第16話「真夜中の連行(デート)」
「で、作戦を立てる前に顔合わせしちまって。今ちょっとヘコんでるわけか」
「なんとでも言っていい」
「だーっはっはっはっはっはっ! ダッサお前!」
「リーネットさん。口の利き方には気を付けたほうが良いですよ?」
「まぁ待ちなよ。……ダサくはあるが、嫌いじゃない。うん、アタシとしてもそのほうがいいかな? 裏でコソコソやるよか堂々と脅したほうが面白いだろ。多分めっちゃビビってるぞ今ごろ」
「君の行動原理が移っちまったのかなぁって思うと、複雑だよ」
「いいじゃん。結果的にソイツはなにもしてこなかったんだろ?」
「本人にとっても青天の霹靂ってやつだろう。しばらくは犠牲者を出さずに済む」
リーネットはカプノスの行いを咎めなかった。
むしろ今の状況を楽しんでいる節すらある。
「今日はご苦労様。帰って身体を休めてくれ」
「え~、見張りしようぜ」
「君も帰れ。ルヴィアも悪かったね」
ふたりを帰らせてから、カプノスはひとり学院に残る。
────さらに時間は過ぎて深夜0時前。
歴史ある学院ゆえ幽霊のひとつでも出そうな雰囲気が漂った。
この時間帯になると、思念が弱まる。
いくらかの教室に時間制限つきで、侵入ができるくらいには成長できた。
このまま続ければもっと可能なことが出てくるだろう。
「ここに欲しい情報があればいいんだが……」
欲しいのはふたつ。
実験棟の件と、リーネットのこと。
教員卓に置いてある書類のみでは実験棟のことはわからなかった。
学院も隠蔽に力を入れているようだ。
なのでリーネットのことを調べてみる。
様々な卓の書類から読み取れる断片的な情報をまとめてみると、ある程度見えてきた。
「ふぅん、本当に落ちこぼれなんだな。授業態度はもちろん筆記試験も実技試験も壊滅ギリギリ。2年生に上がれたのは奇跡のようなもの……か」
少なくともロベリアが執着するような部分はなかった。
なにもかもが正反対のリーネットに、《《なにか許しがたい秘密》》でもあるのだろうか。
(孤児院か……そこがなんなのかの情報もあればいいんだけどな)
だが、見つかるわけがない。
個人情報も含まれるため、データや厳重な管理が施されたファイルに、そういうものは閉じているものだ。
カプノスが見れる道理はない。
「帰るか」
職員室から出ようとしたとき、型板ガラスにライトと人影の輪郭が見える。
見回りでも来たのだろうと特に気にも留めなかったが……。
ドアが開き、その人物に思わず両眉を上げた。
「あら、昨日ぶりでしたかね。ジョン・ドゥさん」
「ロベリア、君か……」
「ここでなにを?」
「ちょっとした散歩だよ。職員室と教授室をいくつか。そういう君はどうなんだ?」
「ワタシは夜の見回りですよ」
「見回り? 学生が?」
「そういうのも学院治安部の務めですので」
「魔術の名門って変わってるな。ご苦労さん。じゃ、さいなら」
横切ろうとしたとき、腕を掴まれた。
「な、なに?」
「不審者を逃すとでも?」
「ハハハ、それは人間に対して言う言葉だ。わたしは人間じゃあない」
「いいえ、逃がしません。ワタシと一緒に来てもらいます」
「……どこに?」
「ふふふ、ちょっとデートしましょうか」
妖しく笑む彼女の中に、子供のようなあどけなさを見た。
(よくデートに誘われるなあ)
「さぁ行きましょう。ついてきてください」
「はぁ、いいだろう」
なにがなんでも隣を歩きたがる。
なんなら手を繋ごうともしてくる。
怪能の持ち主は、なにかと押しが強い。
気疲れの種が増えたと、内心肩を落とす。
「屋上なんていかがです?」
「天体観測かい?」
「今の季節はとても綺麗でして」
「ならグラウンドでもよくない?」
「風情がないんですね」
「考えたこともないよ」
こちらが素っ気なく返そうとも、ロベリアには嬉しいもののようだ。
ちょっかいをかけて反応を楽しんでくる年下ほど、厄介なものはない。
「ところでジョン・ドゥさん。スマホの情報はご覧になられました?」
「いいや」
「かわいそうに。あの娘たちに見せてもらってないんですね。仲間外れにされているんですか? なんてイジワルな。いつでもワタシのところに来ていただいていいですからね?」
「……スマホには、なんて書いてあったのかな?」
「ミスター・カプノスという都市伝説のお話です」
「へぇ」
「話題にすらなっていないし、スレではまだ嘘として認識されていますが、ミスター・カプノスが夢を使って悪さをしていると」
「怖いねえ」
「夢で人間に悪さをするとか。悪魔のような取引をするとか」
「でも、今は根も葉もない噂なんだろう?」
「えぇ、取るに足らないただの噂。……でも、妙ですね。どうしてこんな噂が流れたのでしょう?」
「都市伝説なんだ。時間とともに尾ひれもつくだろう」
「そうでしょうか?」
「そういうもんさ」
「あと、リーネットさんが時折クラスメイトに自分の力のことを『夢で知らない男にもらった』と自慢しているそうなのですが、ご存知で?」
「あの年ごろだ。自慢したいんだろう。それにしてもいい加減だなぁまったく」
ロベリアはそれ以上問わなかった。
アナタがやったのですか? なんのために?
横顔がそう物語るように。
しばらく沈黙のまま廊下と階段を渡り歩く。
「さぁ、美しい夜景と星空をとくとご覧あれ」
「ほぉ、これはこれは」
屋上へのドアをロベリアが開ける。
闇を裂くように天地の輝きが、視界に満ちた。
絶えず進む文明の光と、古代より変わらぬ光。
その間を吹き抜ける涼やかな風が、カプノスの心を揺らせた。
(でも背後にいるのはやめてくれないかな)




