第10話「お前の考えを述べよ」
昇降口で切り裂かれた少女は一命をとりとめた。
しかし、傷口が思った以上に深く、顔にもまた大きな切り傷が目立つ。
現在は学院内に設けられた医療施設で今も養生しているらしい。
「厄介なやつだな。置き手紙がズバッと相手を切り裂くなんて」
「あぁ、あれから数日だ。今度は学院じゃなくて外でも似たような話を6件聞くね」
「昇降口でやったのはデモンストレーションってことはないか?」
「ありうる。自分の怪能を確かめていたのだろう」
通常の学校と異なり、危険と隣り合わせである魔導士の学び舎の休校はあまりに短い。
自分の身は自分で守る。今も昔も、その責任の重さは変わらない。
リーネットが授業をサボりまくっているので、カプノスはあまり実感はなかったが、それが普通のようだ。
「今日から授業だそうだ。いかないのかい?」
「いくわけねえじゃん。怪能探しやってるほうが楽しいしさ」
「いや、楽しんでやられても困るが……」
「でも授業中にまた教室に乗り込むのはなあ~。ん? よくよく考えればアンタが入ってひとりひとり顔覗き込んだら済む話じゃね?」
「あ~それなんだがなあ」
「なに?」
「入れる教室が限られているんだ。どうやらこれもルールらしい」
「ハァ!? 意味わかんねえ! 食堂とアタシが反省文書いた部屋には入れたじゃん!」
「思念が強すぎるんだよ。食堂は基本食べることに向いてるからまだギリギリ入れる。でも教室は生きてる人間のありとあらゆる思念が渦巻いてる。感情、思い出、将来のこととかそういったものがわたしを弾いて入れてくれない。寮にだって入れないのはそういう理由もある」
「……メンドクセェ」
「申し訳ないね」
「謝んなくていいよ。じゃあどうするかねえ……もっと手っ取り早く見つけられればいいんだけど」
「ううむ、地道にやるしかないか。なぁ、すまないが一度君の教室へ行ってくれないかい?」
「はぁ? なんで?」
「そこで情報収集だ。自分の教室ならいくらでもいてもいいし、誰かに聞くことだってできるだろう?」
「ええ~」
「面倒くさがらないでくれ。わたしはわたしで調べたい」
「……けっ、そうかよぉ」
「感謝する」
リーネットは渋々教室へと戻っていった。
何人か彼女が珍しく現れたことでギョッとしたが、リーネットは特に意に介さず。
「えーっと、そうだなあ……お、アイツだ。おう、お前。なんか詳しそうだな」
「え? ……え?」
「いや、お前以外に誰がいんだよ。おう、聞かせろや」
教室の隅にいた男子生徒に話しかける。
「な、な、なんでしょう?」
「なんで敬語なんだよ。意味わかんねえな」
「すみません……」
「いや、なんで謝んだよ。……まあいいや。ちょっと聞きてえことがある。えーっと……なんて言えばいいかな。なんか怪しい奴見なかったか?」
「いや、特に……その、怪しい奴って?」
「なんかこう、今にも人をブッ殺してえって雰囲気出してる奴」
「え~」
「わかんねえか」
情報収集のやり方などわかるはずもない。
質問を変えるしかない。
「じゃあ、これはどうだ? 最近よくあるだろ。なんか手紙とか小包とかを受け取った奴がザクザクっと切られてる事件」
「あぁ、あります、ね」
「お前の考えを述べよ」
「え、いきなり問題?」
「お前の考えを述べよ」
「いや、何度も言わなくていいですって……まぁ奇怪と言えば奇怪ですけど。なんです? 探偵でもやってんですか?」
「早く、なんでもいいから、言ってみろ」
「わ、わかりました。えっと、魔力の痕跡もないし、かまいたちが起こったり魔物のせいってわけでもないみたいですし、不明ですね」
「そうか」
「あぁ、そう言えば、6件とも手紙が多かったみたいですね。手紙で、切るとなったら……『あれ』かなって思うんです」
「心当たりあんのか?」
「カミソリレターですよ。ひと昔前に流行ったらしいです。一種の嫌がらせですね」
「うへ~、えげついな」
「でも、呪う気持ちは込めてたにしても、それそのものは呪物じゃない。仮に呪いにしたとしても、普通に魔術でも防げるものだし、使わずとも気を付ければ大体は……」
「カミソリレターねえ」
「僕からは以上です。その、いいでしょうか?」
「おう、ご苦労。悪かったな。これ、駄賃だ」
そう言ってポケットからお菓子をひとつ置いた。
「え?」
「また来るかもしれん。バイバイな~」
「え、もうすぐ授業始まる、んですけど……あぁ、行っちゃった」
リーネットは情報を手に入れてウッキウキな状態で去っていった。
対するカプノスはというと、また職員室前まで来ていた。
「怪能の持ち主に関する有力な情報はない、な。でもあの実験棟のことはまだボヤいていたな。《《そりゃあ国のお偉いさんも疑いの目を向けるはずだ》》」
彼は実験棟で起きた事故の情報を仕入れた。
あれはただの実験ではなく、国そのものが動き出してしまうほどに違法性の高いものだったようだ。
今学院の上層部は揉み消しや火消しやらで、てんやわんやだろう。
そう呆れながら離れていくと、
「あら、こんなところで」
「おや、君は」
ルヴィアと出会った。
「お久しぶりですね。先生」
「先生? わたしがかい?」
「はい、私としてはこっちのほうがイメージに合うかなって。お気に召しませんでしたか?」
「好きに呼びたまえ。それで? 職員室になにかよう?」
「いえ、気分が悪いからって……ふふふ、午前中は保健室で休もうかと」
「ははは、サボりか」
「よろしければ先生。一緒に保健室へどうです?」
「どうしたもんかねえ」
彼女から話を聞くのもありかもしれない。
とりあえず了承し、もしも中へ入れなければ窓の外で話せばよいと考えた。
結果、どうやら保健室へは入れた。
ルヴィアはカプノスとふたりきりになれたことで、密かに胸を躍らせる。




