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13・装備の引き取り

Side・エドワード


「マリーナ、そろそろ閉めようぜ」

「もういいの?まあお客さんも来ないし、仕方ないっちゃ仕方ないけど」


 今日も今日で、店は暇だった。おかげで店主のじいちゃんは弟子のタロスさんと工房に籠りっ放しだしな。まあ今回はあいつらが使う剣と槍に晶銀クリスタイトを配する加工をしてるから、俺としても止めづらいんだが。


 昨日フィールに来たっていうあいつらは、街に流れてる噂だけでも俺の常識をぶち壊してくれた。Gランクハンターだって話だがハンター登録をしたのは昨日だし、異常種のグリーン・ファングはおろか災害種のブラック・フェンリルまで二人で狩ったっていうんだからとんでもなさすぎる。

 登録した時にスネーク・バイトの連中に絡まれたらしいが、簡単にあしらったと聞いてるし、夜にはノーブル・ディアーズまで捕まえたらしいから、ある意味じゃ今フィールにいるハンターよりやりたい放題だ。昼間ハンターズギルドに魔物素材の買い付けに行った時に聞いた話じゃゴブリン・クイーンまで倒したって言ってたし、昼前に騎士団が慌ててフィールの外に出動した件にも関わってるらしいから、正直何をやってんだよって気にもなる。


 だけど街を守ってくれたのは間違いのない事実だし、明日もそのためにマイライトに狩りに行ってくれるんだから、感謝こそすれ文句を言うことはない。まだフィールに来てたった二日だってのに、あいつらへの信頼は既にかなり高い。もちろん街の人達も同じだ。


「あ、すいませ~ん。今日はもう……って、あんた達か。遅かったじゃないの」


 閉店間際に来客ってけっこううざったいんだがな。と思ってたらあいつらだった。当然あいつらなら話は別だ。


「思ってたより遅かったな。また何か狩りに行ってたのか?」

「いや、事後処理と依頼のことでハンターズギルドに呼び出されたんだよ」


 昨日フィールに来たばかりのGランクハンター大和が、そんな答えを返してきた。

 いや、依頼のことで呼び出されるのはわかるが、事後処理って何だよ?


「クラフターズギルドからグラス・ボアと、あとマイライトに行くならフェザー・ドレイクをどうにかできないかって聞かれたのよ。フェザー・ドレイクは先客がいるからそっちが優先になるけどって言ったら、それでもいいからってことで素材収集の依頼を受けることになってね」


 大和の相棒で同じくGランクハンターのプリムが、またしてもとんでもないことを言ってのけやがった。


 クラフターズギルドからかよ。確かにグラス・ボアの皮は少なくなってきてるし、肉なんて何日か前に尽きてるから補充は必要だが、一応そっちは騎士団が動いてくれるって聞いてるからそこまで急ぐもんでもないだろ。

 つか,こいつらはハンターだからそっちはまだわからなくもないが、何でフェザー・ドレイクの素材収集依頼なんて出してんだよ。確かにこいつらならフェザー・ドレイクのぐらい狩るのは難しくないだろうが、だからって便乗すんなよ。そもそもこいつらがマイライトに行くのは、エビル・ドレイク討伐のためなんだぞ。


「というか、今いくつ依頼受けてるの?」


 若干呆れながら、今朝紹介した俺の相棒で幼馴染のフェアリーハーフ・ドラゴニュート(水竜)のマリーナが、素朴な疑問を挟んできた。


 マリーナは町一番の漁師でもあって、朝は必ずベール湖で漁をしてから工房に来ることになっている。いい加減結婚しろってじいちゃんやマリーナの両親からも言われてるんだが、今のフィールじゃそんな余裕はないんだよなぁ。


「いくつだっけ?」

「えーっとな、ライナスのおっさんにアーキライト子爵、それとビスマルク伯爵とクラフターズギルドだから、全部で4つだな」


 4つも同時に指名依頼を受けるハンターなんて聞いたこともねえよ。見ろよ、マリーナも呆れてるじゃねえか。


「まあいいけどね。それよりあたしのバトルドレス、装甲の換装って終わってるの?」

「あ、ごめん。終わってるわよ。すぐ持ってくるね」


 っと、確かに明日早いだろうから、無駄話してる暇はないな。じいちゃんにも二人が来たことを伝えねえと。


「剣と槍も終わってるから、じいちゃんにも声をかけてきてくれ」

「オッケー」


 ついでってわけじゃないが、昨日渡したミスリルブレードとミスリルハルバードの手入れもしといてやるか。おっと、その前に店を閉めねえとな。


「俺は看板しまってくるから、武器を出しといてくれ。手入れぐらいならサービスしとくからよ」

「そう?それじゃお願いね」

「悪いな、助かるよ」


 看板はしまったし、鍵もかけ……いや、こいつらが出られなくなるから鍵は後だな。これでよしっと。


「待たせたな」

「頼む」

「おう、任せとけ。あれ?手入れできてるじゃねえか。ゴブリン・クイーンだけじゃなくけっこうな数のゴブリンを狩ったって聞いてたから、血糊や油ぐらいついてると思ったんだけどな」


 剣もハルバードも、思ったより全然綺麗だった。マナリングで強化してるだろうからそっちはあんまり心配してなかったんだが、慣れてない武器だと多少は血糊や油がついちまう。

 これは魔力を均一に流せてないことが原因だから、慣れればそんなことはなくなるんだが、こいつらがこの武器を使ったのって今日が初めてだから、多少はついてると思ってたんだけどな。


「武器の手入れは基本だろ。雑に扱えば寿命も短くなるし、何より自分の命に関わってくる」

「同感ね。時間がなくても最低限の手入れぐらいするわよ」


 こいつら、わかってるじゃねえか。


 高ランクハンターともなれば、予備も含めて武器はいくつか持っている。だけど命を預けている相棒みたいなもんだから手入れを怠ることはない。戦闘中に折れたりしたら命を落としても不思議じゃねえからな。しかも魔力が強すぎることもあって武器の寿命も短いから、尚更普段の手入れが重要になってくる。だから一流のハンターほど、武器の手入れはしっかりとしている。


 だが今フィールにいるハンターどもは、手入れなんて一切しやがらねえし、戦闘中に折れたりしたら文句を言ってくる始末だ。それでじいちゃんがキレてハンターには一切店のもんを売らなくなったんだが、実はクラフターズギルドでも同じことをしてたって知ったのは少ししてからだ。


 ハンターどもが狩りに出ないのは、クラフターズギルドをはじめとしたフィールの武器屋、鍛冶屋が何も売らなくなったのも間違いなく理由の一つだ。ハンターズマスターが文句を言ってきたらしいが、結局話は平行線で物別れしたとも聞いている。そのあとでサブマスターのライナスさんと何人かの職員が謝罪に来たらしいから、ハンターズギルドの全部が腐ってるわけじゃないのが救いだな。


 大和の剣とプリムのハルバードは、刃には血糊も油もついておらず、昨日渡した時と同じ輝きを放ってるように見える。魔力強化の影響で刃毀れ一つない、美しい刃だ。


「ふむ、それじゃ悪いが、少し魔力を流してみてくれ」

「魔力強化ってことでいいのか?」

「それでいい。少し魔力の流れを見てみたいからな」


 俺が手を入れる必要はなかったな。後は魔力の流れを見られれば、大凡だが武器の強度も推測できる。武器を買った時点でやることが多いんだが、初めて使う武器じゃ慣れてないこともあるから、本来はある程度慣らした状態でやるんだよ。まあ武器を慣らさないといけないから買った店で確認することはほとんどなくて、代わりにクラフターズギルドが格安でやってくれてるんだが。

 当然だがフィールのハンターどもは一切やってねえ。


「了解よ。これでいい?」


 大和とプリムが流した魔力を見て、俺は驚いた。普通の魔力強化に使う魔力よりはるかに多い魔力が、今まで見たこともないぐらいスムーズに、しかも均一に流れている。これなら武器への負担も、思ったより少ないんじゃねえかな。さすがはGランクってことか。


「ほう、すごいもんじゃな。これほどの魔力強化、滅多に見られんぞ」


 俺が少し惚けていると、じいちゃんが姿を見せた。って何も持ってねえのかよ。というかじいちゃんは、こいつらレベルの魔力強化を見たことがあんのか?


「あるぞ。じゃがこの二人を見てしまうと、少し雑だったと思えてしまうな。その若さでGランクになるだけのことはある」


 そういやレベルって、魔力との親和性が大事なんだったっけな。精密性も高いししっかりと制御できてるとこを見ても、俺より年下のこいつらが、俺より遥かにレベルが高いのも納得できる。


「そうじゃな。それに二人の魔力量からの推測になるが、おそらくドラゴンの鱗にも傷をつけられるじゃろう。エビル・ドレイクにどこまで通用するかはわからんが、フェザー・ドレイクぐらいならば一撃で倒せるかもしれん」


 とんでもない奴らがさらにとんでもないことになるのかよ。


 大和に渡したミスリルブレード、プリムに渡したミスリルハルバードはじいちゃんの自信作ではあるが、それでも数打ち品でしかない。エビル・ドレイクの討伐に成功したらこいつらの武器を打つことになってるが、同じミスリルで打った武器でも個人に合わせて打った武器は性能が一つ二つ上がるのも珍しくはないし、それを打つのがじいちゃんとなれば三つは変わるんじゃないだろうか?


「それはそれで楽しみにしてるけど、まずは目先の問題を片付けないとね」

「もちろん失敗するつもりもないけどな」


 ホントに不適な奴らだな。だけどあの魔力強化を見た後だから、マジで頼もしく見えるぜ。


「ワシとしても楽しみにしておるよ。おっと、いつまでも話し込んではおれんな。お前さん達の武器と防具は工房にあるから、すまんが来てくれんか?個室もあるからそこで着替えもできるしの」

「わかりました」

「了解よ」

「エド、二人は家の方から出てもらうから、店はしっかりと戸締りをしといてくれ」

「あいよ~」


 マナーの悪いハンターが多いし、戸締りは大事だからな。

 看板はすでにしまってあるから鍵をかけて、防犯用の魔導具を起動させてっと。これで良し。灯りも消したし、俺も工房に行くか。


 工房じゃ大和がフェザー・ドレイクの皮鎧を身に着けてるところだった。プリムとマリーナの姿が見えないが、個室でバトルドレスに着替えてんだろうな。


「へえ、結構着心地いいんだな。それに軽いし、俺の好みにあう」

「おいおい、まだ装甲板をつけてないんだから、感想はそれからにしてくれよ」


 俺の兄弟子にあたるエルフのタロスさんが苦笑している。よく見たら手甲も足甲もまだだな。


「あ、すいません。思ったより軽かったんでつい」


 魔物の皮鎧でも重いのは重いからな。そんな重い皮鎧に鉄とか金剛鋼アダマンタイトの装甲板なんかつけたら、下手な金属鎧より重くなる。そんな鎧を着るのは体格のいい男ハンターぐらいだ。


「気持ちはわからんでもない。俺が知る限りフェザー・ドレイクの皮鎧と魔銀ミスリルの装甲板の組み合わせは、一番軽くて丈夫だからな」


 それは俺も同意見だな。もしかしたらこれ以上の皮鎧もあるのかもしれないが、少なくともフィールじゃこれ以上のもんはない。


「ドラゴンの皮や鱗を使った鎧は、装甲板なぞなくとも魔銀ミスリル金剛鋼アダマンタイトより丈夫じゃぞ。とんでもなく希少価値が高いから、使ってる者がいるかどうかはわからんがな」


 あー、ドラゴンか。確かにドラゴンならありえるな。といってもドラゴンはどこだったか忘れたが、人間と共存してるらしいから、狩れる機会はないに等しい。鱗ぐらいならもらえるかもしれんが、皮は無理だ。そもそもドラゴンはAとかOランクがほとんどで、弱い個体でもPランクだって言われてるから討伐なんて無理に等しい。


 そもそも共存してるとはいっても、ドラゴンは人間とはあんまり関わり合いを持たないって話じゃなかったか?


「うむ。実際バレンティアでは共存してはいるが、それはあくまでも聖地を守るためと言われておるからな」


 ああ、どこの国だったかと思ったが、南のバレンティア竜国だったか。ってことはドラゴン装備を持ってる奴がいるとしたら、バレンティアの高ランクハンターぐらいか?


「バレンティアとかドラゴンとかって話が聞こえたけど、何かあったの?」


 お、プリムも着替え終わったか。まあバトルドレスはプリムの私物だから、着慣れてるってのはあるだろうな。それに引き換え大和の奴は、魔銀ミスリルの装甲板つけるのにえらい手間取ってやがるな。タロスさんが丁寧に教えてはいるが、大丈夫なのか、あいつ?


「すいません、タロスさん。こんな鎧つけるの、初めてだったんで」


 お、終わったか。まあ鎧つけるのに手間取る奴は珍しいわけでもないんだが、それでもGランクの大和が手間取るとは思わなかったな。


「そうなのか?それじゃあ普段は、どんな鎧使ってたんだ?」

「いえ、鎧は使ったことないんですよ」


 そもそもなかったのかよ。それでよくそこまでレベル上げられたな。


「うちは父さんをはじめとした師匠達が化け物だらけだからな。下手な防具は逆に邪魔になるんだよ」


 お前も十分化け物だが、そのお前にそこまで言わせるってどんだけ化け物なんだよ、お前の親父は。ってことは何か?防具なんてろくすっぽ使わずに今まで来たってのか?


「まあ色々あったんだよ……」


 すげえ遠い目してやがるな。つか目が軽く死んでるぞ。どんな修行してたんだよ、いったい。

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