第1話「BEYOND!ビヨヨン?」
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夢の正体は未だ不明だ。
しかしまだ科学も魔術も今より発展していない遥か昔から、夢は特別だった。
リーネット・カルミアもそう感じた。
夢の中ではすべてが滅茶苦茶で、それが正しい。
滅茶苦茶でない夢のほうこそ嘘なのだ。
脈絡のなさがなくして、なにが夢だろう。
理屈や知性という法則に縛られない世界。
自由ではないが、自分が許されている感覚。
だから眠るのが好きだった。
────あの爆発事故が起こるまでは。
「イィヤッホオオオォォォ!!」
リーネットは学院の寮を飛び出して、バネと化した両足で高らかにジャンプする。
制服のスカートがひるがえることなどお構いなしに、ヘンテコな姿の自分に狂喜していた。
文字通りのバネ。
肉体が変化し、超常的な動きを見せている
「どこの誰か知らねーけど、こんなすんげ~力与えてくれるなんて、マジ感謝しかねえ!」
幼いころいた孤児院から、養女として引き取られた。
そこは商売で成り上がった家系だった。
養父はさらに権威を求めるべく、娘を魔術の名門である『白女神の学院』へと入学させた。
リーネットはそんな養父を成金と見下している。
ほんの少しばかり魔術の才能があったからと言って、なぜ名門なんぞに行かせるのかと憤慨していた。
勉強はからっきし。授業は大体サボり常習犯。
楽しみはスマホいじりと寝ること、食堂でメシを食うこと。
まさしく親の金をドブに捨てるが如し。
将来のことも考えずに常にヘラヘラ笑っていた。
そこで3日前の爆発事故だ。
「魔術覚えなくたって、コレがありゃいいじゃあねえかよおおお!! ヒャッハー! 最高最高、最&高!!」
地を蹴り、壁を蹴り、宙を舞い、クルクル踊るように学院へと向かう。
無論、授業をまともに受けようとは思わなかった。
偶然手に入れたこの力は、リーネットにやる気こそ与えなかったが、生き甲斐は与えた。
そんなウキウキ気分が続く、昼休みのときだった。
「メシ食いに行こっと。……って、あれ? 誰だアイツ? おう、待てやコラァ! あぁん? テメェなにもんだオォイ」
「……」
「なに見てんだコラ。あーわかった。不審者だろ。不法侵入だろ?」
校舎脇の陰は普段人通りが少なく、昼休みには《《盛る》》生徒が情事に耽る姿がたまに見られるのだが、今回は違った。
知らない男がひとり歩いていた。
年季のはいった黒い紳士帽にヨレた紳士服をまとう男。
来賓がこんな場所に来るわけもないので、リーネットは喧嘩腰になりながら近づく。
「君は、わたしが見えるのか?」
「は? バカかテメェ?」
男の発言はどこか浮世離れしていた。
無愛想な表情に生気は見られない。
どこまでも暗い瞳と、呪術めいた紋様が描かれたマフラーが、彼を非現実的な存在へと映す。
しかも腰には前時代的な革のガンベルト。怪しいにもほどがある。
「なにマヌケ言ってんだ? とっとと失せろ。それともここで、アタシにボコられるか?」
「帰れるならとっくに帰ってるよ。でも何度も失敗してるんだ」
「はぁ?」
「わたしはこの学び舎に囚われている」
「なに言ってんのかさっぱりわかんねえ。テメェからかってんだろ? 殴られたいんだろ? よし殴らせろ」
「そんなことより、君はわたしのことが見えているようだけど、それはなぜ?」
「だからなにバカな質問してんだよボケッ! 目の前にいるんだから見えてるに決まってんだろ!!」
「……だが、ほかの人間にわたしは見えていない」
「見えてない?」
「あぁ、試してみるかい? 校庭へ出よう。そしたら……」
男が踵を返した直後、リーネットはバネと化した右腕を突き出し、握りしめた硬い拳が男の顔面へと放たれる。
男は寸でのところで首を傾けたが、もろに当たっていれば頭部もろとも砕かれていただろう。
「不審者の言うこと間に受けるわけねえだろボケ! 鼻くそ詰まり過ぎて脳みそ圧迫してんのかコノヤロー!」
「君、その腕……」
「へへへ、驚いたかよ。アタシはこれを『ビヨンド』って呼んでる。すげぇだろ?」
「ビヨンド? ……もしかしてバネみたいにビヨ~ンってなってるからそうつけたとか?」
「ほぉ、お前賢いな」
「……ハァ、君もね」
「だがそれはそれ、これはこれ。ぶん殴る。ぶん殴っても誰も文句言わねえ」
「やめろ。手荒なことはしたくない」
「紳士ぶるなよ異常者がよぉ。ん? 魔力は感じねえな。テメェ、銃だけで魔導士に勝てると思ってんのか?」
「魔導士? 君、魔術を使うのか?」
「そうだよ! へへ、凄いだろ! じゃあ正解のプレゼントだ。このままブッ殺す」
「でも君のそれは魔術じゃないだろ?」
「は? 魔術じゃない? え、なんで────」
だが聞き終わる前に、銃声特有の重低音が鳴り響く。
リーネットの眉間に骨が砕ける衝撃と激痛が走り、そして空気の抜ける感覚がしたあと、意識が暗転した。
「……対銃防護魔術による効果ではない。これは!」
男は倒れたリーネットを見下ろしながら、冷や汗を流す。
「間違いない。彼女もわたしと同じ怪物の類なのか?」
目を見開いたリーネットの死体。
そのまま静かに横たわったままかと思えば────
ギギギ、ギギギギギギギ────
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