名を変えた武器、残された切り札
父上との話し合いの結果、結論は出た。
子供用クロスボウは、生産される。
ただし――「子供用」という言葉は使わない。
正式名称は、害獣対策クロスボウ。
用途を限定し、名で縛る。
武器ではなく、生活を守る道具として扱うためだ。
そして、もう一つ。これは俺の方から父上に提案した。
大人用のクロスボウは、生産は最小限。
数十基のみを領主館で管理・保管する。
理由は、単純だった。
もし、害獣対策クロスボウを使って反乱が起きた場合。こちらが同じ物で対抗していては、意味がない。
射程も、威力も、段違いの軍用クロスボウを使う。それだけで、戦力差は明白になる。
父上は少し考え――そして、頷いた。
「……理にかなっている」
それ以上、深くは踏み込まなかった。
後の運用は、領主としての判断。
俺からは、それ以上何も言わなかった。
……多分、父上はまだ気づいていない。
害獣対策クロスボウを扱える、という事は――構え方、狙い方、引き金の感覚。
それらは、軍用クロスボウにも、そのまま通じる。
いざとなれば、即戦力。しかも、練度は「ゼロ」からではない。表向きは、村を守るための道具。だが、その裏で――
領全体の、防衛基盤は静かに底上げされていく。
これでいい。今は、これで十分だ。
武器は、声高に語るものじゃない。
必要な時まで、名を変え、姿を隠していればいい。
俺は、そう考えていた。
害獣対策クロスボウは、決定から驚くほど早く量産体制に入ったらしい。
木工所では専用の工程が組まれ、弓部、台座、引き金、そして矢。
分業で効率よく作られる様になっていた。
各村の責任者は、順番に領主館へ呼び出され、クロスボウの取扱い説明を受ける。
・用途は害獣対策に限ること
・保管は必ず鍵付きの倉で行うこと
・使用記録を残すこと
・勝手な貸与、譲渡は禁止
・本数不足、用途違反が発覚した場合は――厳罰
罰則については、特に念入りに説明されたと聞く。便利な物ほど、管理が甘くなる。
そこは父上らしい判断だ。
結果として、村側も「これは預かり物だ」という意識が強くなった様だ。
冬に入り、農作業は一気に減ったが、代わりに仕事が無くなる事は無かった。
木工所では、クロスボウと矢の生産で手が回らない程だと言う。乾燥工程を終えた木材が次々と運び込まれ、削り屑と木の匂いが、工房に満ちているらしい。
一方で農家は、乾燥パスタ工場へ回される仕事が増えた。麦を挽き、成形し、乾燥させる。単純だが手数の要る工程だ。
「冬なのに、忙しいな」
そんな声が、あちこちで聞こえていると聞いた。……悪くない。
冬は、本来なら動きが鈍る季節だ。
だが今は、木も、人も、領全体が動いている。
害獣対策クロスボウは、表向きは村を守る道具。だがその裏で、仕事を生み、人を繋ぎ、技術を残す。
誰もそれを「武器」とは呼ばない。
それでいい。
静かに、だが確実に。
この領地は、次の段階へ進み始めていた。




