第7話「代償」
「まさかとは思ったが、やはり彼女も不死身か! 怪能の持つエネルギーの影響なのか」
「おいそれアタシの専売特許じゃねーのかよ!」
「銃で撃つなんて、グーで殴るなんてヒドイじゃないですか……」
ルヴィアは右のこめかみに指を突っ込んで弾丸を抜き取りながら、三白眼で睨みつける。
人間がしていい所作ではないが、なんの抵抗も疑問もわかずにやっているたり、彼女の精神も一線を超えていた。
「テメェがえげつねえ攻撃するからだボケ。やめてほしけりゃ今すぐ降伏しろ」
「なんでそういう言い方しかできないんだよ君は。もっとオブラートにだな────」
それ以上の掛け合いなど許さないとするように、ルヴィアのアトラスが牙を剥く。
「ぐお! またこの力か!」
「ぬぉお! ちっ、いい加減覚えろよ……アタシはバネだ。バネを収縮させりゃ、ドンと力で跳ね飛べる!!」
「ご勝手に」
「どりゃあ!! ────ぬ!?」
────ザクッ!!
(な、ぼ、ボールペン……ッ! いつの間に!?)
「さっきもこういう攻撃あるって見せたのに……。単細胞って言われません?」
「ぐあ!」
飛んだリーネットのさらに頭上に投げたボールペンはアトラスによって圧を含み、リーネットの肩を目掛けて急速に落下した。
その場にうずくまるように地面にへばりつく形になり、さらにまたアトラスで動きを封じられる。
「やってくれんじゃねえか。へへへ、楽しくなってきたぜオイ」
「私は全然楽しくありませんよ。これまでだってそう……。私は静かにしていたかっただけ。なのにあの人たちから最初に絡んできて、勝手気ままに私をもてあそぶ」
「……それが、殺しの動機かい?」
「倉庫のときもそうです。毎回のように絡んでくる彼はお金持ちの息子でした。街の不良仲間も連れてきて、ビデオも回してきた。とても楽しそうで、幸せそうでした……。殺す以外に選択肢ありますか?」
「状況が状況とは言え、怪能で善悪のタガが外れたみたいだな」
「もう疲れました……私の人生は、底辺のさらにどん底を歩くことそのもの。……いつも上のほうから、皆の笑い声が聞こえる。ずっと見上げることしかできない。私の魂は深い地の底で澱み、織り成される。神話の混沌のように」
「クソ、なに言ってんのかさっぱりわかんねえよ……ッ! いでで」
「私を見下すのはいい。でもそんなのは私のわからない場所でやってくださいよ。でも、わざわざ《《上から》》そうする。そんなに私のことを見下したいのなら、いっそ私のところまで落ちてくればいいじゃないですか!!」
一気に豹変する。
瞳孔が収縮し、半狂乱で頭を抱え、何度もふたりにさらなる落下を望んだ。
「落ちろ! 落ちろ! 落ちろ! 落ちろ! 全部落ちてしまえ!!」
「うぉい、なんかヤベェぞ。揺れてるぞこれ地震か?」
「いいや、違う。この学院を沈下させる気だ!!」
「ハァ!? ンなことできんのかよ!」
「怪能が暴走してる!! おそらく限界を超えようとしてるんだ!」
カプノスが撃つより早く、ルヴィアは上体を仰け反らせ、怨念に満ちた顔で天上の輝きたちを仰いだ。
「アトラアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァスッ!!」
ルヴィアの呪いに呼応するように、音をたて大地が揺らぐ。
空間を満たすほどの重圧が一気に圧し掛かった。
「さすがにこれだけの規模を瞬間的に落とすことは無理みたいだな。だが、重圧がヤバい。もう銃が持ちあげられんッ!」
甘かった。
ふたりで組めば渡り合えると思ったが、リーネットの持つ怪能よりもあまりに凶悪あった。
「諦めんな」
「諦めたくはないが……」
「ジリジリ落とそうとしてる。そのための圧でミチミチ状態だ。でも、これでいい。負荷がかかってんなら、これがちょうどいいんだ」
「なにを言って────」
突如、リーネットはバネにした右腕を振り上げ、勢いのままに地面に突き刺した。
「な、なにをしてるんですか……?」
「落とすって言ったな? じゃあちょうどいい。その力を利用してアタシの腕を地面に落としゃヨォ……その分威力があるから地面に埋まる。さらにそのパワーを利用して思いっきり殴ればヨォ!」
「し、しま────ッ!!」
ドゴォ!!!
「が、ぁ……?」
「リーネット様のさいきょー脳内演算で導き出した、『落下の勢い利用してのアッパーカット』だぁぁああああ!!」
伸びに伸びた右腕がルヴィアの足元から飛び出て、反応の遅れた彼女の顎を撥ねる。
力が解除されたのか、学院にかかる圧が止まった。
しかしそれでもルヴィアは止まることなく、気絶寸前なのを気合で耐えながら、再度アトラスを行使しようとするが、
「わたしはそこにはいないよ? リーネットに君の力を使っても無意味だ」
(あれ? 男の人がいなく、なって……?)
「見下すのなら、自分のわからないところでやってほしい────いやはや、なるほど。ヒントにはなったかな」
見渡すことができないので、目を動かして探すも、カプノスの姿は見えない。
脳が揺れたことで気配察知による正確な位置も把握できない。ゆえに、
「認識できないものは落とせない。君の力、一見強力だが、近接よりも暗殺向きだな」
背後からの銃撃2発。
狙いは脳幹にあたる部位へ。
ルヴィアは白目を向いて倒れそうになるも……
「あが、まだ、まだ……です……」
「まだやろうってのか? いいぜ? 殴り合いやろうや!」
「アホみたいな突飛な発想と、チャンスをつかむそのしつこさ、敬意を表します。ですが……お忘れですか? 私は魔導士であることを!!」
「ゲッ! 雷!? オイオイオイやめろバカ! このまま怪能で勝負しようぜっ、な!?」
「私の得意属性は、雷……アトラスが効かないからって油断を────ぇ?」
「……あ、あれ? バチバチが消えた?」
雷属性の魔力を練っていたルヴィアから、魔力反応が消える。
すでに銃をホルスターに納めていたカプノスは、彼女の異変に納得していた。
「本来持ち得た判断能力も、心から望んだ安息も、そして《《大事な才能》》さえも奪ってしまう。……怪能に魅入られるとは、そういうことだ」
魔術が使えなくなっていた。
そればかりか魔力を感知することもできない。
肉体の限界と、魔術が使えなくなるという代償に打ちのめされ、敗北感に落ちていく。
ルヴィアから戦意が消え、その場にへたり込んだ。




