残った数と残す判断
翌日も、エドワルドは川へ向かった。
昨日の騒ぎが嘘のように、川は静かだった。
水音だけが、いつも通りに流れている。
罠を確認すると――
「……数匹か」
掛かっていた鮭は、ほんの数匹。大きさは立派だが、昨日の光景とは比べようもない。
やはり……一日に集中して獲れるのか?
頭の中で、仮説が静かに形になる。
冬の、ある短い期間。
さらに、その中でも“一度きり”に近いタイミング。
それを逃せば、後は散発的にしか掛からない――そんな魚なのかもしれない。
そこへ、足音が近づいてきた。
振り返ると、あの男が立っていた。
顔色は悪く、目の下には濃い隈ができている。
無理もない。あれだけの量を捌き、吊るし、夜通しで燻していたのだ。
「……ぼっちゃん」
声に、力がない。
「はい……?」
男は少し、言いにくそうに視線を逸らし、それから絞り出すように言った。
「鮭……半分も、要らないですから……」
「……はい」
エドワルドは、それ以上何も言わなかった。
量が異常だった。作業も、明らかに人の限界を超えていた。
俺が、軽く考えすぎていたな……。
川を見る。今日の鮭の数は、現実を示している。
「獲れる」ことと、「扱える」ことは違う。
その差を、昨日の一日で思い知らされた。
獲れる量が減ったことも……
これは、きちんと形にしておかなければならない。父上に、書類で報告しておこう
昨日の異常。今日の減少。推測と、現時点での結論。口頭ではなく、記録として残すべきだ。
男の方を見る……後で、賃金を渡そう
魚だけで済ませるわけにはいかない。
労力も、時間も、明らかに対価が必要だった。
「今日は、もう無理をしないでください」
そう声をかけると、男は小さく頭を下げた。
川は、変わらず流れている。だが、昨日とは違って見えた。
恵みは、いつも同じ顔では現れない。
だからこそ――
「どう扱うか」を、間違えてはいけない。
エドワルドは、静かに罠を片付け始めた。




