冬に向けた準備ともう一つの切り札
鮭の件については、過去の資料と今回の状況、そして現時点での推測をできる限り細かくまとめ、書面にして提出しておいた。
・冬のある短期間に集中して獲れる可能性
・獲りすぎれば翌年以降に影響が出る恐れ
・簡易な罠でも大量に捕獲できる危険性
憶測ではあるが、放置していい内容ではない。数字と事実、そして「分からないことは分からない」と明記する。
結論としては――罠は一時中断。
これから冬が本格化する。
川に近づくこと自体が危険になる時期だ。
「春になったら、また仕掛けてみる」
情報が少なすぎる以上、一年を通して観察するしかない。急ぎすぎれば、鮭そのものを失う可能性すらある。
ひとまず、今回の件は“調査段階”で止める。
それが、領地にとって最も安全な判断だ。
冬になると、できることはどうしても限られてくる。畑は休み、川も危険、屋外作業は短時間が限界だ。
だが――その分、腰を据えて向き合える時間も増える。……そろそろ、もう一つに専念できるな。
エドワルドの脳裏に浮かんだのは、前世の記憶だった。
戦場で見た“それ”。
クロスボウ。
うちの軍にはなかった武器。だが、敵は当たり前のように使っていた。
扱いやすく、力も技量もそれほど要らない。
数回の練習で、誰でも一定の精度を出せる。
連射ができないという欠点はある。
だが――数が揃えば、欠点じゃない。
撃って、下がり、また別の者が撃つ。
そうやって回されただけで、こちらは前に出られなかった。
被害は、甚大だった。
仕組み自体は単純だった。
だが、気づいた時には遅く、数を揃える時間もなかった。……だからこそ、今だ。
戦のためではない。少なくとも、表向きは。
名目は、冬の害獣対策
鹿や猪。冬場に増える被害は、誰もが知っている。
「農地を守るため」
「領民の安全のため」
その理由なら、誰も不審には思わない。仕組みは覚えてる
トリガー、弓部、溝、固定具。
木と金属、最低限で作れる。
まずは試作。量産は、その後だ。
「……よし」
エドワルドは外套を羽織り、屋敷を出た。
向かう先は、木工師の工房。
冬は、静かだ。
だからこそ――
次の備えを、誰にも気づかれぬうちに進めるには、ちょうどいい季節だった。




