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第3話「事件」

 科学や魔術が発展した今となっては、あらゆる事象は分析される運命にあるのかもしれない。


 しかし、こと『怪異』は違う。

 理知という光を()()()()()()に当ててはならない。


 下手をすれば一流の魔導士でさえ引きずり込まれる、世界の暗黒的空白なのだ。


 未知、未踏、未解。

 勇み足で来る者を大口を開いて、常に待っている。


 彼は言ってみれば、その世界の住人にカウントされる。


「すまん、もっかい言って?」


「正確には怪能かいのうと言ってね。怪異が持つエネルギーだ。魔力や物理じゃ推し測れない力に今君はのまれている。人の身で有していい法則の限界を超えているんだ。早く摘出しないとマズいだろうね」


「いやいや、これ便利なんだけど?」


「呑気だな君は。いいかい? 君のその力は才能じゃない。ましてや技術でもない。猛毒以上の異物なんだよ。時間とともに宿主を蝕んでいくだけだ。持っているだけで、その力を振るわずにはいられない衝動に駆られる」


「なんでテメェにそれがわかるんだよ」


「わたしもそういう力の具現だから。こうして君だけが見えているのが証拠だろう?」


「ほーん……」


「興味なさそうだな。この先どうなるかなんてわからないんだぞ?」


「死ぬと決まったわけじゃない」


「それはそうだが……」


「じゃ、いーや。アタシは今最高にキマッてる! アドレナリンがギュンギュンなんだよ」


「はぁ、そうかい。でも、わたしは違う。わたしは現実世界にいちゃいけない。元の居場所に帰りたい。そのためにはまず原因を突き止めなきゃいけないんだよ」


「原因ねぇ。そういやよ。3日前に爆発事故があったんだよ」


「3日前?」


「その日からかな。このビヨンドを手に入れたのは。急にふっと降ってきた感じ?」


「わたしが来る前日か……。事故はどこで?」


「立入禁止の実験棟。あそこはたとえ教師でも許可なくは入れねえって場所だ。ってかなんでわかんねえんだよ。昨日もいたんだろ?」


「最初は人の形すらとどめてなかったからね。人の形になってからも、耳も聞こえなかったし声も出せなかった。……話を戻そう。なんでそんなところで爆発が?」


「気になるんなら行くか? 近づかないよう言われてるけど大丈夫だろ。知らんけど」


「知らんけどって適当だな。まあいい。案内してくれ」


「うーい、着いてきな」


 爆発跡の実験棟。

 かなりの規模のものだったのか、古い建物の大部分が瓦礫と成り果てている。


 前は立入禁止の札は立ってこそいたが、今となっては黄色いバリケードテープが張り巡らされ、行く手を阻んでいた。


「このテープ……魔力が編んであるのか? 誰も近づけさせないための結界の役割を果たしているのか 時代の変化ってすごいな……」


「どうする~?」


「まぁ、わたしには無意味な話だ。こうしてすり抜けられるからね」


「おお~」


「……ありがとう。見たいものが見れたよ」 


「お、なにが?」


「不安定な力場がある。間違いない。わたしや君がこうなった原因はここにある」


「瓦礫ばっかでなんも見えねえケド」


「魔力探知で引っ掛かるほど簡単なものじゃない。空間に不可視の亀裂がいくつも走って、それが一点に集中している」


「え、え、え?」


「このままあの一点に入っても戻れない。体がバラバラになるか、異次元の遥か先へと飛ばされるかのどちらかだ。空間を安定させることができれば、そこに多次元を結ぶ特異点が現れ、わたしが安全に入ることができる」


「コイツなに言ってんのかさっぱりわかんねえ!」


「ここにわたしの帰り道があるんだ。でも、即死レベルの障壁ばっかりで帰れないの」


「そう、なのか?」


「なあ、君はなにも見えないと言ったが、それだけかい? なにか違和感を覚えるとかないかな?」


「そういや……なんか胸の奥がムズムズする」


「ふむ、おそらく君の中にあるエネルギーが反応してるんだろう。君が名づけたビヨンドは、ここから生まれた」


「マジ?」


「力場を安定させるには、ここから放出されたエネルギーを回収する必要がある。君のを含めて『5つ分』! 力が必要だ」


「オイオイオイオイ待て待て待て待て! この力手放せってのか!?」


「今すぐじゃない。……その力は役に立つからな」


「どういうことだよ」


「わたしと君の力は同質のものだ。神経を集中させれば感覚でわかる。近くにいればなおのことね。それに、平和的に回収できるとは限らない」


 その言葉を聞いた瞬間、リーネットの口元が歪んだ。


「へぇ、つまり、アタシと同じような能力を持ってるってことか?」


「話し合いができればいいが、そいつらが『はいどうぞ』って渡すとは思えない。君を見ていればなおさらだ。おそらく人格にも影響を及ぼすほどに強い力なんだろうな」


「そうか~? アタシは別にどうもないぞ?」


「異常者は皆そう言うんだよ」


「とは言ってもよぉ~。そんな力に目覚めてたらすぐにわかりそうなもんじゃね?」


「覚醒に時間差があるのかもね。できるなら、今日から始めたい。どうせ授業に出る気ないんだろう?」


「もち!」


「自慢げに言うなよ。試験とか大丈夫なのか?」


「2年に進級するのでパワー使い果たした」


「まぁ、わたしには関係ないからいいけどね」


「うっしゃ! こりゃあ面白くなってきたぞ! 見つけ次第ブッ飛ばそうぜ!」


(ほんっとに出会う相手間違えたかもしれない……)


 5階建ての学院を調べるために、リーネットはカプノスの制止も聞かずに、授業中の教室へ入り込んで生徒ひとりひとりにガンを飛ばす。

 当然、教員たちに引っ張り出された。


 ギャーギャー騒いでいたが、当然妄言として聞き入れてもらえず、別室で反省文を書かされる羽目になった。


 先が思いやられると、カプノスはため息交じりに肩を落とす。


 その日の、放課後────。



 ぐしゃ


 ぐしゃ


 ぐしゃ


「アナタも、落ちてください」


 ぐしゃ


「ふふふ、やっとこれで私と同じ……()()に立ってくれましたね。あ、もうへばりついてるって感じでしょうか? うふふふ」


 次の日、学院からかなり離れた港の倉庫内で、4人の惨殺体が発見される。

 

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