同じ事を繰り返さないために
さて。次は硬豆だ。
前回は、正直に言って満足出来る結果ではなかった。
育たなかった理由を一つに絞る事は出来ない。
土か、水か、天候か、管理か。
どれも可能性はあるし、どれも決定打に欠ける。
分かっているのは、硬豆が思っていた以上に気難しい作物だという事だけだ。
そんな中で、農家の一人から控えめに提案があった。
最初から畑に植えるのではなく、ある程度育ててから植え替えてはどうか、というものだ。
苗が小さい時期は、虫にも雨にも弱い。
一晩の冷え込みや強い雨だけで、簡単に駄目になる。ならば、その時期だけでも守れる場所で育てる。
理屈としては納得出来る。
だが、当然ながら手間は増える。
管理も難しくなるし、失敗した時の損失も前回より大きくなる可能性がある。
だからといって、挑戦しなければ何も変わらない。
すぐに全体へ広げる必要は無い。
一部だけでいい。
試しにやってみる。それだけだ。
前回と同じ事をすれば、同じ結果になる。
それだけは、もう経験として分かっている。
農家達も、その判断を静かに受け入れた。
過度な期待もなければ、不満もない。
出来る事を一つずつ積み重ねるだけだ。
結果が出るのは、ずっと先になるだろう。
成功するかもしれないし、失敗するかもしれない。
今はまだ、何も断言出来ない。
それでも今回は、前回とは違う選択をした。
それだけで、今は十分だと思う事にした。
あえて自分からは何も言わない事にした。
硬豆の件もそうだが、最近はどうしても口を出し過ぎている気がしていた。
提案は出した。方針も示した。
だが、その先まで指示する必要が本当にあるのか?
ふと、そんな疑問が湧いた。
農家達は経験を積んでいる。
失敗も成功も、俺よりずっと現場で見てきた。
それなのに、俺が細かく口を出せば、考える余地を奪ってしまう。
だから今回は、丸投げしてみる事にした。
やり方は農家に任せる。
育て方も、管理の仕方も、判断も。
俺は報告だけを受ける。
無責任に聞こえるかもしれないが、実際は逆だ。
責任を引き取る覚悟が無ければ、任せる事は出来ない。
失敗すれば、その責任は俺に戻ってくる。
上手くいけば、それは農家の手柄だ。
それでいい。
「どう思う?」と聞くだけにして、「こうしろ」「ああしろ」は元から言っていた訳ではないが。
農家達は一瞬、戸惑った様子を見せたが、
やがてそれぞれが話し合いを始めた。
ああでもない、こうでもないと、俺が居ないかの様に議論が進む。
それを少し離れた所から眺めながら思う。
ああ、こういう空気は久しぶりだな、と。
全てを自分で決める必要は無い。
全てを把握していなくても、領地は回る。
それを信じる事も、領主の役目なのだろう。
結果がどうなるかは分からない。
だが、今回は「任せる」という選択そのものが収穫だ。
うまく行けば良し。失敗しても、次がある。
そう思える様になっただけでも、少しは成長しているのかもしれない。
さて、報告が上がってくるのはもう少し先だ。今はただ、待つとしよう。




