第4話「怪能」
「おいニュース見たか? 港のほうにある倉庫で、ウチの生徒が死んだってよ」
「戦闘でもあったのかな? マフィア同士の抗争に巻き込まれたとかさ」
「いや、そういうのはなかったって」
「知ってる? 現場にはすごいクレーターができてて、中にぐちゃぐちゃになった死体が転がってたって」
「普通に考えるなら爆弾とか魔術だろうけど、高熱で焼けた跡も魔力の痕跡もなかったらしい……ダメだわからねえ」
学院内はこの話題で持ちきりだ。
生徒がひとりと、無職の青年3人が犠牲となった。
授業は変わらず開始されたが、空気はどこか重苦しい。
死んだ男子生徒は、いい噂を聞かない不良の類ではあったが、その凄惨な死にざまに心に暗いものを落としていく。
そして校舎裏でも、カプノスとリーネットがそのことを話していた。
「なるほど、それは大事件だね。言うまでもなく、怪能によるものだろう」
「知らねー奴らは、推理合戦と考察遊びでにぎわってるよ。暇だねえ」
「君が言うか? だが、面白い情報だ。当然我々は推理や考察だなんてことはしなくてもいい。ただ感覚で犯人を察知すればすぐにわかるだろう」
「やっぱアタシと同じ、えーっと、怪能を使う奴なのか?」
「おそらくね。その男子生徒がなぜその倉庫へ行ったのかが気になるが、誰か呼んでいたのか? 彼の所有? 金持ちの子供?」
「ンなもん決まってら。女だろ~。そいつ確か色んな女子に声かけまくってたんだ。もちろん《《そっち》》目的」
「へぇ」
「新入生のとき、女子生徒を騙して校舎裏でコマしたってサ。お盛んだね~。ヒヒヒ」
「それはそれは……大したお坊ちゃんだね。さて、犯人を探すにあたってだが、注意点を述べておく。ちょっとした作戦だよ」
「お、なになに?」
「犯人を見つけても、けして近づくな。顔と特徴、できれば名前も覚えて報告。ひとりで戦おうとか会って話そうとかしないように」
「え~なんで」
「聞いた限り、とてつもない破壊力の持ち主だ。迂闊に近づくと瞬く間にやられるだろう」
「へいへい、つまり見かけても知らんぷりだ」
「くれぐれも喧嘩を売るんじゃないぞ」
「……ウッス」
「大丈夫かなぁ。なんだか心配になってきたぞ」
「うるせっ! 保護者かっ! ……それで、どうすんだよ? 今から探すのか?」
「いいや、今はどこも授業中だ。また反省文は書きたくないだろ?」
「うげっ、反省文……」
「わたしはちょっと調べ物がある。君は、迷惑にならない程度に好きにしたまえ」
「あいよ。いってらっしゃいませ旦那様」
「やれやれ……。さて、職員室は向こうだったな」
しっしっ、とするように手を振ってリーネットはその場に寝転んだ。
しばらくして彼がいなくなったのを確認し、スマホを取り出した。
「ミスター・カプノスねえ。どういう話なんだ? へへへ、ちょっと調べてみるか」
画面に映る大まかな情報を読み上げる。
「なになに、────ミスター・カプノス。夢の中に突然現れ、煙のように消える謎の男性。世界各地で老若男女問わず、彼を夢で見たという証言がある。特に悪夢に悩まされる人に現れやすいとされ、彼と出会うともう二度と悪夢に悩まされることはないという……か。なんでぇアイツ、悪夢除けのご利益があるのか」
とは言え、悪夢を見ることのない彼女にはいささかイメージがしづらかった。
「正直、寝てるときに助けられてもねえ」
夢でやるくらいなら現実で助けろと言いたくなった。
そんな彼は職員室方向へと行ったが、特に興味はわかなかったので、昼休みまで居眠りする。
彼が出てくる夢は、見なかった。
「……────おうい、起きろってば。起きなって」
「んあ? なんだメシの時間か?」
「あと10分くらいでね」
「うし、今なら最前列確保できるな」
「待て待て。今から張り込みだよ」
「ハァ!? メシ! メシが先でしょうがよ!」
「売店あるだろ。そこでなんか買いなよ」
「ぐぬぬぬぬ……いいのかよぉ~アタシのモチベーションだだ下がりだぞオイ」
「しょうがないな~。じゃあ君は食堂を監視してくれ。できるね?」
「そうこなくっちゃ」
リーネットが食堂へ向かう間、カプノスは外を回り、生徒たちひとりひとりを陰ながら見る。
「生徒の数が多い……ここだけでもすごい思念の渦だ」
もっと近くで見れればいいが、万が一見られでもしたらなにをしでかすかわからない。
それが怪能に蝕まれた者の性だ。
「お、いたいた」
「なんだ君か。どうした?」
「どうしたじゃないよ。こうして報告しにきたんじゃねーか」
「聞こうか」
「それっぽい奴見つけた」
「でかした。案内してくれ」
「ただなぁ……」
「なんだよ」
「そいつ、ど~も《《いじめられてる》》っぽいんだよな。なんか物静かそうでよぉ~。さっきもインケンな女子連中に連れ出されてた」
「よくもまぁそういう情報をのんびりと言えたもんだな!!」
「はぁ? どういう意味だよ!」
「怪能を報復に使わないなんてあると思うか?」
「いいね、それ最高。どんな力か見れるじゃん」
「君も大概だな。早く案内してくれ」
体育館の方面。
周囲に人がいる中で、堂々と数人がひとりの女子生徒を連れ出そうとしてたのをリーネットが見つける。
「く、ここも人が多いな……」
「いた! ほら、あそこ!」
「どこだ?」
「あーもう! ホラ! 今連中と一緒に歩いてるあそこの物憂げな黒い髪の女ァ! 乳デケェからわかりやすいだろ」
「わかったから大声で言うな。ちょっとは慎みを持て!」
「でも見ろよ。あの大人顔負けのダイナマイトボインを。男でなくともガン見しちまわぁ。なるほど……ありゃやっかみ受けるね」
「もういいから。……さてどうするかな。ひとりだけならともかく、複数名いるんじゃ────」
「めんどい。こういうのは正面から行きゃあいいんだよ」
「は? ちょ、待て! 待てったら! ……あぁもう、作戦もへったくれもない!」
ちなみに、体育館裏ではまさにその少女がやっかみを受けようとしていた。




