表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/105

08・マイライト鉱山

Side・プリム


「いいぞ、プリム!」

「オッケーよ!」


 大和の合図で、あたしは昨日試したばかりの極炎の翼を纏った。やっぱり魔力の消耗がすごいけど、昨日ほど急激にってわけでもない。


 フィールに着いた翌日、あたしと大和はアルベルト工房にバトルドレスを預け、代わりに魔銀ミスリルの胸当てを買って、簡単にポーションや食料の買い出しを行ってからハンターズギルドに顔を出した。

 昨夜大和が捕まえたハンター崩れの話を聞く限りじゃ、あいつらはアミスター出身じゃないし、ハンターズマスターの威光を笠に着て依頼をほとんどこなしていない。だからミスリルブレードとミスリルハルバードの試し切りも兼ねて適当な依頼でも受けてみようと思ったんだけど、そしたら思わず笑っちゃうぐらいの数の依頼が残されていた。幸いグラス・ウルフやグリーン・ウルフはあたし達が大量に持ち込んだからなかったけど、ゴブリンとかオークとかグラス・ボアとかサイレント・ビーとか、それはもう大量にあったわよ。

 あたし達も全部をこなすのは無理だし、そんなつもりもないからとりあえずマイライト鉱山付近のゴブリンの討伐依頼を受けることにしてギルドを出たんだけど、それだけでもすごく感謝されたわ。


 そういうわけであたし達は、フィールの南側にあるマイライト鉱山に行くことになった。


 マイライト鉱山はフィールから1時間ちょっとのところにある、アミスター王国が誇る魔銀ミスリル晶銀クリスタイトの採掘場よ。あたし達がフィールに来る二週間ぐらい前にグリーン・ウルフに襲われ、鉱山で働かされてる犯罪奴隷が全員殺されてしまったこともあって、パッと見じゃ廃坑に見えなくもなくなっちゃってるけど。


 ここが重要な鉱山だってことは間違いないから、危険を承知で領代の部下や騎士団が何度か様子を見に来てたんだけど、そこでゴブリンが巣にしようとしていることがわかったらしいわ。


 だけど騎士団はグリーン・ファングのことがあるから下手に動かせなかった。だから領代がハンターズギルドに依頼を出したんだけど、グリーン・ファングの話を持ち出したハンターズマスターが、一度は依頼を拒否したそうなの。それなら騎士団を派遣させるからってことでハンターズギルドのワイバーンを使う許可を求めたんだけど、ギルドでの緊急事態のためにあるって屁理屈を持ち出してそれも拒否。


 さすがに無茶苦茶が過ぎるってことでアレグリア総本部から派遣されていたライナスさんが口を出して、結局はマイライトのゴブリン討伐の依頼が受理されることになったんだけど、受けるハンターは誰も出てこなかった。領代はハンターズマスターの関与を疑ってるけど、その疑惑が晴れない内に本人が王都に向かっちゃったもんだから、ライナスさんがいなかったらアミスターとハンターズギルドの信頼関係は崩れ去ってたでしょうね。


 今あたし達が戦ってるのは、その鉱山に巣を作ったゴブリンどもよ。普通のゴブリンはもちろん、ゴブリン・ファイターにゴブリン・アーチャー、上位種のゴブリン・ナイトやゴブリン・ジェネラルまでいたけど、驚いたのは最上位の個体で亜王種って呼ばれているゴブリン・クイーンの存在ね。

 亜王種が生まれる条件はわかってないけど、人間との接触が少ない程生まれやすいんじゃないかって言われている。だけど今は、それが正しいか間違ってるかはどうでもいいわね。


 あたし達は手にした剣やハルバードを振り、魔法や刻印術で次々とゴブリン達を屠っていく。そして残ったのがゴブリン・クイーンだけになったのを確認してから、あたしは灼熱の翼に爆風の翼を重ねて極炎の翼を成した。

 ゴブリン・クイーンは手にした剣で応戦してくるけど、大和の刻印術で足を氷らされて動けなくなり、それを狙ってあたしは極炎の翼を全開にして、グリーン・ファングの時と同じように全速で突っ込んだ。全開とは言ってもゴブリン・クイーンの体を燃やさないように気を使ってだから、昨日より疲れたわ。

 だけどそのかいあって、ゴブリン・クイーンは少し焦げた程度で胴体から真っ二つになって地面に転がっている。


「昨日よりはマシだけど、それでもやっぱり疲れるわね」

「まだ完成ってわけじゃないし、無駄なところに魔力を使ってる感じもするからな。こればっかりは試行錯誤を繰り返して慣れるしかないんだろうが」


 まあね。普通の魔法でも慣れれば魔力の消耗も抑えられるようになるし、あたしが満足できるようになるまでは色々と試すしかない。町の中じゃ極炎の翼なんて使えないから、試せる機会があったら積極的にやっていくべきね。


「それにしてもゴブリン・クイーンねぇ。この分じゃ他の坑道にもゴブリンがいるんじゃないのか?」

「でしょうね。他の坑道もそんなに遠くはないから、念のため様子を見ときましょう」

「そうするか」


 その可能性はすごく高いしね。


 マイライト鉱山には五つの坑道がある。今あたし達がいるのは第一坑道で、フィールからは近いけど魔銀ミスリルの産出量が減ってきている坑道よ。他は東側に第二と第四、西側に第三と第五坑道があるけど、第二坑道は崩落事故が起きてから封鎖されてるし、第四と第五は新しいこともあってそこまで深いわけじゃない。特に第五坑道なんて、犯罪奴隷の数が足りなくなったら一時封鎖されるそうだから、ほとんど使われてないって聞いたわ。


「となると第三坑道か」

「そうなるわね。ゴブリンの回収が終わったら行きましょう」

「だな」


 あくまでも念のため、のはずだった。あたし達は第三坑道に何があるかなんて、全く考えてなかったんだから。


「大和?」


 だから大和がドルフィン・アイを飛ばして第三坑道の様子を見てくれなかったら、思わぬ不意打ちにあってたかもしれなかったわね。


「気をつけろ、プリム。第三坑道に人がいる」

「人が?ゴブリンとかの亜人じゃなくて?」

「人だ。坑道の入り口は誰もいないように見えるが、さっき外の様子を伺ってる奴がいた。ちょっとモール・アイに切り替える」


 モール・アイっていうのは土性C級探索系術式で、ドルフィン・アイと同じ系統の刻印術だそうよ。多分土属性だから坑道の中を確認しやすいってことで使ったんでしょうね。


「……坑道を掘ってるな」

「それ、盗掘じゃない。だけどなんでそんなことを……ああ、だからハンターズマスターがグリーン・ファングの情報を握りつぶして、ハンターにアーキライト子爵のワイバーンを殺させたってことか」

「多分な。二週間ぐらいって話だけどそれなりの量は採れただろうし、このまま好き勝手させとくのも面白くない。何より見つけちまったんだから、捕まえないといけないだろ」

「同感よ。まさかこんなことしてたとは思わなかったけど、これで犯人の目星もついたし、アミスターもハンターズギルドも黙ってないでしょうね」


 グリーン・ファングやブラック・フェンリル、ゴブリン・クイーンが現れたのは偶然だろうけど、それを逆に利用してフィールを孤立させて魔銀ミスリルを盗掘して、さらにはフィールをアミスターから奪おうとしてたんでしょうね。


 こんなことを考えるのはアミスターの北にある隣国、レティセンシア皇国に間違いないわ。レティセンシアがマイライト山脈を狙っているのは有名な話で、皇家もそれを隠そうとはせずに事あるごとにアミスターと衝突していたと聞いてるし。

 なんでもマイライト山脈はレティセンシアの土地だから、レティセンシアが管理しなければならない。大国であるレティセンシアの意向を無視すれば、フィリアス大陸で生きていくことはできない、とかほざいたってお爺様が笑ってた気がするわ。当たり前だけどアミスターは無視を決め込んだし、そもそもレティセンシアは200年程前にいくつかの小国同士の争いを制した皇家が建国した国。当然だけどアミスターはもちろん、マイライト山脈とも何の関係もないわ。


「それにしても武器の試し切りのはずが、とんでもないものにぶち当たったわね。労働者はやっぱり奴隷?」

「それがよくわからん。確かに揃いの腕輪はしてるんだが、俺は隷属の腕輪を見たことがないからな。それに犯罪奴隷だったとしても、服とかで奴隷紋が隠れてたら確認のしようがない」


 それは仕方ないか。


 ヘリオスオーブの奴隷は身請け奴隷と犯罪奴隷がほとんどだけど、そのうちの身請け奴隷は隷属の腕輪と呼ばれる腕輪を身に着けていることが多い。

 身請け奴隷は腕輪をつける際に契約書にサインをして、そのサインを元に主人になる人が奴隷になる人につけることで成立する。隷属の腕輪は契約期間が終了するか、契約した金額を身請け奴隷が稼ぐか、主人が契約違反を犯すかで自動的に外れて、それを合図に身請け奴隷は解放される。もちろん解放された後に仕えることもあるけど、それは個人の自由だと思う。

だから腕輪をつけてる奴隷は身請け奴隷と思って間違いない。


 対して犯罪奴隷は、腕輪が壊れてしまう可能性があるために体に奴隷紋を刻み込む。刻むと言っても魔導具を体に押し付けるだけで済むし、契約書を交わすこともないから絶対に解放されることはない。もちろんただ体に押し付けるだけで誰でも奴隷にできてしまうようじゃ大きな問題が起きるから、国家君主や領主が罪状書にサインをしなきゃいけないし、そのサインがないと魔導具が動かないようになってるそうだから悪用されることもない。


 問題なのは非合法奴隷ね。

 どんな方法かはあたしも詳しくはないけど、犯罪奴隷に使うのと同じような魔導具があるって噂は聞いたことがあるわ。当然非合法だからバレたら極刑だけど、それはアミスターでの話。

 レティセンシアやソレムネにはそういった魔導具を使う奴隷商人がいるみたいだし、グラーディア大陸にはそれとは別の方法があるっていう噂がある。


 だから第三坑道にいるのがレティセンシアの人間だとしたら、使ってる奴隷は高い確率で非合法奴隷のはずよ。


「最悪の場合、奴隷の生死は諦めるしかないな。なるべく殺さないようにはするけど、確か主人が死ぬと奴隷も死ぬっていう契約があったろ?」

「非合法奴隷の場合はね。騙されて奴隷に落とされた人は主人を恨むことが多いから、主人を傷つけないような保険としてそんな契約があるって聞いたことがある気がするわ」


 非合法奴隷が非合法奴隷たる所以は、まさにここにあると思う。考えるだけでも気分が悪くなるわ。関係ないと言ってしまえばそれまでだけど、だからって罪もない人を殺すなんて後味が悪すぎる。それに奴隷から解放することができれば、色々と情報が手に入る可能性もあるから、できれば奴隷は生かして連れて帰りたいところね。


「それじゃ行くか」

「そうしましょう」


 あたしと大和はいつでも武器を構えられるように用心しながら、第三坑道へと歩を進めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ