管理される力、委ねられる責任
……やはり、話は来たか。
エドワルドは、呼び出しを受けた時点で理解していた。流れは、思っていた通りだ。
問題はここからだ。
害獣対策として有用――それは事実。
だが、相手を人に置き換えた瞬間、話はまるで別物になる。
しかもこの武器は、領内で生産可能。材料は揃い、仕組みも単純。金も、さほど掛からない。だからこそ、危険だ。
わざわざ二種類作らせた理由は、そこにある。
「エドワルド」
父の声は静かだった。
「また、新しい事をしたようだな?」
「はい」
否定も言い訳もしない。
「毎年、冬になると害獣の被害が出ます。夏場はまだ少ないですが、冬は畑への被害が大きく……」
「それで、これを作らせたか?」
「はい。領内で生産可能で、比較的簡単に作れます。恐らくですが、お金もさほど掛からないと思います」
父は、深く息を吐いた。
「……ふぅ。便利であり、同時に厄介でもある」
机の上に置かれたクロスボウへ、視線を落とす。
「子供用の方を、庭で見せてくれぬか?」
「はい」
二人は庭へ出た。
的を設置し、エドワルドは慣れた手つきで構える。
――しゅパーン!
矢は、鋭く飛び、的に突き刺さった。
「……」
父は目を細める。
「確かに、大人用より威力も射程も落ちる。だが……」
言葉を選びながら、続ける。
「これはこれで、十分だ。軍用としても、な」
エドワルドは、父を見た。
「……軍用転換を、気になさっていると思いました」
「ふぅ……そうだ」
否定はなかった。
「しかし」
エドワルドは、静かに言葉を重ねる。
「冬の被害は甚大です。もしこれが各村にあれば、被害は確実に減らせます。しかも、肉が手に入ります。食料としても無駄にはなりません」
「……」
父は、すぐには答えなかった。
「そこが、大問題でもあるのだ」
武器が生活に溶け込む危うさ。
便利であるがゆえに、管理が緩む恐れ。
しばしの沈黙の後、エドワルドは一歩踏み込んだ。
「それならば……」
父が、視線を向ける。
「子供用を、数十基だけ。各村の責任者に預けるのは、いかがでしょうか」
「ほう……」
「我々、管理者側は定期的に、そして抜き打ちで確認します。保管状況、使用状況、数が合っているかどうか」
父の目が、わずかに鋭くなる。
「もし、数が足りなかったり、無断で貸し出していた場合は……」
エドワルドは、はっきりと言った。
「厳罰にしてください」
「……」
「便利な物ほど、ルールが必要です。『誰の物か』を曖昧にしないためにも」
父は、クロスボウからエドワルドへと視線を移した。……最初から、そこまで考えていたか
単なる発明ではない。使い道と、その後始末まで。
「……なるほどな」
領主は、ゆっくりと頷いた。
「力を与えるのではなく、責任を預ける、か」
エドワルドは、何も言わなかった。ただ、まっすぐに父を見返す。その沈黙こそが、答えだった。
この子は……
父としても、領主としても、無視できぬ提案だった。
「……もう少し、詰めよう」
そう言って、父はクロスボウを見下ろした。
管理される力。委ねられる責任。
その均衡点を、今、探している。




