンターなんて、ほとんどが恋人、あるいは夫婦なんだよね。ほとんどっていうのは血縁者でコンビを組んでる場合もあるからで、それ以外は全部恋人、夫婦なんだけど、そこんとこわかってるのかな?
ちょっと探りでも入れてみますか。
「そ、それは知ってるけど、でもそのハンターだって、最初から恋人同士だったわけじゃないでしょ?」
「まあね。だけど全員恋人同士になってるんだから、間違ってるわけでもないでしょ?」
今度は顔だけじゃなく、耳まで真っ赤になっちゃったわね。白いハイフォクシーが赤くなるって初めて見たけど、ピンクになってるよ。
さすがにこの反応じゃ、プリムが大和に惚れてて、しかも陥落済みなのは間違いないね。
「なっ!?」
「なんで知ってるの!?って顔してるけど、誰でもわかるよ」
ハウスルームとはいえ同じ宿の同じ部屋に泊まってるんだから、大和だってプリムの気持ちに気づいてそうなもんだけどね。というか大和が娼館に行ってたって話は聞かなかったから、大和もプリムのことが気になってるんじゃないかな?
女は度胸だし、想いを打ち明けてもいいと思うけど、外野がとやかく言うべきことじゃないか。
「あたしとしては、あんたの想いを応援してるけどね。大和に伝わるといいね」
「あ、うん。ありがとう」
本当に伝わるといいね。
さて、まだ話してたいけど時間もないし、バトルドレスはもちろん、手甲や足甲もアジャスティングでサイズピッタリになってるみたいだから、リチャードじいさんとタロスさんのとこに行きましょうか。
あ、アジャスティングっていうのは無属性魔法の一つで、サイズを微調整してくれる魔法だよ。服とか鎧とかに付与させることで効果を発揮する魔法で、ある程度のサイズ差ぐらいなら問題なく合わせられるんだ。
「お待たせ、プリムの方は終わったよ。アジャスティングも問題ないからこのままでも戦えるよ」
「こっちはまだ大和が手間取ってる。まあ魔銀の装甲板の調整をしながらだし、あいつも慣れてないみたいだから仕方ないけどな」
慣れてないって、皮鎧を付けるのが?大和のレベルってバカみたいに高いんだから、慣れてないってことはないと思うんだけど?
「親父さんの方針なんだと。なんでもあいつが片手であしらわれるって話だから、下手な鎧は何の役にも立たねえし、その親父さんの方針で鎧を使ったことがないんだとさ」
待ちなさいよ。大和のレベルって57で、単独で災害種のブラック・フェンリルを倒せる強さなんでしょ?その大和が片手であしらわれるって、大和のお父さんってどれだけの化け物なのよ?
「化け物の親は化け物ってことだろ。で、プリムの方はアジャスティングも含めて問題ないって?」
「問題なし。バトルドレスは元々プリムのだから、手甲や足甲の微調整ぐらいだったよ。って、大和の方も終わったみたいだよ?」
「あっちはタロスさんが見てくれてるから大丈夫だ。じいちゃん、武器は?」
「用意できとるぞい。とはいっても無理やり付けてあるから寿命も短くなっておるし、おそらく耐久力も落ちてるじゃろう。完全に使い捨てじゃな」
魔銀と晶銀を使っておきながら使い捨てって、とんでもなく贅沢ね。
「相手が相手じゃからな。仕方あるまいて」
寂しそうだね、リチャードじいさん。クラフターズギルドから依頼されてる数打ち品でも丹精込めて仕上げてるんだから、こんな使い方されるなんて本望じゃないんだよね。
「すいません、リチャードさん。俺としてもそんな使い方はしたくないんですが……」
「あたしもよ。今はまだ武器がないからこんな使い方しかできないけど、しっかりとした武器を手に入れたらこんな使い方はしないわ」
「その一言だけで十分じゃよ」
嬉しそうだね、リチャードじいさん。
やっぱりこの二人、フィールのハンターとは一味も二味も違うね。あたしは鍛冶師じゃなくて仕立師だけど、クラフターとしてのプライドはしっかりと持っている。いつか二人のために、あたしも何か作ってみたいな。
「ところで二人の武器じゃが、やはり昨日渡した武器をさらに強化、発展させた感じでいいかの?」
「え?いや、それってエビル・ドレイク討伐の報酬ですよね?まだ狩りにすら言ってないのに、ちょっと気が早いですよ」
確かにそうだけど、仮に報酬じゃなくてもあんた達の武器ぐらい、いつでも打ってくれるよ。エドもタロスさんもそのつもりだし、あたしだってそう。魔銀じゃちょっと心許ないけど、それでもあんた達に渡した武器より信頼度は高くなると思うし、刀身は金剛鋼で作るって手もあるしね。
「それってつまり、金剛鋼で芯を作って、それを魔銀で覆うってことですか?」
「うむ。最近確立させることができたんじゃが、魔銀だけで作るより重くはなるが、それでも魔銀より強く硬くなり、神金並に魔力を通すぞ。金剛鋼も魔銀も厳選するつもりじゃから、寿命も延びるじゃろう」
「そんな技術があるなんて……」
正確には剣芯じゃなくて刀身だけどね。その刀身を、刃を除いて魔銀で覆って鋳造する最新の技術よ。リチャードじいさんが試行錯誤を繰り返してやっと完成させたんだけど、30年かかったって言ってたね。
この技術がクラフターズギルドにも認められて、リチャードじいさんはクラフターズギルドでも数人しかいないAランククラフターになったんだよ。本当に難しい技術だから、まだリチャードじいさんにしか使えないけどね。
「なるほど。それならこれも試してるのかな?」
「これってどれだよ?」
というか、なんで大和は思案顔なのよ?プリムは新技術に驚いてるのに。
「ワシも興味があるのぅ」
「俺もあるな。大和君、聞いてもいいかな?」
リチャードじいさんだけじゃなく、エドやタロスさんまで興味持っちゃってるね。実はあたしもだけど。というか大和って鍛冶師じゃないのに、何か試したことでもあるのかな?
「今まで魔銀と金剛鋼を混ぜ合わせた金属って、作られたことはないんですか?」
「……はい?」
「……魔銀と金剛鋼を混ぜ合わせた金属、じゃと?」
あたしは大和の言ってることがわからなかった。異なる金属を混ぜ合わせるなんて、本気で言ってるの?そんなこと、できるわけないじゃない。
「……さすがにそれはないのぅ。そもそも金属は熱を加えれば溶けるが、魔銀、晶銀、金剛鋼、神金はそれに加えて魔力も必要になる。魔銀や晶銀、神金はともかく、金剛鋼は魔力を通しにくいという性質がある以上、仮にできたとしてもワシらの魔力では足りんじゃろう」
でしょうね。確かに鍛冶に火は必須で、熱した金属を打つことで形を整えていくけど、ドロドロに溶かすことなんてまずないし、聞いたこともない。インゴットを作る時だって、ある程度熱するだけで済むよ。
というか魔銀も晶銀も金剛鋼も神金も加工はすごく難しいし高価なんだから、そんな無駄な使い方をする人なんていないって。
「いや、面白そうじゃねえか。金剛鋼に魔力が通りにくいってんなら、晶銀も使ってみればいいかもしれねえしな。確かに金はかかるが、一度ぐらいやってみてもいいと思うぞ」
と思ってたら、よりにもよってエドがやる気になってる!?そんなお金、どこにあるのさ!!
「魔銀に金剛鋼、それに晶銀か。エド、金は出すから試してもらってもいいか?上手くいけば魔銀並の魔力伝達率と重量、金剛鋼並の強度と硬度を持った金属ができるかも知れない」
「そういうことならあたしも出すわよ。あたしとしてもそんな金属が出来るんなら、是非使いたいしね」
いくらなんでもそれは無理でしょ!というかクラフターズマスターが知ったら、真っ青になって倒れるよ。いくら魔銀鉱山が近くにあるからって、それなりに高いんだよ?それに金剛鋼はアミスターじゃ迷宮でしか採れないんだから、鉱山持ってるバレンティアから買い付ける必要もあるよ。
「確かに金はかかるが、俺としても一度ぐらいはやってみてもいいんじゃないかと思う。それにこんなことを言うのはあれだが、大和君達が金を出してくれるんなら俺達としても損はないからな」
そりゃ確かにタロスさんの言う通りだけどさ、だからって無駄にしかならないことに時間使わなくてもいいんじゃない?それならリチャードじいさんの技術で武器作った方が絶対いいって。
「いや、ワシとしても興味がある。エド、やってみろ」
「おうよ!何事も試してみないとわからねえからな!」
エドがすっごくやる気になってる。こうなったらもう止められない。
仕方ない。出来ないとは思うけどエドがやりたがってるんだから、あたしも出来る範囲で手伝うか。確か金剛鋼、クラフターズギルドに少し在庫があったよね?さすがに全部とはいわないけど、ある程度は買い付けられないか交渉しないといけないなぁ。あ、魔銀と晶銀も工房にあるのを使うわけにはいかないから、こっちも必要か。大和とプリムの報酬のためっていえばクラフターズギルドも嫌な顔はしないと思うけど、明日の漁が終わったらすぐに行かないとだなぁ。




