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03・ロリエ村

 出発した日の夜はアルカに戻り、翌日は転移した地点からの再出発をした結果、昼過ぎには目的地のロリエ村に到着した。

 ロリエ村はハウラ大森林という、バリエンテの三分の二近くを占める大森林の中にあるため、周囲は木々しかないといっても過言ではない。よく小説とかである、エルフが住んでる森ってのが一番イメージが近いか。ツリーハウスとかはないけどな。


「バリエンテはハウラ大森林のせいで、多くの村や街でさえも森の中にあるからね。だから林業が盛んだし、木材も豊富で他国にも輸出してるのよ」


 国土の三分の二近くも占める森なんだから、それは仕方ないとこがあるよな。チークやマホガニーなんて、このハウラ大森林ぐらいでしか採れないって聞いてるぞ。北西にあるガグン大森林でも採れるそうだが、そこはヘリオスオーブ三大難所の一つだから、迂闊に入るとすぐに死ぬ危険地帯だったか?


「ガグン大森林に入るのはハンターぐらいですね。それも入って一時間ぐらいの所にある迷宮が目当てだったと思います」


 ガグン大森林にも迷宮があったのか。


 聞けばガグン大森林の迷宮は大きな木の虚に入口があるらしい。バリエンテはハウラ大森林で採れる木材の他にも、いくつかの鉄鉱山、金鉱山を持っているが、魔銀ミスリル金剛鋼アダマンタイトの鉱山はない。だから鉱物資源の多くは、ガグン大森林にあるガグン迷宮から採れる物も多いそうだ。


「あー、そういや金剛鋼アダマンタイトが足りないんだったっけか」

「だな。マジック・サークレット分もあるし、装甲板のこともある。行きしなにザックとかエモシオンとかで買っとけば良かったと思うな」


 移動することしか考えてなかったしな。バリエンテの町も入るためには身分証の掲示に入場税が必要だから、バリエンテで買うのは難しい。普通なら入って買うんだが、今回は俺達の足跡はなるべく残したくないから、町に入るっていう選択肢は取れないのが痛い。後々のことを考えると、仕方ないんだが。


「まあ急いでるわけじゃないし、用が済んだら適当なとこで買えばいいだろ。入荷する可能性もあるしな」


 最近王都から、少量ではあるが金剛鋼アダマンタイトがフィールのクラフターズギルドに届いた。既に青鈍色鉄アビイロガネ翡翠色銀ヒスイロカネの品評は終わってるから、王都でもハイクラスハンターを対象に販売されているそうだが、魔銀ミスリル晶銀クリスタイトで作る翡翠色銀ヒスイロカネはともかく、青鈍色鉄アビイロガネはさらに金剛鋼アダマンタイトを必要としてるから、品薄状態になりつつあるって聞いている。


「品薄って言っても、ハイクラスに進化してる人はそこまで多くないから、心配する必要はないと思うよ」


 マリーナがそう言うが、確かアミスターのハイクラスは三十人前後だったか?そのうち八人がフィールにいるから……ああ、確かにアミスターから金剛鋼アダマンタイトが消えるってことは考えにくいな。青鈍色鉄アビイロガネにしろ翡翠色銀ヒスイロカネにしろ、今はハイクラスにしか売ってないって話だったはずだ。


「なるほど。じゃあ用が済んだら適当な街で買ってくるか」

「俺達としてもそうしてもらうと助かるな」


 魔銀ミスリルは簡単に手に入るし、晶銀クリスタイトもアミスターが原産地だから入手は難しくない。だが金剛鋼アダマンタイトはバレンティア以外だと迷宮でしか採れないから、一度品切れを起こすと補充は簡単じゃない。だからある程度は確保しておきたいんだよ。


「そっちは後でもいいでしょう。今日はフィーナのご家族を迎えに来てるんだから、そっちを優先しないと」


 マナリース姫が苦笑しながら口を挟んできたが、確かにその通りだ。


「悪い、フィーナ」

「いえ、気にしないで。気持ちはわかるから」


 エドに限らず、マリーナやフィーナともクラフターとしての話はけっこうしてるからな。フラムも加わることがあるから、俺とフラムも近いうちにクラフターズギルドにユニオン登録してもいいかもしれない。


Side・フィーナ


「お姉ちゃん!」

「おかえり、フィーナ」


 二年ぶりに家に帰ると、家族が総出で出迎えてくれました。私に抱き着いてきたのは二歳年下の妹でリクシーのフィアナ。元気そうで良かった。


「ただいま。元気だった?」

「うん。お姉ちゃんのおかげで税金も何とかなってるし、最近はクライも狩りについていくようになったから、だいぶ安定してきたよ」


 クライはフィアナの一つ下の弟で、木工師の父について行けるような歳になっていました。

 うちの家族構成はお父さんとフィアナ、リーナがリクシー、私と私の母、妹のレイナがハーピー、フィアナの母とカンナがヒューマン、クライとクライの母がエルフです。


 父は腕のいい木工師で、私も父の仕事を見ながら時々手伝っていたんですが、木を伐採するにしても魔物と遭遇することは珍しくありませんから、ハンター登録をしている村人も少なからずいます。父は登録していませんが、森の多いバリエンテではそういう人もいますから、珍しいわけではありません。


「フィーナを連れてきてくれて、本当にありがとう。心から感謝する。そしてフィーナ、結婚おめでとう」

「ありがとう、お父さん」


 エドと結婚したこと、マリーナもお相手の一人であることは説明済みですが、大和さんとマナ様のことは護衛を引き受けてくれた親しいハンターとしか紹介していません。大和さんはエンシェントヒューマンですし、マナ様はアミスターの王女様なんですから、どちらも迂闊に教えるわけにはいかないんです。この辺りを治めている王爵はプリムさんを無理やり娶ろうとしていたんですから、お二人の正体が知られれば絶対に大きな問題になりますから。


「そして父さん達も一緒に暮らさないかという話だが……ありがたいが、父さんや母さんはこの村に残る。だがフィアナやクライ達は、望めば連れて行ってやってほしい」


 予想はしてましたが、やっぱりお父さん達は村に残るつもりです。ロリエ村で奴隷になった子は、どうやら私が最後のようですが、それも私の身請け金を貸すことで凌ぐことができていたそうです。ここでお父さん達がいなくなれば、遠くない将来村の子供が奴隷になってしまうかもしれないという危惧があるみたいですから、それはわかります。ロリエ村は子供が奴隷にならないように村人が助け合って生きてきた村ですから。私の時は法外すぎる税金を課されてしまい、どうにもできなかったので、やむなく身請けすることになったんです。


「お父さん、いいの?」

「構わない。だが成人前とはいえ家を出るわけだから、自分の力で生活をしていかなければならないぞ?」

「もちろんよ。お姉ちゃん、私は着いていきたい。ずっとクラフターになりたいって思ってたんだけど、村じゃそんな余裕はなかったから、諦めてたの」


 フィアナはそう言うだろうと思ってました。本人も言ってますが、ずっとクラフターになりたいって言ってましたからね。お父さんの手伝いとかはしてたはずですから、木工師としての基本はできてると思いますし、私より手先は器用ですから細工師になるのもいいんじゃないかと思います。まだ15歳ですから、細工師に絞らなくてもいいと思いますが。


「俺は残るよ。フィアナ姉さんはフィーナ姉さんに着いていった方がいいと思うけど、俺はこの村で猟師をやってる方が性に合う。いずれはハンター登録もしようって思ってるから、そっちで村に貢献したいんだ」


 クライが残ると言ったのは意外でした。確かにハンターになりたいと言ってた気がしますが、村のことを考えたらハンターはいた方がいいと思います。ロリエ村にはギルドはありませんから、徒歩で一日かかるフレスノという町に行く必要がありますが、ハンターにとってはそれぐらいの移動は常識の範囲内でしょう。クライはまだ14歳で、レベルも16ですから、登録するにしてもしばらくは先になるでしょうけど。


「クライ、そう考えてくれるのは嬉しいけど、少しぐらい経験を積んできてもいいのよ?」

「大丈夫だよ、母さん。フィーナ姉さんに着いていけば良い経験はできるだろうけど、俺がなりたいのはモンスターハンターじゃなくてウッドハンターだから」


 ああ、ウッドハンター志望でしたか。確かにそういうことなら、私についてきても経験は積めないですね。大和さんがいますからモンスターハンターとしての経験は間違いなく積めますが、ウッドハンターとなると話は変わります。ですがウッドハンターは木を伐採することがメインですが、魔物を狩らないというわけじゃないですから、経験を積んでおいた方がいいと思いますよ?


「それは大丈夫。村の人も色々と教えてくれるから」


 クライの意思は決まってるみたいですから、無理強いするわけにはいきません。よく考えてみたらフィールで経験を積むとしても、大和さんやプリムさんのことがありますから、ロリエ村に帰ってくるという前提ではクライの面倒を見るのは難しかったんでした。


「あたしはお姉ちゃんに着いて行ってもいい?何をするかはまだ決めてないけど、村の外を見てみたいんだ」


 私の同腹の妹になるレイナは13歳ですから、そろそろ将来のことを考えておく必要があります。だから村の外を見たいということですから、これも断る理由はありませんね。


「わかったわ。あとはカンナとリーナだけど、この子達はどうする?」


 カンナとリーナはまだ9歳ですから、まだ自分達で何をするか決められないでしょう。連れて行ってもいいんですが、親元にいたい年頃でもありますから、できればロリエ村に残しておいた方がいい気がします。


「私は残る!」

「あたしも!」


 あっさり答えたカンナとリーナ。ということはフィアナとレイナは私達についてきて、クライとカンナ、リーナは残るということになりますね。


「俺は問題ないぞ」

「あたしもだよ。そっちもでしょ?」

「勿論だ」

「当然よ」


 エド、マリーナ、大和さん、マナ様もすぐに首を縦に振ってくれました。本当にありがとうございます。


 あとは私達がフィールに住んでいることを伝えて、二人の引っ越しの準備をするだけですね。身一つでも構いませんし、すぐに仕事をするのは無理ですから、しばらくは私が面倒を見るつもりですよ。


 

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