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03・フィールの現状

 ギルドに入ってカミナさんのとこに戻ると、カードを2枚手渡された。大きさは免許証ぐらいだな。


「これに血を垂らしていただきましたら、ライブラリーにもこのハンターズライセンスと同じ内容が表示されるようになります。またこのライセンスも身分証としてご利用いただけますので、いちいちライブラリーを出す手間も省けます」


 それはいいな。ライブラリーには名前や年齢どころか称号まであるからな。間違って閲覧許可しちまったら、面倒なことになりかねん。


「ライセンスは他人が使用することはできませんが、紛失した場合はすぐにギルドで再発行の手続きを行ってください。その場合は手数料として3,000エルが必要となります」


 なるほど、ならストレージにつっこんどけばいいな。その前に確認しておくか。


 ヤマト・ミカミ

 17歳

 Lv.57

 人族・ハイヒューマン

 ハンターズギルド:アミスター王国 フィール

 ハンターズランク:ティン(G-T)

 レイド:ウイング・クレスト


 こうなるのか。わかりにくいとは思うが、運転免許証をイメージしてもらえると近いと思う。顔写真の所がランクになってて、デカデカと表示されてるぞ。まあ登録したばりだからG-Tっていう表示だが。

 ちなみに下がプリムのライセンスだ。


 プリムローズ・ハイドランシア

 17歳

 Lv.51

 獣族・翼族・ハイフォクシー

 ハンターズギルド:アミスター王国 フィール

 ハンターズランク:ティン(G-T)

 レイド:ウイング・クレスト


「以上でライセンスの発行は終了となります。これからサブマスターのお部屋にご案内しますので、こちらへどうぞ」


 カミナさんに促されて、俺とプリムはギルドの奥にある階段を上った。2階にはいくつか部屋があって、一番奥がハンターズマスターの部屋になっている。その隣がサブマスターの部屋だそうだ。


「よく来たな。俺はハンターズギルド フィール支部のサブマスター、ライナス・マクレガーという。それより見てたぞ、お前ら。登録早々やってくれたな」


 サブマスターの部屋に入るとアプリコットさんとミーナ、そしていかついおっさんがいて、開口一番文句を言ってきた。まあ笑ってる所を見るに、おっさんも腹に据えかねてたっぽいが。


「ケンカ売ってきたのは向こうだけどね。というかあんな盗賊紛いの連中がハンターなんて、ギルドとしても大問題なんじゃないの?」

「面目次第もねえがその通りだ。ここ最近緊急事態ってのが多くてな。ハンターズマスターが直々に、ハンターの問題行動を容認しやがったんだよ」


 おいおい、問題どころじゃないだろ、それは。さすがに騎士団だって動くぞ。


「その通りで何人かは捕まっている。ハンターズマスターはそのことを抗議するために、王都に行ってるんだよ」


 ハンターズマスターってバカなのか?どこの国だってそんなこと認めるわけがないだろうに。


「それってアミスターとハンターズギルドの信頼関係が崩れるんじゃないの?」

「崩れるだろうよ。だがあいつは俺の忠告も聞きゃしねえ。そもそも俺がフィールに来たのだって、あいつの行動が問題になってるからだからな。ったく、まだまだ厄介事はいくつもあるってのに、いらん仕事ばかり増やしてくれるよ」


 なんだってそんなのがハンターズマスターやってんだよ?というか、よく馘にならずにすんでるな。


「よくそれでハンターズマスターやってられるわね。アレグリアの総本部は何も言ってこないの?」


 ハンターズギルドはアレグリア公国に総本部があって、そこにはグランドマスターもいる。ハンターはもちろんギルド職員の元締めでもあるから、アレグリア総本部が動けばフィールのギルドマスターなんてすぐに馘どころか処分されてもおかしくはないぞ。


「言ってきてるんだが急ぎで総本部に報告するためにはワイバーンを使わなけりゃならねえ。だけどワイバーンはハンターズマスターの許可がなければ使えないんだよ。一応別ルートで報告してはいるんだが、ブラック・フェンリルにグリーン・ファング、さらにはデカい盗賊団までいたもんだから無事に届いてるかがわからねえ」


 デカい盗賊団って、それはまた厄介だろ。さすがにここしばらくは鳴りを潜めてただろうが。


「王都とか他の町から報告は行ってないの?」

「どうだろうな。一番近いのはエモシオンだが、あそこだってグリーン・ファングの噂があるって話だし、その件だってあいつが半ば握りつぶしてたんだから、動くにしてもまだ時間はかかる気がする」


 エモシオンでの噂が信じられてなかったのって、ハンターズマスターのせいだったのかよ。


 なんでも最初にフィールで目撃報告があったらしいんだが、目撃したハンターに対してハンターズマスターが緘口令を強いたそうだ。そのハンターどもはハンターズマスターの腰巾着みたいな連中だから多額の金と引き換えにそれを了承し、誰にも喋らなかった。しかも他の町にもハンターズマスターの名前で虚偽の報告を行ったために、次々と犠牲者が出てしまった。


 そのためレックス団長が第三騎士団を率いて調査に向かい、そこでグリーン・ファングの姿を確認したもんだから大変だ。それが数日前の話で、ハンターズマスターは逃げるように王都へ経ったというのが真相らしい。よくそんなバカにメッセンジャーなんか頼んだな。


「実際には頼んでいないがな。いくら何でも信用できなさすぎる。だから鳥を使って王都に報告したし、そこからワイバーンを回してもらう予定だ。無事に到着したかはわからねえが」


 鳥って伝書鳩みたいなもんか。確かに空を飛ぶ魔物だって少なくないし、道に迷うことだってありえるだろうな。


「あたし達が王都かアレグリアの総本部まで護衛するってのはダメなの?」

「最終的には頼むことになると思う。だからお前らは、査察官付きのハンターってことにしておきたい」

「査察官付き?どういうことなんだよ?」


 そもそも査察官って何だよ。


「査察官ってのは俺のことだ。ギルドに問題があった場合、総本部から派遣されることになっている。だが単独で来るのは自殺行為になりかねんから、護衛として高ランクのハンターが付くんだよ。当然俺にも護衛はいたんだが残念ながら、な」


 死んだのか。誰に殺されたのかはわからないが、というか十中八九ハンターズマスターの差し金だろうが、純粋に事故や魔物に殺されたっていう可能性だってあるんだから、犯人を捜すのは不可能に近い。

 ライナスのおっさんもレベル44のハイヒューマンだそうだが、それでも一人じゃできることは限られるから、査察官付きになれるハンターを探してたっていうのはわかる。

 だけど俺達は登録したばかりだし、レベルはともかくランクの問題があるから無理だと思うんだが?


「ランクに関しては心配するな。グラス・ウルフやグリーン・ウルフの討伐依頼なんて山ほどあるし、ブラック・フェンリルやグリーン・ファングまで倒してるんだから、そうだな、Sまではすぐに上げられる。俺の護衛をしてくれてたハンターもSランクだったし、俺が護衛を探してるってのはハンターズマスターも知ってることだから大丈夫だ。そもそもこれは俺の査察官としての権限だから、ハンターズマスターの権限じゃどうすることもできんよ」


 部分的にはハンターズマスター以上の権限を持ってるってことか。まあ査察官なんだから当然だが。その査察官に何かあれば、それが事故であったとしてもハンターズマスターの責任は免れない。ライナスのおっさんが今まで生きてこれた理由はそれか。


 サブマスターとして紹介されたライナスのおっさんだが、本来ギルドにはサブマスターという役職は存在しないらしい。なぜライナスのおっさんがそう名乗ってるかというと、これはおっさんが査察官だからだ。どうやらサブマスターとは、ギルドマスターに何かしらの疑いがある時に派遣される査察官のことを指すらしく、どこのギルドでも同じなんだそうだ。


「俺は構わないけど、プリムやアプリコットさんとしては?」

「あたしも構わないわ。だけど母様のこともあるから、もし遠出をするなら一緒についてきてもらうか、もしくは騎士団に護衛をお願いするかね」

「私としてはついていきたいけど、足手まといになりそうだからフィールに残るべきなんでしょうね」


 今フィールにいるハンターは信用できないから、俺としては一緒に来てもらいたいんだけどな。まあ状況次第か。


「すまねえな。これは正式に指名依頼として処理させてもらう。条件としては期間は未定だが、少なくともアレグリア総本部に報告できるまでとさせてもらう。報酬は一日につき5,000エルで、成功報酬としてさらに10万エルってことでどうだ?」


 護衛依頼を受けたことがないどころか登録したばかりだから詳しくはわからんが、期間が未定ってのは納得できる。だけど報酬が高すぎないか?


「Gランクハンターを雇うことになるんだから、こんなもんだ。それに護衛といっても俺がフィールを離れる時についてもらうことになるだけだから、普段は好きにしててもらっても構わんしな」

「つまりライナスさんがフィールを出る時は、ライナスさんの都合を優先しろってことね?」

「そういうことだ。だから普段は好きにしてもいいって言ったが、泊りがけはやめといてくれ。もちろん不測の事態は十分考えられるから、絶対ってわけじゃないが」


 なるほど。そういうことなら普段はアプリコットさんの護衛を優先できるか。どっちにしても町の外に出るのは難しいが。


「ところで先程プリムと大和君が相手をしていたハンターですけど、彼らはどうするのですか?」


 あ、忘れてた。俺はプリムと顔を見合わせると、慌てて窓から見下ろした。


「騎士団が来てるわね。なんか縄を打ったりしてるけど大丈夫なの?」

「スネーク・バイトだろ?構わねえよ。というか、あいつらが街の人に迷惑をかけてたのは事実だからな。あいつらだけじゃなく、今フィールにいるハンターはここしばらく狩りにも行きやがらねえから、依頼も滞りまくりだ。そのくせ街での迷惑行為にさっきのお前さん達への一言だ。叩けばホコリが出る身だから丁度いい。だろ?」

「はい。スネーク・バイトに限らず、いくつかのレイドには非合法奴隷との関係を疑われていますし、実際に捕縛しているということは先程の騒ぎも騎士団の誰かが見ていたということになります。ですから嫌疑ありということで騎士団が動いたんだと思います」


 本気でどうしようもねえな。

 ヘリオスオーブには奴隷制度があるが、基本的に無理やり奴隷にする行為は違法となっている。つまり相手の身ぐるみをはいで奴隷商に売りつけるっていう行為は、立派な犯罪なわけだ。未遂どころか返り討ちにあったとはいえ、俺達にそんなことを言い切ったわけだから過去に何件かやらかしてるのは間違いない。それどころか周りにいた奴らだって関与してるんじゃないかっていう疑いがある。というかほぼ間違いなく関与しているだろう。

 正直ハンターどもが敵になるとは思ってもいなかったが、俺達もこれからフィールに住むことになるわけだからそんなバカどもを排除することは大賛成だ。

 さて、少しでも町の浄化を手伝うとしますかね。

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