12・買取査定
Side・プリム
ビスマルク伯爵邸を後にしたあたしと大和は、ライナスさんやカミナさんと一緒にハンターズギルドに足を延ばした。ゴブリン討伐の達成報告をしなきゃいけないし、買い取りもお願いしないといけないからね。
食事をしながらゴブリン討伐依頼の話をしたら、またしても盛大に驚かれちゃったけどね。上位種はそれなりに増えてると予想してたそうだけどゴブリン・クイーンは想定外だったらしいから、ものすごく驚いていたわ。確かにクイーンなんて滅多に生まれないから、気持ちはわからなくもないんだけどね。
そんなわけであたし達は今、ギルドの鑑定室で査定をしてもらっているわ。
「ファイター、アーチャー、それに上位種とはいえそれなりに数がいるナイトはともかく、まさかジェネラルまでいたとはなぁ。しかもこいつはナイト系の最上位グランドナイトじゃねえかよ。そらクイーンも生まれるか」
倒したゴブリンの中に、ゴブリン・グランドナイトっていうゴブリンの中でもかなり上位の個体がいたそうで、あたし達も驚いたわ。確かゴブリン・グランドナイトは亜王種の護衛で、その亜王種が生まれない限り生まれない、んだったかしら?
「そう言われてるが、たまに単体で持ち込まれることもあるからな。だからグランドナイトが生まれたら亜王種が生まれるっていう説もあるぞ。まあゴブリンに限らず、亜人の生態はよくわかってないってのが正直なところだが」
確かに亜人に限らず、魔物の生態はよくわかってないのよね。ワイバーンにグラバーン、シーバーンやバトル・ホースなんかの人と共存してる魔物はともかく、それ以外の魔物は人を見れば襲い掛かってくる種が多い。だから調査も簡単じゃないし、仕方ないんだけど。
「ま、今回はこんなとこだな」
「お、査定終わったのか?」
「ああ。ゴブリン・ファイターが200エル、アーチャーが250エル、ナイト2,000エル、ジェネラル4,400エル、グランドナイト2万エル、クイーン5万エルだな。本来クイーンは8万エルが相場なんだが、お前らが狩ってきた個体は、残念だが魔石が傷ついていた。だから査定に響いてこの額になる」
え?魔石が傷ついてたの?
驚いて見せてもらうと、確かに三分の一ぐらいが欠けていた。やっちゃったわ~!
魔石は魔物の心臓付近にあることが多い。もちろん絶対ってわけじゃないし、中には二つ以上の魔石を持つ魔物もいるんだけど、おおよその目安にはなるわ。だけど魔石は、魔物が死ぬことで結晶化すると言われているから、どんな倒し方をしても魔石に傷がついたり、ましてや欠けたりなんてことは滅多に起こらない。
なのにあたしは、その滅多にないことをしてしまった。
魔石は死んだ魔物の魔力が結晶化したとされていて、魔物が死ぬと心臓付近に魔力が集まり、魔石となると考えられている。だけど高魔力の攻撃でトドメを刺した場合、魔力の流れを乱すことになるらしくて、結晶化すると同時に一部が欠ける、あるいは欠けた状態で結晶化するんじゃないかって思われているの。
今回あたしが倒したゴブリン・クイーンの魔石も、本来なら綺麗な黄色い球状であるはずなんだけど、端っこの方が抉られたように欠けてしまっている。これは買い取り額が落ちても文句言えないわ。
「落ち込むなって。金には困ってないし、今回の依頼は試し切りついでなんだから、逆に臨時収入程度に考えとこう」
「それはそうなんだけど……やっぱり凹むわね。もうちょっと上手く使えるようにならないと……」
大和の言う通り、今回受けたゴブリン討伐依頼はあくまでもついでに過ぎない。昨日アルベルト工房で買った武器の試し切りをする必要があったから、それならってことで滞ってる依頼を少しでも減らすために受けただけで、報酬が目当てじゃなかったんだから。
だけどゴブリン・クイーンの魔石だけが欠けてたってことは、あたしがまだ極炎の翼を使いこなせてないってことの証拠になるのよ。
そういえば、同じく極炎の翼で倒したグリーン・ファングの魔石ってどうなのかしら?
「ライナスさん、グリーン・ファングの魔石ってどうだったの?」
「そっちは問題なかったぞ。ランクでいえばグリーン・ファングもゴブリン・クイーンと同じGランクだが、格じゃ上だからな」
そういうことか。
モンスターズランクっていう魔物の強さ、厄介さを表すランクもあって、ゴブリン・クイーンとグリーン・ファングはSランクに指定されているんだけど、確かに格じゃ異常種の方が上ね。
モンスターズランクもハンターと同じように鉱物名ランクとなっている。だけど同じランクでも強さはピンキリだから、そこからさらに細かいランクがあるのよ。
最も目撃例や生息数が多い個体がノーマル(N)、希少種がレア(R)、亜王種がドミネーター(D)、異常種がイレギュラー(I)、災害種がカタストロフ(C)となっていて、ノーマルは下の鉱物ランクに、カタストロフは上の鉱物ランク以上の強さと魔力を持っているの。イレギュラーでも上の鉱物ランクと同等以上って言われてたかしら。
ゴブリン・クイーンはS-D、グリーン・ファングはS-Iっていうのが正確なランクになるから、同じランク内でも実際の強さは違うってことになるわけね。
「それも練習すればなんとかなるって。他の魔物は問題なかったんだからな」
「わかってるんだけど、やっぱり悔しいのよ」
慣れない上に使いにくい極炎の翼だけど、あたしがほとんど単独でグリーン・ファングやゴブリン・クイーンを倒すことができたのは、間違いなくこの新しい羽纏魔法のおかげだ。大和のアドバイスがなかったら、一生思いつかなかったと思う。今は使いこなせていないけど、いつかは自在に使えるようになりたいわ。
「ところでゴブリンの討伐依頼の報酬なんですが、制限はないのでゴブリンの数だけ報酬をお渡しすることができるんですけど、特に種別の指定はしていないのでクイーンやグランドナイトも同じ扱いになってしまいます。大丈夫ですか?」
カミナさんが申し訳なさそうに口を開いた。そういやゴブリンって書いてあっただけだったわね。だけどそれだけゴブリンの数も増えてたってことだろうし、ゴブリン・ナイトぐらいまでならハンターにとっては特に問題ない相手だから、いちいち種別指定するのも面倒なのよ。それに今回はいなかったけど、短剣を使うバンデットとか無手のグラップラーとかもいるから、倒すことができないっていう場合もありえる。だから亜人に限っては種族丸ごとの依頼になっちゃうのよね。
ちなみに報酬は魔物によって固定で決められてて、ゴブリンだと一律で150エルね。依頼掲示板の依頼だから仕方ないし、それぐらいはこっちも承知の上だから何も問題はないわ。
依頼掲示板の依頼は誰でも受けることができるんだけど、当然高ランクハンターが受けることだってある。同じ依頼を達成したのにハンターズランクで報酬が異なってしまえば低ランクのハンターが依頼を受けなくなっちゃうし、依頼者も気軽に依頼を出せなくなるからってことで、昔からこの制度が続いているのよ。
「問題ないよ。そもそも報酬目的で依頼を受けたわけじゃないからな」
「そういうことよ」
「理解があって助かります。では全部で15匹ですから、報酬は2,250エル、それから買取額が10万2,150エルですから、合わせて10万4,400エルになりますね」
間違いなく。今回の依頼は報酬目的じゃないから、買い取り額も含めてレイドの活動資金行きが決まっている。しばらくはあたしと大和の二人だけだから用途は特に気にしなくてもいいんだけど、いずれ増えるだろうから今のうちから明細とか残すようにしておいた方がいいかもしれないわね。
まあこれでギルドでの用事も終わったから、後はもう少し食料を買い付けて、それからアルベルト工房で武具を受け取ってってところかしら。




