秤にかけられた一手
領主は、机の上に置かれたクロスボウを見つめ続けていた。
これは……兵器だ。
疑いようもない。訓練を積んだ者でなくとも、引き金一つで同等の威力を発揮する。
仕組みは単純、材料も領内で賄える。大量生産も容易で、金もさほど掛からぬだろう。
――戦場に出れば、戦の形そのものが変わる。
「……」
だが同時に、別の言葉が脳裏に浮かぶ。
害獣対策には、持ってこい。
エドワルドが言っていた言葉だ。
毎年、冬が近づく度に、山から下りてくる害獣が畑を荒らす。
麦、芋、保存用の野菜――一夜で台無しになることも珍しくない。
被害は、決して小さくない。
その都度、弓を扱える狩人が駆り出されるが、数は限られている。
そもそも領内全域を守れるほどの人数ではない。
これがあれば……
一般の領民でも、最低限の防衛が可能になる。村ごとに備えさせれば、被害は確実に減るだろう。
「……ふぅ」
領主は、深く息を吐いた。
「どうすれば良い……」
一つの答えを選べば、もう一方を捨てることになる。利と危うさが、同じ形をしている。
ふと、机の端に置かれたもう一つの包みに目が行く。
子供用……
木工師の話では、威力は抑えてあるという。
近距離なら害獣を仕留められるが、大人用ほどの貫通力はない、と。
本当に、そうか?
領主は、わずかに眉を寄せた。
「……」
考え込んだ末、決断する。
「エドワルドを、呼べ」
控えていた者が、即座に返事をした。
「はい!」
「それと……」
領主は、机の上の包みを指で軽く叩く。
「木工師から受け取った物も、一緒に持って来い」
「かしこまりました!」
使者が部屋を出て行くと、再び静寂が戻る。
本人を抜きにしては、決められぬな。
これは、あの子が考え、あの子が持ち込んだ“力”だ。ならば、当人に問うべきだろう。
害獣対策という名目。
しかしその先にある可能性を、どこまで理解しているのか。
領主は、クロスボウを見下ろしながら、静かに思った。
父としてか……領主としてか……
いや――。
両方だな。
やがて廊下の向こうから、足音が近づいてくる。
答えは、これからだ。




